安倍晋三が11月29日、東京港区のホテルで開催された、全国から党員・党友等3000人出席の「立党60年記念式典」で、相変わらずのいいこと尽くめで塗り上げた挨拶を行った。
いいこと尽くめだけならまだしも、所々にウソを塗り混ぜている。
安倍晋三「(自民党の)安定的な経済政策のもと高度経済成長を達成し、日本は経済大国となった。そして、この果実を生かして皆年金、皆保険といった世界に冠たる社会保障制度を構築してきました。自由主義陣営の一員として日米同盟のもと日本の平和と繁栄を守り続けてきました」――
「皆年金、皆保険といった世界に冠たる社会保障制度を構築」とバカの一つ覚えさながらに発言のたびに誇る。だが、年月を経て、劣化を来たし、制度は綻びを見せ始めている。
《平成26年度の国民年金保険料の納付状況と今後の取組等について》(厚労省年金局・日本年金機構 2015年6月26日)を見ると――
〈公的年金制度全体の状況(平成26年度末)
○ 公的年金加入対象者全体でみると、約97%の者が保険料を納付。(免除及び納付猶予を含
む)
○ 未納者(注1)は約224万人、未加入者(注2)は約9万人。(公的年金加入対象者の約
3%)
未納者とは、24カ月(平成25年4月~27年3月)の保険料が未納となっている者。〉となっている。
さらに――
〈平成25年度分保険料納付率60.9%
平成26年度分の現年度納付率は63.1%(対前年度比+2.2ポイント)〉
例え平成26年度分の現年度納付率が対前年度比+2.2ポイントの63.1%であったとしても、中には国の制度を信用できない自己意志から、未加入ということもあるだろうが。殆どは保険料を納付できない国民が殆で、そこに格差が存在していて、平成26年度末で少なくとも未納者220万人前後+未加入者8万人前後が格差の最下段に置かれていると見なければならない。
また平成25年度の国民健康保険は3,139 億円の赤字(赤字額は前年度から85 億円増)であって、その赤字を一般会計繰入金で補って収支を保っている。(「平成25年度国民健康保険(市町村)の財政状況」(厚労省保険局国民健康保険課/2015年1月28日)
こういった状況にありながら、安倍晋三は「皆年金、皆保険といった世界に冠たる社会保障制度」だと誇ることができる。格差への視点を欠いているからである。
この視点の欠如は、何度もブログに書いてきたように国民の在り様よりも国家の在り様――国家の繁栄を最優先する国家主義の資質が起因となっている。
当然、後の方で言っている「政治は国民のもの」は心にもない真っ赤なウソに過ぎない。まともな感覚をした者が格差の状況を無視して「政治は国民のもの」と言うことができるだろうか。北朝鮮の独裁者金正恩が「北朝鮮の政治は北朝鮮国民のものである」と言うのと、その胡散臭さの点に於いて本質的には同じである。
格差を無視できる程にまともではない感覚の持ち主だから、格差なんか何のその、「政治は国民のもの」と恥ずかしげもなく口にすることができる。
この恥ずかしげもない厚かましい言葉の前にも同じく恥ずかしげもない厚かましい言葉を並べ立てている。
安倍晋三「自由民主党が60年間、責任政党であり続けることができたのは、今日お集まりをいただいたみなさんをはじめ、全国の地方議員、党員、支部、そして、後援者のみなさまのお力の賜物であります」――
自民党は果たして60年間、責任政党で在り続けたのだろうか。
自民党の実力者たちは長年、自分たちの名前を残すことと地元の仕事を増やし、選挙の票とするために必要限度を超えた豪勢な橋や道路を日本全国あちこちに造り続けるムダな公共事業によって国家財政を借金だらけとし、予算配分を窮屈な状態に追いやった。
消費税導入はこれらの尻拭いの役目をも負わされていたはずだ。
ムダな公共事業を日本全国にバラ撒いたという点でも、全体的には自民党「政治は国民のもの」ではなかった。
