安倍晋三のオバマとの真珠湾訪問に自らの全体主義・国家主義の歴史認識を隠した平和主義のマヤカシを見る

2016-12-06 09:22:36 | 政治

 NHK総合テレビが昨日2016年12月5日夕方の6時と7時のニュースで安倍晋三の真珠湾訪問を伝えた。首相官邸で記者団に直接、そのことを話していた。周囲が暗かったから、夜の発表なのだろう。

 安倍晋三自身の歴史認識を隠してキレイゴトを並び立てたマヤカシ満載の言葉の羅列となっている。

 夜7時ちょっと過ぎにNHKのサイトにアクセスしてみると、「NHK NEWS WEB」は既にその記事を載せていた。それを採録してから、12月6日早朝6時過ぎに首相官邸サイトを覗いてみると、既に「会見記録」が載せてあった。   


 安倍晋三「今月の26日、27日、ハワイを訪問し、オバマ大統領と首脳会談を行います。

 この4年間オバマ大統領とは、あらゆる面で日米関係を発展させ、そして、アジア太平洋地域、世界の平和と繁栄のために共に汗を流してきました。先のオバマ大統領の広島訪問に際して、核なき世界に向けた大統領のメッセージは、今も多くの日本人の胸に刻まれています。

 ハワイでの会談は、この4年間を総括をし、そして未来に向けて更なる同盟の強化の意義を世界に発信する機会にしたいと思います。これまでの集大成となる最後の首脳会談となります。

 そして、この際、オバマ大統領と共に真珠湾を訪問します。犠牲者の慰霊のための訪問です。

 二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない、その未来に向けた決意を示したい、こう思います。

 同時に、正に日米の和解、この和解の価値を発信する機会にもしたいと考えています。今や日米同盟は世界の中の日米同盟として、日米共に力を合わせて、世界の様々な課題に取り組む『希望の同盟』となりました。その価値は、意義は、過去も現在も未来も変わらない、このことを確認する意義ある会談となると思います」

 記者の訪問日程の決定についての質問に対して――

 安倍晋三「昨年、戦後70年を迎え、米国議会において演説を行い、私の70年を迎えての思い、考えについて発信したところであります。その中において、真珠湾を訪問することの意義、象徴性、和解の重要性について発信したいと、ずっと考えてきました。同時に、オバマ大統領との4年間を振り返る首脳会談を行うことができればと考えてきたところでありますが、先般のリマにおける短い会談において、12月に会談を行おう、そして、その際に、2人で真珠湾を訪問しようということを確認し、合意をしたところであります」

 「先のオバマ大統領の広島訪問に際して、核なき世界に向けた大統領のメッセージは、今も多くの日本人の胸に刻まれています」――

 2016年10月27日、国連総会第1委員会(軍縮)が核兵器の全面廃絶に向けて全ての国が共同行動を取る決意を新たにするとした日本主導の決議――「核兵器廃絶決議」を国連全加盟国の8割を超す167カ国の賛成を得て採択した。

 中国とロシア、北朝鮮、シリアの4カ国が反対し、英仏など17カ国は棄権したが、昨年棄権した米国が賛成に回った。 

 この決議は23年連続で採択されている。だが、世界の核兵器の現実は殆ど変わっていない。その理由は日本主導の「核兵器廃絶決議」が義務(あるいは罰則)を伴わせた規則の体を成していない、いわば法的拘束力を一切伴わせていない、「核兵器のない平和で安全な世界を実現しましょう」といった類いの形式的な決意表明以外の何ものでもないからである。

 結果、23年間も同じことの繰返しを演じることになった。

 一方、国連総会第1委員会(軍縮)は日本主導の「核兵器廃絶決議」を採択した同じ日にオーストリア等50カ国超共同提案の「核兵器を法的に禁止する条約の制定を目指す決議案」の採択を行い、賛成123、反対38、棄権16の賛成多数で採択された。

 この決議案は2017年3月から条約の制定に向けた交渉の開始と多数決を規則としている国連総会の場での採決を求める内容となっていて、決議案自体が賛成多数で採決されている以上、「核兵器を法的に禁止する条約」そのものが賛成多数で採決される確率は高く、当然、核保有を意思している核非保有国ばかりか、核保有国に対しても法的拘束力を持つ不都合な条約となる。

 当然、アメリカやロシア等、核保有国は反対に回り、日本も、安倍晋三は「核のない世界を目指す」と発言していながら、核保有国と同じ立場に立って反対票を投じた。

 にも関わらず、尤もらしい顔と尤もらしい言葉の調子で「先のオバマ大統領の広島訪問に際して、核なき世界に向けた大統領のメッセージは、今も多くの日本人の胸に刻まれています」と言うことができる。

 安倍晋三の胸には決して刻まれてはいない。もし刻まれていたなら、オバマ大統領の広島訪問は2016年5月27日。「核兵器を法的に禁止する条約の制定を目指す決議案」の採択は同じ年5カ月後の2016年10月27日。核保有国のアメリカに同調して反対票を投ずることはなかったろう。

