まえがき
甲斐駒岳の麓の甲州街道にある肉屋さんで猪肉と鹿肉を売っているお店がありました。何時も通りかかる肉屋さんなので何度か猪肉と鹿肉を買ってイノシシ鍋やシカ肉のシチューにして食べたことがあります。
猪肉と鹿肉はインターネットで簡単に入手出来るので料理して召し上がった方も多いと思います。
しかし私の食べたイノシシも鹿も不味かったです。やはり牛肉や豚肉の方がしみじみと美味しいのです。
そこで、でいしゅうさんへ美味しく食べる料理法を書いて下さいと依頼しました。
以下がその依頼に答えて書いて下さった文章です。
驚いたことには鹿は不味いので撃たないし食べないそうです。
そして、もっと驚いたことにはイノシシを美味しく食べるには慎重な解体方法が一番重要だと言うのです。
私が以前に食べたイノシシは解体方法が雑だったために不味かったのでしょう。
以下に解体方法を丁寧に書いてあります。
そして美味しい鴨鍋の作り方も付け足してあります。
これを読むと毎日スーパーで買う牛肉や豚の解体の難しさも想像出来ます。
世界にはいろいろな食文化がありますが、解体方法が材料の味を決定することが面白いと思いました。
少し残酷な表現もありますがご一読なさってみて下さい。
===でいしゅう著、「狩猟の趣味の深さ(6)猪と鴨を美味しく食べるこだわりの料理法」 ===
猪を山で捕獲してから、皆さんの手元へ行くまでを、まず書いてみた。
見事に命中すると、血抜きをする。心臓付近の動脈か、足の付け根の血管を切る。まだ生きて居るほうがよく血が出る。血管を切るためにはダガー状のナイフは絶対にダメである。ランボータイプも役には立たない。
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1番目の写真は解体につかうナイフです。
私もランドールナイフやラブレスタイプなど随分買い込んだが、人に自慢するためのナイフである。昔からの狩猟刀が万能である。ただしPRで古式マタギのなんて書いてあるのは感心しない。あれは実用から縁遠い物だ。
尋ねられると、高知県の「黒鳥」のナイフを勧める。
さて、血抜きをしていると仲間が集まって来る。状況によって変わるが、近くに川が有る場合此処へ運ぶ。そして内臓を出し、川に沈める。清流だと良く冷えて肉質も良くなる。そして車に乗せて親方の解体小屋へはこぶ。
台に乗せて解体するグループと、吊るして解体するグループが有るが、やり良い方法でやればよい。各部位を平等に分ける。
20年ほど昔に参加していたグループでは先輩が絶対であった。私など5年に一回しか獲物が来ないような場所か、北風の通り道の様な場所に行かされた。
そして肉を分配してもらうが、石鹸箱にいっぱいぐらいのスジ肉であった。
先輩達は1キロ以上のロース肉を分配されていた。
これで経験を積み、辛抱して狩猟技術を身につけた。今思うと先輩の教えには疑問が沢山あったが、質問してはいけない。
昔は非常に封建的な世界だったのだ。しかしそれも良い思い出である。
良く冷えた猪は水で徹底的に洗浄する。そして解体台に乗せられ、まず皮を剥ぐ。左手で皮を抓みスキナーナイフで剥いで行くが、よく脂の乗った猪ほど難しい。皮と脂の間に刃を入れねばならない。この時皮を掴んだ手で肉は絶対に触ってはならない。不潔だし肉に変な臭いが付く。脂には毛根が残るようになると一人前である。良い猪の時はベテランがやり、それ以外は新人がやるが、4名のグループでは何ともやりようがない。
この点、鹿はスーと剥ぐだけであるから楽だ。
皮を剥ぐと手足を離し、背ロースを取る。そしてアバラ骨から肉を離す。この時はタコ糸を骨に沿わせると簡単にできる。希望があると骨から外さず、スペアリブにして分配する。
親方の奥さんが、目分量で人数分の山にするが、30グラムも違わない。
私は家に帰る前に友人宅へ寄りプレゼントする。お歳暮のつもりだ。
猪肉は喜ばれるが、鹿肉は不人気だ。
鹿肉は上手にスジを取り、刺身で食べるのか一番と思う。良い鹿が獲れた時は下山の途中、山葵を採る。鹿肉よりも山葵を喜ぶ友人には困ったものだ。
猪肉は普通スライスして、真空パックして保存する。真空パックしないと乾燥肉になる。
その日には食べない。ステーキ肉ぐらいに切って、スジを取り除き、よく絞ったタオルに包む。これを冷蔵庫に入れて五日ほど熟成さす。残った血もタオルに吸われ、更に良くなる。
皆さんが貰った肉も、このように処理して有るだろうか?
