安倍晋三が2016年9月26日召集の臨時国会冒頭の所信表明演説の中で海上保安庁、警察、自衛隊それぞれの成員の任務に対して壇上から「心からの敬意を表そう」と呼びかけ、自ら拍手してその任務を讃えると、自民党の殆どの議員が安倍晋三の呼びかけに応じて一斉に起立して拍手し、任務を讃え合ったと2016年9月26日付「asahi.com」記事が伝えていた。
記事は約10秒間に亘って演説が中断したと書いている。要するに10秒間前後も起立したまま拍手をし続けた。議長が着席してくださいと指示しなければ、もっと続いたかもしれない。
自民党議員たちの一斉の賛美は安倍晋三への賛美でもあるはずだ。安倍晋三は特に自衛隊という存在の必要性、その存在理由を前面に打ち出した政治家でもあるからだ。
これはどこかで見た光景である。一段高い場所の壇上中央の椅子に腰掛けた金正恩がゆっくりと手を叩くと、議場を埋め尽くした党員や委員が一斉に拍手を開始し、その音が会場中に響き渡る。
このような景色を可能としている理由は、内心は兎も角、少なくとの表面上は金正恩の意思に一糸乱れぬ規律で統御されているからだろう。
このことが独裁政治を可能とする要件となる。
北朝鮮を例に取った一斉の呼応から見ると、自民党議員の殆どが安倍晋三にかくまでも飼い慣らされているということになるが、事実はどうだろうか。
この安倍晋三の呼びかけとそれに対する自民党議員たちの一斉の呼応について「生活の党と山本太郎となかまたち」の小沢一郎代表の発言を9月26日付「日刊スポーツ」記事が伝えている。
9月26日の定例会見での発言だそうだ。
小沢一郎代表「(所信表明演説は)パフォーマンスとしてはうまい演説だった。特に1点、非常に心配しているのは、議場で自民党の議員が起立して拍手して、本人も拍手していたことだ。この政府の姿勢と、それが国民に受け入れられるとすれば、国民と日本社会の異常性を感じた。
ああいうことは、今まで、日本の議会では見られないと思うし、北朝鮮か中国共産党大会みたいな感じで、ちょっと、ますまず不安を感じた。異様な光景だった」
このブログのテーマに外れるが、アベノミクスとTPPについて触れているから、一応紹介してみる。
小沢一郎代表「宣伝とは裏腹に、矛盾とひずみを拡大してきているにすぎない。これを経済政策と呼んでいいのかとさえ、思っている。
(首相がTPP関連法案の今国会での成立に強い意欲を示していることについて)基本的には反対だが、言い出しっぺのオバマ政権が終わりに近づいている。後継を争うヒラリー・クリントン氏もトランプ氏も、反対か消極的な立場だ。アメリカが新しい大統領になって(TPPに)消極的となると、何をやっているか分からない話になる。日本政府もメンツにこだわらず、再考すべきではないか。少なくとも、アメリカの新政権を待ってからでいいのではないか」
小沢一郎代表の前段の発言は「北朝鮮か中国共産党大会」で通用していることを日本の議会でも通用させた場合、「この政府の姿勢と、それが国民に受け入れられるとすれば、国民と日本社会の異常性」を否応もなしに感じざるを得ないことになるだろうとの趣旨である。
この件に関して安倍晋三が具体的にどう発言したか、9月26日付「時事ドットコム」記事から発言を見てみる。
安倍晋三 北朝鮮がまたも核実験を強行したことは、国際社会への明確な挑戦であり、断じて容認できません。弾道ミサイルの発射も繰り返しており、強く非難します。このような挑発的な行動は、北朝鮮をますます孤立させ、何の利益にもならないことを理解させるべく、国際社会と緊密に連携しながら、断固として対応してまいります。核、ミサイル、そして、引き続き最重要課題である拉致問題の包括的な解決に向けて具体的な行動を取るよう強く求めます。
東シナ海、南シナ海、世界中のどこであろうとも、一方的な現状変更の試みは認められません。いかなる問題も、力ではなく、国際法に基づいて、平和的・外交的に解決すべきであります。
そして、わが国の領土、領海、領空は、断固として守り抜く。強い決意を持って守り抜くことを、お誓い申し上げます。
現場では、夜を徹して、そして、今この瞬間も、海上保安庁、警察、自衛隊の諸君が、任務に当たっています。極度の緊張感に耐えながら、強い責任感と誇りを持って、任務を全うする。その彼らに対し、今この場所から、心からの敬意を表そうではありませんか」――
