安倍晋三は北方四島返還問題でプーチンに赤子の手を捻るが如くに足許を見られていると気づいていない

2016-12-15 09:56:25 | 政治

 2016年12月14日付「YOMIURI ONLINE」が12月15日の山口での安倍晋三との首脳会談を控えたプーチンとのインタビュー全文を記載している。   

 読み通して理解できることは、プーチンは北方四島を日本に返還する気はないということである。

 そのことを窺わせる発言を順を追って拾い出してみる。

 プーチン「我々は平和条約の締結をめざす。我々は完全な関係正常化を求めている。ロシアと日本との間に平和条約がないことは、過去から引き継がれた時代錯誤だ。時代錯誤は解消されるべきだ。しかし、どのように解消するかは難しい問題だ。

 あなた(インタビューを行った記者のこと)は共同宣言に触れた。その宣言には、両国が履行すべき、平和条約の基礎となるルールが書かれている。共同宣言を注意深く読むと、まず平和条約を締結し、その後、共同宣言が発効して、二つの島が日本に引き渡されると書いてある。どのような条件の下で引き渡されるのか、どちらの主権下に置かれるのかは書かれていない。にもかかわらず、共同宣言は署名された」

 ロシアから日本への領土返還なのだから、共同宣言にその点について書いてなくても、主権は我が国にあると言っているロシアから日本に移すことを想定内としなけれればならないはずだが、共同宣言には返還後「どちらの主権下に置かれるのかは書かれていない」と、予定調和とすべきその想定を否定しているということはプーチン自身は日本への主権の移行を想定していないということであろう。

 ロシアの主権のままなら、返還にはならない。主権の移行を以って返還となる当然の経緯を共同宣言には書いてないという口実を用いる以上、プーチンには二島返還の気もないということであろう。

 と言うことは、我々は目指しているとしている「平和条約締結」は領土返還なき締結を意味することになる。

 記者が4島の帰属の問題を解決して、平和条約を締結するという安倍晋三の立場を伝えると、プーチンは次のように答えている。

 プーチン「共同宣言には2島について書かれている。だが、(あなたは)4島の問題について言及した。つまり、共同宣言の枠を超えた。これはまったく別の話で、別の問題提起だ」

 この発言に於いて、歯舞・色丹の2島だけではなく、国後・択捉の他の2島も、いわば4島全てを返還する気がないことを窺うことができる。プーチンはその根拠は次の発言で明らかにする。

 プーチン「第2次大戦という20世紀の恐るべき悲劇の結果は、しかるべき国際的な文書によって確定していることを理解しなければならない。第2次大戦の結果として成立した国際法の基礎を崩さず、論争をどうやって解決するかはとても難しいことだ」

 プーチンのみならずロシアが公式見解としている「第2次世界大戦の結果、北方4島はロシアの領土となった」としていることの具体的な説明に他ならない。

 そして「国際法の基礎を崩すことはできない」という姿勢を取っていることからも、返還の意思がないことを窺うことができる。

 そして次のように発言している。

 プーチン「安倍首相の故郷を訪れる中で、この問題をどうやって解決できるか、はっきりと理解できるようになりたい。そうなれば、とてもうれしい。チャンスはあるのだろうか。おそらく、いつもある。なければ、話し合うことは何もない。これらのチャンスがどれくらい大きなものなのか、今は言えない。それは我々のパートナー(日本)の柔軟性にかかっている」

 要するに返還の気もないのに話し合いは「我々のパートナー(日本)の柔軟性にかかっている」と、日本の「柔軟性」だけを求めている。その柔軟性とは日本のロシアに対する経済協力なのは断るまでもない。

 領土返還交渉も平和条約締結交渉も解決は難しいと前置きした日本の対ロ経済協力に向けた「柔軟性」の要求なのだから、「柔軟性」に応えざるを得ない仕掛けを言外に含んでいる。

 次の遣り取りは記者が日本の状況を説明して今が領土交渉を前に進める「ジャストタイミング」ではないかと質問したことに対するプーチンの答であるが、この発言も領土を返還する気がないことを窺うことができる。、

 記者「1956年の共同宣言から60年たった。プーチン大統領の国内的な政治基盤は非常に強固だ。80%以上の人の支持を集めている。安倍首相も、強い政権基盤を持っている。私たちの世論調査でも、50%を超える人の支持を得ている。日本国民の側の理解だが、世論調査を見ると、かつては4島一括返還でないといけないという声が大きかったが、最近では2島先行返還でもいいという人の声も大きくなってきた。今はまさに三つの要素がそろったジャストタイミングだと思う。大統領は、これだけの条件が揃いながらも、前に進むことが困難な状況だという認識なのか」

