映画とライフデザイン

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映画「セールスガールの考現学」

2023-04-30 17:30:21 | 映画(アジア)
映画「セールスガールの考現学」を映画館で観てきました。


映画「セールスガールの考現学」モンゴルのアダルトグッズ屋で働く大学生バイトに焦点をあてた作品である。モンゴルについては、行ったこともないしほとんど知識がない。共産国だと昔学校で習ったのが、ソ連崩壊とともに自由主義経済となっている。当然モンゴル映画は初めてだ。評判がまあまあなので、映画館に向かうとこれが大当たりだ。

大学で原子力を学ぶサロール(バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル)が友人が骨折をしたことで、代わりにアダルトグッズのショップでバイトすることになった。ショップののオーナーは怪しげなムードを持ったカティア(エンフトール・オィドブジャムツ)という謎めいた女性だけど、毎日売上を持っていくと色々と教えてくれる。イヤなことに遭って辞めようとしてもなだめられ続けていくという話である。それをコミカルタッチに描く。

これはむちゃくちゃおもしろかった。
主人公のサロールはごく普通の大学生で、大人のおもちゃを扱うといってもエロさはないかわいい女の子である。一昔前の薬師丸ひろ子にも似ている。世間一般でいうモンゴル人ぽい細目のルックスではなく、日本人の中に入ってもまったく違和感は感じないだろう。「パターソン」ジムジャームッシュ監督やフィンランドのアキカウリマスキ監督の作品がもつ朴訥なムードが流れる快作だ。

セールスガールというのは英語原題であるが、日本ではいわゆる外回りの営業に使う言葉である。ここでの彼女はいわゆるショップの「売り子」である。そう題名につけては元も子もないのかもしれない。

そんな女の子が一人で店番をするお店に、いろんな客が来店してきて数多くのエピソードが生まれる。巨根の「男根」を贈り物と言って求める女性や、顔を隠しながらあわててバイアグラを買いにくる男性など大勢くる。配達にも行く。ラブホテルにグッズを持っていき代金を授受する。ホテルで警察による売春の一斉摘発があり、配達で現場にいると他の売春婦とともに引っ張られる。すぐ釈放されて、もう辞めるというにも関わらずオーナーに慰留されて辞めない。


⒈考現学
原題にはない考現学なんてすごい言葉を題名に使う。今和次郎の「考現学入門」を読んだことあるけど、戦前の街の様子を調べた本だ。街を歩いている人の服装が和装か洋装か?とか歩いている人が職人か小僧か?とかを数字でカウントして統計的に今ある世相を調べていく。最近でいうフィールドワークの手法だ。

この女子学生がそのように学問的に調べているかというと違う。でも、アダルトグッズをどんな人が買いにくるのかなんてことは店員にならないと絶対にわからないだろう。別の意味で店に固定した定点観測になっている。


⒉モンゴルの街
現代モンゴルに関することはほとんど知らない。13世紀にモンゴル民族がアジアを制覇して、21世紀に大相撲を制覇したことくらいはわかる。大草原の中で固定的に居住せず遊牧民が生活するというイメージを持っていた。

ここで映る現代モンゴル(たぶんウランバートル)は都会だ。ビル群が建ち並び、道路では最新のクルマが走る。登場人物が住むアパートのキッチンや設備も新しいし広い部屋だ。(最近の日本映画に映るアパートの方が貧相だ。)オーナーの住居もリッチにできている。そんなに貧しそうな国には見えない。とは言え、大草原のシーンも一部用意されていた。小さい子供たちがサロールが乗る車に向かってキノコを売り込んでいた。まだまだ国としては発展途上かもしれない。


⒊ロシアの影響
映像に映る文字を観て、ロシア語みたいだと思った。調べてみると、どうやらアルファベット系は似たような文字を使っているようだ。ロシア革命以降、早い時期に共産化したモンゴルなので、文化的にもソ連の強い影響を受けていたのであろう。中国人とほぼ同じ顔立ちなのに漢字文化は映画を見る限りでは見当たらない

ショップのオーナーのカティアの家に行って食べる料理がピロシキとボルシチのロシア料理のようだと思ったら、主人公のサロールとカティアがロシア料理のレストランに行くシーンがある。そこで魚料理を食べて、カティアはロシア語でロシア人の客と会話する。すると、サロールが自分の父親がロシア語教師だったというセリフもある。ロシアとの関係は今でも強いようだ。

ロシア料理好きの自分からすると親近感を感じる。


⒋コミカルなエピソード(ネタバレなのでご注意)
エピソードが盛りだくさんだ。アダルトショップに大学の女性教員が現れて、サロールは一瞬驚くが後日「2人だけの秘密」プレゼントをあげるシーンがあったり、倦怠期のサロールの父親に更年期かと母親が心配しているので、父親のお茶にバイアグラを入れる。一転して元気になった父親と機嫌のいい母親が寝室に消えていくシーンなど満載だ。あらゆるエピソードにコミカルなムードを含ませる。

その中でも、観客の笑いを最も誘ったシーンがある。ラストに向けてサロールが男性の友人を自宅の自室に誘ってコトをいたそうとする時に男性が暴発するシーンだ。自分のような年寄りは約50年前だったら同じようなことがあったかもしれないとほくそ笑むのかもしれない。これには笑えた。

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