民主党がマニフェストに掲げていた新年金制度の公約の撤回を示唆したと「asahi.com」が伝え、一方、「毎日jp」記事が撤回ではなく、棚上げの動きと書いている。原因は国会の“ねじれ”だとしている。参議院の頭数与野党逆転状況が民主党菅政権のマニフェストにまで影響してねじれさせているといった状況に見舞われているといったところなのだろう。
だが、このことは民主党が昨年7月の参院選で大敗し、参議院与野党逆転したときに理解できていたことだった。一人菅首相のみが理解できていなかった。この一事を以ってして、菅首相が如何に理解能力に欠けるかが分かる。状況・情報を満足に理解できない人間に指導力など期待できようがない。的確な状況判断なくして、あるいは的確な情報判断なくして的確な指導は成り立たないからだ。
先ずは「asahi.com」記事から見てみる。《新年金制度の公約撤回示唆 厚労相「協議が難しい」》(2011年1月5日17時54分)
昨1月5日閣議後記者会見。
細川厚労相「新しい年金というマニフェストにこだわれば、協議そのものが難しい。マニフェストを前提とせずに話し合いを始めたらいい」
「マニフェストを前提とせずに」とはマニフェスト放棄を意味するはずである。記事は、〈民主党がマニフェストで掲げる新年金制度の撤回を示唆したものだ。〉と解説している。
さらに解説を進めている。〈新年金制度は、国民年金や厚生年金、共済年金の現行制度を一元化したうえで、全額税方式の最低保障年金を設けることなどが柱。菅氏が代表だった2003年衆院選のマニフェストから掲げている民主党の主要政策の一つだ。〉云々。
2003年から7年間掲げてきた政策を撤回する。政策そのものは撤回であっても、マニフェストに書いたことは基準としないということになるから、マニフェスト放棄となる。
〈菅内閣は6月までに、年金制度も含めた社会保障と税制の具体的な改革案をまとめる方針で、これを与野党協議の材料と位置づけている。ただ、自民、公明両党は民主党の新年金制度案に強く反対しており、現状では与野党が協議できる状況にはない。
このため、細川厚労相は「政府で案をまとめて協議に入るのではなく、どういう形で協議に入るのかを含め、まず話し合いを」とも言及。政府・与党が具体案を示す前に、与野党で協議を始めるべきだという考えも示した。協議入りには民主党側の譲歩が不可欠で、マニフェストの撤回は避けられない見通しだ。〉・・・・
与野党協議を必要とされることも、協議入りが民主党の譲歩を条件とすることも、すべて参議院に於いての少数与党が障壁となっているというわけである。
「毎日jp」記事――《年金改革:政府内に棚上げの動き 野党との隔たり大きく》(2011年1月5日 20時21分)
記事は冒頭次のように書いている。〈政府内で、民主党が09年衆院選マニフェスト(政権公約)に盛り込んだ新年金制度案を棚上げする動きが強まっている。自民、公明など野党各党の主張と隔たりが大きすぎ、協議の糸口がつかめないためだ。〉
菅首相はねじれ国会乗り切り法として“熟議”を掲げた。熟議を通して法案をよりよいものにしていくと。だが、現在、“熟議”を経ずに自らの政策を曲げようとしている。
同5日の会見。
細川厚労相「(年金制度は)民主党のマニフェストにこだわると協議そのものが難しいのではないか。マニフェストを前提とせずに話し合いを始めたらいい」
記事はこの発言を、〈公約にこだわらない姿勢を示すことで、野党側を協議に引き込みたい考えだ。〉と解説。
与野党の年金制度の違い。
民主党案――
(1)職業で三つに分かれている現行制度を一元化
(2)消費税を財源とする「最低保障年金」を創設
自民、公案――
現行制度の修正が基本
「毎日jp」記事が「撤回」だとしていない理由は、年金制度は民主党の目玉公約だけに「撤回」とするにはハードルが高過ぎるからだとしている。
では、どういった方針でいくのかと言うと、〈厚労省が4月中にまとめる社会保障改革案では、民主党案に必要な財源規模を示す一方、詳細な制度設計には立ち入らず、野党側との協議の余地を残す方針だ。〉としている。
