深田久弥さん(1903~71年)は、「日本百名山」や「ヒマラヤの高峰」を著した文筆家、登山家として知られています。この本は、その深田久弥さんの単行本および「深田久弥・山の文学全集」(全12巻)に未収録になっている随筆を集めたもので、2014年に発行されたものです。各随筆は、初出が1940年から1970年までに渡り、内容もバラエティに富んでいて、興味深く読みました。
全部で72編収録されていますが、編者によって7つの章に整理されています。まず、各章のタイトルと印象に残った随筆名を掲げます。
Ⅰ 山へのいざない 「山と日本人」、「白い山」、「春スキー」
Ⅱ 私の名山 「混まない名山」、「わが登山史の決算(日本百名山)」
Ⅲ 静かな山旅 「ヘソまがり大人とともに」、「名もなき山」
Ⅳ ふるさと今昔 「白山のみえる街」、「北陸の正月」、「金沢、人と町」
Ⅴ 東京暮らし 「川」、「歌の思い出」
Ⅵ 登山の周辺 「改悪名」、「山と文学」
Ⅶ 未知なる土地へ 「ヒマラヤの本」
(感 想)
「日本百名山」は読みましたが、著者については、ほとんど知らないままになっていましたが、この本を読んだ後、深田さんが身近に感じられるようになりました。
自然を愛し、山が観光地化するのを好まないという視点からの記述も多く、「混まない名山」(別冊文芸春秋、1958年2月)や「名もなき山」(新潮、1967年3月号)がその例として挙げられます。前者に登場する「雨飾山」(小谷村)は今や人気絶大で、時の流れとともに「日本百名山」の影響がみてとれます。
ふるさと今昔では、石川県大聖寺町(現在の加賀市)に生まれた著者の生い立ちや学生生活、兵役生活が描かれています。「金沢、人と町」(カラー旅8巻<能登と北陸>、1968年4月)は、金沢の魅力が滲み出てくるような一編で、金沢を改めて訪れたくなりました。
東京暮らしの中の「歌の思い出」(音楽の友、1970年3月号)では、著者が音楽が好きで、演奏会に通ったことが記され、著者の別の一面が窺われます。モーツァルトがお好きで、ピアノ協奏曲k595について、『一番私を揺すぶった』と書いています。
山、旅行などに関心のある方にはことに面白い本です。このところ行けていない、山登りに出かけたくなりました。
【深田久弥著「日本百名山」】