安倍晋三はプーチンが領土を返還する気がないことに気づき始め、予防線を張り、守りに入った

2016-12-02 08:30:52 | Weblog

 安倍晋三が今年(2016年)9月2日(日本時間同)、ロシア極東ウラジオストクを訪れてプーチン大統領と行った会談後に記者団に話した発言を「産経ニュース」記事から見てみる。 

 先ず安倍晋三とプーチンは次回首脳会談を11月にペルーで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際に行い、12月15日には首相の地元、山口県長門市で会談することで合意し、夕食会でプーチンに5月の首脳会談で提案した極東の産業振興など8項目の経済協力に関しエネルギー分野をめぐる両政府による協議会の設置を提案したと記事は解説している。

 安倍晋三「(領土交渉の進め方について)道筋が見えてきた。その手応えを強く感じとることができた会談だった。

 平和条約(締結交渉)について二人だけでかなり突っ込んだ議論を行うことができたと思う。70年以上にわたり平和条約が締結されていない異常な状況を打開するためには、首脳同士の信頼関係のもとに解決策を見いだしていくしか道はない。

 (2月の山口県での会談について)ゆっくりと静かな雰囲気の中で平和条約(締結交渉)を加速させていく会談にしていきたい」

 日本側は平和条約の締結と北方領土返還を一体の問題とする姿勢を取っているから、両問題共にプーチンから好感触を得たということであり、その様子をまざまざと窺うことのできる発言となっている。

 「道筋が見えてきた」、「その手応えを強く感じとることができた」、「二人だけでかなり突っ込んだ議論を行うことができた」等の言葉に確かな進展を見て取ることができる。安倍晋三は解決への期待で胸を含まらせたに違いない。会談を終えて椅子から立ち上がって握手したとき、これ以上ない強い信頼の思いを込めて相手の手を強く握りしめ、その手を何度も振ったに違いない。

 そして会談がそのような展開を見せたのは何もかも「首脳同士の信頼関係」が原動力となっている。この「信頼関係」を力に最終解決に持っていく強い決意を示した。

 記事は安倍晋三とプーチンとの会談は第1次安倍政権時代を含めると今回で14回目だと伝えている。

 いわば過去13回の会談で積み重ねてきた「信頼関係」が今回の会談で花をつけ始め、問題解決進展に貢献した。

 五分咲きなのか、六分咲きなのか、この初期的な開花を受けて、2月の山口県での会談に八分咲き、九分咲きに向けて一気に賭けることにした。

 東京生まれではあるが、一族の故郷で、本籍地を置き、選挙の地元でもある山口で領土返還と平和条約締結の解決を目と鼻の先にする。安倍晋三はきっと胸を膨らませ、大きな成果を確信したに違いない。

 確信してもおかしくないプーチンとの会談後の対記者団発言となっている。

 少なくとも政治史に自らの外交成果として記録するために自身の任期中の解決を望んでいることになる。

 プーチンとの間で合意した12月15日の地元山口での会談を公式会談と位置づけ、共同文書を発表する見通しだと「毎日新聞」が伝えているが、こういった成り行きからであろう。

 ところが安倍晋三の好感触とは裏腹にモスクワで外務次官級の日ロ戦略対話が近く開催される前の10月5日、ロシア外務省のザハロワ情報局長(女性)が発表した声明を「時事ドットコム」記事が伝えている。  

 声明「ロシアの立場は一貫しており不変だ。(四島は)第2次大戦の結果、ロシアに帰属しており、ロシアが主権を持つことに疑問の余地はない」

 四島はロシアの領土だから、返還の義務はないと言っていることになる。

 そしてロシアは2016年5月に成立させた地域振興を目的とした極東地域の土地無償分与の新法に基づいて、その分与を10月以降、北方領土にまで広げて申請受理を開始した。

 新法は分与する土地の面積は1ヘクタール(100メートル四方)、申請どおりの使用を条件に5年後に土地の私有権が認められるというものである。

 北方四島をロシアの領土としていることを前提とした土地分与であろう。

 10月末にはこの申請が40件を超えたとマスコミは報道している。」(NHK NEWS WEB/2016年10月28日 7時05分)

 10月27日、プーチンは南部の保養地ソチで内外の国際政治学者などとの会合に出席。

 プーチン(北方領土問題の解決を含む日本との平和条約の締結の見通しについて)「解決を望み、そのために努力するが、いつどのように行われるのか、今は答えることができない。期限を決めるのは不可能で有害だ」(NHK NEWS WEB/2016年10月28日 7時05分)

 返さないとは言っていない。だが、解決は近い将来ではないと言っている。

 安倍晋三が解決進展の重要な機会としている12月15日の地元山口での会談で成果を期待することを前以て牽制している。

 一方で北方四島を含めた極東地域に土地をエサにロシア人の入植を進め、他の一方で北方四島を返還するのは期限不明の先の話だとしている。

 これを返還する気はないが、経済の実利を獲るための先延ばし作戦と見るか、返還する気はあるが、ロシア国民の世論や国内の政治事情、あるいは国際情勢との兼ね合いで時期尚早と判断していると取るかである。