いくら与野党協議だ熟議だと言っても、ねじれをチャンスとして優越的立場に立っている野党が自分たちに得点とならない政策内容とするはずはない。自分たちの政策の優越性をあくまでも主張して、可能な限り自分たちの政策を呑み込ませようと迫り、呑みこませた範囲を以って支持者に示す自らの手柄とするだろう。
こうなると衆議院で3分の2以上の数を確保していない限り、3分の2以下での数の優越性はかなり意味を失う。参議院で数を確保していないことが如何に重大なことか、菅首相は当初理解できなかった。
それは2010年9月14日民主党代表選投開票前の9月1日と9月2日の代表選共同記者会見での菅首相の発言が証明している。このことは以前ブログで一度取り上げたが、今回は参議院の数がどういう結果を招いているか、その一つを例示するためにブログに取り上げてみた。
9月1日民主党代表選、菅・小沢共同記者会見
――読売新聞の東(吾妻?)です。参院選での大敗をどう総括され、その結果生じたねじれ国会をどう克服されていかれるおつもりなのか、具体的には政権の枠組みを変えるおつもりであるのかを含めてお願いします。
小沢候補「選挙というのは、主権者たる国民が意思表示する唯一最大の場でございます。ですから、その意味に於いて、民主主義社会に於いては、選挙の結果というのは、大変、国民の意思として、意思表示として、重大に受け止めなければならないと思います。
3年前の参議院選挙で、野党合わせてでありますけれども、過半数を国民みなさんからいただきました。これが今回、大きく議席を失ったということは大変な大きな問題として、トップリーダーから、われわれ一兵卒に至るまで考えなくてはならないことだと把えております。
国会については、私は今度の代表選の審判を受けた後に考えればいいことだと思っておりますけれども、いわゆるみなさんがおっしゃる政界の再編といいますか、そういう類のことで国会運営を乗り切っていこうというふうな考えを持っているわけではありません。我々が国民のための政策を実行するということであれば、野党も賛成せざるを得ないだろうと思っておりますし、そういう意味で私たちがきちんと筋道の通った主張と政策を参議院に於いても示していくということが大事だと思っております」
菅候補「参議院の結果については私自身の責任論も含め、反省をしてまいりました。その上で、ねじれという状況になったことについて、私は一般的には厳しい状況でありまけれども、ある意味では天の配剤ではないかとも同時に思っております。
つまり今の日本の大変深刻な、例えば成長が20年間止まっている、あるいは1千兆にも近い財政赤字が蓄積している。あるいは少子化、高齢化が急速に進んでいる。こういう問題を二大政党であったとしても、1つの党だけでなかなか超えていけない状況がこの10年、あるいは20年続いてきたわけでございます。そういう意味ではねじれという状況は、逆に言えば、そうした与党、野党が同意しなければ物事が進まない。逆に言えば合意をしたものだけが法律として成立をするわけすから、そういうより難しい問題も合意すれば超えていけると、そういう可能性が出てきたと言えるわけであります。
私の経験では確か1988年でしたか、金融国会というものがありまして、長銀、日債銀の破綻寸前になったときに当時の野党でありました民主党、そして自由党、公明党で、金融再生法というものを出しました。色んな経緯がありましたけれども、最終的には当時の自民党がそれを丸呑みをされた。私は政局しないと申し上げて、小沢さんから少し批判をされましたけども、しかしあそこで政局にしていた場合は、私は日本発の金融恐慌が世界に広がった危険性が高かったと思っておりますので、そういう意味では、そういう真摯な気持を持って臨めば、野党のみなさんも合意できるところはあって、これまで超えられなかった問題も超えていくチャンスだと把えて努力してまいりたいと思っております」
9月2日日本記者クラブ公開討論会(MSN産経)
【政権運営、ねじれ国会への対応】
--小沢氏からお願いします。
小沢氏「国会運営ですか?」
--えー。
