English Journalはもう30年以上購読しているが、いちばん好きなコーナーはWorld Newsだ。
新鮮なニュースが、興味を引くイントロダクションと、驚くほど正確で読みやすい訳で学習できるうえに、「これが知りたい、覚えたい、使ってみたい」という語彙表現もすべてついている。
試みに、最新の2020年9月号が届いたので、それを見てみよう。
3本収録されているニュースの1本目は「トランプ大統領、中国との貿易合意の再交渉には応じず」だ。
このイントロダクションは次のように記されている。
米中両国が貿易摩擦解消に向けて署名した貿易合意の実現に暗雲が垂れこめています。新型コロナウイルス蔓延は中国の責任とするアメリカの主張に反発し、中国が合意の見直しを検討しているためです。トランプ大統領は再交渉には応じないとし、両国の対立が深まっています。
短いが、実にわかりやすい解説だ。そして次のニュースの見事な導入になる。
Reporter: U.S. President Donald Trump said on Monday he opposed renegotiating the U.S. China trade deal.
His comments came after The Global Times, a Chinese state-run newspaper, reported some government advisers in Beijing were considering invalidating the agreement and negotiating a new deal to tilt the scales more to the Chinese side.
記者:アメリカのドナルド・トランプ大統領は月曜日、中国との貿易合意の再交渉には応じないと語りました。
トランプ大統領の談話は中国の国営新聞である環球時報の報道を受けたもので、同紙によると、中国政府の交渉担当顧問官の一部は合意を破棄し、貿易交渉を再開して、中国に有利な内容への見直しを検討中とのことです。
「同紙によると、中国政府の交渉担当顧問官の一部は合意を破棄し、貿易交渉を再開して、中国に有利な内容への見直しを検討中とのことです」あたりの訳し方はいわゆる「玉ねぎ文」を避けた見事な表現だと思う。
「同紙は、中国政府の交渉担当顧問官の一部は合意を破棄し、貿易交渉を再開して、中国に有利な内容への見直しを検討中、と発表しました」がよく見る翻訳文だが、これだと主語「同紙」と「発表しました」のあいだにもうひとつ主語と動詞を含んだ文が入ってしまうので、非常にわかりにくくなってしまう。
英日翻訳の場合、英語の構造からこうした「玉ねぎ文」を作ってしまうことがよくあるのだが、このあたりは英語にある情報をすべて取り込みつつ、一読でわかる、実に明快な日本語に置き換えられている。
このコーナーの訳は北川蒼さんが担当しているが、いつも大変勉強させてもらっている。
そして注も実に気が利いている。
tilt the scaleは「(有利に・不利に)局面を変える」と記されている。
研究社『リーダーズ英和辞典』には、次の語彙定義と例文があるが、
tip [tilt, turn] the scale(s)
(1) 《平衡状態にあった》状況[局面]を(一方向へ)決定づける.
・The scales were turned in favor of…. 事態が変わって…が有利になった
このあたりの情報を実にうまく整理して「一言で伝えてくれる」。
今月もこのEJのWorld Newsでしっかり勉強したい。