勿論18貫ぐらいのメス猪で、急所を一発で仕留め、血抜きと冷却をした肉は美味しいが、処理を適当にやった肉は不味くて不衛生である。
猪肉の料理で簡単なのは塩コショウの焼き肉だ。手間がかからないし単純な味付けは万人好みである。
その次は仲間とやる猪鍋である。赤味噌仕立てで根菜類を入れ、よく煮る。
だし汁の代わりに清酒で煮ると美味しい。残った猪鍋を翌日食べると更に美味しい。ただし狩人毎にレシピは違うから、鍋奉行を選定していないと喧嘩の種になる。私のグループには某ホテル退職の料理長がいるので、誰も文句は言わない。
猪肉は長時間煮ても固くならない。そして美味しいのは脂身である。赤身の数倍美味しい。気を使い、脂身の沢山ある猪肉を差し上げた友人の奥さんは、脂身を全部捨ててしまった。
最後に鴨鍋を紹介します。
小鴨を沢山獲って来て、骨を貯蓄します。数日間貯蔵していた骨(10羽以上)を清酒でコトコトと7時間以上煮詰めます。清酒が少なくなると更に足して煮詰めます。
この鴨のエキスを大切に保存します。
軽鴨や真鴨が獲れると、さあ鴨鍋です。
根深を山ほど用意します。そしてエキスを鍋に入れ、醤油と砂糖(味醂)で味を調え、これに根深を山盛りに入れます。蓋をして根深が沈んだら、鴨肉を入れます。鴨肉に火が通ったら、出来上がり!
素人さんは鴨肉に手を出しますが、鉄砲撃ちは根深を食べます。
エキスが根深にしみこんで、絶品です。ネギを白飯に乗せれば鴨丼です。
どのような有名店にもありませんね。
その他の料理法
◎ 猪肉
猪の歩留まりは3.5割である。70㌔の猪でも精肉すると25㌔ぐらいにしかならない。
そこで先輩たちは捨てるような肉でも食べ方を考えた。脛肉は圧力釜で調理して、大和煮にした。私は時雨煮にしたがどうしても筋が残り食べづらい。
舌は喉からナイフを入れて取り出すと、大きい。丁寧に薄皮を取、塩タンにすると美味である。詳しくは知らないから岩塩で味付けして、焼く。頬肉も取れるが、面倒なので私は食べない。
好評なのは猪の骨である。寸胴鍋でコトコト煮ると素晴らしいスープが取れる。頭骨をスープにする者もいるが、これ以上頭が良くなるとノーベル賞を貰い、狩猟の時間が無くなるので私は捨てている。
猪も鹿も皮は捨て、剥製も作らない。今のご時世では誰も欲しがらないからだ。
昔は新築祝いなどでプレゼントすると喜んでくれたが、拒否される。
◎ 兎肉
兎は2度ほど獲ったが、焼き肉にして食べた。特徴の無い肉だった。ただ解体の時に、膀胱には気を付けた。臭いが強烈だからだ。
◎ 蝦夷鹿肉
蝦夷鹿の解体も基本は猪と同じだ。
内臓は引っぱれば出てくるが、横隔膜だけはナイフを入れて体から切り離す。下へ下へと出せばよい。胃袋と腸には傷を付けてはならない。やれば悲惨な目に会う。腸を裏返してよく洗うと、素晴らしいホルモン焼きになると言うが挑戦した事はない。
それよりも蝦夷鹿肉の10頭ほどのスジ肉を溜めて、缶詰め業者に送ると2番目の写真のような缶詰めが出来上がる。
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個数にもよるが1個250円ぐらいで出来る。随分作り友人へ無料で差し上げたが、これが一番好評であった。無料にしたのは食品衛生法に引っかかるからだ。
◎ 小綬鶏
小綬鶏はツクネニして、吸い物の椀種にして食べた。
ウズラは首の骨を包丁でよく叩き肉と混ぜると最高である。
◎ 雉
雉は全て雉飯にして食べた。飯にして隣近所へも配った。犬の鳴声で迷惑を掛けているからだ。皆さん雉飯を楽しみにしてくれた。 (続く)
甲斐駒岳の麓の甲州街道にある肉屋さんで猪肉と鹿肉を売っているお店がありました。何時も通りかかる肉屋さんなので何度か猪肉と鹿肉を買ってイノシシ鍋やシカ肉のシチューにして食べたことがあります。
猪肉と鹿肉はインターネットで簡単に入手出来るので料理して召し上がった方も多いと思います。
しかし私の食べたイノシシも鹿も不味かったです。やはり牛肉や豚肉の方がしみじみと美味しいのです。