繰返しの説明になるが、日本国家の安全保障を担って国家防衛の任務に「強い責任感と誇りを持って」日夜を問わずに当っている「海上保安庁、警察、自衛隊の諸君」に「心からの敬意を表そう」との呼びかけであり、自民党議員の殆どがその呼びかけに応じ、両者共々国会議事堂で拍手を以てその任務を讃えた。
「海上保安庁、警察、自衛隊」の三組織のうち、常に国家防衛の最前線に位置して、その防衛に関して責任の最も重い最重要な任務を担っている組織は自衛隊である。主として国内の犯罪取締まりと、ときには災害時の救助・救命を役目としている警察でもなければ、日本の領海に所属する様々な国益を守ることを任務としている海上保安庁でもない。
いわば安倍晋三は「海上保安庁、警察、自衛隊」と三つの組織を並べたが、北朝鮮の核開発とその実験、弾道ミサイル開発とその発射実験を取り上げ、中国の東シナ海・南シナ海での軍事力を背景とした海洋進出を取り上げて「わが国の領土、領海、領空は、断固として守り抜く」と日本の確固たる安全保障・国家防衛を言っている以上、実際には自衛隊を安全保障・国家防衛の主たる柱として念頭に位置づけていたはずだ。
この点についての自衛隊の役目から見た場合、海上保安庁も警察も端役に過ぎない。
要するに安倍晋三は日本の安全保障・日本の国家防衛に関して自衛隊に最も重きを置いて、その任務に対して「心からの敬意を表そう」と呼びかけ、自ら拍手してその任務を讃えると、自民党の殆どの議員が安倍晋三の呼びかけに応じて一斉に起立して拍手し、任務を讃える光景を演じたのである。
だが、日本の安全保障・国家防衛は何も軍事力のみがその任務を担っているわけではない。安全保障・国家防衛の主たる柱は一般的には外交力と軍事力と情報化された知能を駆使・利用して様々な多方面に亘る産業を育てて国民生活を豊かにし、それを以て国の力とする経済力である。
これと言った産業を育てることができず、結果的に経済力がなく国家予算の乏しい小国は軍事力を充実させることができず、その不足を補って巧みな外交の力で自国の安全保障・国土防衛を図るケースが存在する。
あるいは小国ながら経済力に恵まれ、その経済の力で多くの国々と濃密な経済関係を築くことで、それがその国の安全保障・国家防衛の役目を果たすというケースも存在する。
かくも自国の安全保障・国家防衛は軍事力のみではなく、外交力と経済力を必須要件としているはずである。
だが、安倍晋三が気持の中では自衛隊をより強く念頭に置いてその隊員たちに対して壇上から「心からの敬意を表そう」と呼びかけ、起立した大多数の自民党議員共々拍手して讃え合ったということは自国の外交力や経済力を日本の安全保障・国家防衛の重要な必要要件から除外して、少なくとも過小評価して、軍事力により重点を置いていたということになる。
しかもそれを日本の政治の中心を成す国会議事堂で正々堂々と行った。
除外もしていない、過小評価もしていなければ、拍手して讃える相手は自衛隊に限らない、外交や経済を担う広範囲な人材に対してでなければならない。
と言うことは、安倍晋三が自らの精神性に先軍政治を息づかせている証明としかならない。
それが露わとなった今回の一幕ということであろう。
「先軍政治」とは「Wikipedia」では、「すべてにおいて軍事を優先し、朝鮮人民軍を社会主義建設の主力とみなす政治思想である。」と紹介、「コトバンク」では、「朝鮮人民軍の最高司令官、国防委員長でもある金正日(キム・ジョンイル)総書記の指導理念。『軍隊は人民であり、国家であり、党である』とする軍・軍事を最優先させる統治方式。労働党の機関紙・労働新聞によると『革命と建設のすべての問題を軍事先行の原則で解決し、軍隊を革命の柱にする政治方式』だという。 (小菅幸一 朝日新聞記者/2008年)」と紹介されている。
勿論、北朝鮮程の先軍政治ではないにしても、この度の国会議事堂での一風景から判断しても、軍事優先の安全保障観・国家防衛観の持ち主であることは確実に断言できる。
だからこそ、国民世論の反対ばかりか、日本国憲法9条まで無視して、憲法解釈でのみ集団的自衛権の行使に走ることができた。
安倍晋三が戦前の大日本帝国を理想の国家像としていて、大日本帝国のように日本の軍事的地位を世界的に高め、軍事的影響力を世界に拡大しようと願っているということは兼々ブログに書いてきた。
その願いが端無くも表面化して讃える気持となって現れた国会議事堂での一幕でもあるはずだ。
当然のことだが、自民党議員の殆どが安倍晋三の呼びかけに条件反射的に一斉に起立、拍手で呼応したということは、何も考えなかったということであり、安倍晋三に飼い慣らされていること以外を意味しないはずである。