基本給やボーナス、残業代等を合わせた2016年7月の1人当りの給与総額は平均で37万3808円で、前の年の同じ月を2か月連続で上回ったと2016年9月5日付「NHK NEWS WEB」が伝えている。
厚生労働省が全国の約3万3000の事業所を対象に行った「毎月勤労統計調査 平成28年7月分」調査の速報値からの結果だそうだ。
前年同月比で+1.4%。2カ月連続の増加。
物価の変動分を反映した実質賃金は+2%。
原因は物価が下落したためだと記事は書いている。物価が下落すれば、その分可処分所得が増えることになる。
但し北海道に先月台風7号、台風11号、台風9号とたて続きに上陸、8月30日に岩手県大船渡市付近に上陸した台風10号の影響による大雨と強風で北海道産農作物が大きな被害を受け、既に値上がりしているから、物価下落でプラスした実質賃金は幾分かマイナス方向に振れることになる。
為替が大幅に円高に触れると輸入物価が下がって実質賃金が相当に伸びるだろうが、大幅な円高は安倍晋三のアベノミクスに悪影響を与えることになる。
いずれにしても現時点で実質賃金が+2%ということは安倍晋三の自慢話が一つ増えることになる。
この2016年7月の給与総額平均37万3808円は常用雇用労働者1人当りの金額である。「常用雇用」が何を指すか具体的には知らなかったから、ネットで調べると、〈雇用契約の形式を問わず、期間の定めなく雇用されている労働者、あるいは有期雇用の契約を繰り返し更新し1年以上継続して雇用されている労働者、および採用時から1年以上継続して雇用されると見込まれる労働者をいう。〉と解説されている。
例え非正規社員であってもパートであっても、契約更新を繰返して1年以上継続採用されていたら、「常用雇用」に入ることになる。
つまり非正規社員やパートも含めた2016年7月1人当り給与総額平均で37万3808円、前年同月比+1.4%、2カ月連続の増加だということである。
となると、当然、正規社員と非正規・パートとの差が問題となる。
今年ではなく〈平成27年6月分の賃金等(賞与、期末手当等特別給与額については平成26年1年間)について、平成27年7月に調査を行った。〉、要するに1年前の《平成27年賃金構造基本統計調査》(厚労省)から正規社員と非正規・パートとの差を見てみる。
〈雇用形態別の賃金
〈雇用形態別の賃金をみると、男女計では、正社員・正職員321.1千円(年齢41.5歳、勤続12.9年)、正社員・正職員以外205.1千円(年齢46.8歳、勤続7.9年)となっている。男女別にみると、男性では、正社員・正職員348.3千円(前年比1.5%増)、正社員・正職員以外229.1千円(同3.1%増)、女性では、正社員・正職員259.3千円(同1.1%増)、正社員・正職員以外181.0千円(同1.0%増)となっている。
年齢階級別にみると、正社員・正職員以外は、男女いずれも年齢階級が高くなっても賃金の上昇があまり見られない。
正社員・正職員の賃金を100とすると、正社員・正職員以外の賃金は、男女計で63.9(前年63.0)、男性で6..8(同64.7)、女性で69.8(同69.8)となり、雇用形態間賃金格差は男女計で過去最小となっている。なお、賃金格差が大きいのは、企業規模別では、大企業で56.9(同56.9)、主な産業別では、卸売業,小売業で58.9(同57.8)〉――
正社員・正職員321.1千円(年齢41.5歳、勤続12.9年)
正社員・正職員以外205.1千円(年齢46.歳、勤続7.9年)
正社員・正職員の賃金100に対する正社員・正職員以外(非正規やパート)の指数は63.9(前年63.0)
雇用形態間賃金格差は男女計で過去最小とは言うものの、前年よりも僅かに0.9上がっているに過ぎない。100-63.9=36.1の差にこそ注目すべきだろう。しかも正規社員の調査対象年齢に年齢41.5歳を持ってきているのに対して非正規社員は5歳年上の年齢46.8歳を持ってきている。
上記厚労省のページに、〈年齢階級別にみると、正社員・正職員以外は、男女いずれも年齢階級が高くなっても賃金の上昇があまり見られない。〉と書いてあることからすると、それでも賃金格差を少しでも小さく見せようとする意図を感じないでもない。
この平成28年6月分給与正規対非正規の賃金指数100:63.9を2016年7月1人当り給与総額平均で37万3808円に当てはめている。
正規社員=37万3803円
非正規社員=23万8863円
非正規社員よりも女性パートの方が賃金はより安いから、正規社員も7非正規社員も賃金はもう少し多くなるが、平成27年6月分の雇用形態別賃金に於ける正規社員の321.1千円と5万円程しか違わないから、目安としてはこの程度ではないだろうか。
いわば常用雇用労働者1人当りで見た2016年7月1人当り給与総額平均は37万3808円であっても、正規・非正規と分けると、非正規は14万円近く下がる計算となる。
雇用形態別の賃金に於ける正社員・正職員321.1千円-非正規205.1千円≒11万6千円と目安としてはほぼ近い数字となる。
目安であることの傍証は正規雇用よりも非正規雇用の方が増加していることにも求めることができる。
《労働力調査(基本集計) 平成28年7月分結果の概要》(総務省統計局/2016年8月30日)から求めてみる。
〈【就業者】
・就業者数は6479万人。前年同月に比べ98万人の増加。20か月連続の増加
・雇用者数は5721万人。前年同月に比べ89万人の増加。43か月連続の増加
・正規の職員・従業員数は3357万人。前年同月に比べ21万人の増加。20か月連続の増加。
非正規の職員・従業員数は2025万人。前年同月に比べ69万人の増加。8か月連続の増加
・主な産業別就業者を前年同月と比べると,「医療,福祉」,「宿泊業,飲食サービス業」などが増加〉――
確かに全体の雇用数は増加している。だが、非正規社員は正規社員の3.3倍弱も多く増えている。
全体に占める正規社員は62%、非正規社員は37.6%。約4割近くも非正規社員が占めている。
要するに厚生労働省の「毎月勤労統計調査 平成28年7月分」の調査にしても、必ずしも実態を表しているわけではないことになる。
安倍晋三を喜ばせる統計ではあっても、給与総額が上がった、実質賃金が上がったで喜んではいられない。特に非正規で非正規の平均賃金よりも下の階層の生活を余儀なくされている場合、生活とギリギリに切り詰め、将来不安に備えて貯蓄に励まなければならないだろう。
最初に挙げた厚労省の調査ページの文言、〈年齢階級別にみると、正社員・正職員以外は、男女いずれも年齢階級が高くなっても賃金の上昇があまり見られない。〉を既に紹介したが、最初から賃金が低くて、年齢が上に行っても伸びないとなれば、望む消費活動を抑えて、生活防衛を優先させなければならないだろう。
上記「NHK NEWS WEB」は厚労省の調査に対する自身の発言を伝えている。
厚労省「夏のボーナスが伸びた企業があったため、賃金が押し上げられた。賃金は緩やかに上昇する傾向にあり、今後の動向に注視したい」
特に伸びたのは大企業の正社員であろう。大企業の伸びに中小企業が倣ったとしても、給与総額にして前年同月比で+1.4%の伸びに過ぎないのだから、+1.4%よりも少ない僅かな伸びで、非正規となると、ボーナスを手にしない社員も多くいたに違いない。
厚労省の発言は2016年7月の1人当りの給与総額だけを見た「賃金が押し上げられた」であって、同じく実態を表しているわけではないことになる。