スター・ウォーズの魅力の一つに、「戦闘時のスピード感」があります。
オリジナル・ノベライゼーションの英文にもそれがはっきり表れているので、翻訳するにあたっては決してそのスピード感を殺してはいけません。
たとえば、『エピソード I』の3章にある次の文をご覧ください。
“Excuse me, sirs, I’m so sorry,” TC-14 babbled as it maneuvered through the battle droids, holding aloft its tray of scattered food and spilled drinks.
これをたとえば、
「失礼、ごめんなさいませ」TC-14はごちゃごちゃ言いながら、食べ物が飛び散り、飲み物もこぼれたトレイを手に、バトル・ドロイドの間をすり抜けていった。
などとすると、なんだかもったりしたというか、「食べ物が飛び散り、飲み物もこぼれたトレイを手に」の部分が必要以上に印象に残ってしまいます。字数も75字とちょっと多いですね。
ここは、
「失礼、ごめんなさいませ」TC-14がごちゃごちゃ言いながら、飲食物が飛び散ったトレーを抱えてバトル・ドロイドのあいだをすり抜けていく。
とすれば十分だと思います(65字になりました)。原文と同じぐらい、読者にさっと読んでもらわなければいけません。
では、次の文はどうでしょうか?
In the next instant the Jedi appeared, charging from the room with lightsabers flashing. Qui-Gon’s weapon sent a pair of the battle droids flying in a shower of sparks and metal parts that scattered everywhere. Obi-Wan’s saber deflected blaster fire into several more. He raised his hand, palm outward, and another of the droids went crashing into the wall.
これを次のように訳すとどうでしょうか?
次の瞬間、部屋の中から二人のジェダイが飛びだしてきた。手にしたライトセーバーがきらっと光った。クワイ=ガンが斬りつけると二体のドロイドが火花と金属の部品をあたりにまきちらしながら吹き飛んだ。オビ=ワンがライトセーバーでブラスターをはじきかえすと、光弾はいくつかに分かれて飛んだ。さらにてのひらを相手に向けてさっと片手をあげると、別のドロイドが壁に叩きつけられた。(181字)
「原文通り」という基本に忠実なのはその通りなのですが、一文目を切って訳したりすることで、日本語の「ブツ切れ感」が出てしまいます。そして冗長で、原文にあるスピード感がぼやけてしまいます。
ここは次のように訳したらどうでしょうか?
次の瞬間、煌めくライトセーバーを手にした二人のジェダイが飛び出してきた。クワイ= ガンのライトセーバーがドロイド二体を斬りつけると、火花と金属があたりに飛び散る。オビ= ワンのライトセーバーがブラスターを弾き、光弾はいくつかに割れて飛んでいく。つづいてオビ= ワンがさっと片手をあげて手のひらを広げると、別のドロイドが壁に叩たたきつけられる。(168字)
最初に過去形の言い方を示し、それが過去の出来事であるとわかれば、あとはまさにいま目の前で起こっていると思わせる言い方にしてしまっていいと思います。それによって原文のスピード感が再現できます。
『エピソードI』『エピソードII』『エピソードIII』を訳している時は、スター・ウォーズのスピード感を再現することを常に意識しました。
スター・ウォーズ新三部作のオリジナル・ノベルは映画と同じぐらいスリリングな戦闘場面が味わえます。
講談社文庫本のスター・ウォーズ『エピソードI』『エピソードII』『エピソードIII』、どうかよろしくお願いします!
『エピソード I ファントム・メナス』
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062935036
『エピソードII クローンの攻撃』
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062935265
『エピソードIII シスの復讐』
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062935647