和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

数え年。

2008-12-19 | Weblog
立川談春著「赤めだか」に
「正月、元旦に日本人全員が一斉に歳をとるという風習が過去にはあり、それによって大晦日も新年も現代では想像もできないほど神聖な儀式だったのだと思う。」
という箇所がありました。
その少し後にはこうもあるのでした。

「東京オリンピックのあとに生れた談春(オレ)が考えても日本人は変わってしまったと思う。年末年始、全ての人が、ひっそりと正月を迎えるという子供の頃には当たり前だった風景は今はない。その当時、どこを探しても開いている商店は一軒もなかった。コンビにも当時の日本には一軒もなかった。スーパーで売っている御節(おせち)を買う人はこの国には一人もいなかった。」(p245)

そうか、古典落語の中のお正月と、現在のお正月とが落語家談春の中では、あざやかな違いとして同時に存在しているのだろうなあ。

私は、ここから、岩村暢子著「普通の家族がいちばん怖い」(新潮社)へと補助線を引きたくなるのですが、まだ岩村氏のほかの二冊を読んでいないので、パス。

ということで、ちょいと引用が出来そうなのは、ないかなあ、と本棚を見渡すと、福音館書店の「いまは昔むかしは今」というシリーズが、そういえば、読まずにありました。
その4巻目は「春・夏・秋・冬」と題しております。ひらいて見れば四巻目の最後は「大晦日から初春へ」と題して書かれておりました。その口上を引用してみましょう。

「・・毎年変わることなく巡り来てまた過ぎ去ってゆく季節の中に、人びとはさまざまの節目を設けて、暮らしのリズムをつくってきたのをわれわれは見てきた。そのような節目の中でも、人びとの暮らしを内と外からおびやかす危機が極限にまで高まり、それゆえに『新たな時』への転換がこの上なくめでたく尊く感じられるときがあった。太陽の力はもうそのまま死にはてんばかりにおとろえて、身を切る寒さは生きとし生けるものをおびやかし、月さえ姿を消し、無数の鬼たちが横行し、人間の身に積もる穢(けがれ)も積みに積もって、生命の力も衰えはてるとされたとき、大晦日(おおみそか)がそれだ。」(p480)

ということで、4巻目の最後にかかれている「今昔雑談ファイル 何かが起こる日」を引用しておきます。

「昔話は、特定の土地への緊縛を解かれてはじめて、昔話の軽やかさを手に入れる。固有名詞や特定の日とのつがなりについてもまた同じだ。ところが研究者が『大歳の客』と呼ぶ一群のお話がある。大晦日の晩に訪れる客をめぐるお話・・・・大晦日とは、どうやら『神のような鬼のようなもの』がこの世を徘徊し、人間を訪れる時のようだ。そして『そのもの』は、人のふるまいに応じて、鬼となり神となって容赦なく人間に禍福を頒つ。人間の側からすれば、客人の訪れによって、自分の世界の明暗がぐるりと大転換をとげる。この日、オニは、カミへ、カミはオニへと劇的な転換をとげるといいかえてもいい。・・・大歳の客の諸話の中で、おそらくだれもが聞いたことがあるはずの笠地蔵のお話では、大晦日におじいさんの暮らしに劇的な転換をもたらす『客』は、地蔵だ。このお話には鬼も悪人も出てはこないが、そもそも地蔵とは六道の辻に立ち、地獄へ落ちる亡者を極楽に救いあげる、転換の専門家と考えられていたことを忘れてはならない。・・・・
四季のはじまり、節供、縁日など・・永遠に繰返される時の巡りに、人びとが節目を刻み、姿勢を正して待ち設けた日(晴れの日)は、人びとの精神と人びとを包む世界の転換・更新を、必ず内包していたようだ。そして、さまざまの節目を集約するもっとも重大な節目である大晦日の晩に大転換があって、はじめて新しい太陽はのぼった。」(p484~487)

地蔵といえば、井伏鱒二の「厄除け詩集」に石地蔵という詩がありました。
最後にその引用。
     
       石地蔵

    風は冷たくて
    もうせんから降りだした
    大つぶな霰(あられ)は ぱらぱらと
    三角畑のだいこんの葉に降りそそぎ
    そこの畦みちに立つ石地蔵は
    悲しげに目をとぢ掌(て)をひろげ
    家を追ひ出された子供みたいだ
    (よほど寒そうぢやないか)
    お前は幾つぶもの霰を掌に受け
    お前の耳たぶは凍傷(しもやけ)だらけだ
    霰は ぱらぱらと
    お前のおでこや肩に散り
    お前の一張羅(いつちやうら)のよだれかけは
    もうすつかり濡れてるよ


こうして引用してくると改めて、あれこれと思ったりします。
ところで、満年齢で私は誕生日を祝うよりも、
それより、数え年で家族で元旦を迎える方がよいなあ。
コメント
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