北朝鮮が2016年9月9日、5回目の核実験を行った。声明で「核弾頭爆発実験にが成功した」と述べている。〈事実なら、実際に兵器として使用可能な水準の核弾頭(核爆弾)を爆発させて性能を検証したことになり、単に実験装置で核分裂反応を起こした過去の実験に比べ、核の実戦配備に向けて大きな前進を意味する。〉と「産経ニュース」が伝えている。
「毎日新聞」記事から北朝鮮の核実験とミサイル発射実験の動きを伝える画像を載せておいたが、金正恩が2012年4月11日に朝鮮労働党第一書記に就任して以来、ミサイル発射実験を繰返し行い、2013年2月12日、正恩政権になって最初の、金正日政権を合わせた通算で第3回目の核実験を行い、3年後の今年2016年1月6日に4回目の核実験。そして8カ月後の北朝鮮の建国記念日に当たる9月9日に今回の核弾頭爆発実験と、核実験そのものも急速にピッチを上げている。
当然、性能と威力を向上させるための実験だから、当然と言えば当然だが、向上させていることになる。
2016年4月23日の潜水艦からの弾道ミサイル発射実験成功は太平洋の水面下を移動して発射地点を投下地点へと自由に近づけることができることになるから、その分探知が困難になるばかりか、アメリカも攻撃対象の範囲内に入ることになり得ることからアメリカにとって安全保障上の大きな脅威となるとマスコミは伝えていた。
日本ばかりか、アメリカも安全保障上の脅威という点で北朝鮮は極度に危険な存在になりつつある。
北朝鮮が2016年9月5日にノドンと見られる弾道ミサイル3発の発射を行った際、安倍晋三は中国・杭州で行われていた20カ国・地域(G20)首脳会議に参加していた。
安倍晋三「地域全体の安全保障に対する重大な脅威だ。許し難い挑発行為に対し、国際社会は国連安全保障理事会を含め断固たる対応を取るべきだ」(時事ドットコム)
今回の核実験に際しては次のように発言している。
安倍晋三「北朝鮮が核実験を強行した可能性がある。私からは、緊張感を持って情報収集・分析を行うこと、国民への情報の適切な提供を行っていくこと、米国、韓国をはじめとして中国、ロシアなど、関係国と緊密に連携していく、この3点の指示を出した。
もし北朝鮮が核実験を行ったのであれば、断じて許容できない。強く抗議しなければならない。このあと、閣議のあとに、NSC=国家安全保障会議を開催し、情報の共有・分析を行う予定だ」(NHK NEWS WEB)
安倍晋三は北朝鮮の今回の核実験後、アメリカのオバマ大統領と韓国のパク・クネ大統領とそれぞれ電話会談し、同9月9日午後9時過ぎに記者会見を行い、電話会談の内容をコメントしている。
安倍晋三「北朝鮮の核実験を受けまして、オバマ大統領と、そして先ほど、韓国の朴槿恵大統領と電話による首脳会談を行いました。今回の北朝鮮の核実験、そしてまた、その前の弾道ミサイル発射等については、今までの脅威のレベルとは異なるレベルの脅威となっているということで、認識が一致したわけであります。
新しい、この新たな段階の脅威に対して、我々は、いままでとは異なる対応をしていかなければならないということでも一致をいたしました。
この北朝鮮の暴挙に対して、国際社会が一致して、断固として対応していくことが、求められていると思います。日米、そして日米韓、さらには中国やロシアや関係国と、国連を含めて、しっかりと連携して対応していきたいと思います」(日テレNEWS24)
北朝鮮の核実験を「許し難い挑発行為」と非難し、「断固たる対応を取るべきだ」と決意を示し、「断じて許容できない」とさらに非難、「国際社会が一致して、断固として対応していく」と言っている。
これらの言葉は北朝鮮がミサイル発射実験や核実験を行った後に口にするほぼ決まったセリフとなっている。今回も同じセリフの繰返しだから、言葉通りに実効性を実現できていない言葉で終わっている言葉となっている。