財務省調査で国債や借入金、政府短期証券を合わせた「国の借金」の残高は2015年6月末時点で1057兆2235億円となっている。国民1人当たり換算で約833万円の借金だという。
国費のムダな支出は公共事業だけではない。よく知られている例として旧年金福祉事業団(年金資金運用基金)が1980年から1988年にかけて日本全国に13ヶ所設置したグリーンピアは、〈計画性なく無駄に資金を投入し、元来不安定な日本の年金システムに更なる打撃を与える事になり、グリーンピア自体も当然のごとく経営不振になったことにより、2001年12月の特殊法人等整理合理化計画(閣議決定)において、「2005年度までに廃止、特に赤字施設についてはできるだけ早期に廃止する」とされた。〉と「Wikipedia」に記載されているし、社会保険庁職員の宿舎は都心部の豪華マンション並みの造りで、しかも家賃は周辺の平均家賃価格と比較して破格の安さであることが常に批判のネタにされてきた税金のムダ遣いは周知の事実となっている。
さらに周知の例を一つ挙げると、厚生労働省の重点施策「若年者雇用対策の推進」の一つとして国により設置が推進及び促進された、大阪府・京都府・奈良県にまたがる関西文化学術研究都市内にある「私のしごと館」は建設費400億円及び土地代など150億円かけて建設された〈若者を対象に職業体験の機会、職業情報、職業相談等を提供する施設である。収支相償を前提とする事業ではなく、運営費は雇用保険料で赤字補填されていたが、雇用保険の無駄遣い等の批判や国の予算縮減等を受けて、2010年(平成22年)3月31日で営業終了となった。〉と「Wikipedia」に出ているが、毎年20億円の赤字を生み出していたという。
問題は何度か売却のための入札を行ったが、応札者がなく、2014年に国から京都府へ譲与された点である。
毎年20億円の赤字を国のカネで補填してきた総額と建設費の全額をドブに捨てたも同然のムダとした。
こういったことを含めて積み重ねてきた「国の借金」残高2015年6月末時点で1057兆2235億円ということであって、先進国中最悪の日本の財政と言うことであるはずだ。
つまり先進国中最悪の日本の財政をほぼ自民党政治が積み上げてきた。
再度言うが、“自民党政治は国民全体のもの”ではなく、利益誘導に関わった一分の国民と有力政治家や地元有力者、官僚とそれらに繋がる面々が特権的にうまい汁を吸っただけに過ぎないし、当然、自民党が60年者間、責任政党であり続けたわけではない。
こういったウソ・矛盾を隠していることを前提に安倍晋三のいいこと尽くめに耳を傾けなければならない。
安倍晋三「いよいよアベノミクスも第2ステージに入りました。目標は1億総活躍社会です。若いみなさんも高齢者も、女性も男性も、障害のある方も難病を持っておられる方々も、一度失敗した人も、誰にでもチャンスがある。誰にでも生きがいがある、そういう日本をつくってまいります。
戦後最大のGDP600兆円。希望出生率1・8。介護離職ゼロ。この明確な的に向かって、新たな三本の矢を放ってまいります」――
安倍晋三「みんなが活躍できれば、多様性のある社会が実現し、新たなアイデアが生まれ、イノベーションが起こります。それは成長へとつながり、私たちをもっと豊かにします。消費や投資や社会保障の充実につながっていく。
成長か分配か、どちらを重視するかといった論争に終止符を打ちます。1億総活躍社会とは、成長と分配の好循環を生み出す新たな経済社会のシステムの提案であります」――
安倍晋三「日本人の命と幸せな暮らしを守り抜く。この最も大切な責任を果たしてきたのは、果たしていくことができるのは、私たち自由民主党であります」――
いいこと尽くめのどれ一つを取っても、格差の是正を抜きに実現可能と断言できるだろうか。
アベノミクスは格差の是正に向かうどころか、格差拡大に向かっている。安倍晋三が格差への視点を欠いている以上、アベノミクス第2ステージにしても同じ道を辿り続ける。