男子大学生・大学院生半数が「将来、育児休業制度を利用したい」の希望を日本人の思考様式・行動様式が挫く

2016-09-02 10:12:38 | 政治

 2016年7月1日付「NHK NEWS WEB」記事が就職情報会社アイデムのアンケート調査として来春卒業予定で就職活動中の男子大学生と男子大学院生を合わせたうちの半数が6月調査で、「将来、育児休業制度を利用したい」と考えていると伝えていた。

 調査対象者はインターネットを通じた約700人。

 「将来、子どもができた場合、育児休業制度を利用したいか」

 「利用したい」+「どちらかと言えば利用したい」

 男子学生49.5%
 女子学生92%

 「育児期間中の短時間勤務希望」

 男子学生49.8%

 「育児期間中の残業の免除希望」

 男子学生56.1%

 調査会社「働く時間を減らして育児を担いたいという人が増えている」

 しかしこの傾向は育児をしないわけではないが、育児のために全休までしたくない、どちらかと言うと、育児よりも仕事を優先させたいという気持の現れであり、裏返すと全休して一定期間仕事を離れてしまうことの不安か、あるいは全休した場合の自身に対する周囲の評価への不安、いずれかを考えている男子学生が相当数いるということであろう。

 記事は最後に、〈一方、厚生労働省の平成26年度の調査では男性社員の育休取得率は2.3%にとどまっていて、男性社員が育休を取りやすい環境を整えることが課題になっています。〉と解説している。

 いずれにしても来春就職を目指す男子大学生と男子大学院生を合わせた半数近くが育児休業制度を利用したいと思っている。

 断るまでもなく、希望と現実世界での希望の実現は異なる。

 2016年7月31日付の「NHK NEWS WEB」記事から昨年2015年の厚労省調査による育児取得率を見てみる。

 従業員5人以上の事業所を対象、全国3958の事業所が回答。

 男性取得率2.65%(前年比+0.35ポイント)
 女性取得率81.5%(前年比-5.1ポイント)
 
 女性取得率前年比5.1ポイント減を記事は短時間勤務制度が広がり、育休を取らずに働く人が増えたこともあるが、小規模な事業所で取得が進んでいない状況にあることが原因だと解説している。

 要するに育児休業制度を設けているものの小規模事業所の中には資金に余裕がないためにギリギリの採用人数で日々の事業をどうにか回転させていることから、出産と出産後の入院期間は兎も角、それ以外は法定の1歳6カ月間どころか、1日も休まれては困るといった窮屈な経営状況にあるということであり、女性従業員側からすると、余分に休むと、いつ新しい人が採用されて自身がクビになるかも分からないから、育児休業を取ることができないということなのかもしれない。

 NHK NEWS WEB記事が伝えている厚労省の調査は「平成27年度雇用均等基本調査の結果概要」ページに載っていて、大中小零細日本の全ての企業が育児休業制度を設けているわけではないことを知ることができる。  

 〈育児休業制度の規定がある事業所の割合は、事業所規模5人以上では73.1%(平成26年度74.7%)、事業所規模30人以上では91.9%(同94.7%)となっており、平成26年度調査より事業所規模5人以上では1.6 ポイント、事業所規模30 人以上では2.8 ポイント低下した。〉

 長時間労働を是正し、男性社員にも育児休業を取らせようという時代の流れに逆行する事業所に於ける育児休業制度の減少となっている。

 政府は4年後の2020年には男性の育児休業の取得率を13%とする目標を掲げていると記事は書いているが、前年比+0.35ポイントとほんの僅かながら増えてはいるものの、男性の2015年育休取得率はたったの2.65%。

 「将来、育児休業制度を利用したい」男子学生49.5%の希望に対して現実は2.65%。

 希望と現実の差が46.85%。

 2020年男性育児休業取得率政府目標13%に対する2015年男性育児休業取得率2.65%の10.5%もの差も然ることながら、希望と現実の差46.85%にしても、どこに理由があるのだろうか。

