安倍晋三はプーチンとの信頼関係構築が四島返還の礎と未だ信じているが、リベラルな政権への移行に期待せよ

2015-11-17 08:54:22 | 政治


 20カ国・地域(G20)首脳会議でトルコを訪問中の安倍晋三が日本時間の2015年11月16日未明、プーチンと会談、プーチンの年内実現を目指してきた日本訪問を期限を区切らず適切な時期に実現する方向で再調整することを確認したという。

 要するに年内を諦めて来年回しにした。ウクライナ情勢やロシアがシリア領内の「イスラム国」勢力空爆に参加、反アサド勢力への空爆にまで手を広げ、且つアサド政権への軍事支援まで強化していることがアサド体制の擁護・延命につながり、アサドの退陣を狙っている欧米と利害対立が起きていて、アメリカがプーチンの訪日に反対の意思を示していることも影響しているとマスコミは伝えている。

 安倍晋三は会談で次のように発言したと「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。 

 安倍晋三「首脳会談ができて大変うれしい。我々が頻繁に対話をすることで日ロ関係を発展させてきた。2人で日ロ関係をさらに発展させていきたい。

 経済分野では有意義な対話が行われ、日ロの企業関係者の交流も活発化している。日ロ関係を前に動かすために重要なことは、こうした形で2人で話し合っていくことだ」

 まるで安倍・プーチンの2人だけが日ロ関係を発展させることができるといった趣旨の発言となっている。まあ、自信を持つことはいいが、それが誇大自己意識の高みにまで達している。

 二人は北方領土問題を含む平和条約交渉を巡って双方の受け入れ可能な解決策を見い出すための率直な意見交換をも行ったそうだが、首脳会談を通した二人の話し合いが日ロ関係の発展につながっていくということは、そこに話し合いによって構築されていく二人の信頼関係が日ロ関係発展の原動力と見做しているからに他ならない。

 安倍晋三は日ロ関係発展の先に北方領土返還問題の解決と平和条約締結を見据えた対ロ政策を頭に置いているのだから、今以て二人の信頼関係の構築を両問題解決の礎としていることになる。

 但しこの信頼関係構築作戦は安倍晋三の片想いに見える。安倍晋三は未だにそのことに気づかずに、信頼関係の構築に相努めようとしている。プーチンの訪日に拘り、会談ではプーチンが「ロシアのどこか一地方で首相にお目にかかれればうれしい」(時事ドットコム)と安倍晋三の訪ロを促したというから、やれ何回目のプーチンとの首脳会談だと回数を誇りながら、いそいそとロシアに向かうことになるだろう。 

 ロシアは着々と北方四島の開発を進め、軍事基地の整備も行っている。さらに北方四島をも適用範囲とした極東地域の人口増加に向けて国民に土地を無償で提供する制度を来年2016年5月から始めることをロシア政府が決めたと「NHK NEWS WEB」記事が伝えていた。

 記事の解説を待つまでもなく、北方四島をロシアの領土の一部と見做しているからに他ならない。

 勿論、この北方四島をロシアの領土と既成事実化した急ピッチな開発はプーチンの政治姿勢と深く関係しているはずだ。かつてのロシア帝国が広大な領土と、その領土の広大さに基づいて保持していた強大な国家権力と帝国内のロシア人に与えられていた特権性が育んだ自らを人種的に偉大だとする大ロシア主義を多くのロシア人が自らの血としていると言われているが、特にプーチンはその血を濃くしていて、大ロシア主義をかつてのソ連が体現していたと見て、ソ連回帰を様々に試みている。

 要するにプーチンがソ連回帰によって表現しようとしているロシア人の人種的な偉大性――大ロシア主義は広大な領土と広大な領土に依拠させた強大な国家権力を不可欠な二大要素としていることになる。

 プーチンやその他大勢のロシア人にとって、その他大勢であることはプーチンの高い支持率から理解できることだが、領土の大きさは偉大な国家を表現する一部となっているということであり、そういった心理構造自体が大ロシア主義に当たるということである。

 ウクライナからのクリミア簒奪も大ロシア主義実現の一環だったはずだ。プーチンはなおも旧ソ連から独立した国からロシア人居住者の多い地区の簒奪――ロシアの領土化を狙っている。

