映画「鵞鳥湖の夜」を映画館で観てきました。
「鵞鳥湖の夜」は「薄氷の殺人」のディアオ・イーナン監督の新作である。主人公グイ・ルンメイとリャオ・ファンが再度登場する。これはすぐさまいくしかない。「薄氷の殺人」は旧満洲ハルビンを舞台にしたミステリーで、夜の中国のダーティーなムードは素晴らしく、巧みな映画作りに魅せられた。
前作ほどまでは望めるかと思ったら、むしろこの映画の方がいい。往年の吉田栄作に似たフー・ゴーが加わる。単純な話だけど、スリルたっぷりで楽しまさせてくれるし、世間一般では報道されない中国式黒社会や売春などの現代中国のダーティな面がクローズアップされる。バイク窃盗団の縄張り争いなんて、倫理観ある社会の国での出来事とは思えない。傑作だと思うし、好きなタイプの映画だ。
2012年7月19日
中国南部。じっとりと雨が降りしきる夜、警察に追われているバイク窃盗団の幹部チョウ・ザーノン(フー・ゴー)が、郊外の駅の近くで妻のヤン・シュージュン(レジーナ・ワン)の到着を待っていた。しかし胸に深い傷を負っているチョウの前に現れたのは、赤いブラウスをまとった見知らぬ女だった。
彼女はリゾート地である鵞鳥湖の娼婦リウ・アイアイ(グイ・ルンメイ)。なぜシュージュンの代わりに、美しくも謎めいたアイアイがここにやってきたのか。しばし用心深く互いの真意を探り合ったのち、チョウは重い口を開き、自分の人生が一変した2日前の出来事を語り始めた。
7月17日
夜、刑務所から出所して間もないチョウは、自らが所属するバイク窃盗団の技術講習会に顔を出した。ところが会場のホテルで指南役のマーが、数十人もの構成員に担当区域を割り振っている最中、思わぬ揉め事が発生。若く血気盛んな猫目・猫耳の兄弟が、古株のチョウがリーダーを務めるグループに因縁をつけ、チョウの手下の金髪男が猫耳に発砲してしまったのだ。
仲裁に入ったマーの提案でチョウと猫目・猫耳の両グループは、制限時間内に何台のバイクを盗めるかを競う勝負を行うことになった。しかしその真っ最中、猫目が卑劣なトラップを仕掛けて金髪男を殺害し、チョウの胸にも銃弾をお見舞いする。からくも猫目の追撃を交わしたチョウだったが、バイクでの逃走中、視界不良の路上で誤って警官を射殺してしまう。
7月18日
警察は総力を挙げ、警官殺しの容疑者チョウを全国に指名手配し、30万元の報奨金をもうけて一般市民からの通報を募った。最新の捜査情報によれば、動物病院で手当を受けたのちに姿を眩ましたチョウは、鵞鳥湖の周辺に潜伏しているらしい。再開発から取り残された町や無人の森が広がっているこの一帯の捜索を担当するのは、凄腕のリウ隊長(リャオ・ファン)率いる精鋭チームだった。
この日、鵞鳥湖の畔で観光客相手の娼婦をしているアイアイは、“水浴嬢”と呼ばれる彼女たちの元締めであるホア(チー・タオ)から、ある依頼を受ける。それは逃亡中のチョウが会いたがっている彼の妻シュージュンを捜し出すことだった。
(作品情報より引用)
⒈雨降る夜の世界
現代中国のダーティーな部分を題材にした映画に傑作が多い。ジャ・ジャンクー監督の「帰れない二人(記事)」や「罪の手ざわり(記事)」が代表的な作品だが、「迫りくる嵐(記事)」もよかった。「迫りくる嵐」でも雨が効果的に使われていた。この映画で主人公2人がスタイリッシュに出会う時に強い雨が降っていたし、警察官を撃ち殺す場面でも強い雨の中を主人公はバイクを飛ばす。レベルの高い韓国クライムサスペンス映画で犯罪を犯す場面に雨のシーンが多いのとすべてが通じている気がする。
そういう雨が降る中での中国の町独特の薄暗いムードと浮かび上がるように光る多彩な色のネオンサインがこの映画のムードを高めている。撮影のドン・ジンソンは「薄氷の殺人」と同じ、美術のリウ・チアンは「迫りくる嵐」と知り、妙に納得する。
⒉グイルンメイと売春婦
台湾映画で純情そのものであったグイ・ルンメイももはや清純派でいく年齢でもない。「薄氷の殺人」で一皮むけたあと、本作品では売春婦だ。ベリーショートの髪で赤いワンピースに身を固め、顔の表情はいかにも中国人という冷淡そのものの表情で登場する。渋い。
