このことを二つのマスコミ記事から証明する前に、2013年9月26日付の当ブログ、《安倍晋三のアベノミクスはトリクルダウン式利益配分、平等とならない「好循環」はいいこと尽くめではない - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》にトリクルダウンについて書いた。
〈まあ、アベノミクスであろうと何であろうと、安倍晋三の経済政策がトリクルダウン式利益配分を構造としていることは既に誰かが言っているだろうし、私自身も2006年5月2日の当ブログ記事――《小泉政治に見るトリクルダウン‐『ニッポン情報解読』by手代木恕之》で、安倍内閣は政治の舞台にまだ姿を表していなかったが、〈同じ穴のムジナに位置する小泉政治の後継者であったなら、格差は引き続いて拡大方向に向かうことになるだろうから〉と書いたとおりに安倍晋三はその経済政策に於いてトリクルダウン式利益配分の小泉政治の後継者でもあり、小泉純一郎の格差拡大政治を受け継いだ。
トリクルダウン(trickle down)とはご承知のように「(水滴が)したたる, ぽたぽた落ちる」という意味で、上を税制やその他の政策で富ませることによって、その富の恩恵が下層に向かって滴り落ちていく利益再配分の形を取るが、上が富の恩恵をすべて吐き出すわけではないし、より下の階層も同じで、受けた恩恵を自らのところに少しでも多く滞留させようとする結果、各階層毎に先細りする形で順次滴り落ちていくことになり、最下層にとっては雀の涙程の富の恩恵――利益配分ということもある。
但し人間社会に於ける収入という利益獲得は否応もなしにトリクルダウン式利益配分の構造によって成り立っている。会社(=企業)が利益を上げ、その中から被雇用者に給与として利益配分する給与体系を基本としている以上、上がより多く手にし、下がより少なく手にするトリクルダウン式利益配分になるのは宿命と言うことができる。
当然、そこには経済格差が生じる。経済格差によって、社会は上層・中間層・下層という階層社会を形成することになる。このような階層構造そのものがトリクルダウン式利益配分そのものを象徴している。
経済格差は避けられない社会的構図だとしても、トリクルダウン式利益配分が偏り過ぎないように監視し、偏り過ぎた場合は是正するのが政治の役目であろう。
2008年9月のリーマンショック以前の02年2月から07年10月まで続いた「戦後最長景気」と重なった小泉時代(2001年4月26日~2006年9月26日)と第1次安倍時代(2006年9月26日~2007年9月26日)は大手企業が軒並み戦後最高益を得たが、利益の多くを内部留保にまわして一般労働者に賃金として目に見える形で還元せず、その結果個人消費が低迷、多くの国民に実感なき景気と受け止められるに至る、滴り落ちるどころか、水源(=大企業等の社会の上層)は満々とした水を湛えていたが、断水状態の最悪のトリクルダウン式利益配分の政治を実現させた。〉――
2002年1月から景気回復過程に入り、回復期間は2007年10月までの戦後最長の69か月、いざなぎ景気を超えた喧伝された戦後最長景気の各指標を以下に見てみる。
戦後最長の景気拡大 いざなぎ超えを考える!(日本人総投資家プロジェクト)
○主な!景気拡大期の期間
いざなぎ景気 65年~70年
バブル景気 86年~91年
今回 2002年2月~5年近く!継続中♪
いざなぎ景気 バブル景気 今回の景気
実質成長率 11.5% 5.4% 2.4%
(年率平均)
名目成長率 18.4% 7.3% 1.0%
給料の伸び率 114.8% 31.8% -1.6%
消費者物価上昇率 27.4% 8.5% 0.7%
労働力人口 +351万人 +413万人 -65万人
<景気のけん引役>
個人消費 +9.6% +4.4% +1.7%
設備投資 +24.9% +12.2% +6.5%
輸出 +18.3% +5.5% +10.5%
・名目成長率<実質成長率 と、デフレ下の景気拡大
・給料が『-1.6%』と、伸びていない。。。
・労働人口が減っている、、
・景気のけん引役は、円安に支えられた輸出である!!