 尤も自身の任期中の解決を望んでいる安倍晋三は諦めるわけにはいかない。

 この諦めるわけにはいかない安倍晋三の切迫性をプーチンは巧みに利用しているのかもしれない。

 11月19日夜(日本時間11月20日午前)、ウラジオストクの首脳会談で合意していたアルゼンチン・ブエノスアイレスでのAPEC首脳会議に合わせた首脳会談をプーチンとの間で行った。

 会議翌日の11月21日夜(日本時間11月22日午前)、ブエノスアイレス市内で記者会見を行った。

 安倍晋三「たった1回の首脳会談で解決するような簡単な問題ではない。首脳間の信頼関係がなければ解決しない問題であり、私自身がプーチン大統領と直接やり取りして、一歩一歩着実に進めていく。

 (具体的な交渉内容について)言及できない。北方領土に対する従来の政府の立場を、何ら変えているということはない。北方四島の将来の発展について、日本とロシア双方にとって『ウィンウィン』の形で進めていくことが何よりも重要な視点と確信している」(asahi.com/2016年11月22日11時29分)   

 ここでも「信頼関係」を問題解決の重要なカギとしているが、過去14回も首脳会談を重ねて「信頼関係」を積み上げてきながら、「たった1回の首脳会談で解決するような簡単な問題ではない」と矛盾したことを言っている。

 ウラジオストクの会談後の対記者団発言とトーンが明らかに違うことも矛盾の一つだが、これらの矛盾に辻褄を合わせるとしたら、12月15日の地元山口の首脳会談での大きな前進に向けてブエノスアイレスでのプーチンとの会談を確実な足掛かりとしたいと考えていたが、その思惑がすっかり外れたと言うことではないだろうか。

 この見方が当っているとしたら、「首脳間の信頼関係がなければ解決しない問題であり、私自身がプーチン大統領と直接やり取りして、一歩一歩着実に進めていく」という発言にしても、「北方四島の将来の発展について、日本とロシア双方にとって『ウィンウィン』の形で進めていくことが何よりも重要な視点と確信している」という発言にしても、自分自身に言い聞かせるための強がりの類いとなる。

 安倍晋三がブエノスアイレスでプーチンと会談した11月19日から3日後の11月22日、ロシアのメディアが、ロシア国防省が軍の部隊が駐留する北方領土の択捉島と国後島に地上から艦船を狙う新型の地対艦ミサイルシステムをそれぞれ配備したと伝えたと日本の各マスコミが報道した。

 官房長官の菅義偉は11月24日午前の記者会見で、「ミサイル配備は北方領土問題を含む平和条約交渉への影響は全くない」と発言しているが、一般的常識からしたら、返還するつもりのある島に土地を与えて入植者を集めたり、ミサイルを配備したりするだろうか。

 2016年11月29日付「日経電子版」は11月22日夜、安倍晋三が自民党幹事長の二階俊博や党幹部と11月28日夜に東京都内のホテルで会食し、〈北方領土問題が焦点となる12月15日の日ロ首脳会談に関し「領土交渉は非常に厳しい」と語った。〉とする共同電を配信、情報源を〈出席した衛藤征士郎元衆院副議長が記者団に明らかにした〉ものだとしている。

 9月2日のウラジオストクでのプーチンとの会談では、領土問題に関して「道筋が見えてきた。その手応えを強く感じとることができた会談だった」と、解決進展に向けて好感触を得ていたかのように発言していたトーンを11月19日夜のブエノスアイレスでのプーチンとの会談後の11月21日夜の内外記者会見では、「たった1回の首脳会談で解決するような簡単な問題ではない」と10回以上の首脳会談で積み重ねてきたと自負している「信頼関係」をどこかに置き忘れてトーンダウン。11月28日夜の党幹部との会食では、「領土交渉は非常に厳しい」とさらにさらにトーンダウン、悲観的見通しの吐露となっている。

 安倍晋三自身は常々自負していたプーチンとの「信頼関係」を自負に反して無効だったと暴露するような悲観的見通しの吐露であるにも関わらず、それを内々の発言とするのではなく、元衆院副議長の衛藤征士郎をしてマスコミに披露する。

 いや、いくら党幹部との会食と言えども、肝心の12月15日の地元山口での公式会談を控えて領土問題解決に意欲を見せていた手前、こういった悲観的見通しを明らかにすること自体がタブーとしなければならないはずだ。

 だが、タブーとせずに公の情報とした。

 と言うことは、悲観的見通しを知らしめる必要性があったということであろう。

 その必要性とは、12月15日のわざわざ地元山口に呼んでまで開く、それゆえに何らかの成果を国民に示さなければならない、いわば特別機会の首脳会談で何の成果も期待できないことに気づいて、前以て予防線を張り、守りに入ったと見るしかない。

 但し発言のトーンダウンの経緯を見ると、プーチンが領土を返還する気がないことに気づき始めたからであろう。

 安倍晋三の悲観的見通しに追い打ちをかけるかのように安倍晋三の党幹部との会食の11月22日から8日後の11月30日、ロシアは北方領土を事実上管轄しているロシア極東のサハリン州が国後島と色丹島とを22人乗りミル8型ヘリコプターで結ぶ定期路線を開設すると発表した。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする