安倍晋三の10日衆院予算委対岡田克也答弁「総雇用者所得」は非正規雇用者を政策的に切り捨てている証明

2015-11-11 10:16:25 | 政治


 民主党代表岡田克也が2015年11月10日の衆議院予算委員会閉会中審査で質問に立ち、安倍晋三の憲法9条改正意思、日中韓首脳会談、非正規雇用や賃金の問題等を質した。

 ここでは雇用や賃金についての質問だけを取り上げる。

 民主党のHPにアクセスしてみると、岡田克也の写真と共に「直球勝負」とか、「権力の暴走を許さない。その先頭に立つ。」とか大文字で書き入れているが、岡田の11日の質問はとても直球勝負とは言えないし、権力対抗ともなっていなかった。追及とは程遠く、まるで政府の政策の肯定を予定調和として、さらなる政策をお願いする与党議員の質問さながらであった。  

 HPには「経済」に関する質問について次のような説明があった。

 (1)安倍政権下で正規雇用が大きく減っている
 (2)実質賃金が目減りしている
 (3)最低賃金をしっかり引き上げるべきだ
 (4)アベノミクス『新3本の矢』は分かりにくいうえに財源が示されていない
 (5)政府の『骨太の方針』の中で社会保障費を毎年5千億円増に抑制すると言っているが内容
    について基本的な説明がない
 (6)財政の立て直しは景気が良くなっている今こそチャンスだ――と指摘し、安倍政権の方針
    の矛盾、曖昧さを質した。

 「安倍政権の方針の矛盾、曖昧さを質した」となっているが、果たして実際はそうなっているのか、ご覧あれ。

 先ず下に記載した、民主党政権下の2012年4~6月と安倍政権下の2015年4~6月の総務省の「労働力調査」から抜粋の「雇用者数の推移(万人)」を記したパネルを示した。

 岡田克也「総理はアベノミクスの成果として雇用が100万人以上増えたと言うことをよく言われます。失業率の低下とか、求人倍率が上がっているとか、色々な数字はあります。そういう中で、私はやはり全体が100万以上増えているものの、それは非正規の働き方が増えているのであって、正規労働者はむしろかなり減っていると言うところが非常に重要だというふうに考えております。

 この数字は今日発表になる、2015年、(聞き取れない)になるという話もありますが、現時点の最新の値が2015年4~6月、その3年前のこれは民主党政権ですが、2012年4月~6月、3年前と比べた数字であります。

 全体の雇用者数ですが、確かに121万に増えている。総理は100万人以上増えているとおっしゃっているのはそのとおりであります。

 ただ非正規は178万人増えて、正規は56万人減っていると。で、景気が次第に回復地点にある、デフレから脱却しつつあると総理は説明されてますが、そいう中にあって、正規は減っている。現状維持なら兎も角、減っているということはやはりこれは重大ではないかと、いうふうに思うわけですね。

 特に25歳から34歳で、58万人減、35歳から45歳で51万人減。まあ、合わせてですね、働き盛りと言いますか、25歳から45歳というところが100万人以上減っていると言うことは、私は重大だというふうに思いますが、総理はこのことについてどう考えておられるんですか」

 安倍晋三「あの、先ず正規に於いてですね、これは今委員が示された正規で56万人減っているではないかということであります。ま、確かに民主党政権に於いてもですね、その前の2009年から比べれば65万人減っているわけでございます。

 えー、これは民主党政権のときの方が減っているのではないかと言いたいばっかりにではなくて、ここは人口が減少しているということでありまして、人口の中に対する比率、正規の比率を見れば、これは実は横這いでございます。その中に於いて非正規が増えているのは事実でございます。

 ではなぜ非正規が増えているかと言えばですね、景気回復に伴ったパートなどで働き始めた方が増加しているということが一点、と同時にですね、また65歳までの雇用確保の措置が実施されて、高齢者で非正規が増加しているということでありまして、えー、不本意ながら非正規の職に就いている方も前年に比べてみればですね、減少してきているわけであります。

 そこで正規雇用の状況を見なければならないわけでありますが、働き盛りの55歳未満では、平成25年から10四半期連続で非正規から正規に移動する方が正規から非正規になる方を上回っております。

