映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「チィファの手紙」ジョウ・シュン&岩井俊二&ダン・アンシー

2020-09-13 05:53:09 | 映画(アジア)
映画「チィファの手紙」を映画館で観てきました。


岩井俊二監督作品ラストレターは今年公開された中でも好きな作品だ。そのラストレターとほぼ同じストーリーを中国で岩井俊二監督が撮った作品「チィファの手紙」が公開されると聞き早々に見に行く。実は中国版の方が先に制作されたらしい。プロデュースにはこれも自分の好きな香港映画ラブソングの監督であるピーターチャンが加わる。どんな感じに仕上がるのか見る前から興味津々だった。

ラストレターが夏休みの出来事であるのに対して、「チィファの手紙」が冬の中国が舞台と対照的な設定がいくつかある。それでも、ストーリーと場面はほぼ同じなので目で追いやすい。岩井俊二自ら音楽担当のクレジットに名を連ねる澄み切ったピアノが基調の音楽に合わせて流れる映像は美しく快適な時間を過ごせた。

チィナンの葬儀が終わった後で、チィナンの娘のムームー(ダン・アンシー)は中学の同窓会の通知が母の手元に届いていたことをチィナンの妹ユエン・チィファ(ジョウ・シュン)に伝えて渡す。チィファは同窓会に出席して姉の死を告げるつもりが、本人に間違えられてしまいそのまま席に着く。そこには、その昔憧れていたイン・チャン(チン・ハオ)が出席していた。

思いもよらずスピーチを依頼されたチィファは早々に席を離れるが、彼女をイン・チャンが追いかける。チィファはここでも姉チィナンの代わりできたとはいえなかった。イン・チャンからこのあと一緒にどうですかと聞かれたが、交換先をスマホで交換して別れる。「あの小説読んだ?」と聞かれたが、チィファは意味がわからなかった。


帰宅後、イン・チャンが「ずっと好きだった」というメッセージを送ったのをチィファの夫が見つけて憤慨する。チィファのスマホは壊されてしまう。仕方なくチィファは、チャンに住所を明かさないまま手紙を送る。手紙を受領したイン・チャンは感激して返信する。

住所がわからなかったので元の住所に送る。宛名が死んだチィナン宛てであったので、娘のムームーと冬休みで来ていたチィファの娘サーラン(チャン・ツィフォン)が封をあけて手紙を読む。そして、2人がイン・チャンに向けて返信するのだ。


30年前にさかのぼる。北京からイン・チャンが家族で転校してきた。インチャンの妹とチィファ(チャン・ツィフォン一人二役)が同級で仲良かったので、妹が病気で休んでチィファが訪ねてきたときにはじめてインチャンと出会う。その後、インチャンの妹の病気が長引き、改めてチィファが訪ねてきたとき、たまたま外で姉のチィナン(ダン・アンシー一人二役)が自転車で通りかかる。

チィナンに一目惚れしたイン・チャンはラブレターを書き、チィファを通じて姉に渡してくれと頼む。何度も書いたのにもかかわらず反応がないのでどうしたのかと思っていた。生徒会の会合でイン・チャンとチィナンが会ったときに改めて確かめると、妹のチィファがイン・チャンのことを好きになったので手紙を渡していないのがわかったのであるが。。。

こうして現代と30年前が並行して流れるのはラストレターと同じである。

1.現代の中国ヘの変貌
こうして現代中国の場面が出てくると、少し前の中国映画や地方を舞台にした作品では映っていない現代風住居とインテリアが急激に洗練されたことに驚く。街並みもきれいに整った。システムキッチンも廻り縁のある部屋も少し前はこんな小綺麗でなかった。チィナンの父母も住む家が平屋で、岩井俊二監督中山美穂主演の名作「love letter」で中山美穂が住む家によく似ていることを思い出した。あの映画も冬の小樽が舞台だった。

2.中国版出演者
チィファを演じたジョウ・シュン は中国四大女優のひとりとまで言われる存在だ。個人的には永作博美に似ている気がした。ここでは大きな抑揚はなく中国の俳優らしく淡々と演じる。ラストレターでは福山雅治に対応する小説家をチン・ハオが演じる。松任谷正隆を散切り頭にしたような雰囲気の俳優だ。でも、賃料の高い上海にいることも含め、労働せずに文筆活動という設定自体が毛沢東がもっとも嫌悪するタイプで文化大革命を経た中国社会ではありえない存在ではなかろうか?と感じる。


それにしてもかわいいのは若き日のチィナンとチィナンの娘の一人二役を演じたダン・アンシーだ。この清楚さは新垣結衣を連想する。中国の女優というと、ゴンリーとかチャン・ツィイーのように気が強そうで、打算的に見える。それとは違う。広瀬すずもかわいいけど、チィナンの存在はこの作品が上に見える。


3.中山美穂と豊川悦司
ラストレター」のとき、もっとも衝撃的だったシーンは中山美穂と豊川悦司の2人が出たときだ。これには背筋に電流が走った。セリフと設定は若干違うが、同じようなシーンがある。残念ながらlove letterという前哨戦の名作があるからわれわれを驚かせたというハンデがあるわけど、これも日本版に軍配が上がる


4.30年前のチィナンのスピーチ
卒業式の答辞を依頼され、美人で優等生のチィナンが指名される。その添削をインチャンが頼まれる。手紙の文面が素敵だったからだ。チィナンが一生懸命考えてつくったそのスピーチがいい。当然、岩井俊二の思いが入っているわけだ。


われわれには無限の可能性がある。この場所で等しく輝いていたわれわれが違う人生を歩んでもまた巡り会おうというようなことを言っていたと思う。これを聞いて魯迅の「故郷」を思い出した。われわれの時も中学三年生の国語の時間で習ったけど、今も教科書にはあるらしい。40年以上前の授業だったけど、つい昨日のように思い起こせる。

自分の時は私立中学志向に移行し始める時期だった。中卒も若干いたし、結果的に高校中退もいた。勉強できるやつも含めてレベルは上から下まで公立中学で一緒に過ごしていた。この作品をあらゆる日本の中学3年生が習うのはこのスピーチにあるようなことを感じさせる意味があると思う。あれ?「ラストレター」のときはどうだっけと思いながら感激していた。
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