日本もアメリカも北朝鮮がミサイル実験や核実験を行うたびに安保理決議を受けた制裁だけではなく、それぞれの国独自の制裁を強化してきた。だが、効果が一向に上がらないのは2016年4月以降、安保理決議による制裁に加わった中国が決議通りの制裁実行は上辺だけで、実際には実行していないからだと言われている。
だとすれば、ミサイル実験や核実験に向かって、「許し難い挑発行為」だ何だと言葉を費やすよりも、あるいは怒りを演出するよりも、中国に制裁決議の的確な実行を求めるべきだが、中国の事情からすると、そうも行かないようだ。
国連安保理が2016年3月2日に採択した北朝鮮の核実験とミサイル発射に対する制裁決議は、〈中国の要望で、北朝鮮の市民生活への影響を極力避けることも盛り込まれた。〉(東京新聞)と解説している。
いわば「市民生活への影響を極力避ける」を錦の御旗とする抜け穴を与えた。禁輸措置等の制裁決議を忠実に実行して北朝鮮経済の崩壊、それが北朝鮮体制の崩壊へとドミノ倒しとなった場合、国内は混乱し、難民が中国に殺到する。
中国としては極力「市民生活への影響を極力避ける」を錦の御旗としなければならない。
結果、制裁は行き詰まることになる。残ったのは金正恩の制御の効かないミサイル発射実験と核実験である。これが現在の状況ということであろう。
実は安倍晋三は拉致問題解決の有利性を考えて、金正日から金正恩への父子独裁権力の継承を歓迎した。
2012年8月30日、フジテレビ「知りたがり」。
安倍晋三「ご両親が自身の手でめぐみさんを抱きしめるまで、私達の使命は終わらない。だが、10年経ってしまった。その使命を果たしていないというのは、申し訳ないと思う。
(拉致解決対策として)金正恩氏にリーダーが代わりましたね。ですから、一つの可能性は生まれてきたと思います」
伊藤利尋メインキャスター「体制が変わった。やはり圧力というのがキーワードになるでしょうか」
安倍晋三「金正恩氏はですね、金正日と何が違うか。それは5人生存、8人死亡と、こういう判断ですね、こういう判断をしたのは金正日ですが、金正恩氏の判断ではないですね。
あれは間違いです、ウソをついていましたと言っても、その判断をしたのは本人ではない。あるいは拉致作戦には金正恩氏は関わっていませんでした。
しかしそうは言っても、お父さんがやっていたことを否定しなければいけない。普通であればですね、(日朝が)普通に対話していたって、これは(父親の拉致犯罪を間違っていたと)否定しない。
ですから、今の現状を守ることはできません。こうやって日本が要求している拉致の問題について答を出さなければ、あなたの政権、あなたの国は崩壊しますよ。
そこで思い切って大きな決断をしようという方向に促していく必要がありますね。そのためにはやっぱり圧力しかないんですね」――
似たような発言を他でも繰返している。
要するに日本人拉致犯罪は金正日の首謀事犯(刑罰に処すべき行為)だから、抱えている自身にとっての不都合な部分まで明らかにすることができないために全面的な拉致解決にまで進めることができなかった。
但し息子の金正恩は金正日の犯罪に関わっていないから、金正恩の政権を維持するためには父親の拉致犯罪を否定し、全て明らかにすることで日本からの経済援助を受けることができる拉致問題の全面解決に努めるべきで、そのように仕向けていくとした。
つまり日本人拉致の首謀者である金正日体制が続いたなら、自身が犯した国家犯罪だから、全てを明らかにしなければならない全面的解決は望めないが、その息子であっても犯罪に関係してない金正日なら、全面解決の可能性が出てくると、その独裁権力の父子継承を歓迎したのである。
だが、安倍晋三は歓迎したとおりに金正恩に対して「思い切って大きな決断をしようという方向に促していく」ことが出来なかったばかりか、まさか父親の金正日以上に国際社会の安全保障上の脅威となる異形の者に成長するとは考えもしなかったのだろう。
