映画とライフデザイン

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映画「瞳をとじて」 ビクトルエリセ

2024-02-10 18:26:24 | 映画(自分好みベスト100)
映画「瞳をとじて」を映画館で観てきました。


映画「瞳をとじて」はスペインのビクトル・エリセ監督が31年ぶりに長編映画を撮った新作である。予告編で感じるスペイン映画独特の不穏な感じが気になる。名作「ミツバチのささやき」の子役で出演したアナトレントも登場する。今年83になるビクトル・エリセ監督が長い間あたためてきた構想なんだろうと想像しながら映像を追う。見ごたえがあった。


映像は1990年に撮られた映画のワンシーンでスタートする。
ある富豪が自分の命が短いことを知り、上海にいる生き別れた娘に会いたいとある男に依頼する。

2012年マドリード、この映画を撮った監督ミゲル(マノロ・ソロ)がTVの特集番組に呼ばれる。映画の中で捜索を依頼された男を演じた俳優フリオ(ホセ・コロナド)が、海岸で靴を置いて撮影途中で失踪していたのだ。行方不明になったフリオには娘アナ(アナトレント)がいた。アナはTV出演を拒否したが,ミゲルと会う。既に諦めている様子であった。


ミゲルは現在住む海辺の集落に戻り,TV番組を見ようとするが途中でやめた。しかし、TVを見て思わずフリオ本人ではないかと連絡をしてきた老人養護施設の職員がいた。もらった写真はたしかに似ている。思わず施設に向かうのである。


重厚感のある素晴らしい作品だった。すっかり堪能した。最後に向けては思わず涙腺を刺激されてしまう。映画館で周囲の観客がストーリーの決着を固唾をのんでみているのが実感としてよくわかった。

スペイン映画独特の不安をかき立てる音楽を絶妙なタイミングで組み込む。同じくスペインのペドロアルモドバル監督作品などと同じ不穏なムードが漂う。基調はミステリーだけど、ヒューマンドラマの要素が強い。失踪した男が見つかった時には記憶喪失になっていたなんてストーリーだけをとれば目新しさはない。そこに「映画の中の映画」の手法を用いて、真実と虚実を混在させる。

ビクトルエリセが満を持して作ったのがよくわかる映像美に優れる作品である。撮影する場所も室内セットだけでなく、マドリードの都会的なバックに加えて海上や海辺の街並みにもカメラを移す。開放感も感じられる。しかも、廃館した映画館を巧みに使う。上映時間はもう少し短くできるとも感じるが、31年温めたものをビクトルエリセが披露する機会はもうないかもしれない。仕方ないだろう。


濱口竜介監督が作品情報で『瞳をとじて』は徹頭徹尾「座っている人間にどうカメラを向けたらよいのか」を問う。絶賛している。観ている途中で自分も同じ感触を持った。小津安二郎監督得意の切り返しショットではあるが,単純に正面を映す訳ではない。切り返すたびごとに都度俳優の表情を遠近や方向を変えたショットで映し出していく。陰影にもこだわる照明設計も素晴らしい。ミゲルがフリオとともに愛した女にあった時のシーンに映画撮影の極限値を感じた。主演のマノロ・ソロの演技も安定している。あらゆる映画人の教科書になると感じた。


映画の結末に向けては、どうクローズさせるのかとドキドキしてしまった。終わり方もベストだと感じる。ピアノベースのエンディングミュージックに余韻が残ってよかった。


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