先ずウクライナ共和国のクリミア自治共和国内の親ロ派武装勢力が決起し、ウクライナ共和国軍と衝突、親ロ派武装勢力の優勢の下、クリミア自治共和国最高会議を占拠、2014年3月16日、クリミア自治共和国とセバストポリ特別市でロシアへの編入の是非を問う住民投票を実施した。
両地域ともロシア系住民が多数を占め、住民投票はロシアへの編入を圧倒的な賛成多数で決めた。
対してプーチン・ロシア翌3月17日、クリミア自治共和国を独立国として承認する大統領令に署名、翌3月18日にはクリミアをロシアに編入する条約に署名して、電光石火の早業でクリミアを手に入れた。
セバストポリ特別市は同3月18日にロシア連邦と条約を締結、ロシア連邦の構成主体となった。
ウクライナ憲法は領土問題はウクライナ全土での国民投票で決めると規定している。
この併合に対して日米欧はクリミアの憲法と主権と領土の一体性の侵害、力を背景とした現状変更の試み=国際法違反だとして認めず、ロシアに対して金融等の制裁を科した。
この制裁によってロシアは経済的な苦境に陥っている。
3月18日ロシア併合の翌日の2014年3月19日の参院予算委員会。
安倍晋三「ロシアがクリミア自治共和国の独立を承認し、18日、クリミアをロシアに編入する条約への署名がなされたことはウクライナの統一性、主権及び領土の一体性を侵害するものであり、これを非難いたします。我が国は力を背景とする現状変更の試みを決して看過できません」
安倍晋三は2015年6月6日にウクライナを訪問、ポロシェンコ大統領と首脳会談している。
安倍晋三「わが国は力による現状変更を決して認めず、一貫してウクライナの領土の一体性を尊重するかたちで情勢の改善に取り組んでいる。停戦合意違反が見られることは遺憾であり、すべての当事者による停戦合意の完全な履行が重要だ」(NHK NEWS WEB)
2016年6月17日、欧州連合(EU)がロシアによるウクライナ南部クリミア半島編入を受けて発動した同地域からの物品輸入禁止などの制裁措置を2017年6月23日まで1年間延長すると発表したと2016年6月17日付「時事ドットコム」記事が伝えている。
制裁にはクリミアへの投資禁止や、クルーズ船の立ち寄り禁止も含まれるているという。
EU声明「EUはロシアによるクリミアの違法な編入を引き続き非難し、編入を認めない政策を維持する」――
ドイツのメルケル首相が2016年8月19日、欧州連合(EU)による対ロシア制裁について、ロシアによるミンスク和平合意(停戦合意のこと)の完全履行が実現していないことから、解除する理由はないとの考えを示したと2016年8月19日付「ロイター」記事が、同日付ドイツ紙のメルケル首相に対するインタビュー報道を介して伝えている。
メルケル首相はインタビューで、〈ロシアは、ウクライナ東部クリミアの親ロシア派武装勢力を支援し、クリミアを併合したことにより、大きな危機をもたらしたと主張。「欧州はこうした基本理念違反に対応する必要があった」と説明した。
その上で、ウクライナとロシアがミンスク和平合意を履行するようオランド仏大統領と協力し、取り組んでいると明らかにした。〉とドイツ紙の記事内容を紹介している。
メルケル首相の言う「基本理念違反」とは、勿論のこと、クリミアの憲法と主権と領土の一体性の侵害、力を背景とした現状変更=国際法違反を指す。
基本理念違反は決して認めることはできないとする強固な意思の表明であろう。
安倍晋三は2016年5月7日に訪露して、ソチでプーチンと首脳会談、8項目の経済協力を提案した。その8項目は「外務省」サイトに記載されている。
(1)健康寿命の伸長
(2)快適・清潔で住みやすく,活動しやすい都市作り
(3)中小企業交流・協力の抜本的拡大
(4)エネルギー
(5)ロシアの産業多様化・生産性向上
(6)極東の産業振興・輸出基地化
(7)先端技術協力
(8)人的交流の抜本的拡大
安倍晋三は国会でも答弁していたようにロシアのクリミア自治共和国併合は「ウクライナの統一性、主権及び領土の一体性の侵害」であり「力を背景とする現状変更の試み」だと断じ、米欧の対ロシア制裁に加わっていたはずである。
だが、国際的な基本理念違反を、あるいは国際法違反を犯したがゆえに日米欧から制裁を受けているロシアに対して経済協力をするということは日米欧の制裁連携から日本だけが抜けて、制裁破りすることに他ならない。
これが安倍晋三の言う積極的平和主義外交なのだろうか。
この制裁破りはまたプーチン・ロシアの「ウクライナの統一性、主権及び領土の一体性の侵害」を認め、「力を背景とする現状変更の試み」を許すことを意味する。
まさかロシアに対して経済協力を強力に進めながら、一方でクリミアの原状回復を求めるといったことは決してすまい。したとしたら、安倍晋三は二枚舌となる。
更に中国に対して中国公船による尖閣諸島周辺の日本領海侵入を「力を背景とする現状変更の試み」だとする批判も二重基準を侵すことになる。
安倍晋三がいくらご都合主義の政治家であっても放置しておくわけにはいかず、無きに等しい微力ながら、一応は釘を差しておかなければならない。