では、アベノミクス3年半の実質賃金と個人消費の指標を見てみる。求人倍率が全国1を越えようと、あるいは雇用が如何に増えようと、実質賃金と個人消費に見るべき改善がなければ、生活の改善がないことになって、アベノミクスの成果をどう誇ろうと意味はない。
更に言うと、実質賃金よりも個人消費の動向の方がより重要となる。賃金が増えても、それが個人消費に反映されなければ、生活に何かしらの不安を抱えているからであろう。
ここのところ四半期別や月別で示した実質賃金と個人消費は上向いている。但し今年はうるう年で1日多いだけで、個人消費の場合は0.5ポイント前後のプラスの影響を受け、GDP全体では0.3ポイント程度の影響が出るらしい。
いわば統計に現れた個人消費の統計から0.5%程度引いた分が個人消費の実像ということになる。
毎月の家庭の消費支出はマイナス傾向が続いているが、うるう年の影響について2016年9月30日付の「NHK NEWS WEB」記事は次のように書いている。
〈総務省が発表した「家計調査」によりますと、先月の家庭の消費支出は、1人暮らしを除く世帯で1世帯当たり27万6338円となり、物価の変動を除いた実質で去年の同じ月を4.6%下回り、6か月連続で減少しました。ことし2月がうるう年で1日多かった影響を考慮すると、実態として12か月連続の減少となります。これは、台風や豪雨など天候不順が続いた影響で外食や交際費が減ったことや、自動車やエアコンなどの購入も減ったことが主な要因です。〉――
個人消費のうるう年の影響と相互反映した家庭の消費支出(各世帯の消費支出)に於けるうるう年の影響ということであろう。
このことは個人消費が約6割を占める国内総生産(GDP)値にも反映することになる。それが0.3ポイント程度の影響ということになる。
2016年4月~6月四半期の国内総生産(GDP)は2期連続でプラス、2016年1月~3月四半期と比較してプラス0.0%伸び、年率に換算してプラス0.2%。ここから0.3ポイント引くと、マイナスの伸びとなる。
「個人消費」は2016年1月~3月四半期比+0.2%。
但し2016年1月~3月は2月がうるう年で1日プラスされているから、0.2%程度からのプラスは0.5ポイント引くと、マイナスに振れることになる。
要するに個人消費は統計上はプラスになっていても、実質的にはマイナス状態にあることから、マスコミは「個人消費は力強さを欠いたまま」と表現し、「景気は足踏み状態」と報道することになっているのだろう。
実質賃金について見てみると、2016年7月の実質賃金は前年同月比で2.0%増。この2.0%は2年3カ月ぶりのプラスだそうだ。
このプラス傾向は2016年8月の実質賃金にも反映されているが、前年同月比+0.1%で、7月よりもプラス幅が縮小している。
マイナスの状況が続いていた実質賃金がプラスに転じたにも関わらず、このことに反して個人消費が力強さを欠いている原因はどこにあるのだろう。
ごく当たり前のことだが、実質賃金にしても個人消費にしても、高額所得者から中低所得者までの全体の賃金、全体の消費額から算出した統計であって、中低所得者が全体の過半を占める以上、その人数割りをした実質賃金や個人消費額から見ると、中低所得者のうちでも所得が低い生活者となるにつれ、プラスの数値程の恩恵は受けていないことになる。
いわば統計に表れている実質賃金や個人消費額に占める金額のうち、全体の生活者のうち中低所得者が全体の過半を占めていることに反比例して高額所得者の金額の割合がより高いことになる。
こういったことの影響を受けた個人消費の低迷であろう。
では、トリクルダウンの機能喪失を示す記事を見てみる。2016年9月30日付「NHK NEWS WEB」記事が、2015年度の国内の法人所得が初めて総額60兆円超えた伝えている。
これまで最高だった平成26年(2014年)度を金額で3兆円余り、率にして5.3%上回る61兆5361億円で、国税庁が昭和42年に統計の公表を開始してから初めて60兆円を超えたとしている。
この61兆5361億円は記事を読むと、リーマンショック後の平成21年(2009年)度に33兆円台に落ち込んでから6年連続で上昇した結果到達した60兆円台だと分かる。
この記事には書いてないが、株高と円安による円換算の海外収益が膨らんだことが大企業等に大きな収益を与える要因となっているらしい。
一方、昨年の民間給与も伸びていることを2016年9月28日付「時事ドットコム」記事が伝えている。
民間企業に勤める会社員やパート従業員らが2015年の1年間に受け取った給与の平均
420万4000円(前年比+5万4000円)
これは3年連続での増加だそうだ。
男女別給与
男性――520万5000円(前年比+6万1000円増)
女性――276万円(前年比+3万8000円増)
雇用形態別給与
正規従業員――484万9000円(前年比+7万2000円)
パート、派遣社員などの非正規――170万5000円(前年比+8000円)
正規と非正規で給与差額が300万円以上となってばかりか、正規が前年比7万2000円のプラスであるのに対して非正規が前年比8000円のプラスでしかない。正規の9分の1の伸びに過ぎないこの格差は目に余るものがある。
但しこの民間給与の伸びは、〈1997年のピーク時より46万9000円少なく、1990年と同水準。〉だと解説している。
二つの記事を比べてみると、2015年の民間給与が前年比で+5万4000円の420万4000円となったものの、1997年のピーク時より46万9000円少ない下降状態の金額であるのに対して2015年度の国内の法人所得が33兆円台だった平成21年(2009年)度以来6年連続で上昇、初めて60兆円台に到達、61兆5361億円となった、この上昇傾向を見ると、所得の配分が上がより多く手に入れ、下がより少なくしか手に入れることができないトリクルダウンを宿命としていると言うものの、下降と上昇の両者の傾向のあまりの開きはトリクルダウンの機能が喪失状態にあることの証明としかならないはずだ。
このように大企業だけが利益を独占し、一般国民がその利益の配分を十分に受け取っていない状況は安倍晋三のアベノミクスがトリクルダウンの機能を逆に殺す働きをし、戦後最長景気時代のトリクルダウンの二の舞いとなっているということであろう。
更に言うと、安倍政治はトリクルダウン式利益配分が偏り過ぎないように監視し、偏り過ぎた場合は是正する役目を果たしていないということにもなる。