中学入学後、授業中も江戸川乱歩と谷崎潤一郎 を読み耽った。『鍵』の若い妻への嫉妬心を利用して回春を企てる老作家の心情など、中学生には理解すべくもなかったが『痴人の愛』のナオミが歳上だったのに、気が付いたら『瘋癲老人』の背中がすぐそこに見える年齢になってしまった。そう考えると『狂雲集』における一休の性への執着、喜寿から米寿にかけての盲目の美女との出来事が事実であれば見上げたものである。淫乱だ色狂いだと言い募ると、嫉妬しているようで癪に触るのでいわない。美女の膝枕で「死にとうない」と涙した一休。私が手掛けるに値する場面である。〝美人の陰に水仙花の香あり“ 爺ィ何をいっていやがる、という話だが、水仙花の香漂わせる表現力が私にあるかは不明だが、水仙花がどんな香りなのか機会あれば嗅いでおきたい。