明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 



私が小学生の時に、百科事典ブームがあった。私の家にも小学館の事典が来たのだが、小学校から中学にかけて、それを一往復は読んだ、端から順番に読むのが面白かった。母はしょっちゅう私がそれを読んでいたことを覚えている。それを見て寒天を買ってきてもらい、牛乳を使った和菓子を作ったこともある。特に印象が残っているのはシャンソンの項が妙に詳しかったことと、別巻の美術で、シュールレアリズムを知った。何か懐かしさのような物を感じたのを覚えているが、その体験から、子供にこそストレートに感じさせるものがあると思う。それともう一つ、ボディビルの項に載っていたのが三島の上半身で、子供心に異様に感じた。貧弱だったし。 これは後年知ったのだが、その事典を編集したのが、戦後の短歌を演出した名編集者中井英夫なのであった。虚無への供物には三島をモデルにしたと思しき人物も出てくる。私は中井も作ったが、ご丁寧にも若い時代と晩年の二種類作った。私を夢中にさせた理由がこれでわかった。 ジヨン・ネイスンの『三島由紀夫ーある評伝』(新潮社)に“小学館の百科事典の編集部が、「ボディビル」の項目に載せる写真にポーズしてくれないかと依頼してきた。三島は友人の久保に、それを人生でいちばんうれしかった瞬間の一つだと語った。書斎の三島の背後に並んでいるのが、あの百科事典かもしれない。
※最終日まで2時以降会場におります。



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