 プーチンが夢見て止まない大ロシア主義の実現に広大な領土を欠かすことができないと見ているなら、北方四島は手放さない理由とはなるが、手放す理由とはならない。

 だからこその北方四島のインフラ整備であり、その他開発であり、軍事基地の整備、土地無料提供による入植者の推進と言うことなのだろう。

 領土を一坪なりとも欠かしたなら、それは大ロシア主義に反する試みとなる。

 もう一つプーチンが北方四島を返還する気のない例を2015年10月30日付けの「時事ドットコム」記事から挙げてみる。 

 プーチンが2015年10月29日、愛国少年団「ロシア青少年運動」を創設する大統領令に署名したと書いている。ソ連時代の共産党少年団(ピオネール)がモデルだそうだ。

 こういったことはソ連回帰の一環だろうが、2005年に青年版の愛国青年組織「ナーシ」を創設している。これも旧ソ連時代の共産党青年団(コムソモール)をモデルにした組織だという。

 プーチンは2000年にロシア大統領選挙に勝利して大統領に就任しているから、就任の早い時期からソ連回帰を自らの血に基づいて目指していたことになる。

 但し記事は愛国青年組織「ナーシ」は一旦組織解体に至ったが、今年2015年8月に北方領土の択捉島などで開催された「全ロシア青年教育フォーラム」などに引き継がれたと解説している。

 他のマスコミは8月12日から8月24日まで択捉島で開催されたこのフォーラムをロシア政府主催の愛国集会と紹介していて、約200人が参加したと伝えている。

 メドベージェフ・ロシア首相が8月22日に択捉島を訪問、同島開催中の「全ロシア青年教育フォーラム」の行事に参加している。

 ロシア全土から200人ものの若者を愛国心の名のもと集め、教育のためのフォーラム(公開ディスカッション)を催す。

 当然、択捉島を舞台とした愛国心教育の涵養を目的とした集会の開催を意味する。あるいは愛国心教育の涵養を目的として、その舞台の一つに択捉島を選んだ。

 このことの意味は北方四島を、少なくとも北方四島中最大面積の択捉島をロシアの領土であると意識させることを愛国心の象徴行為ともしているはずだ。

 なぜなら、グループごとにロシアの外交や内政をテーマにディスカッションしたそうだが、択捉の地でそれを行ったということはを択捉をロシア領土の一部としていることを示しているからである。返還を予定している島でロシアの外交や内政をテーマにロシアの将来を担わせようとしている若者たちに政府主催でディスカッションさせる意味はどこにもない。

 だが、ロシアの領土であることを意識させる島は択捉島だけにとどまらないはずだ。大ロシア主義は領土の大きさを偉大な国家を表現する一部とし、そのことによってロシア人の人種的な偉大性をも表現しようとしているから、領土を少しでも手放したくないだろうし、メドベージェフ首相がこのフォーラムに参加するために択捉島を訪問した2015年8月22日に1カ月遡る7月23日に「島々はロシアの国境を守る役割を果たしてしいる」と発言していることも、具体的な証明として提示できる。

 歯舞・色丹の面積の狭い領土を返還しても、「ロシアの国境を守る役割」を殺ぐことになるからだ。

 プーチンが大ロシア主義を血とし、ロシアを旧ソ連同様の広大な領土と広大な領土に依拠させた強大な国家権力を持った偉大な国家に回帰させようとしている限り、そしてそのことによってロシア人の人種的な偉大性を表現しようとしている限り、安倍晋三がいくらプーチンとの信頼関係構築を四島返還の礎に据えようが、あるいは平和条約締結の条件としようが、プーチンの大ロシア主義の前に何の役にも立たないはずだ。

 プーチンに代わる、大ロシア主義に影響されていないリベラルな政権への移行に期待する以外にないのではないだろうか。

 余談だが、プーチンの大ロシア主義はプーチンの肉体的なマッチョ志向に最も顕著に具体化されている。偉大なロシア人への回帰願望が強過ぎる余りの、その偉大性を自身の肉体で即物的、あるいは即席的に表現したのが、ウエイトトレーニングで鍛えたのか、筋肉隆々の偉大なと思っている自身の肉体美であるはずだ。

 これも余談だが、安倍晋三とプーチンは性格的に瓜二つとなっている。安倍晋三にしても戦前の大日本帝国を偉大な国家、理想の国家像として、そこへの回帰を試みている。

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