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講談社青い鳥文庫『ハックルベリー・フィンの冒険』下巻のプロモーション・ビデオができた。
今日のGetUpEnglishはこのプロモーション・ビデオと合わせて読んでほしい。
上巻に書いた通り、1830年代から1840年代はアメリカの北部でも南部でも奴隷の所有は合法的なものであり、奴隷を逃がしたり、逃亡を助けたりすることは犯罪であると、それもかなり重大な犯罪であると見なされていた。
そんな時代に、ハック少年は大きな問題を突きつけられ、ひどく苦しむ。
逃亡黒人のジムをどうしたらいいか?
★
こんなにすっきりした気持ちというか、何の罪も感じない気持ちになれたのは、生まれて初めてだ。
これで祈れる。
でも、おれは祈らずに紙を置いて考えた。
これでよかったんだ、あやうく地獄に落ちるところだったんだ。
おれは考えつづけた。
ずっと考えてると、ジムとふたりで川を下った日々を思い出した。
ジムはいつも一緒にいてくれた。
昼も夜も嵐のときも、おれの前にいてくれた。
ゆらゆら筏で川を下りながら、ふたりで話して、笑って、歌った。
ジムのことを忘れようとするけど、ジムのことばかり考えてしまう。
筏の見張りをおれの分までしてくれて、おれが寝られるようにしてくれた。
おれが霧の中から戻ってきたら、すごく喜んでくれた。
グランジャフォード家とシェパードソン家の確執の果ての惨事から逃げて沼地に戻ってきたときも、とっても喜んでくれた。
おれをいつも抱きしめてくれたし、かわいがってくれたし、すごくやさしくしてくれた。
逃亡黒人を探してた男たちに、天然痘が出たと思わせてジムを助けたときは、あんたはサイコーの友達だ、たったひとりの友達だって言ってくれた。
そこに紙切れがあった。
どっちに転がってもおかしくなかった。
その紙を取って握りしめた。
ふたつにひとつだ。どっちかに決めないといけない。
体がブルブル震えた。
息を止めて、しばらく考えた。
★
当時の社会では逃亡黒人を助けたり逃がしたりすることは絶対許されないし、神さまだってそんなことは求めていないかもしれない。
でも、自分は人間としてどうしたらいいか?
そして、ハックは結論を出す。
★
“All right, then, I’ll go to hell”—and tore it up.
「よし、じゃあ、おれは地獄に行く。」
おれは紙をビリビリ破った。
★
ハックはジムの所有者であるワトソンさんにジムの居場所を手紙に書いて送ろうとしたが、それを破り捨てて、逃亡奴隷のジムを逃がすことを決意するのだ。
“All right, then, I’ll go to hell”—and tore it up.
この言葉ははかり知れないほど重い。