透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「常夏」

2022-06-14 | G 源氏物語

「常夏 あらわれたのは、とんでもない姫君」

 暑い日。光君は六条院の釣殿で涼んでいる。池の中にあるのだから、涼しいと思う。そこで中将の君(夕霧・息子)や親しい殿上人たちと鮎やいしぶし(川魚の一種)などを味わっている。「源氏物語」で食事する場面が描かれるのは、珍しいのでは。光君の目の前で料理人が調理している(*1)。再来年(2024年)の大河ドラマは紫式部が主人公とのことだが、平安貴族の食事の様子も出てくるだろう。

中将の君を訪ねて内大臣家の子息たちもやってくる。ちょうどいいところに来てくれた、と光君は歓迎して**氷水を持ってこさせて水飯(すいはん)にして、それぞれにぎやかに食べはじめる。**(101頁)水飯って、お茶漬けのようなものなのかなと思って、検索してみた。冷やし茶漬け、山形県に今でもあるとウィキペディアに出ていた。魚を肴にお酒を飲んで、冷やし茶漬けサラサラ、いいなあ。

光君は内大臣(って、かつての頭中将)の次男に近江の君の噂の真相を訪ねる。**「(前略)その娘のこともまったく無関係とは言えないのではないか?父君もずいぶんと奔放にあちらこちらと忍び歩きをしてきたようだしね。(後略)」**(102頁)などとからかう、いや皮肉を言う。本人に向かってするべきだと思うけどな。

夕方。宴たけなわといったところだろうか、**「気楽にくつろいで涼んでいったらいい。だんだん、こうした若い人たちに疎まれるような年齢になってしまったな」**(103頁)と言って光君は席を立つ。手元の源氏本によるとこのとき光君は36歳。当時人生50年、いやもっと短かったか。光君はもう中年おじさん。

さて、内大臣が引き取った近江の君。彼女はおバカキャラ、でも憎めない人。**「私は草仮名をよく読めないからかしら、歌のはじめと終わりが合っていないように見えるけれど」**(118頁)などと女御に言われ、女房たちの失笑を買う始末。詠む和歌の辻褄が合っていないのだ。彼女が早口なことも気になって仕方がないようで・・・。

一方、玉鬘は以前ほど光君を嫌がることもなくなっている。だが、光君は自制して男女の関係を迫ろうとはしない・・・。

物語は進む、人は変わる。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋


*1 『源氏物語 おんなたちの世界 信州の源氏絵をひもといて』堀井正子(信濃毎日新聞社2009年)にこの場面の屏風絵が載っている。**包丁を手に、まな板を前に、献上された魚を目の前で調理して出す。**という解説文から、刺身かもしれない。獲れたての魚が献上されたのかも。