そこで、でいしゅうさんへ美味しく食べる料理法を書いて下さいと依頼しました。
以下がその依頼に答えて書いて下さった文章です。
驚いたことには鹿は不味いので撃たないし食べないそうです。
そして、もっと驚いたことにはイノシシを美味しく食べるには慎重な解体方法が一番重要だと言うのです。
私が以前に食べたイノシシは解体方法が雑だったために不味かったのでしょう。
以下に解体方法を丁寧に書いてあります。
そして美味しい鴨鍋の作り方も付け足してあります。
これを読むと毎日スーパーで買う牛肉や豚の解体の難しさも想像出来ます。
世界にはいろいろな食文化がありますが、解体方法が材料の味を決定することが面白いと思いました。
少し残酷な表現もありますがご一読なさってみて下さい。
===でいしゅう著、「狩猟の趣味の深さ(6)猪と鴨を美味しく食べるこだわりの料理法」 ===
猪を山で捕獲してから、皆さんの手元へ行くまでを、まず書いてみた。
見事に命中すると、血抜きをする。心臓付近の動脈か、足の付け根の血管を切る。まだ生きて居るほうがよく血が出る。血管を切るためにはダガー状のナイフは絶対にダメである。ランボータイプも役には立たない。
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1番目の写真は解体につかうナイフです。
私もランドールナイフやラブレスタイプなど随分買い込んだが、人に自慢するためのナイフである。昔からの狩猟刀が万能である。ただしPRで古式マタギのなんて書いてあるのは感心しない。あれは実用から縁遠い物だ。
尋ねられると、高知県の「黒鳥」のナイフを勧める。
さて、血抜きをしていると仲間が集まって来る。状況によって変わるが、近くに川が有る場合此処へ運ぶ。そして内臓を出し、川に沈める。清流だと良く冷えて肉質も良くなる。そして車に乗せて親方の解体小屋へはこぶ。
台に乗せて解体するグループと、吊るして解体するグループが有るが、やり良い方法でやればよい。各部位を平等に分ける。
20年ほど昔に参加していたグループでは先輩が絶対であった。私など5年に一回しか獲物が来ないような場所か、北風の通り道の様な場所に行かされた。
そして肉を分配してもらうが、石鹸箱にいっぱいぐらいのスジ肉であった。
先輩達は1キロ以上のロース肉を分配されていた。
これで経験を積み、辛抱して狩猟技術を身につけた。今思うと先輩の教えには疑問が沢山あったが、質問してはいけない。
昔は非常に封建的な世界だったのだ。しかしそれも良い思い出である。
良く冷えた猪は水で徹底的に洗浄する。そして解体台に乗せられ、まず皮を剥ぐ。左手で皮を抓みスキナーナイフで剥いで行くが、よく脂の乗った猪ほど難しい。皮と脂の間に刃を入れねばならない。この時皮を掴んだ手で肉は絶対に触ってはならない。不潔だし肉に変な臭いが付く。脂には毛根が残るようになると一人前である。良い猪の時はベテランがやり、それ以外は新人がやるが、4名のグループでは何ともやりようがない。
この点、鹿はスーと剥ぐだけであるから楽だ。
皮を剥ぐと手足を離し、背ロースを取る。そしてアバラ骨から肉を離す。この時はタコ糸を骨に沿わせると簡単にできる。希望があると骨から外さず、スペアリブにして分配する。
親方の奥さんが、目分量で人数分の山にするが、30グラムも違わない。
私は家に帰る前に友人宅へ寄りプレゼントする。お歳暮のつもりだ。
猪肉は喜ばれるが、鹿肉は不人気だ。
鹿肉は上手にスジを取り、刺身で食べるのか一番と思う。良い鹿が獲れた時は下山の途中、山葵を採る。鹿肉よりも山葵を喜ぶ友人には困ったものだ。
猪肉は普通スライスして、真空パックして保存する。真空パックしないと乾燥肉になる。
その日には食べない。ステーキ肉ぐらいに切って、スジを取り除き、よく絞ったタオルに包む。これを冷蔵庫に入れて五日ほど熟成さす。残った血もタオルに吸われ、更に良くなる。
皆さんが貰った肉も、このように処理して有るだろうか?