 えー、そして正社員の有効求人倍率は調査開始以来の最高水準になっているわけでございますから、間違いなく正規を巡る雇用状況は良くなっているわけでございます。
 
 足元では正規の方が前年に比べて増加しているなど、これも着実に改善していると思います。そして正規・非正規間にみられる賃金格差であります。我々はこれは注意深く対応してきたわけでございますが、平成24年から平成26年にかけて縮小してきております。

 パートで働く方の時給はここ2年間で最高水準になっております。非正規雇用の方の待遇改善も着実に進んでいるということでございます。私達が進めている対策がですね、しっかり、この雇用環境を良くしていく。雇用環境全体を良くしていく。

 それは景気を良くしていくことによって雇用環境を良くし、さらにその中でも正規に行きたい人が行けるような状況を作っていく。と同時にですね、正規と非正規の格差を是正していく。我々はこれを成功しつつあると考えております」

 「人口が減少している」から、人口に対する正規の比率を見ると、減少しているわけではなく、横這いだと言っている。

 人口は減少しているかもしれないが、パネルを見ると、役員を除く雇用者は5146万人から5267万人へと121万人増えている。大体が自分自身が安倍政権になって雇用者は100万人以上増えたと言っているし、岡田代表自体が121万人増えていると指摘したばかりである。

 あくまでも総雇用者数に対する正規・非正規の人数であり、比率でなければならないのに、総雇用者数に替えて人口を持ってきて、そのことに対する人数・比率に置き換える詭弁・牽強付会を持ち出している。これ程のゴマカシはない。

 そして非正規の増加を景気回復に伴ったパート労働の増加と65歳までの雇用確保の措置に伴った高齢労働者の増加が原因で、不本意非正規は前年比で減少していると答弁している。

 だが、2014年平均の総務省「労働力調査(詳細集計)」を使った『非正規雇用の現状と課題』(厚労省)で.「正社員として働く機会がなく、非正規雇用で働いている者(不本意非正規)の割合」を見ていみると、左図の通り、非正規雇用労働者全体の18.1%ではあっても、全体で381万人も占めていて、「1億総活躍社会」というキャッチフレーズからすると、決して無視はできない数字である。  

 非正規の増加を景気回復に伴ったパート労働と高齢労働者の増加に置いていることは同時に企業側の安価な労働力の求めに応じた現象でもあって、それを数の上での増加のみで見るのは政策者にあるまじき表面的な見方に過ぎない。

 「正社員の有効求人倍率は調査開始以来の最高水準」だと言っていることにしても、2015年9月の有効求人倍率(季節調整値)1.24倍に対して同時期の正「社員の有効求人倍率」は0.78倍で、1に満たない。 

 企業は人件費抑制のために非正規社員をより多く求人対象にしていると言うことの証明である。

 確かに安倍晋三が言っているように「正規の方が前年に比べて増加している」。だが、景気回復による人手不足を受けた囲い込みであって、景気が悪化すれば、いつ非正規雇用に転換しない保証はない流動性を常に帯びている。

 このことは5人以上を雇用する民間と公営の約1万7000事業所を対象に実施した厚労省調査を伝える2015年11月4日付「時事ドットコム」記事、《非正規、8割の企業が採用=最多理由は「賃金節約」-厚労省調査》が証明している。

 2014年10月1日時点で非正規社員を雇用する民間事業所の割合は79.6%(2010年前回調査+1.9ポイント)

 複数回答による非正規こよ理由 

 「賃金の節約」38.8%(最多)(前回調査-5.0ポイント)
  「仕事の繁閑への対応」33.4%(前回マイナス0.5ポイント)
 「即戦力・能力ある人材の確保」31.1%(同+6.7ポイント)

 厚労省「雇用情勢の改善で人材確保が難しくなり、コスト削減のための非正規社員の雇用が減った」

 この解説はそのまま景気が悪化すれば、非正規へ転換、あるいは人材削減そのものを意味する。

 正規・非正規間にみられる賃金格差は「平成24年から平成26年にかけて縮小してきております」と言っているが、2015年9月30日の「日経電子版」によると、2014年の正規労働者年間給与が1.0%増の478万円、派遣社員などの非正規労働者が1.1%増の170万円で2.8倍の308万円もの差がある。  