 上記言葉が如何にマヤカシに満ちているか、理解できるはずである。
 
 オバマと共に行う真珠湾訪問は「犠牲者の慰霊のための訪問」であると同時に「二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない」「未来に向けた決意」を示す行動であって、その行動を通して「日米の和解」、その「価値を発信する機会」だと、平和主義者なら口にしてもおかしくない、自然な物言いを見せている。

 だが、安倍晋三は日本の戦前の戦争を侵略戦争とは認めず、このことに対応して戦後のアメリカ主導のGHQによる占領政策を否定する歴史認識に立っている。

 2012年4月28日の自民党主催「主権回復の日」に寄せた安倍晋三のビデオメッセージ。

 安倍晋三「本来であれば、この日を以って、日本は独立を回復した国でありますから、占領時代に占領軍によって行われたこと、日本がどのように改造されたのか、日本人の精神にどのような影響を及ぼしたのか、もう一度検証し、それをきっちりと区切りをつけて、日本は新しスタートを切るべきでした」――

 「占領時代に占領軍によって行われたこと、日本がどのように改造されたのか」と言っている否定的な改造に対する肯定的な国家像の対象は戦前の日本国家以外に存在しない。いわば大日本帝国が占領軍によって悪い方向に改造されたと、その政策を否定し、翻って戦前の大日本帝国を肯定する趣意となっている。

 「占領時代に占領軍によって」「日本人の精神にどのような影響を及ぼしたのか」と言っていることは当然、上記発言の構図と同じく戦前の日本人の精神――天皇制の元、天皇と日本国家への奉仕を求めた国家と国民の関係が形づくることになっていた日本人の精神こそが健全な精神だと肯定的に価値づけていることになる。

 そのような健全な日本人の精神を占領政策がダメにしてしまった。

 このようにも占領政策を否定していながら、平和主義者のような口振りで真珠湾訪問は「日米の和解」を示すものだと言い、「和解の価値を発信する機会」だと言う。

 歴史認識に関わるこのマヤカシは底なしである。

 また真珠湾訪問を「犠牲者の慰霊のための訪問」だと意味づけていること自体にマヤカシそのものの彩りを見ないわけにはいかない。

 2012年12月26日の第2次安倍内閣発足以降、安倍晋三は靖国参拝を我慢し、春季例大祭、秋季例大祭、8月15日の終戦記念日に共真榊奉納で済ませていたが、発足1年後の2013年12月26日、靖国神社を参拝している。

 参拝当日の発言。

 安倍晋三「本日靖国神社に参拝を致しました。日本のために尊い命を犠牲にされたご英霊に対し、尊崇の念を表し、そしてみ霊安らかなれと手を合わせて、参りました」

 戦没者を祀る参拝でありながら、国家と戦没者の関係性は参拝の常套句としている「国に殉じて亡くなられた」であったとしても、「国のために戦って尊い命を捧げた」であったとしても、それらの言葉が象徴しているように国家への奉仕を目的とした殉死行為と見ていることになり、当然、国家を主体とし、戦没者を従の関係に置いて、その国家を肯定する考えを示していることになる。

 もしその国家を否定的に見ていたなら、安倍晋三のように「日本のために尊い命を犠牲にされた」とも、あるいは「国に殉じて亡くなられた」、「国のために戦って尊い命を捧げた」等々、日本や国の「ために」と、日本や国に役立つという意味での言葉遣いとはならないだろう。

 国家権力の被害者という観点、あるいは国家権力に騙されたという観点からの言葉となるはずである。

 だが、そうはなっていない。あくまでも役に立った奉仕という観点からの言葉となっているということは、靖国神社に於ける「日本のために」あるいは「国のために」と戦没者を顕彰する参拝行為は戦前の国家を肯定し、国家と個人の関係を戦前の立ち位置に置く空間・場となっているということである。

 靖国神社自体が戦前の全体主義、あるいは国家主義をそのまま受け継いでいるということもあるが、戦前の全体主義、あるいは国家主義に自ら染まっている、全てとは言わないが、参拝者の多くが靖国神社という全体主義的、あるいは国家主義的空間で参拝行為を通して戦前の日本国家に対して自らの全体主義、あるいは国家主義を通わせ合う戦没者慰霊という儀式となっているのである。

 そのような儀式の代表者が安倍晋三である。

 安倍晋三自らが戦前の日本国家を肯定する全体主義、あるいは国家主義の歴史認識に染まっていながら、その歴史認識を隠して真珠湾訪問を平和主義の立場からの「犠牲者の慰霊のための訪問」であるかのようにマヤカス。

 安倍晋三のハワイ訪問の間、我々は安倍晋三の言葉や態度の端々に平和主義者の顔を見ることになるだろう。それが仮面だと気づいているのはどのくらいいるだろうか。

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