 育児休業制度を設ける以上、設ける時点で男性であれ女性であれ、育休を取る社員が出た場合に備えて残された社員でその仕事の穴を埋め、従来と変わらずに経営を維持させていく人員配置を前以て構築しておくことは会社自身のマネジメントの問題である。

 そのマネジメントに従ってそれぞれが自分だけではなく、新たに子どもを持つ男女が育児休業制度を交互に利用し、その利用に対して他の社員が利用中の仕事を全員で、あるいは何人かでカバーしていく相互扶助を制度の中身としているのだから、利用は個々の権利として存在している。

 利用が権利として存在していながら、2015年の育児休業取得率は2.65%にしか達していない。

 当然、自身の権利として周囲に気兼ねなく求めることができるだけの自律した態度を取ることができていないことになる。

 会社が育児休業制度を設けていながら、自分が育休で仕事を休んだら、みんなに仕事のしわ寄せがいって、迷惑がかかりはしないだろうか、自分が期待されている分、休むことで評価が下がりはしないだろうか、満足に仕事ができないのに一人前に休みを取るなどと批判されないだろうかと周囲の目を気にする。

 男性の育児休業取得率の低さはこういった理由からだそうだが、全ては権利を権利として主張できる自律した態度とは正反対の姿が為せる技である。

 権利でありながら、権利として自己を優先させることよりも周囲の目を優先させて自身の権利を放棄すること自体が自律性から離れた態度でしかない。

 2015年の育児休業取得率2.65%を除いた男性社員の多くが自律性を欠いていると見なければならない。

 その理由はどこからきているのだろうか。

 「自律性」とは他からの支配・制約などを受けずに自分自身で立てた規範に従って行動する性格のことを言う。いわば自分で考え、その考えに従って自らの責任のもとに自らの行動を決定し、行動する性格のことである。

 このような性格を欠くと、自分自身の考えを抑えて他人の目や世間的に一般的な考えに影響を受け、その支配を受けて行動するようになる。

 他人や世間の考えに従うこの手の行動性は自身の考えを上に置くのではなく、他の考えを上に置いてその考えに自己を従わせる、日本人が主たる行動様式としている権威主義の行動性そのものを指すことになる。

 会社で自分が正しいと思っている自分の考えと違っていても、その考えを抑えて上の地位の者の考えに無条件に従うのも権威主義の行動性である。

 こういった権威主義的な行動性が上下の人間関係の力学として日本の多くの会社、多くの集団を支配している。典型的な例としてよく挙げられるのは中高大学の運動部の先輩後輩の上下関係であろう。この上下関係が行き過ぎて、先輩による後輩に対する体罰が起きることになる。

 だからこその「将来、育児休業制度を利用したい」男子学生49.5%の希望に対して現実の取得率2.65%であり、49.5%の希望にしても、企業内の権威主義的な上下関係の力学の支配を受けて、2.65%に数%上乗せ程度の取得率に挫かれることになるだろうことは目に見えている。

 但し他人の目や世間的に一般的な考えに影響を受ける権威主義的な行動様式は男性の育児休業制度の利用が世間的に当たり前のこととなると、同じ権威主義的な行動様式に基づいた行動であっても、周囲と同じ態度と言うことになって他人の目などを気にせずに行動できるようになる。

 となると、男性の育児休業取得率を上げるためには日本人の主たる行動性となっている権威主義的な行動様式を改め、欧米のように地位の上下に関係なく対等な、それゆえに常に自律的な行動を求められることになる人間関係を力学とした行動様式を築くことを先決問題とするか、何年かかっても取得率を少しずつ上げていって、取得が特別ではない、誰もが利用する当たり前のことと理解できるまで待つか、いずれかということになる。

 願わくば権利である以上、自分は自分だと行動できる自律した行動様式の選択に進むべきであると考えるが。

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