湖にいる「水浴嬢」と称する。お金で買った男と、湖の中で抱き合いながらいたす。確かに海で抱き合って交尾の態勢に入っても周囲から見てもわからない。恥ずかしながら若い頃、自分も海でそういう経験はある。
⒊単純にいかないストーリー
キーとなるストーリーにフラッシュバックを何度も挿入する構成である。前回「薄氷の殺人」では、説明が少なく理解不能となる場面もあった。それだけに緊張感をもって映像を追ったが、たった3日間の出来事なので捜査活動をする警察官同士の会話で流れは理解できた。前回のようなことはなかった。それでも、ディアオ・イーナン監督のセリフに頼らず映像で見せる基本はかわらない。これはこれでいいと思う。
ヤクザ映画がどちらが味方か敵かよくわからない展開になるのと同様に、この映画も頭を混乱させられる場面はある。登場人物自体がどっちが味方かがわからないなんて言っている。単純ではない。ここでという場面で裏切りもある。こちらもフェイントをくらう。
そんなストーリーのバックで流れる音響効果もいい。映る風景自体が60年代前半の路地が多い日本の猥雑な町そのもので、バックに流れる映画音楽も武満徹を連想させるものだ。実にいい感じ。実際にある60年代の日本のサスペンス映画を洗練させたという感じをもった。
4.印象深いシーン
マジックミラーのように連なる鏡の中で主人公2人が彷徨うシーンがある。とっさにオーソン・ウェルズの「上海から来た女」のサンフランシスコの遊園地のマジックミラーに映るオーソン・ウェルズとリタ・ヘイワースを思い浮かべた。独自の世界をディアオイーナン監督はここでも繰り広げている。
町では70年代後半の「ラスプーチン」や「ジンギスカン」なんて新宿のディスコで踊られていたディスコミュージックに合わせて、隊列を組んでステップダンスを踊っている。最近の中国映画を観ると、こういう場面によく出くわす。時代は30年以上ずれていると思うけど、みんな楽しそうに踊っている。一種盆踊りのように思えてならない。中国ではやりなんだろうか?
「鵞鳥湖の夜」は「薄氷の殺人」のディアオ・イーナン監督の新作である。主人公グイ・ルンメイとリャオ・ファンが再度登場する。これはすぐさまいくしかない。「薄氷の殺人」は旧満洲ハルビンを舞台にしたミステリーで、夜の中国のダーティーなムードは素晴らしく、巧みな映画作りに魅せられた。
前作ほどまでは望めるかと思ったら、むしろこの映画の方がいい。往年の吉田栄作に似たフー・ゴーが加わる。単純な話だけど、スリルたっぷりで楽しまさせてくれるし、世間一般では報道されない中国式黒社会や売春などの現代中国のダーティな面がクローズアップされる。バイク窃盗団の縄張り争いなんて、倫理観ある社会の国での出来事とは思えない。傑作だと思うし、好きなタイプの映画だ。
2012年7月19日
中国南部。じっとりと雨が降りしきる夜、警察に追われているバイク窃盗団の幹部チョウ・ザーノン(フー・ゴー)が、郊外の駅の近くで妻のヤン・シュージュン(レジーナ・ワン)の到着を待っていた。しかし胸に深い傷を負っているチョウの前に現れたのは、赤いブラウスをまとった見知らぬ女だった。
彼女はリゾート地である鵞鳥湖の娼婦リウ・アイアイ(グイ・ルンメイ)。なぜシュージュンの代わりに、美しくも謎めいたアイアイがここにやってきたのか。しばし用心深く互いの真意を探り合ったのち、チョウは重い口を開き、自分の人生が一変した2日前の出来事を語り始めた。
7月17日
夜、刑務所から出所して間もないチョウは、自らが所属するバイク窃盗団の技術講習会に顔を出した。ところが会場のホテルで指南役のマーが、数十人もの構成員に担当区域を割り振っている最中、思わぬ揉め事が発生。若く血気盛んな猫目・猫耳の兄弟が、古株のチョウがリーダーを務めるグループに因縁をつけ、チョウの手下の金髪男が猫耳に発砲してしまったのだ。
仲裁に入ったマーの提案でチョウと猫目・猫耳の両グループは、制限時間内に何台のバイクを盗めるかを競う勝負を行うことになった。しかしその真っ最中、猫目が卑劣なトラップを仕掛けて金髪男を殺害し、チョウの胸にも銃弾をお見舞いする。からくも猫目の追撃を交わしたチョウだったが、バイクでの逃走中、視界不良の路上で誤って警官を射殺してしまう。
