日本を拠点に活動するピアニストによるピアノの名曲解説の本です。譜例も出されていて細かな内容を語ったところもあれば、作曲家そのものや、曲の背景などについて書かれている部分も多く、わかりやすいように工夫されています。2017年9月20日発行ですが、多くの人が手に取りやすい新書で発行され、感心しました。
(目 次)
第一章 バッハ
1 平均律クラヴィーア曲集 2 ゴルトベルク変奏曲
第二章 モーツァルト
1 ピアノ・ソナタ第11番・トルコ行進曲付き
第三章 ベートーヴェン
1 ピアノ・ソナタ第14番「月光」 2 ピアノ・ソナタ第32番
第四章 シューベルト
1 四つの即興曲 作品90より第3番 2 ピアノ・ソナタ第21番
第五章 シューマン
1 子供の情景よりトロイメライ 2 クライスレリアーナ
第六章 ショパン
1 練習曲集作品10より第3曲「別れの曲」 2 ピアノ・ソナタ第2番
第七章 リスト
1 ラ・カンパネラ 2 ピアノ・ソナタ ロ短調
第八章 ムソルグスキー
1 展覧会の絵
第九章 ドビュッシー・ラヴェル
1 ドビュッシー ベルガマスク組曲より第3曲「月光」
2 ラヴェル 「夜のガスパール」
長々と目次を引用しましたが、曲目の選択が焦点の一つでなので、そのまま書きました。ピアニストから見た名曲が挙げられていますが、シューベルトの曲を評価している点やムソルグスキーの展覧会の絵が選ばれているのは、ロシア出身のメジューエワさんならではかもしれません。
著者は、取り上げた曲目のほとんどを録音しています。巻末にディスコグラフィーが掲載されていました。
曲に関しては、楽曲の成り立ちや演奏のしどころ、聴きどころが述べられていて、興味深く読めます。例えば、リストの「ラ・カンパネラ」について、音色とポリフォニー感を大切にとし、弾く側からすると、ポリフォニーの世界を広げれば広げるほど、リストのおもしろさがふえると記しています。
ラ・カンパネラの譜例を引用して、『小節51、左手、ベースの低い音を別ボイスとして扱う(譜例7-2)。まあ、当たり前というか、普通のことですが、それをいかにデリケートにみせるか。それによって、二つのボイスが三つになったり、奥行きが出るわけです。音色の上でも弾き分ける。それをやればやるほど、リストのポリフォニーの世界がひろがるんです。そこにこだわりたいですね。』と述べています。
リストの「ラ・カンパネラ」からの譜例。7-2を説明している本文を引用させていただきました。
このような分析や演奏の仕方などが、他の楽曲についても述べられていて、プロの演奏家はここまで神経を行き渡らせて演奏しているのかと、そのことにも感銘を受けました。引用楽曲は手元のCDで聴きましたが、リストを聴くために、クラウディオ・アラウ(p)の演奏するCD(6枚組)を新たに入手しました。これがなかなかよくて、このところよく聴いています。
【クラウディオ・アラウ・リスト作品集】
2曲のピアノ協奏曲や「ピアノソナタロ短調」、「超絶技巧練習曲」、「巡礼の年」などを収録。