小沢氏「はい。あのー、この間の選挙で44議席という、参院大敗を喫してしまいました。従って、何を、政策を法律化して通そうと思っても、数だけでは到底できません。そして今、野党各党とも、菅政権にいろいろな政策で協力するということはできないという趣旨の話を各党ともしております。それがまあ、現実だと思います。そうしますと、衆院で圧倒的な多数で、言うまでもないですが、参院の国会運営、自分たちの主張を通すためにはやはり野党の賛同を得なければならないと思っておりますけども、野党のみなさんがそういう趣旨の政治スタンスをとっていることについて、菅総理としてどのようにこれを打開していかれるのか、お聞きしたいと思います」
菅氏「私はですね、先の参院選で大きく議席を減らし、敗退したことについて、その責任を痛感いたしております。しかし、このことで、何かもうこれで政治が進まなくなったとはこのように思ってはおりません。ある意味では、新しい局面が生まれる可能性がある。つまり、自民党が参院が少数でねじれた時期もありました。今回逆の時期もあります。つまりは、自民党もあるいは他の野党も、自分たちが全部反対すれば法案は通らない。しかし、本当に国民のためにどうすればいいかということをですね、考えたときに、私は謙虚に話し合いをすれば、大きい問題であればあるほど、共に責任を感じて何らかの合意形成を目指すということはありうると思っております。
私が例に出しますあの金融国会の時、当時自民党が過半数割れを起こして野党、私が代表する民主党、そして小沢さんが代表された自由党、公明党で金融再生法案を出しました。この法案が通らなければ長銀、日債銀が破綻(はたん)して金融恐慌になるのではないか。そういう中でありましたので、私は徹底的な議論をいたしまして、わが党、野党の案に自民党が全面的に賛成されるのならば、それを政局としては扱わないで、政策合意をしてもいいと申し上げましたが、100%野党案を賛成するという形で成立をし、金融恐慌を避けることができました。
それについて、小沢さんからは政局にしないなんていうこと言うのはおかしいと言われましたけども、私は今でも日本のため、世界のためにはその選択は間違っていなかったと思います。これからの政権運営においても、そういう真摯(しんし)な姿勢で臨めば野党のみなさんも必ず応えてくださると、このように考えております」
小沢氏「あのもちろん、今、総理がおっしゃったように私どもが本当に国民のための政策だ、法律案だということでもって、野党の皆さんと合意することができるものもたくさんあると思います。ただ、今、お話があったように、あのときも野党案を丸飲みしたというのが現実でありました。本当の危機的な状況の中ではそういうことも、当然、お互いにあり得ることではございますけれども、自分の政策、主張を野党とは違う基本的に考え方の違う政策、主張というのは現実的にはできなくなってしまうわけでございますので、その意味についての国会運営というのは大変厳しいものではないかと思っております。
もちろん、ぼくは選挙の結果のいかんにかかわらず、一兵卒として協力することは党員として当然ではありますが、なかなかわが党が野党で、過半数をもっておったときの自民党政権下でわが党がもっておったときの、国会の状況をみてもおわかりの通りだと思いまして、そういう意味では私はここがリーダーとしての手腕が問われるところであって、本当に真摯(しんし)に一生懸命、野党に対して話をすれば、一定限度の理解はえられるということは、そう思いますけれども、本当に主張、政治的な考え方の違う問題についてはまったく動かないということになりますので、そういう意味で大変、厳しい国会運営になっていくのではないかということを心配しておりまして、このリーダーとしては打開策をきちんと考えておかなくてはならないだろうというふうに思っておりますものですから、そういう質問をさせていただきました」
菅氏「私は先ほど申しあげましたようにですね、今の日本の行き詰まりはこの1年、2年の行き詰まりではありません。約20年間にわたる行き詰まりです。それは景気対策をやっても一義的にはよくなっても成長には戻りませんでした。あるいは社会保障についても少子高齢化がなかなか止まらなくて不安感が高まってます。財政の状況はいろいろな見方はありますけども、いずれにしても膨大な借金が積み上がっていることが事実であります。こういう大きな課題、金融国会の金融破綻(はたん)に匹敵する課題、あるいはそれをこえる課題であるからこそ、私はたとえば二大政党の一方が多少力を持っていても、それをこえてこれなかったために、それが今日のこの行き詰まりがあると私は思っております。
