外相岸田の安倍晋三の意を汲み、核兵器を法的に禁止する条約の制定を目指す決議案にアメリカの立場から反対

2016-10-29 12:02:14 | 政治

 2016年10月27日、国連総会第1委員会(軍縮)が核兵器の全面廃絶に向けて全ての国が共同行動を取る決意を新たにするとした日本主導の決議――「核兵器廃絶決議」を国連全加盟国の8割を超す167カ国の賛成を得て採択したとマスコミが伝えている。

 中国とロシア、北朝鮮、シリアの4カ国が反対し、英仏など17カ国は棄権した一方で、昨年棄権した米国が賛成に回ったという。 

 正式タイトル名は「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意の下での共同行動」

 その骨子が《2015年第70回国連総会我が国核兵器廃絶決議案》と題してPDF記事で外務省のサイトに紹介されている。   

 「核兵器廃絶決議」の正式タイトル名を見ただだけで、単なる決意表明に過ぎないと分かるが、骨子からも決意表明に過ぎないことをいとも簡単に窺い知ることができる。

 先ず前文の幾つかと、それに対応させた主文を対置させてみる。

 前文〈核兵器のない平和で安全な世界を実現するための決意を再確認。〉
 主文〈全ての国が核兵器の全面的廃絶への共同行動をとるとの決意を新たにする。〉

 前文〈本年が広島・長崎の被爆,第二次世界大戦の終結から70年であることを想起。〉
 主文〈核兵器国による核兵器の全面的廃絶に関する明確な約束を再確認。〉

 前文〈核兵器使用の壊滅的で非人道的結末に深い懸念を表明,国際人道法を含む適用可能な国際法の遵守の必要性を再確認。〉
 主文〈核兵器使用の非人道的結末への深い懸念が核兵器のない世界への全ての国の努力を引き続き下支えする旨強調。〉

 前文〈核兵器使用による壊滅的で非人道的な結末が皆に十分に理解されるべきことを認識し,この関連でこの理解の向上のための努力がなされるべきことに留意。〉
 主文〈NPT締約国に対し,NPTの義務を遵守し,1995年,2000年及び2010年のNPT運用検討会議で合意された措置の履行を要請〉

 前文〈米露間の新戦略核削減条約(新START)の順調な履行を歓迎。〉
 主文〈NPT非締約国に対して非核兵器国として早期かつ無条件でのNPT加入を要請。〉

 等々となっている。

 NPTとは、ネットで調べて一応解説しておくと、「核兵器の不拡散に関する条約。核軍縮を目的にアメリカ合衆国、ロシア、イギリス、フランス、中華人民共和国の5カ国以外の核兵器の保有を禁止する条約」となっている。

 要するに核保有5カ国の核はそのままに、それ以外の国の核保有は禁止しますという条約である。核所有を欲しているどの国が条約に参加するというのだろうか。

 また参加したとしても、国益を優先させることができるから、いつでも脱退できる。あってもなきが如しの条約、有名無実の存在に過ぎない。

 「核兵器廃絶決議」の骨子、前文にしても主文にしても、「再確認」、「決意を新たにする」、「~を想起」、「必要性を再確認」、「留意」、「履行を要請」等々の言葉が並んでいるのみで、義務(あるいは罰則)を伴わせた規則の体を成していない。

 要するに決意表明以外の何ものでもない。

 このことは「核兵器廃絶決議」が23年連続で採択されたことに現れている。23年間も目に見える発展はなかった。あるいは23年前の現状をほぼ維持し続けた。

 「日本主導」と言うと、さも立派なことを主導しているように見えるが、義務を伴わせた規則となっていない以上、いわば法の体裁を取っていない以上、最初から骨抜きされた毒にも薬にもならない、「廃絶」とは無縁の「核兵器廃絶決議」に過ぎないことになる。

 「核兵器廃絶決議」は年内に総会本会議で採択され、正式な決議となると言うことだが、採択されたとしても、総会決議に法的拘束力はないところにも、いわば既に触れたように義務(あるいは罰則)を伴わせた規則の体を成していないということろにも、正体が決意表明に過ぎないこと、そしてそこから一歩も出ないことを示すことになる。

 例え決意表明が正体の決議だったとしても、それすら中国とロシアの核保有国と、核保有予備軍の北朝鮮、シリア(既に核保有しているのか)の4カ国が反対し、英仏など17カ国は棄権したのでは、どう逆立ちしても実効性は伴わないことになる。

 国連総会第1委員会(軍縮)は同10月27日(日本時間の28日朝)、オーストリア等50カ国超共同提案の「核兵器を法的に禁止する条約の制定を目指す決議案」の採択を行い、賛成123、反対38、棄権16の賛成多数で採択された。

 日本はアメリカと共に反対票を投じた。

 「核兵器を法的に禁止する条約の制定を目指す決議案」がその題名に「法的に禁止する」という文言を入れている以上、そのような条約が制定されたなら、当然、法的拘束力を持つことになる。

 外相の岸田文雄が10月28日閣議後に首相官邸エントランスホールで「記者会見」を開いて、反対した理由を説明している。

 岸田文雄「『核兵器のない世界』を実現するためには,核兵器の非人道性に対する正確な認識と,厳しい安全保障環境に対する冷静な認識に基づき,核兵器国と非核兵器国の協力による具体的・実践的措置を積み重ねていくことが不可欠です。これは私(大臣)からも繰り返し申し上げてきた我が国の基本的立場であります。

