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「藤袴 玉鬘の姫君、悩ましき行く末」
■ 玉鬘に尚侍(ないしのかみ)として出仕(宮仕え)することをだれもが勧めるが、玉鬘は悩んでいる。思いがけなく帝の寵愛を受けることになれば、秋好中宮(光君の養女)や弘徽殿女御(こきでんのにょうご)から疎んじられるかもしれない、と。光君も実の親でないと認められてから、遠慮することなく、馴れ馴れしく振る舞う。玉鬘には相談相手もいないので、苦悩は深まる・・・。
そんなとき、祖母(夕霧と玉鬘、ふたりのおばあちゃん)の大宮が亡くなる。喪服姿の玉鬘のもとをやはり喪服姿(色の濃い鈍色の直衣(のうし)を着ている)の夕霧が訪ねる。実の姉ではないということが分かって、夕霧の玉鬘に対する恋情は募る。野分の朝に垣間見た玉鬘の美しさが忘れがたく、藤袴を差し出して歌を詠む。玉鬘の返歌。**尋ぬるにはるけき野辺の露ならば薄紫やかことならまし**(177頁)あなたと深い縁などありませんわ。やはり玉鬘は理性的で冷静な対応をする女性だ。
夕霧は光君の元へ行き、玉鬘の処遇について真意を問いただす。そこで、**なかば捨てるつもりで実の父である私に押しつけて、尚侍という役職で宮仕えをさせておき、自分のものにしてしまうつもりだろう、(後略)**(180頁)と内大臣が非難していると詰め寄る。ひとりの女性をめぐる父と息子の駆け引きとも取れる場面。光君は夕霧の話を聞き、内大臣に心を見透かされていることに驚く。で、玉鬘の出仕を決める。
実の姉ではないことが分かった夕霧の募る恋情、実の姉だと分かった柏木の戸惑い。**妹背山ふかき道をば尋ねずて緒絶の橋にふみまどいける**(182頁)この歌に玉鬘は次のように返す。**まどひける道をば知らで妹背山たどたどしくぞ誰もふみ見し**(183頁)やはりこの女性は賢い。
あの鬚黒の大将も実に熱心に奔走し、手紙も出す。ほかに兵部卿宮(光君の弟、光君の蛍を使った業(わざ)で完全に恋に落ちた)や左兵衛督(さひょうえのかみ)も手紙を出す(左兵衛督って誰だっけ、登場人物系図で確認する)。玉鬘は兵部卿宮だけに返事を書く。**心もて光にむかふあふひだに朝おく霜をおのれやは消つ **(186頁)あふいは葵のこと。 決してあなたのことを忘れたりはしません なんて書かれていたらうれしいよなぁ。
源氏物語にはいろんなタイプの女性が登場する。その中で夕顔は人気があるようだが(僕も前々から夕顔という名前は知っていた)、彼女の娘の玉鬘もなかなか好いと思うな、紫式部もこの女性が好きだったんじゃないかなぁ。玉鬘はこれからどんな人生を送ることになるのだろう・・・。
1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