ですから、この大きな行き詰まりをこえるためにはある意味では、党をこえた合意形成、国民の合意形成が必要になる。熟議の民主主義といってまいりましたけれども、この間、私どもが野党でねじれ国会のときにはやや率直に申しあげて政権交代を目指すという政治的な目的のためにかなり行動したことも事実でありますから、そういう意味ではそれぞれがそういう行動をとった上で今日の状況をむかえて、ある意味の新しい局面にきたわけですから。そういうより大きな課題こそが、私は天の配剤だと申しあげているんですけれども、こういう中で合意形成ができると、私も30年間、国会におりますので、自社さ政権、いろいろな政権、ご一緒した方もあります」
たとえば、子供手当ては公明党が賛成いただいて、現在の法案もできているということもありますし、やはり財政健全化についても自民党も中期目標などではわが党と一致をした意見を出させていただいておりますので、もちろん、簡単だとは思っておりませんけれども、まさに真摯(しんし)に政局ではなくて、国民のことを考えて話し合おうという、その呼びかけをきちっと。既に多少の努力はしておりますけれども、させていただいたときには他の野党の皆さんもですね、国民の皆さんのことを考えて、そういう話し合いに参加をしていただけるものと思っています」
小沢氏「国会運営についてこれ以上は何もありません。ただ、今、繰り返しますが自分たちが国民に約束した主張を実行していくためにはやはり参議院でも過半数を有するということは本当に大事なことだと思っております。このままですと、仮に民主党政権が続くとしても、もう、最低でも6年、とても6年じゃ無理だとは思いますが、9年、12年の歳月をかけないと過半数というのはなかなか難しいという結果が現実だと思っておりますし、また、われわれが政権をめざしておったからというお話がありましたが、今、自民党は政権の奪還を目指して頑張っていることだと思いますので、状況は立場は変わりましたけれども、同じことだと思います」 |
小沢元代表は“ねじれ”がどのような状況を招くか知っていた。
だが、菅首相は1998年に「100%野党案を賛成するという形で成立」させた金融再生法案を丸呑みさせた例を出して、熟議を凝らせば、ねじれを乗り切れるとした。
言ってみれば、丸呑みされられる側にまわったことを考えることもできずに丸呑みさせた例を引き合いに出したのである。しかも参院選大敗を「天の配剤」だとまで言って。
首相という立場にありながら、この優劣の逆転現象を明確に理解できなかったトンチンカンな判断能力は如何ともし難い。その程度の頭でしかなかった。如何にノー天気だったか分かろうというものである。
参議院問責決議にしても、数の優劣が決定させた問題である。問責決議を受けた閣僚の更迭にまで進まなければならない状況に追い込まれている。現在菅内閣が置かれている状況の殆んどが「天の配剤」だとした参議院与野党逆転現象がもたらした窮状である。
果して「天の配剤」だなどと言えただろうか。言えもしないことを「天の配剤」だと言った。その小賢しさは測り知れない。一国の首相にあってはならない測り知れない小賢しさである。
現在菅内閣を取り巻いている状況が「天の配剤」だと言えるとしたなら、悪い方の「天の配剤」である。
昨日のTwitterに次のように書いた。
〈菅内閣、政権の魂(=マニフェスト)まで売って野党に媚び、延命を図ろうとしている。ボロ雑巾と化したマニフェスト。〉――
すべては菅首相の愚かしい判断能力が招いている今ある民主党の姿、今ある菅内閣のみすぼらしい姿であろう。
参考までに――
《菅首相の衆参ねじれ国会対策に1998年の「金融再生法案」を持ち出すバカさ加減》
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