安倍晋三の東京パラ・オリンピック「世界一の大会にする」を世界一のハッタリ・大風呂敷と見るか否か

2016-12-12 11:15:55 | 政治

 日本の首相安倍晋三が2016年12月11日、都内で開催された新国立競技場整備事業起工式に出席し、挨拶している。

 「挨拶」
 
 安倍晋三「本日ここに、新国立競技場整備事業起工式が挙行されるに当たり、一言御挨拶を申し上げます。

 昨年7月、旧整備計画の白紙撤回に際し、私は、新国立競技場を国民、そしてアスリートから祝福されるものにする、世界の人々に夢と感動を与えられるような場にしていくと申し上げました。

 その後、関係者の皆様の御尽力により、アスリートを第一とし、世界最高のユニバーサルデザインを備え、周辺環境等との調和や日本らしさを取り入れた、新しい競技場の姿が描かれてまいりました。その姿は、この神宮外苑や旧国立競技場の歴史を受け継ぎ、新時代のスポーツと文化を発信する競技場として生まれ変わると私たちに強く確信させてくれるものであります。

 先般のリオデジャネイロ大会は、日本選手団の大活躍により、幕を閉じました。ブラジルから引き継いだバトンを手に、東京オリンピック・パラリンピックを、世界一の大会にしなければなりません。夢と希望を分かち合う大会、誇れるレガシーを創出し、日本の力を世界に発信する大会、我が国の『未来』を切り拓く大会にしていかなければなりません。

 新しい国立競技場は、正にその舞台にふさわしいスタジアムです。4年後、多くのアスリートが、この競技場で、自己の限界に立ち向かい、人や社会を元気にしてくれると信じています。

 いよいよ建設工事が本格化しますが、今日に至るまでの関係各位の御努力に対し、心より敬意を表します。これより、日本スポーツ振興センター、その他関係者の協力の下、新しい国立競技場が無事竣工し、新時代のスポーツと文化を発信する拠点となっていくことを心より祈念いたしまして私の挨拶とさせていただきます。

 先般のリオデジャネイロ大会は、日本選手団の大活躍により、幕を閉じました。ブラジルから引き継いだバトンを手に、東京オリンピック・パラリンピックを、世界一の大会にしなければなりません。夢と希望を分かち合う大会、誇れるレガシーを創出し、日本の力を世界に発信する大会、我が国の『未来』を切り拓く大会にしていかなければなりません。

 安倍晋三は「先般のリオデジャネイロ大会は、日本選手団の大活躍により、幕を閉じました。ブラジルから引き継いだバトンを手に、東京オリンピック・パラリンピックを、世界一の大会にしなければなりません」と前置きして、目指すべき目標を「夢と希望を分かち合う大会、誇れるレガシーを創出し、日本の力を世界に発信する大会、我が国の『未来』を切り拓く大会」に置いた。

 いわば、「夢と希望を分かち合う」という点で「世界一」を、「誇れるレガシーを創出し、日本の力を世界に発信する」という点で、「世界一」を、「我が国の『未来』を切り拓く」という点で「世界一」を掲げたことになる。

 なかなか欲張っている。これをハッタリ、大風呂敷の類いと見るか否か。

 安倍晋三は自身の政治能力、日本という国の総合力を弁えているのかどうか、兎にも角にも「世界一」が大好きなようである。東京パラ・オリンピックを「世界一の大会にする」と言ったのは今回の挨拶が初めてではない。

 《第192回国会に於ける安倍晋三所信表明演説》(首相官邸/2016年年9月26日)

 安倍晋三「一 はじめに

 世界一への執念。

 歴代最多のメダルラッシュとなったリオ五輪では、世界の強豪たちに真っ向勝負を挑み、最後の一瞬まで勝利を諦めない選手たちの姿に、日本中が感動しました。

 4年後の東京オリンピック・パラリンピックは、必ずや、世界一の大会にする。何としても、成功させなければなりません。同時に、我が国の『未来』を切り拓く。私たちもまた、世界一暮らしやすい国、世界一信頼される国を目指し、新たなスタートを切る時です」――

 リオ五輪では「歴代最多のメダルラッシュとなった」と言っている。確かに「歴代最多」は事実そのものだが、諸々の事実の単なる一つに過ぎないことを隠している。

 リオ五輪でメダル獲得第1位のアメリカは金46個、銀37個、銅38個の合計121個。対して日本は金12個、銀8個、銅21個の合計41個に過ぎない。

 人口割でメダル数を比較する方法があるが、国勢調査に基づいた日本の2016年11月1日現在の人口は1億2695万人。ネットで調べたアメリカの2014年人口は3.189億人。