 プーチン「そうだ。おっしゃる通りだ。安倍首相も私も国内の支持率はかなり高い。しかし、私にその信頼を乱用する権利がないと考えている。

 見い出すことができるどんな解決策もロシアの国益に合致しなければならない。しかし、我が国の国益のリストには日本との関係正常化が含まれていて、それは最後の項目ではない」

 日本との関係正常化はロシアの国益に適うが、それが「最後の項目ではない」と言っている「ロシアの国益」とは、他の発言からも4島をロシアの領土として守ると言うことを指し、返還は「ロシアの国益に合致」しないという意味をなしているはずだ。

 いくら言葉を弄しても、北方4島をロシア領として維持することを「ロシアの国益」としていることが透けて見えていながら、一方で、解決は難しいと思わせて、その交換条件として日本の対ロ経済協力に向けた「柔軟性」の具体例をプーチンは今度は次々と挙げていく欲張りを見せる。

 先ずウクライナ問題に関する欧米の対ロ制裁に日本が加わったことを槍玉に挙げる。

 プーチン「日本はロシアに対する制裁に加わった。制裁を受けたまま、経済関係をより高いレベルに進展させることができるのだろうか」

 プーチン「日本が(米国との)同盟で負う義務の枠内で、露日の合意がどれぐらい実現できるのか見極めなければならない。日本はどの程度、独自に物事を決められるのか。我々は何を期待できるのか。最終的にどのような結果にたどり着けるのか」

 プーチン「我々にはそれ(北方領土に於ける共同経済活動)の用意があるが、日本がロシアに対して制裁を続けたままで、同盟の義務を怠ることなく、それをやる用意があるのか。我々はその質問に対して答えを出すことはできない。日本だけがその質問に答えを出すことができる」

 領土交渉を前に進めたければ日米同盟を無視して経済制裁を解けとあからさまに要求している。

 記者が領土問題に話を戻して質問をすると、その答の中にも領土を返還する意思のないことを窺うことができる。

 記者「北方領土の問題はロシアから見ても、唯一残された国境線の問題だと認識している。2004年には、中国との間で4300キロ・メートルに亘る国境の画定をすでに終えている」

 プーチン「ロシアには、領土問題はまったくないと思っている。ロシアとの間に領土問題があると考えているのは日本だ。しかし、それについて我々は話し合う用意はある」

 日本が中国に対して「尖閣諸島に領土問題は存在しない」と言っているようにプーチンは日本に対して「ロシアには、領土問題はまったくない」とにべもないことを言っている。

 にも関わらず、「それについて我々は話し合う用意はある」と気を持たせる。ロシアにとって解決しなければならない経済問題が存在するからなのは断るまでもない。

 記者がなお食い下がるが、それに対するプーチンの答は経済問題に絞られている。

 記者「しかし、私たちが認識する限り、相当レベルの首脳同士の会話があり、その過程では、新しいアプローチという言葉も出てきたと認識している。日本の首相が言った言葉かもしれないが、双方の間で新しいアプローチを模索しようという形で、話し合いの前進があるのではないかと想像していた。今、大統領の話を聞く限り、実質的な前進がまだ得られていないというのが印象だ」

 プーチン「イエスでもあり、ノーでもある。前進はある。安倍首相が提案し、平和条約締結と領土問題の解決に向けての弾みをつけたように見える。安倍首相は何を提案しただろうか。信頼の協力の状況を作り出すことを提案した。他の方法では、平和条約締結に向けた文書に署名するのは想像もできないだろう。我々が言っているように、互いに信頼し合い、協力し合うことがなければ、文書に署名するのは不可能だ。

 だから、我々は、こうした状況を作り出すことに同意している。その意味で、前進は確かにある。例えば、安倍首相は、露日両国の最も重要で興味深い協力活動の分野において、8項目の経済協力プランを提案し、経済協力を新たな水準に引き上げるよう提案した」

 「信頼の協力の状況を作り出す」条件とは日本の対露経済協力であり、その方法でしか「平和条約締結に向けた文書に署名する」ことはできないと、ここでも平和条約締結の気を持たせて、日本の対露経済協力を促している。

 要するにプーチンが“平和条約締結に向けた文書署名”という餌で経済協力を釣ることをロシアの国益としていることに対して安倍晋三は当初は領土返還という日本の国益の解決の鍵としてプーチンとの個人的な信頼関係の構築を考えていたが、芳しい反応を得ることができず、自身の首相就任中の解決を焦る余り、と言っても、その希望が持てず、「自分の世代で」と解決の時期を後退させているが、対ロ経済協力を日本の国益解決の鍵とするに至った。

 プーチンはその足許を見て、経済協力を含めた様々な日本の「柔軟性」を求めて、自らの「国益」を満たそうとしている。

 国際関係に於ける冷徹であるべき外交術という点で安倍晋三はプーチンにとって赤子の手を捻(ひね)るようなものではないのか。

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