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2019年公開の『スカイウォーカーの夜明け』によって、『スター・ウォーズ』スカイウォーカー・サーガの幕は閉じられた。だが、1977年に上映開始されたシリーズの伝説は永遠に語り継がれる。今後多くの人たちがスター・ウォーズ映画をディズニープラス(Disney+)やDVDで楽しみ、その魅力を伝えることだろう。フォースは受け継がれる。
シリーズ終結に当たって、大変光栄なことに、人気サイトTHE RIVERにスター・ウォーズ翻訳について記事を書かせていただける機会をいただいた。
本日のGetUpEnglishは特に英語と翻訳に関係のある部分をご紹介したい。
https://theriver.jp/sw-novel-point/
映画では読み取れないキャラクターの感情をいかに訳すか?
2017年10月に、HMV&BOOKS TOKYOで開催された「スター・ウォーズ読者の日2017(Star Wars Reads)」(ウォルト・ディズニー・ジャパン出版部主導)のスペシャル・トークショーで、スター・ウォーズのノベルの翻訳で何がいちばんむずかしいかと聞かれた。そこで何だろうかと考えてみたが、ひとつには描出話法(represented speech)の処理の仕方があると思う。
登場人物の思考や心のなかの語りを、地の文に投げ出された形で表現する描出話法、または自由間接話法(free indirect speech)は、小説でよく用いられる。
描出話法とは、「伝達部がなく、直接話法と間接話法の中間的な性格を持ち、普通クオテーションは用いられない。小説などで作者が主人公の心理を代弁したりするときに用いる話法」だ。
以下の例文を考えてみよう。
Luke’s resolution was firm. He could no longer bear the dull life on the sand island. He would leave Owen’s house, study the force under Obi-Wan, and save the galaxy.
ルークの決心は固かった。 僕はこの砂の惑星の退屈な生活にはもう我慢できない。 オーウェンおじさんの家から出て、オビ=ワンにフォースを学び、銀河を救うんだ。
これを「直接話法」(クオテーションで囲んだ言い方を出す)で書けば、
He said to himself, “I can no longer bear the dull life on the sand island. I will leave Owen’s house, study the force under Obi-Wan, and save the galaxy.”
となるし、「間接話法」(that節を使った書き方)で書けば、
He thought that he could no longer bear the dull life on the sand island and that he leave Owen’s house, study the force under Obi-Wan, and save the galaxy.
となる。
例文の“He could no longer bear the dull life on the sand island. He would leave Owen’s house, study the force under Obi-won, and save the galaxy.”がルークの心の中の語りとなり、英語はその代名詞heを使って書かれるが、この話法が用いられる時は、日本語では「彼」ではなく「僕」や「わたし」を主語にして訳すのが効果的だと思う。そして助動詞couldとwouldは現在の「推量」や「意思」を示すので、現在形で訳すのがよい。
では、実際に『スター・ウォーズ』のノベルで出会った描出話法が効果的に使われている部分を見てみよう。『エピソードI:ファントム・メナス』(講談社)にある表現を挙げる。
But for Anakin Skywalker, it was the first step in his life plan. He would build the fastest Podracer ever, and he would win every race in which it was entered. He would build a starfighter next, and he would pilot it off Tatooine to other worlds. He would take his mother with him, and they would find a new home. He would become the greatest pilot ever, flying all the ships of the mainline, and his mother would be so proud of him.
And one day, when he had done all this, they would be slaves no longer. They would be free.
だが、アナキン・スカイウォーカーには、これが自分の思い描く人生の第一歩だった。これまでのどのポッドレーサーよりも速いマシンを作ってやる。それに乗って、すべてのレースで優勝するんだ。次はスターファイターを作り、タトゥイーンを出てほかの星に行く。ママも連れていって、新しい家を見つけるんだ。銀河史上もっとも偉大なパイロットになって中央航路のありとあらゆる船を操縦し、ママの自慢の息子になるんだ。
いつかこういうことが全部実現したら、僕もママも奴隷じゃない。二人とも自由になれるんだ。
He would…のあたりは上で説明したように、「描出話法」で書かれているととらえて、「僕」を主語にして訳し(そうだとわかるのであれば、「僕」あるいは「わたし」などの言い方は削ってしまうほうが日本語としては自然だ)、助動詞wouldは現在の「意志」と認識し、現在形で訳すのがよい。
これは一部で、かなり長く書かせていただいているので、THE RIVERのサイトでご覧いただけますと、うれしいです。
https://theriver.jp/sw-novel-point/
読者プレゼントもあります。
https://theriver.jp/sw-ep9-jrnovel-present/
スター・ウォーズの翻訳は、富永和子、野田昌宏、石田享、そして稲村広香各氏ほか歴代の『スター・ウォーズ』のフルノベルの訳者のみなさんが、すばらしい訳業を残してきた。こうした名翻訳者の方々の偉大なる訳を常に参考にさせていただいていますし、各氏のすぐれた訳業に深く敬意を表します。