9月25日NHKの昼のニュースで同日9時からのNHK「日曜討論」で民進党幹事長野田佳彦が自民党幹事長二階俊博に対して自民党の憲法改正草案の撤回を求める発言をしたと伝えていた。
撤回を求めて、「ハイ、そうですか、撤回します」と応ずるはずはないから、バカげたムダな努力に過ぎない。
その後NHKのサイトにアクセスして、その記事を拾ってみた。「NHK NEWS WEB」記事からではなく、添付の動画から、両者がどう発言したのか、見てみた。
野田佳彦「現代社会の変容の中で、足らざるもの補わなければいけないものがあるならば、それは改正をする。
自民党の憲法改正草案はどういう位置づけなのか。私はあのー、まあ、国民の権利を軽んじ、国の在り方を変える中身としか思えない。撤回して貰えば、ところから始めないと、静かに粛々と議論が進まないのではないかというふうに思います」
二階俊博「我々はこれをすぐさま撤回するつもりはありません。皆さんのご意見を聞いてここが落ち着くところだと、思うとこで、我々もその後ゆとりを持って議論頂ける。
今日までの憲法審査会等々皆さんにご議論頂いた(ことを)参考にして、これからも憲法問題に取り組んでいきたいと思います。
建設的な議論を丁寧に丁寧にやっていくってことが、意見集約の上で私は大変大事なことだと――」
自民党の安倍晋三以下の面々が自民党の憲法改正草案が「国民の権利を軽んじ、国の在り方を変える中身」だなどと思っているはずはない。逆に国民の権利を最大限重んじ、国の在り方を日本の未来社会に相応しい内容に変えるものだと信じているはずだ。
だから、二階は直ちに撤回を拒否した。
民進党の新代表蓮舫は2016年8月5日午後の代表選出馬会見(産経ニュース)の質疑で憲法について発言している。
文飾を当方。
記者「今後、衆参両院の憲法審査会が動いていく。憲についてはどんなスタンスで臨むか」
蓮舫「立法府の一員として、審査会が動いたらそれは当然積極的に参加する」
記者「党内には『党として独自案をまとめるべきだ』との意見があるが」
蓮舫「平成17年に、当時の枝野(幸男)憲法(総合)調査会の会長が民進党の提言をまとめている。それ以降、調査会もやはり定期的に開かれてきているし、岡田代表のもとでも動かしてきた。考え方としては、例えばまるまる変えるのかと。首相がよく『憲法の対案を(示すべきだ)』と言われるけれども、私は憲法に対案はないと思っている。むしろ憲法9条は絶対に守る。これは私の信念でもある。
ただ、今年3月、旧民主、旧維新の党で政策の基本合意を交わしたときに、憲法のいわゆる基本理念『平和主義』『主権在民』『基本的人権の尊重』は尊重した上で、ただ時代の変化に応じて必要があれば地方自治の条文の改正を目指すとはっきり明記している。必要な条文、必要なことが生まれたら、それは党内でしっかり議論して提言するのは当然の成り行きだと思っている」――
蓮舫は同じ出馬会見で今後の野党としての民進党の姿勢はこうあるべきだとする発言を行っている。
蓮舫「(野党である)私たちは批判ばっかりだと思われている。私は代表として、ここを変えたいと思う。私たちには提案がある、提言がある、対案がある。そして、その案を実現できる、立法できる、具現化できる人材がいる。ここに信頼を付け加えたいと思う」
その後代表選3立候補者の共同記者会見等でも同じ趣旨の発言を繰返している。
蓮舫は出馬会見では「私は憲法に対案はないと思っている」と言い切っている。その一方で、「ただ時代の変化に応じて必要があれば地方自治の条文の改正を目指すとはっきり明記している。必要な条文、必要なことが生まれたら、それは党内でしっかり議論して提言するのは当然の成り行きだと思っている」と、「地方自治の条文の改正」等については「提言」はあり得ると発言している。
要するに国会で憲法改正の議論が行われた場合は「地方自治の条文の改正」等、「必要な条文、必要なことが生まれたら」、与党に対してこれこれこういった条項を付け加えるべきではないかといった「提言」はするが、“民進党憲法改正草案”といった対案は出さないと言っていることになる。
蓮舫のこの姿勢はNHK日曜討論」での野田発言に相互連動している。
野田佳彦は「現代社会の変容の中で、足らざるもの補わなければいけないものがあるならば、それは改正をする」とは言っているものの、「自民党憲法改正草案」の撤回を求めている以上、国会での憲法改正の議論には応じるという意味での発言であって、対案を示しますという発言ではない。
もし対案を示す意思があったなら、撤回は求めない。例え頭数で負けることが分かっていても、対案を出さなくても同じことだから、対案同士、堂々と戦わせる道を選択するだろう。
果たして蓮舫が言うように「憲法に対案はない」のだろうか。
民進党が日本国憲法の全条文のうち信念に照らして絶対に守るとする憲法9条、その他の条項はそのままに改正を必要とする条項・条文を付け加えた民進党憲法改正草案の作成は可能である。
それを以て自民党憲法改正草案への対案だとすれば、批判ばかりではない、提案・提言・対案を以って野党第一党としての自らの存在性を示すようにすれば、国民の信頼を回復し、強大与党と対峙できるとする新代表蓮舫の姿勢は憲法問題に関しても整合性を獲得し得る。
だが、蓮舫は「憲法に対案はない」と言い切っている。
蓮舫に民進党幹事長を任命された元首相野田佳彦にしても対案を以てして自民党と堂々対峙する方向を選択せずに、受け入れられるはずもないと分かりきっている自民党憲法改正草案の撤回を求めるムダな努力をする。
勿論、民進党が対案を示しても、既に触れたように現在の議席数では反対多数で否決され、自民党案が国会で採決されるのは目に見えているが、民進党内でそのような対案をうまく纏めたなら、憲法に関わる民進党の姿勢を国民に示すことはできる。
選挙になったとき、その姿勢によって少しは議席を回復できる力となり得る可能性は否定できない。
世論調査で憲法9条の改正に国民の多くは反対している。NHKが2016年4月15日から4月17日3日間行い、2016年5月2日付の「NHK NEWS WEB」記事で公表した世論調査で「立憲主義」について質問している。
〈憲法の基本的な考え方である「政府の権力を制限して国民の人権を保護する」という立憲主義を知っているか〉
「知っていた」16%
「ある程度知っていた」37%
「あまり知らなかった」30%
「まったく知らなかった」11%――
「知っていた」がわずか16%。以下は「ある程度」、詳しくは知らない、全く知らないが占めている。
野田佳彦が自民党憲法改正草案が「国民の権利を軽んじ、国の在り方を変える中身」だと批判するなら、立憲主義とは如何なる政治原則であるのか、国民に徹底的に知らしめて、批判が事実であることを証明、いわば自民党憲法改正草案の反立憲主義性を浮き彫りにすることで初めて撤回を要求する資格を得る。
勿論、民進党としては立憲主義に忠実に則った憲法改正草案を国民の前に示さなければならない義務を負うことになる。
このような経緯を踏んで初めて野田佳彦の自民党憲法改正草案の撤回要求は正当性を手に入れることができる。蓮舫にしても代表選出馬以降口にしてきた“批判ばかりではない対案・提言・提案の創造”の姿勢を裏切らない発言の正当性を手に入れることができる。
だが、そういった手続きを一切踏まずに自民党憲法改正草案の撤回を要求し、自民党憲法草案の中にある国家主義・復古主義の危険性の指摘があるにも関わらず、「憲法に対案はない」と言い切る。
愚かしいばかりの両者の連動性である。