 今般の国連総会第一委員会においても,このような立場を踏まえ,国際社会に対し,我が国の核兵器廃絶決議への支持を強く訴えてきて参りました。その結果,我が国の決議には,米国を含む,今集計中ですが,約110か国の国が共同提案国となりました。そして全体では167か国の圧倒的多数の支持を得て採択されました。

 この数字は共に昨年を上回っております。このことが我が国の決議こそ,NPT(核兵器の不拡散に関する条約(かくへいきのふかくさんにかんするじょうやく、Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons、略称:NPT)は、核軍縮を目的に、アメリカ合衆国、ロシア、イギリス、フランス、中華人民共和国の5か国以外の核兵器の保有を禁止する条約)を柱とする国際的な軍縮・不拡散体制の下で,核兵器国と非核兵器国双方が共に目指すべき「核兵器のない世界」への現実的な道筋を示すものであることを表していると考えます。

 一方,核兵器禁止条約の交渉開始を求める決議,この決議案についても投票が行われたわけですが,我が国としましては慎重な検討を重ねた結果,反対票を投じました。

 反対の理由は,この決議案が,

 (1)具体的・実践的措置を積み重ね,『核兵器のない世界』を目指すという我が国の基本的立場に合致せず,

 (2)北朝鮮の核・ミサイル開発への深刻化などに直面している中,核兵器国と非核兵器国の間の対立を一層助長し,その亀裂を深めるものであるからであります。

 こうした評価は,この決議に対する各国の投票行動,例えば北朝鮮はこの決議に賛成をしています。そして核兵器国は全てこの決議に対しては賛成をしておりません。こうした投票行動にも,こうした評価は表れているのではないか,このように考えます」

 前半は日本主導の「核兵器廃絶決議」の採択についての説明、後半は 「核兵器を法的に禁止する条約の制定を目指す決議案」に対する反対の理由を説明している。
 
 反対理由の一つてして、「具体的・実践的措置を積み重ね,『核兵器のない世界』を目指すという我が国の基本的立場に合致しないこと」を挙げているが、決意表明でしかない、そうであっても核保有国の多くが反対票もしくは棄権票を投じている日本主導の法的拘束力を持たない「核兵器廃絶決議」の採択の実現が、「『核兵器のない世界』を目指す」「具体的・実践的措置の積み重ね」、あるいはその一つだとするマヤカシは如何ともし難い。

 こういった恥知らずで厚かましい言葉をスラスラ口にすることができる岸田文雄の舌はどういった仕組みになっているのだろうか。

 当然、この説明は条約が制定されれば法的拘束力を持つことになる「核兵器を法的に禁止する条約の制定を目指す決議案」に対する日本の反対理由にはならないことになる。

 反対の二つ目の理由として「北朝鮮の核・ミサイル開発への深刻化などに直面している中,核兵器国と非核兵器国の間の対立を一層助長し,その亀裂を深める」ことになることを挙げている。

 後段の「核兵器国と非核兵器国の間の対立を一層助長し,その亀裂を深める」と言っていることは「核兵器国は全てこの決議に対しては賛成」していないことによって生じる事態ということになるが、核保有国と核非保有国の当然の利害の対立であって、だからと言って、核非保有国の日本が反対に回る理由とはならない。

 要するにアメリカの核の傘に守られている立場上の利害が反対の真の理由であるはずだ。

 また、核開発を進めている北朝鮮が「この決議に賛成」しているのに対して核保有国の全てが賛成していないことを以って、この決議に賛成できない評価が現れていると、反対した日本の姿勢を正当化しているが、北朝鮮一国の賛成に対して核保有国が全て賛成していないことに反対の正当化を置いているのだから、この正当化は同時に核保有国の核保有を正当化する姿勢を示していることになる。

 と言うことは外相岸田文雄の日本政府を代表した反対は当然、安倍晋三の意を汲んでいると同時に緊密な同盟関係を結んでいるアメリカの立場からの反対姿勢でもあるということになる。

 このような立場を守るために、「『核兵器のない世界』を実現する」などと言いながら、決意表明でしかない、当然実効性を伴わない、法的拘束力のない日本主導の「核兵器廃絶決議」の採択に23年間も続けて努力してきたのだろう。

 条約が制定された場合の法的拘束力は北朝鮮にも及ぶが、法的拘束力に猶予期間を設けることができる。核を多く持っている国の核全廃まで、核開発を止めることはできないと猶予期間を要求する外交カードとする可能性を考えないわけにはいかない。

 だからと言って、唯一の被爆国日本が条約の制定に最後まで反対し続けた場合、決議の採択で既に賛成が反対を倍以上上回っている以上、唯一の被爆国の信用を失うことになるばかりか、その外交上の主体性までも疑われることになるに違いない。

 「核兵器を法的に禁止する条約」が制定された場合、核保有国の核全廃までの期間、核保有国の核の何発かをそれを投下する大陸間弾道ミサイルとセットで国際連合安全保障理事会(安保理)の決議によって組織された国際連合指揮下の国連軍に預けるという形にしたらどうだろうか。

 もし核を開発したり、核発射の動きのある国が出てきた場合、安保理決議のもと核の先制攻撃ができるとする。

 アメリカやロシア、英国、フランス等の核保有国は培った監視能力で核開発や核発射の動きを監視する役目を担う。

 安全保障理事会は全会一致が決まりとなっているが、核の先制攻撃を受けた場合の被害に対する責任は反対した国も負うという規則を設ければ、安易には反対できないことになる。

 核抑止力を優先させるか、単なる決意表明ではない、核全廃に向けた人類の知恵を見い出す方向に動き出すか、そろそろ決めるときが来たはずである。

 もし前者の選択に走るなら、北朝鮮の核開発を非難する資格はどの国も失う。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする