安倍晋三と蓮舫の党首討論は2016年12月7日。この模様を細野豪志代表代行と玉木雄一郎幹事長代理が「党首討論・裏実況中継」と称してネット上で実況解説している。
党首討論翌日の12月8日、蓮舫は民進党本部で「記者会見」を行った。
安積フリーランス記者「昨日のQT(党首討論)の時に、党本部で『裏実況中継』というのを細野豪志さんと玉木雄一郎さんがされた。その後で党首討論の点数をつけていただいたが、お二方とも蓮舫代表の初QTは『8点』だと言われた。
これは100点満点でなく、10点満点で8点。10点満点で8点という評価についてどう思われるか。あと2点なかったわけだが、ご自分でこの2点取れなかったのはどういうところと思われているか。そのあたりを伺いたい」
ネットで調べると、「QT」というのは、党首討論(=Question Time)の略だそうだ。
蓮舫「100点満点でなくてよかったな、というのが正直なところと(笑い)、いきなり10点を取ると次のハードルも高くなりますので、まだまだ謙虚に皆さんの声を聞きたいと思います」
「100点満点でなくてよかった」と言っていることは、「100点満点の採点で8点でなくてよかった」という意味なのは断るまでもない。
但し10点満点中8点という高成績に「いきなり10点を取ると次のハードルも高くなりますので」と応じている。
この発言が意味していることは10点満点を取る能力を有していることの示唆となっているということであろう。その能力を有していなければ、「いきなり10点を取ると」いう言葉は出てこない。
言外から「10点を取ることもできます」との思いを窺うことができる。いわば自分には10点を取る力があるという自負でもある。
要するに「党首討論は初めての経験だったから、8点程度が妥当な成績ではないのか」といったところが8点という採点に対する蓮舫自身の自己評価と言うことになる。
但しである。党首討論に於けるそれぞれの党首のディベート術に対する各陣営の評価は自陣営の党首に対する採点は甘く、敵対陣営の党首に対する採点は辛いと相場が決まっている。
蓮舫はこのことを知っていないはずはない。知っていないとしたら、蓮舫の客観的判断能力を疑わないわけにはいかなくなる。
「党首討論・裏実況中継」を行った細野豪志は2016年9月2日告示・9月15日の民進党代表選ではグループから立候補を求められていながら、立候補せずに蓮舫の推薦人に名前を連ね、グループとしても蓮舫を推し、代表に当選した蓮舫から代表代行の役を仰せつかっている。
玉木雄一郎は代表選では蓮舫の対抗馬として前原誠司と共に立候補し、敢えなく討ち死にしたものの、幹事長代理に任命されている。
共に蓮舫執行部の一員であるという点からも、両者が自陣営の蓮舫のディベート術に辛い採点をつけるはずはなく、初出陣にしては健闘したとそれなりに色をつけたはずだ。
それが10点満点中の8点ということであるはずだ。
当然、細野豪志と玉木雄一郎の色をつけた8点の採点と、その採点に対して「いきなり10点を取ると次のハードルも高くなりますので」という言葉に現れている蓮舫自身の8点どころか、10点を取る力があるとする自負との間に落差が生じていることになる。
この落差はそのまま蓮舫自身の客観的判断能力のなせる技と見ることができる。
大体が相手の未知の発言に応じたこちらの相手にとって未知の発言、こちらの相手にとって未知の発言に応じた相手の未知の発言という何が出てくるか予想が難しい、それゆえに言葉を咄嗟に紡ぎ出す力を試される臨機応変の戦いを求められる党首討論に公平に見て、100点満点とか10点満点とかありようがない。
もしあるとしたら、それぞれの政策が100点満点で100点、10点満点で10点の内容でなければならない。そういった満点の政策であるなら、誰からも追及を受ける隙きが存在しないことになるからだ。
言葉を紡ぎ出す力がなくても、この政策のどこに不備がありますかと尋ねるだけで片付く。
利害の異なる人間の全ての利害を満足させるような満点の政策など、どこにも存在しない。政策に不備があるから、党首討論は成り立つ。政策の不備に応じて党首討論に於ける発言も満点ということはあり得ない。
蓮舫は「いきなり10点を取ると次のハードルも高くなりますので、まだまだ謙虚に皆さんの声を聞きたいと思います」と、「謙虚」という言葉を使っているが、10点を取る力があるとする自負からは謙虚さの微塵も感じ取ることはできない。
だが、蓮舫は満点を取る力があると自負している。
もし実際に謙虚さがあったなら、党首討論終了後に、決して無いとは言えない自身の足らないところを反省していたはずだから、記者の「あと2点なかったわけだが、ご自分でこの2点取れなかったのはどういうところと思われているか。そのあたりを伺いたい」という問いに素直に答えていたはずだ。
もう一つ素直に答えなければならない理由は、党首討論で蓮舫は安倍晋三が蓮舫の問いそのものに答えなかったことに対して「ちゃんと真っ正面から答えて下さいよ」と批判していたからである。
他人が正面から答えないことを批判しながら、自身は正面からの答を避ける。
謙虚さの無さが満点を取る力があるといった過剰な自負を生み、客観的判断能力を失わせている原因となっているはずだ。
蓮舫はこの記者会見でもう一つ真正面からの答を避けている場面を見ることができる。
佐藤読売新聞記者「昨日、蓮舫代表の党首討論の内容をめぐって、おそらく総理のことを『息をするようにうそをつく』と発言した部分に関して、橋下徹前大阪市長がツイッターで、『人格攻撃はよくない』と。その上で、蓮舫代表は『二重国籍問題ではバリバリのウソつきだ』という投稿をした。もしその件で感想なり反論があればお願いしたい」
蓮舫「様々なご指摘は、謙虚に受け止めます」
蓮舫は真正面から答えずに「様々なご指摘は、謙虚に受け止めます」と答えたことで、「ウソつき」という非難を間接的に認めたことになる。
もし認めていなければ、「私は二重国籍問題ではバリバリのウソをついてはいません」と真正面から答えることになったはずだからだ。
但しこの発言は実際にウソをついていた場合、ウソが露見したときのウソつきであることの更なる言質となるが、「様々なご指摘は、謙虚に受け止めます」という発言はどのような言質ともならない無難な発言となる。
このことを計算して使った言葉だとしたら、なかなかの海千山千の強(したた)かさを心得ていることになるが、そう言った強かさは政治家に必要な資質だとしても、謙虚さの無さや過剰な自負、客観的判断能力の欠如といった資質を併せ持つと、時と場合に応じて国民の支持を失う危険性に早変わりすることもあり得る。