 正規と非正規の賃金上昇が同率程度では到底追いつかない賃金格差であるが、それを「正規と非正規の賃金格差は縮小しています」の一言でアベノミクスの成果の一つとするのは自身の政策に対する検証精神のなさの現れ以外の何ものでもない。

 上記記事は2014年の1年間に支給された給与の平均は前年比0.3%増の415万円で2年連続で増えているが、給料・手当が353万円で横這い、賞与2.6%増の62万円だと伝えていて、これも景気の動向と連動しがちなバランスの悪い内訳であって、上記記事を併せ考えると、手放しで喜ぶことも手放しで安心することもできない賃金状況と言う他ないが、安倍晋三の答弁はアベノミクスをバラ色に包んだものとなっている。

 このことは次の発言に象徴的に現れている。
 
 「それは景気を良くしていくことによって雇用環境を良くし、さらにその中でも正規に行きたい人が行けるような状況を作っていく。と同時にですね、正規と非正規の格差を是正していく。我々はこれを成功しつつあると考えております」

 これまで挙げてきた統計の多くはあくまでも平均であっで、平均以上の上位と平均以下の下位ではその差は大きく、上位に位置する者たちがアベノミクスの円安と株高によって資産を大幅に増やした状況を考えると、格差は確実に拡大している。果たして「成功しつつある」と言うことができるだろうか。

 岡田克也は安倍晋三の答弁からこういった問題点を追及しなければならないのだが、そうはなっていなかった。  

 岡田克也「非正規から正規への動きが増えている。これは色々な統計の取り方の問題です。ただ、私が言いたいのは絶対数が減っていると、景気回復局面に分かれて正規の絶対数が減っていると、それは全体の働く人の数が減っているからだとおっしゃるかもしれませんが、じゃあ、非正規の数も増えているわけですから、そいう中で正規が減っていると言われるというのは、私はやはり深刻に把えるべきだというふうに考えます。

 特にこの25歳から44歳という、まさしくこれから家庭を持ち、子どもをつくり、結婚をし、家庭を持ち、そしてそういう働き盛りの人たちが不安定な雇用が増えてきているということについては何らかの政策の対応が私には絶対に必要だと思うわけであります。さらなる正規雇用への転換やあるいは職業資格の取得を後押しする制度、そういったことをさらに政府として私は力を入れるべきだというふうに思いますが、総理、こういうふうなお考えありますか」

 自身がパネルで役職を除く総雇用者数が増加していることを示しておきながら、安倍晋三の減少しているという人口に騙されて曖昧な追及に変えてしまっている。しかも「直球勝負」とか、「権力の暴走を許さない。その先頭に立つ。」と言った民主党の宣伝文句をどこかに投げ捨てて、政府にそれなりの対応を求めるという、まるで政府の政策を後押しする自民党議員の質問みたいな具体性もない質問になってしまっている。

 安倍晋三「それはですね、当然、我々もそれぞれの年齢層ごとにですね、しっかりキメ細かく積極策をしながら、正社員になりたい人はその目的を実現することができるように、こうした雇用に向けてのですね、いわばキャリア形成等も含めて、腐心をしていきたいと、このように思っております」

 岡田克也「是非具体的に政策をお願いしたいと思います。次にです。賃金ですが、賃金が増えたということを総理はよく言われます。ただ問題は実質賃金なんですね。

 で、これで見ると(実質賃金指数を棒グラフにしたパネルを示し)、民主党政権の時代には平均して99.8。2010年を100とした数字でございます。ところが安倍政権になると、平均で96.5ということで、むしろ実質賃金はマイナス。物価が上がっている中で賃金がそれに追いついていない。

 実質賃金が下がっていれば、それは消費が増えるはずはない。それは現在の消費低迷の大きな原因になっていると。これは誰が考えても、そうだと思うんですが、こういうことについてどうお考えですか」

 安倍晋三「実質賃金を見ればですね、実質賃金指数はですね、安倍政権になって下がっているということはこれはいわば働き始める人が多いわけですから、安倍政権、新たに100万働き始めました。

 しかしそれは最初はどうしても慎重にいきますから、パートで働き始める方が当然多いんです。企業側もそうですし、働き始める方もそうであります。それを平均しますから、当然、これは景気回復局面で常にこういう現象が起こります。つまり景気が回復しているということであります。

