2012年7月に佐竹敬久秋田県知事がプーチンに贈った、現在4歳となる雌の秋田犬「ゆめ」のお婿さんを探してプーチンに贈る話が進んでいる。話を持ち出したのは遠藤敬(48歳・大阪18区)日本維新の会国対委員長。
そのキッカケは遠藤敬が小学校5年生のときに親にせがんで秋田犬を買って貰ってその魅力に取り憑かれ、現在公益社団法人「秋田犬保存会」(秋田県大館市)の会長までしている関係からだと2016年12月4日付「産経ニュース」記事が、お婿さん贈呈を思い立ち、贈呈に向けた運動をしている経緯を伝えている。
大阪府高石市を生地とし、大阪18区選出の衆議院議員が秋田県大館市所在の「秋田犬保存会」の会長を務めている。この秋田犬ぞっこんの元々のキッカケを記事は、佐竹秋田県知事がプーチンに贈呈した「ゆめ」の父犬を以前飼っていた関係からだと解説している。
その父犬は「好古」と名付けていた。
「好古」は〈馬遼太郎氏の代表作「坂の上の雲」の主人公の一人である日本陸軍大将、秋山好古(1859-1930)にちなんで遠藤氏が命名した。日露戦争の英雄の名を冠した「好古」の血を引く犬が、両国友好の象徴としてプーチン氏に贈られたというのは巡り合わせの妙である。〉と記事は因縁づけている。
だが、この因縁をプーチンが知ったなら、かつてのロシア帝国とロシア帝国に続く旧ソ連が広大な領土と、その広大さに依拠させた強大な国家権力、さらに領土内のロシア人に与えられていた特権性が育んだ自らを人種的に偉大だとする大ロシア主義をかつてのロシア帝国とソ連が体現していたと見て、その偉大性を取り戻すためにソ連回帰を様々に試みているプーチンが知ったなら、安倍晋三が日中戦争と太平洋戦争での日本の敗北を日本の歴史的汚点として受け入れ難い思いを抱いているように日露戦争でのロシアの敗戦はロシアの歴史的汚点と見ている可能性は高く、遠藤敬が胸に抱き、記事が指摘している肯定的な「巡り合わせの妙」に果たして同調するか、至って微妙な話となる。
遠藤敬は官房長官の菅義偉と親しく、「官邸と維新のパイプ役」と称される人物だと記事は紹介していて、まあ、日本維新の会は自民党の補完勢力と呼び習わされているのだから、当然のその関係から11月末に国会内の一室で安倍晋三の腰巾着にして官房副長官の萩生田光一と会い、贈呈の要望を行ったこととその際の会話を記事は伝えている。
遠藤敬「日露友好の架け橋として、『ゆめ』を贈呈して頂きましたけれども、今度はお婿さんを贈りたい」
萩生田光一「ロシア政府に聞いて、『ぜひ迎えたい』ということであれば、そのような調整をしたい。安倍晋三首相にも相談して返答したい。もう候補がいるわけ?」
遠藤敬「子犬は何百頭といますから。ただ、動物のことなので、相性もありますので。そういうのも含めてご協力いただけたらな、と」
萩生田光一「分かりました。頑張ります」――
遠藤敬は「動物のことなので、相性もありますので」と言っているが、近年の離婚理由の第1位は男女共に性格の不一致だと言うから、動物だけではなく、人間にも相性があるということを知らなかったのだろうか。
「動物にしても、相性がありますので」と言ったなら、知っていたことになる。
この程度の知性の持ち主とは見ない。多分、言い間違えたのだろうと百歩譲ることにする。
遠藤敬による「ゆめ」のお婿さん探しの狙いを記事は、〈北方領土交渉が正念場を迎える中、今度はその婿としてオスの秋田犬をプーチン氏に贈り、2島返還ならぬ“2頭譲渡”によって両国の友好ムードを醸成>するためと解説している。
この狙いについての遠藤敬の発言。
遠藤敬「秋田犬によって日露関係が深化し領土交渉が進展するなら、これ程有り難いことはない」
最終的に〈首脳会談の際に「婿候補」を連れて山口に出向くことも含め、萩生田氏に対応の検討を要請〉することになった。
要するに「ゆめ」のお婿さんとなるオスの秋田犬をプーチンに贈呈、プーチンの機嫌を取ることで日ロ両国の友好ムードのなお一層の醸成を図って日露関係を深化させ、領土交渉進展の一助となったなら、これ程喜ばしいことはない、万々歳だと言うことなのだろう。
狙ったことに対する結果がどれ程に仮定の思惑だとしても、ロシア側が北方四島の主権を放棄し、四島の日本返還に応じるか否かのロシア側にとっての一大国益がオスの秋田犬1匹の贈呈で左右できると期待すること自体が甘い。
プーチンにしてもオスの秋田犬1匹の贈呈を受けて、その歓びと感謝を(したとしても)領土に関わる一大国益を斟酌する契機とするだろうか。
いわば遠藤敬はプーチンが受けるかも知れない個人レベルの実益と領土と言う国家レベルの実益(=国益)を同じ次元の問題だと混同し、プーチンの大ロシア主義にそもそも反することを考慮にも入れずに国家レベルの実益(=国益)をプーチンの機嫌を介した個人レベルの実益でどうかしようと間抜けにも奔走しているに過ぎない。
このようにも相手の機嫌を取って自身の利益を図ろうとすることを媚を売ると言う。それを領土問題の外交に活かそうと期待しているのだから、媚態外交そのものである。もしプーチンに領土を返還する気がなかったなら、盗人に追い銭となる可能性も否定できない。
贈呈の話は官房副長官の萩生田光一から官房長官の菅義偉にまで伝わり、安倍晋三の了解を得たのだろう、菅義偉自身が実現に向けて動くいていることが12月3日付「NHK NEWS WEB」から窺うことができる。
12月3日の国の天然記念物に指定されている秋田犬の魅力をPRするフォーラムでの挨拶。記事は菅義偉が秋田県出身だと伝えている。
菅義偉「予算委員会で、『ゆめの婿を何とかしろ』という質問があり、私は、『外務省を通じてしっかりお願いする』と引き取った。(ロシア政府に対して)今も交渉しているが、なかなか、色よい返事を貰うことができていない。しかし、こうしたことが話題になるのは秋田犬の素晴らしさを世界にも知って貰える大きなチャンスだ」――
遠藤敬の盗人に追い銭となる可能性も否定できない対ロ媚態外交に安倍晋三も菅義偉も乗ったことになる。
外相の岸田文雄が2016年12月3日、ロシアのラブロフ外相とモスクワで会談、ラブロフは領土問題は後回しにして平和条約の協議を優先させるべきと主張したそうだが、このことはプーチンが2016年11月20日にアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の開催地リマで会見したときの発言に対応させたラブロフの主張であろう。、
「産経ニュース」
プーチン「(北方四島は)国際的な文書によりロシアの主権があると承認された領土だ。
(条約締結後の歯舞、色丹2島引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言について)どのような根拠で、誰の主権の下に置かれ、どのような条件で返還するかは書かれていない」――
要するに北方四島の主権はあくまでもロシアにあることに変わりはないとし、尚且つ2島返還を決めた1956年の日ソ共同宣言は無効だとしている。
まさしく盗人に追い銭とならない保証はない秋田犬のお婿さん贈呈であり、媚態外交の最たる醜態としか言い様がない。