勿論18貫ぐらいのメス猪で、急所を一発で仕留め、血抜きと冷却をした肉は美味しいが、処理を適当にやった肉は不味くて不衛生である。
猪肉の料理で簡単なのは塩コショウの焼き肉だ。手間がかからないし単純な味付けは万人好みである。
その次は仲間とやる猪鍋である。赤味噌仕立てで根菜類を入れ、よく煮る。
だし汁の代わりに清酒で煮ると美味しい。残った猪鍋を翌日食べると更に美味しい。ただし狩人毎にレシピは違うから、鍋奉行を選定していないと喧嘩の種になる。私のグループには某ホテル退職の料理長がいるので、誰も文句は言わない。
猪肉は長時間煮ても固くならない。そして美味しいのは脂身である。赤身の数倍美味しい。気を使い、脂身の沢山ある猪肉を差し上げた友人の奥さんは、脂身を全部捨ててしまった。
最後に鴨鍋を紹介します。
小鴨を沢山獲って来て、骨を貯蓄します。数日間貯蔵していた骨(10羽以上)を清酒でコトコトと7時間以上煮詰めます。清酒が少なくなると更に足して煮詰めます。
この鴨のエキスを大切に保存します。
軽鴨や真鴨が獲れると、さあ鴨鍋です。
根深を山ほど用意します。そしてエキスを鍋に入れ、醤油と砂糖(味醂)で味を調え、これに根深を山盛りに入れます。蓋をして根深が沈んだら、鴨肉を入れます。鴨肉に火が通ったら、出来上がり!
素人さんは鴨肉に手を出しますが、鉄砲撃ちは根深を食べます。
エキスが根深にしみこんで、絶品です。ネギを白飯に乗せれば鴨丼です。
どのような有名店にもありませんね。
その他の料理法
◎ 猪肉
猪の歩留まりは3.5割である。70㌔の猪でも精肉すると25㌔ぐらいにしかならない。
そこで先輩たちは捨てるような肉でも食べ方を考えた。脛肉は圧力釜で調理して、大和煮にした。私は時雨煮にしたがどうしても筋が残り食べづらい。
舌は喉からナイフを入れて取り出すと、大きい。丁寧に薄皮を取、塩タンにすると美味である。詳しくは知らないから岩塩で味付けして、焼く。頬肉も取れるが、面倒なので私は食べない。
好評なのは猪の骨である。寸胴鍋でコトコト煮ると素晴らしいスープが取れる。頭骨をスープにする者もいるが、これ以上頭が良くなるとノーベル賞を貰い、狩猟の時間が無くなるので私は捨てている。
猪も鹿も皮は捨て、剥製も作らない。今のご時世では誰も欲しがらないからだ。
昔は新築祝いなどでプレゼントすると喜んでくれたが、拒否される。
◎ 兎肉
兎は2度ほど獲ったが、焼き肉にして食べた。特徴の無い肉だった。ただ解体の時に、膀胱には気を付けた。臭いが強烈だからだ。
◎ 蝦夷鹿肉
蝦夷鹿の解体も基本は猪と同じだ。
内臓は引っぱれば出てくるが、横隔膜だけはナイフを入れて体から切り離す。下へ下へと出せばよい。胃袋と腸には傷を付けてはならない。やれば悲惨な目に会う。腸を裏返してよく洗うと、素晴らしいホルモン焼きになると言うが挑戦した事はない。
それよりも蝦夷鹿肉の10頭ほどのスジ肉を溜めて、缶詰め業者に送ると2番目の写真のような缶詰めが出来上がる。
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個数にもよるが1個250円ぐらいで出来る。随分作り友人へ無料で差し上げたが、これが一番好評であった。無料にしたのは食品衛生法に引っかかるからだ。
◎ 小綬鶏
小綬鶏はツクネニして、吸い物の椀種にして食べた。
ウズラは首の骨を包丁でよく叩き肉と混ぜると最高である。
◎ 雉
雉は全て雉飯にして食べた。飯にして隣近所へも配った。犬の鳴声で迷惑を掛けているからだ。皆さん雉飯を楽しみにしてくれた。 (続く)