 そしてそこでですね、大切なことは・・・・、(議場が騒がしくなって)すみません、少し静かに、こういう議論しているんですから、おとなしく聞いてくださいよ。たまにね(ニコニコと鷹揚なところを見せながら)。

 そして実質総雇用者所得についてはですね、稼ぐ額ですね、総額ですね、それは民主党政権下の2010年から2012年までの平均を比較すると、ほぼ同じ水準でありますが、我々がデフレ脱却に向かいながら、且つ消費税引き上げの影響、消費税を引き上げをしてですね、影響を加味して同水準ということであります。

 我々は3%引き上げたということですから、これは消費税を3%引き上げて、いわばこれは実質賃金を3%押し下げるという効果を入れ、そして且つデフレから脱却するために今徐々に物価が上がっていくということも加味してですね、実は民主党政権と、デフレ下でやっていることですね、実は同じ水準だったと。

 これは総雇用者所得ではそうなっているということは申し上げておきたいと思います」

 景気回復局面ではパートで働き始める方が多いことと消費税3%増税によって実質賃金は下がると、その低下の理由を尤もらしく述べている。

 だが、先の記事は非正規雇用が減ったとしているものの、非正規雇用採用理由が「賃金の節約」と 「仕事の繁閑への対応」等、非正規雇用者を簡易的な間に合わせの対象としていて、後者は人出不足から正規社員として求人しないと応募が来ないことからの正社員として囲い込むための止むを得ない措置の一つに入り、単に景気回復局面での現象とする説明は表面を把えただけの解釈で答弁しているに過ぎない。

 人手不足がなければ、やはり賃金節約のために非正規で採用する可能性が高いからである。

 また消費税3%増税によって3%の実質賃金が下がったと言っているが、消費税増税は予定のスケジュールとしていて、そのために公共事業を主体とした何十兆円もの景気対策を打っていながら、大震災復興の公共土木事業と民間土木事業と重なって人手不足を誘発し賃金上昇に貢献したが、公共事業による景気対策はもはや時代遅れと言われていて、公共事業から他分野への波及は殆どなかったはずで、消費税増税を実質賃金低下の理由に持ち出すのは的外れ以外の何ものでもない。

 安倍晋三はまた「実質総雇用者所得」を持ち出して、その額は民主党政権時代と「ほぼ同じ水準」だからと、実質賃金の目減りの代わりになるような答弁をしているが、2014年の正規労働者と非正規労働者の年間給与格差が308万円もある上に全体で見た場合、一方に株や土地、その他の多額の金融資産を抱えている高額所得者が存在し、一方で2014年調査で日本人の6人に1人が貧困層に属していて、満足な貯蓄もない低所得者が多数存在するなど所得金額に階級がある以上、何の説明にもならない実質総雇用者所得を持ち出してアベノミクスの成果の一つとすること自体、国民を誤魔化す意味もない答弁であると言うだけではなく、貧困層を含めた低所得層を形成することになっている多くの非正規雇用者を、あれこれ対策を打っているかのように言っているが、「実質総雇用者所得」という指標を持ち出すこと自体、実際は如何に切り捨てているか、その象徴となる発言であろう。

 安倍晋三の答弁に追及する点が多々ありながら、岡田克也はそこに目を向けることができず、政府の政策を後押しする自民党議員の質問から抜け出ることができなかった。 

 岡田克也「まあ、総理、あの、2年前ならね、最初先ずパートだったから、そういう説明は通じるけれども、もう3年も経っているわけですから、傾向は変わらないわけですから、ここは大きな問題があるというふうに思いますが、勿論労使交渉、賃金交渉と言いますか、労使交渉に委ねるべきだと思いますが、しかしもっと思い切って上げる。

 経営者側にはですね、そういったことも求めなければならないと思いますし、日本的経営を大事にすると言うんであればですね、総理も度々言われているとは思いますが、もっと強く経営者側に賃金を上げろと言うべきだと私は思っております」

 質問を最低賃金の引き上げに移す。

 岡田克也の質問を全体で見ると、満足に反論できなかった上に自民党議員並みの質問と化していたのだから、結局は安倍政策を肯定することになる質問で終わったことになる。

 党代表がこの程度の追及しかできないのだから、安倍晋三の内閣支持率が上がり、民主党の政党支持率が10%以下で低迷しているのも無理はない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする