2016年12月13日夜9時半頃、夜間の空中給油訓練中のアメリカ軍米軍普天間飛行場所属輸送機オスプレイが沖縄県名護市沿岸の岩礁の頭が波の上に見える浅瀬に大破した状態となった。
墜落と紛う機体の散乱状態だったが、米軍は乱気流が生じて給油ホースがオスプレイのプロペラに接触し、ホースを切断、その際プロペラも損傷を受けてバランスを失い、普天間基地に帰還しようとしたが、住宅地に囲まれた世界一危険とされている普天間飛行場へ帰還した場合の万が一の住宅街への不時着の危険性を考え、帰還先を沖縄県名護市辺野古の海沿いにあるキャンプシュワブに変更、海沿いの飛行中に飛行不可能となり、浅瀬に不時着したのであり、機体システムの欠陥そのものが原因した墜落ではないといった趣旨の発表を行った。
但しこれは米軍側が発表し、日本政府が追随した“事故原因”であって、その発表が事実通りであるとは常に限らない。陸上での万が一の不時着を避けて海岸沿いに移動したということは兎に角も飛行可能な状態であったのだから、飛行可能な最終段階に達する前に、その段階を察知してヘリコプターの状態で浅瀬に舞い降りたなら、それ程に大破することはないはずだが、片方のプロペラが損傷を受けただけなのに大破し、機体各部が広範囲に散乱したのはなぜなのだろう。
特に機体が大きく損傷したケースはこれまでにない言われているにも関わらずオスプレイが大破したという点に大きな疑問、というよりも発表に大きな疑惑が残る。
疑惑はこればかりではない。12月13日夜9時半頃の不時着に対して翌日の12月14日午前5時前には機動隊が規制線を張り、迷彩服の米兵30人以上が報道陣に安全のために近づかないように警告してから、満潮で機体の大部分が海中に沈んだ状態になっているにも関わらず機体の回収を始めたと、12月14日付「時事ドットコム」記事が伝えている。
“不時着”から7時間かそこらしか経過していない、しかも暗いうちから機動隊が規制線を張って、30人以上の米軍兵士が機体回収作業を開始した。乗組員の内2人が怪我をしたものの5人共救助されているのだから、乗組員たちが経験した事故の実際を聴取できていたはずで、もし米軍の発表が聴取どおりの機体システムの欠陥ではないなら、乗員の救助だけならまだしも、機体回収作業まで“不時着”から7時間かそこらしか経っていない暗い内から開始したのはなぜなのだろう。
その部屋に親しく出入りしていた男が相手の女を部屋の中で殺してしまった後、部屋中を動き回って指紋を消して回ったり、物的証拠とされる自身の衣服や歯ブラシ、湯呑み等々の自身の痕跡を掻き集めてゴミ袋かスーツケースに詰め込む慌ただしさに似ている。
いわば、隠す必要性があったからこその性急な回収作業開始ではなかったかという疑惑である。
フライトレコーダーは12月14日の回収作業から早い時間に回収されたようだ。航空事故原因の解析に必要な各飛行データを記録する装置なのだから、フライトレコーダー回収班といったその発見に特化した役割を担わされた複数の兵士がいて、その回収にのみ時間を掛けた結果かもしれない。
いずれにしても回収したフライトレコーダーには飛行高度や飛行速度の刻々とした変化等が記録されている。墜落の場合は墜落に特有な記録の急激な変化が現れると思うが、それに対して今回のオスプレイのように前以て危険性を想定していたであろう(想定していなければ、普天間に向かった)不時着の場合は、少なくとも不時着に迫られるまでは速度にしても高度にしてもどうにかコントロールできる状態にあっただろうから、機体を曲がりなりにも維持できるだけの余裕はあったはずで、フライトレコーダーの記録の急激な変化は不時着の態勢に入って以後の浅瀬への着地までのいずれかの時点で起こることになる。
こういった違いによってフライトレコーダーの記録は機体システムの故障による墜落なのか、損傷を受けたプロペラの羽根の回転に不具合が生じて一定の飛行の後に迫られた不時着なのかを教えてくれるはずである。
