レイル(*1)が水を咬む瞬間の、複雑なGを感じつつカービング。
そしてセイルを返す。
たった3秒間の間に、20以上の確実な動作を要求するジャイビング。
”最も難しいスポーツ”と言われているけど、慣れきった躯は無意識に動く。
あれだけ蒸し暑かった南の風は少し乾いてね、一つの季節が終わろうとしている。
戻ってきたブームを摑み、新しい風が入ることで孕み始めたセイルを、力一杯煽りこむ。
全体重を生かし、盛り上がる腕の筋肉と腹筋で、さらに繰り返しながら、”同時”にボード上の体重を抜いていく。
セイルの生み出す推進力と浮力の中和点がそこに生まれ、
ここから加速力を創り上げていく。
戦闘機の翼と同じ形状のそれは、加速するボードとシンクロしながら、次々と風を切りつつ爆発的なパワーを生み出し、
超硬ステンレス製のハーネスにラインを掛け、ストラップにつま先を入れると、視線はブルーとブルーが織りなす水平線に・・・
アプローチ速度に達すると、もう煽りこむ必要は無い
けど・・・・
ここから先の一時は、ある意味とても緊張する一瞬。
揚力と会話しつつ、少しづつマストを前に送る。 慎重に、慎重に、ほんの数センチに出し過ぎただけで、そのパワーはあっという間に体を吹っ飛ばすから。
自分の力で押さえられる限界ぎりぎりをキープしつつ、自然の力との駆け引きは続く。
やがてボードがリフトして海面を飛び始め、セイルに入る風がすっかり軽くなる頃。
僕は 季節をシフトさせるストリームに溶け込む。
ウインドサーフィンは孤独だ、 誰かと一緒に乗れる物ではなく、
受け取る感覚を共有できる物でもなく、
ただ、一人だからこそ受け取る多くは、言葉に表し切れない。
ダイナミックな感動と、無言で交わされる地球との会話は、生きていることの素晴らしさを何時も教えてくれる。
ただそれだけの、とても不思議なスポーツだけど、相手がデッカいからこそ ”大きくて優しい人間”になれる。
僕はそう思う・・・
ストーリー By 翔
*1 レイルは、スキーやスノーボードのエッジ全体の流れと同じ感じの物です。
相手が水ですから、有るようでいて無いし、でも確実にカービングするとても不思議なものです。
君はロックを聴かない