 大雑把に1億人に3億人と見ると、日本の人口はアメリカの人口に対して3分の1となる。アメリカの合計メダル数121個÷3≒日本の合計メダル数40個。

 日本の合計メダル数41個に対して人口割りにした場合の合計メダル数はほぼ同数となる。

 だとすると、金メダルの数もほぼ同数でなければならない。アメリカは金46個÷3≒15個。日本の金メダルは12個。12個が精一杯だったのだから、3個の差は大きい。

 しかも日本の金メダル12個の内、お家芸と言われているレスリングが4個、柔道が3個と半数を超えていのに反してオリンピックの華と言われている陸上競技に至ってはゼロ個となっている。

 人口割でメダル数を比較するなら、陸上競技に限って身体能力が違うという言い訳は許されない。

 夏季オリンピックの華の中の華と言われているマラソン男子ではかつて君原健二や森下広一が銀メダル、円谷幸吉が銅メダルと活躍し、女子マラソンに至っては野口みずきと高橋尚子が金メダル、有森裕子が銀に銅と活躍している。

 確かにここのところ身体能力が極めて高いアフリカ勢の独擅場となっているが、2004年のアテネ大会の男子マラソンではイタリアが金、アメリカが銀、ブラジルが銀とアフリカ勢以外から出し、野口みずきは銀のケニアを抑えて金を獲得し、高橋尚子はルーマニアの銀、ケニアの銅を抑えた金であるのだから、アフリカ勢の身体能力を絶対とすることはできない。

 こういった数ある事実を隠した、安倍晋三が言っている「歴代最多のメダルラッシュとなった」に過ぎない。

 安倍晋三は所信表明で東京オ五輪は「我が国の『未来』を切り拓く。私たちもまた、世界一暮らしやすい国、世界一信頼される国を目指し、新たなスタートを切る時です」と言っているが、パラ・オリンピックは他の競技大会同様に競技選手の各競技に関わる身体的と精神的限界に向けた可能性への挑戦の機会の主たる一つであり、挑戦とその成功如何は各選手が個々に担う。

 一人が成功したからと言って、次のオリンピックで他の競技者が成功するとは限らない。このような可能性への挑戦の繰返しであって、このことは日本の競技選手に限らず、世界中の競技選手に与えれれている挑戦の機会であり、各国選手が分け合う限られた成功であって、日本人選手が活躍したという喜びや同じ日本人として自信を与えられることはあっても、そういった精神性以外に国民全般に何らかの形ある恩恵として与えるものではないから、科学の分野に於ける何らかの挑戦と成功がそれぞれに形ある恩恵を国民全般に与えるのとは違って、「我が国の『未来』を切り拓く」契機となるわけではない。

 このことは1964年の東京オリンピックを見れば理解できる。このオリンピックの成功は日本人に強い自信を与えた、その自信は日本の高度成長の力強い推進力となったものの、社会的インフラに傾いた、いわばハコモノに偏った高度成長であって、10年後にはバブル時代(1986年~1991年)を迎えることになった。

 このバブルは書類だけの売買契約で土地の値段を釣り上げていった土地転しや暴力団等を使った土地・家屋からの強制的な追い立てによる地上げ行為で天井知らずに上昇させた土地資産価格が誘発した一大好景気であって、このようは悪徳性の蔓延に行き着いた日本の発展途上に於ける一大イベントとしての1964年東京オリンピックであり、教育や文化まで含めて、「我が国の『未来』を切り拓いた」わけではない。

 当然、2020年東京パラ・オリンピックにしても、「我が国の『未来』を切り拓く」ことはないだろう。小泉純一郎政権とその後継の第1次安倍内政権で日本の社会は格差が拡大し、第2次安倍政権でなおのこと格差は拡大しているのだから、日本の素晴らしい建築技術で建設した世界に誇ることのできる競技場で日本人選手が活躍して、日本国民の多くが世界一の「夢と希望を分かち合う」ことになったとしても、あくまでもパラ・オリンピックに限った分かち合いであって、富裕層や準富裕層は兎も角、一般生活者の現実的生活のレベルでの分かち合いとは決してなることはない。

 「誇れるレガシーを創出し、日本の力を世界に発信する」ことに成功したとしても、開会式、あるいは閉会式の演出や選手村の運営等に限った成功であって、そのことが政治に反映されるわけではなく、当然、今の日本を覆っているこの現実を変える力とはなりはしない。

 2020年東京パラ・オリンピックが「我が国の『未来』を切り拓く」ことはないということである。

 安倍晋三が「世界一」と言っているどの点を取っても、ハッタリ・大風呂敷の類いで終わるだろう

 所詮オリンピックはそれがどれ程に大仕掛けであろうと、祭りに過ぎない。熱狂は終われば覚める。「『未来』を切り拓く」力など持っていない。

 「『未来』を切り拓く」力は政治にかかっている。政治はそれを行う政治家の選択にかかっている。その選択は選挙という手段を通して国民が行うのだから、国民の良識が本質のところで深く関わっている。

 回り回って政治にかかっているとしても、「『未来』を切り拓く」のは戦前回帰を旨としている安倍政治ではない。

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