だが、最終的な大破の状況から考えると、エンジが停止したといった故障ではないのだから、墜落にはない、着陸態勢に入るだけの余裕があり、当然速度を減速に向けてコントロールしていく不時着とは見えない無残な光景を曝け出していたのはどういうことなのだろうか。
このことを解き明かしてくれるのはフライトレコーダーの記録と乗員の証言であろう。
ところが、第11管区海上保安本部が事故原因の究明のためにアメリカ軍に対し任意で機体を調べたり乗組員から事情を聴いたりしたいとして捜査協力を求めたが、回答はなく、機体の撤去を完了させてしまった。
これは明らかに証拠隠滅に当たる。
残るは回収したフライトレコーダーの記録の開示と乗組員に対して海上保安本部への証言を認めることのみとなるが、どちらも行われることなく、アメリカ軍側は事故は機械的な問題ではないとして飛行再開を日本側に打診し、日本政府はそれを認めて、12月19日午後2時以降、空中給油を除いた訓練を全面的に再開したと「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。
記事は防衛省が伝えているアメリカ軍からの報告を載せている。
〈空中給油を受ける夜間の訓練の際に給油が終わったあと、乱気流などによって給油ホースとプロペラが接触し、プロペラが損傷したことから飛行が不安定になったもので、機械系統や機体構造などが原因ではない。〉
その上、〈普天間基地に所属するすべてのオスプレイについて機体構造や電気系統など飛行の安全上、重要な部分を確認した結果、問題は発見されず、不測の事態が起きた際の手順を再確認するため、搭乗員に教育を行った。〉
つまり機体そのものに問題はないから、訓練を早期に再開したということなのだろう。
だが、この報告は言葉のみによる報告に過ぎない。
右翼国家主義の防衛相稲田朋美の発言を12月19日付の「NHK NEWS WEB」が伝えている。
稲田朋美「防衛省・自衛隊の知見、専門的見地などから、(訓練再開は)合理性があるということだ。今回の事故で最も不安を感じている沖縄県民の皆様や地元の方々にしっかり説明していくことに尽きる。
オスプレイは機動力、速度、飛行距離など、優れたところがあり、配備が抑止力の向上につながるということに間違いはない。ただ、安全性が大前提であるということも申し上げてきたところだ。
空中給油については詳細な検証のもとで、二度とこのような事故が起こらないように、安全確認や教育などをやる必要があることはアメリカ側も認めており、具体的な情報をしっかりと提供してもらい、透明性を持って情報を提供していきたい」
防衛省はアメリ軍から言葉のみの安全性の報告を受け、稲田朋美は言葉のみのその報告に「合理性がある」と見做し、アメリカ軍の言葉を安全性の証拠として沖縄県や沖縄県民への説明の道具にしているに過ぎない。
稲田朋美が言っている空中給油の安全性に関わる「具体的な情報をしっかりと提供してもらい、透明性を持って情報を提供していきたい」にしても、第11管区海上保安本部が求めた、飛行機事故の原因解明にフライトレコーダーの記録解析は必須の条件だから、フライトレコーダーの調査を含めているはずの機体調査と乗組員からの事情聴取の要請に米軍は最後まで応じないままの訓練の再開なのだから、言葉の遣り取りで自己完結させようとしている情報の提供に過ぎない。
要するに事故原因の解明に物理的方法や事故当事者からの事情聴取という手段がありながら、そのような手段を活用できる側が自分たちのみ活用して、その手段の活用を要請している側に対して活用させずに言葉のみで機体システムのトラブルではない、乱気流を受けた単なる事故だから、安全だ、安全だと安全性の証明にしようとしているに過ぎないのだから、実際には乱気流といった不測の自然現象が原因の不時着ではなく、そうと思わせるために早期訓練の再開に出た隠蔽工作ではないかという疑いが当然出てくるはずである。
隠蔽工作でなければ、米軍は海上保安本部の捜査協力の要請に快く迅速に応じるべきであった。