但し父親の犯罪に関係していないから、その子はその犯罪を否定できるし、全てを明らかにして拉致の全面解決に持っていくことができると考えるのは底が浅いとしか言い様がない。
上記件に関して2013年2月13日の当「ブログ」に次のように書いた。
〈金正恩は父子権力継承の正統性を父親金正日の血に置いているのである。その血はその父親金日成から引き継いだものだが、当然、その血はありとあらゆる正義を体現しているものと見做さなければ、権力継承の正統性に瑕疵が生じることになる。
金正日の血は正義であり、正義とは金正日の血を意味し、その存在そのものを正義とすることになる。そうすることによって権力継承そのものを正義と価値づけることができ、そこに正統性が生まれる。
存在そのものを正義とする以上、金正日が自らの最優先の政治思想として掲げていた、金正恩に対する「遺訓」としている、すべてに於いて軍事を優先させる「先軍政治」も含まれることになる。
また、権力を父子継承するについては、金正日独裁体制を支えた北朝鮮軍部や朝鮮労働党の側近を継承し、自らの体制としなければならない。父親金正日の正義を支えた体制でもあるからだ。
かくかように独裁体制下の権力の父子継承とは父親の正義をその子が受け継いで自らの正義とすることを意味するはずだ。〉・・・・・・
いわば父親の犯罪を暴くことは父親の正義をニセモノとすることであり、結果的に父親から受け継いだ自らの権力の正統性をそこに置いている正義を自ら否定することになる。
金正恩が決して出来ないことを安倍晋三は期待し、その権力継承を歓迎したのである。
安倍晋三の外交能力とはこの程度である。
北朝鮮の核を含めた大型兵器開発の理由を国威発揚とか、アメリカからの攻撃を想定した自国防衛のためだとか、核保有をアメリカに認めさせるための交渉を引き出すためだとか色々と説があるが、一番大きな理由は金正恩その人の性格ではないだろうか。
金正恩は1984年1月8日生まれで、現在32歳。 朝鮮人民軍第3代最高司令官に就いたのが27歳の2011年12月30日。朝鮮労働党第一書記に就任したのが28歳。
権力を継承しても自分は若いのだから、多くの人間の考えに耳を傾けようと様々なブレーンを集めて意見を聞き、自らの意見を混じえて構築した政策を一つづつ確実に実行しようとする誠実な性格の持ち主なら少しはマシな指導者になっただろうが、自分が若造だと思われて周囲からバカにされまい、甘く見られまいとして誰に対しても高圧的な態度を取る性格の持ち主なら、常にバカにされていないか甘く見られていないか不安症に駆られて、バカにされたり甘く見られないために誠実さとは正反対の高圧的な態度を、ときには際限もなくエスカレートさせなければならなくなる。
その高圧的な態度の際限もないエスカレートが恐怖統治と言う形となって現れ、その結果の恐怖統治から逃れるための最近の外交官の中でも高い地位の者の脱北であり、あるいは恐怖統治の生け贄という形で現れている政権内の一定の地位を得た者に対する粛清でもあるはずだ。
多分、政権内では前者後者の悪循環状態となっているはずだ。恐怖統治が過ぎると人心が離れ、国外逃亡や粛清が増えることになる。
また、若造だと思われないための高圧的な態度は対人関係のみならず、政治でも表現して、自分は決して若造ではないと証明しようとする。
そのような高圧的な態度の表現の一つが、若造ではないことの証明でもあるが、頻繁なミサイル発射実験や核実験となって現れているのではないだろうか。
プーチンが自身が強い指導者であることを演出するために柔道で相手を投げるところをカメラで写したり、森林保護区を視察中、逃げ出したトラに向けて麻酔銃を発射し、仕止めたり、その他数々の武勇伝を紹介していることを金正恩は政治面でも行っているということなのだろう。