7月18日
警察は総力を挙げ、警官殺しの容疑者チョウを全国に指名手配し、30万元の報奨金をもうけて一般市民からの通報を募った。最新の捜査情報によれば、動物病院で手当を受けたのちに姿を眩ましたチョウは、鵞鳥湖の周辺に潜伏しているらしい。再開発から取り残された町や無人の森が広がっているこの一帯の捜索を担当するのは、凄腕のリウ隊長(リャオ・ファン)率いる精鋭チームだった。
この日、鵞鳥湖の畔で観光客相手の娼婦をしているアイアイは、“水浴嬢”と呼ばれる彼女たちの元締めであるホア(チー・タオ)から、ある依頼を受ける。それは逃亡中のチョウが会いたがっている彼の妻シュージュンを捜し出すことだった。
(作品情報より引用)
⒈雨降る夜の世界
現代中国のダーティーな部分を題材にした映画に傑作が多い。ジャ・ジャンクー監督の「帰れない二人(記事)」や「罪の手ざわり(記事)」が代表的な作品だが、「迫りくる嵐(記事)」もよかった。「迫りくる嵐」でも雨が効果的に使われていた。この映画で主人公2人がスタイリッシュに出会う時に強い雨が降っていたし、警察官を撃ち殺す場面でも強い雨の中を主人公はバイクを飛ばす。レベルの高い韓国クライムサスペンス映画で犯罪を犯す場面に雨のシーンが多いのとすべてが通じている気がする。
そういう雨が降る中での中国の町独特の薄暗いムードと浮かび上がるように光る多彩な色のネオンサインがこの映画のムードを高めている。撮影のドン・ジンソンは「薄氷の殺人」と同じ、美術のリウ・チアンは「迫りくる嵐」と知り、妙に納得する。
⒉グイルンメイと売春婦
台湾映画で純情そのものであったグイ・ルンメイももはや清純派でいく年齢でもない。「薄氷の殺人」で一皮むけたあと、本作品では売春婦だ。ベリーショートの髪で赤いワンピースに身を固め、顔の表情はいかにも中国人という冷淡そのものの表情で登場する。渋い。
湖にいる「水浴嬢」と称する。お金で買った男と、湖の中で抱き合いながらいたす。確かに海で抱き合って交尾の態勢に入っても周囲から見てもわからない。恥ずかしながら若い頃、自分も海でそういう経験はある。
⒊単純にいかないストーリー
キーとなるストーリーにフラッシュバックを何度も挿入する構成である。前回「薄氷の殺人」では、説明が少なく理解不能となる場面もあった。それだけに緊張感をもって映像を追ったが、たった3日間の出来事なので捜査活動をする警察官同士の会話で流れは理解できた。前回のようなことはなかった。それでも、ディアオ・イーナン監督のセリフに頼らず映像で見せる基本はかわらない。これはこれでいいと思う。
ヤクザ映画がどちらが味方か敵かよくわからない展開になるのと同様に、この映画も頭を混乱させられる場面はある。登場人物自体がどっちが味方かがわからないなんて言っている。単純ではない。ここでという場面で裏切りもある。こちらもフェイントをくらう。
そんなストーリーのバックで流れる音響効果もいい。映る風景自体が60年代前半の路地が多い日本の猥雑な町そのもので、バックに流れる映画音楽も武満徹を連想させるものだ。実にいい感じ。実際にある60年代の日本のサスペンス映画を洗練させたという感じをもった。
4.印象深いシーン
マジックミラーのように連なる鏡の中で主人公2人が彷徨うシーンがある。とっさにオーソン・ウェルズの「上海から来た女」のサンフランシスコの遊園地のマジックミラーに映るオーソン・ウェルズとリタ・ヘイワースを思い浮かべた。独自の世界をディアオイーナン監督はここでも繰り広げている。
町では70年代後半の「ラスプーチン」や「ジンギスカン」なんて新宿のディスコで踊られていたディスコミュージックに合わせて、隊列を組んでステップダンスを踊っている。最近の中国映画を観ると、こういう場面によく出くわす。時代は30年以上ずれていると思うけど、みんな楽しそうに踊っている。一種盆踊りのように思えてならない。中国ではやりなんだろうか?