2017年4月20日の「ブログ」で、一部の重大犯罪を除いて具体的な犯罪の実行があり、被害が発生して初めて処罰対象となる刑法の原則に反して「共謀罪」の構成要件を改めた「テロ等準備罪」が、組織的集団が犯罪に走る一歩手前の共謀、あるいは計画や合意の段階で取締りと逮捕を可能とするためには絶対的な監視を前提としなければならないということを書いた。
いわば犯行を犯さない前に犯行を犯すと結論づけて取締りと逮捕に入るのだから、その結論を得るためには監視の上にも監視を絶対条件としなければ、とんでもない誤認逮捕や冤罪をつくり出しかねない。
「テロ等準備罪」の成立に反対する野党側がその理由として監視社会化して憲法が保障する「思想・信条の自由」を奪い、基本的人権を蔑ろにすることを挙げているのに対して成立を図る政府は監視社会化を否定している。
だから、憲法が保障する「思想・信条の自由」を奪うこともないし、基本的人権を蔑ろにすることもないというわけである。
だが、「NHK NEWS WEB」の二つの記事を読むと、政府側は国会で監視を前提とした発言を行っている。
ただ、本人たちが気づいていないだけである。
NHKは一定期限が過ぎると記事をネット上から削除してしまうから、一応はリンクをつけておいたが、二つの記事の全文をここに参考引用しておくことにする。
《「犯罪集団に一変」は合意の確認が必要 法務省局長》(NHK NEWS WEB/2017年4月21日 18時50分) 「共謀罪」の構成要件を改めて「テロ等準備罪」を新設する法案について、法務省の林刑事局長は、一般の団体が組織的犯罪集団に一変したと認定するためには、団体の内部で犯罪目的の集団に変わるという合意があったと、確認することが必要だという認識を示しました。 「共謀罪」の構成要件を改めて「テロ等準備罪」を新設する法案は、テロ組織や暴力団などの組織的犯罪集団が、ハイジャックや薬物の密輸入などの重大な犯罪を計画し、メンバーの誰かが準備行為を行った場合、計画した全員を処罰するとしています。 これについて、法務省の林刑事局長は、21日の衆議院法務委員会で、過去に犯罪を犯していない一般の団体が組織的犯罪集団に一変したと認定するためには、団体の内部で犯罪目的の集団に変わるという合意があったと確認することが必要だという認識を示しました。 21日の委員会では、林局長をこの法案の審議の参考人として出席させることと、来週25日に参考人質疑を行うことを、自民・公明両党と日本維新の会などの賛成多数で議決しましたが、林局長の出席は委員の求めに応じて認める形にすればよいとする民進党や共産党が抗議し、林局長が答弁する際に両党の委員が詰め寄る場面もありました。 |
〈「共謀罪」の構成要件を改めて「テロ等準備罪」を新設する法案は、テロ組織や暴力団などの組織的犯罪集団が、ハイジャックや薬物の密輸入などの重大な犯罪を計画し、メンバーの誰かが準備行為を行った場合、計画した全員を処罰するとして〉いる。
対して〈法務省の林刑事局長は、21日の衆議院法務委員会で、過去に犯罪を犯していない一般の団体が組織的犯罪集団に一変したと認定するためには、団体の内部で犯罪目的の集団に変わるという合意があったと確認することが必要だという認識を示し〉た。
「過去に犯罪を犯していない一般の団体」が「組織的犯罪集団に一変」する可能性を一度でも想定した場合、「過去に犯罪を犯していない一般の団体」の全てに対して監視を欠かすことができないことを絶対的条件としなければならない。
いわば如何なる団体であろうと、初めから監視対象に入れて万全の態勢で厳しく監視していなければ、「組織的犯罪集団に一変」するかどうかは把握できない。
もし監視に手抜かりがあって、「過去に犯罪を犯していない一般の団体」が「組織的犯罪集団に一変」したことに気づかなかったために万が一テロを起こされた場合、警察は大失態を演じた咎めを受けることになる。
その怖れからも、団体と名がつく団体の全てに手を広げて監視対象とし、監視の上にも監視、監視に万全を期せざるを得なくなる。
結果的に監視こそが最大・最善のテロ対策防止の、あるいは組織犯罪防止の万能薬だとばかりに監視至上主義が蔓延しない保証はない。
監視至上主義は否応もなしに監視の乱用を背中合わせとする。取り締まる側にしても過ちなき人間も組織も存在しないからだ。
必然的に監視を過剰化させざるを得なくなる。
それが乱用に至らなくても、広範囲の監視はそういう世の中になったのだと自ずと人々に感づかせることになって、下手に口を聞くことができない用心から「思想・信条の自由」の自己規制に追い込む危険性は否定し難い。
いずれにしても、法務省の林刑事局長は「テロ等準備罪」の施行には監視が絶対要件であることを間接的に表明した。
もう一つの記事を見てみる。
《テロ等準備罪の捜査 一般人への調査は限定的に》(NHK NEWS WEB/2017年4月21日 20時35分) 盛山法務副大臣は、共謀罪の構成要件を改めたテロ等準備罪が新設された場合、捜査を進める中で、一般の人を対象に情報収集などの調査を行うことはありえるとしたうえで、処罰対象が組織的犯罪集団であるため、一般の人への調査は限定的に行われるという認識を示しました。 共謀罪の構成要件を改めてテロ等準備罪を新設する法案は、テロ組織や暴力団などの組織的犯罪集団が、ハイジャックや薬物の密輸入などの重大な犯罪を計画し、メンバーの誰かが準備行為を行った場合、計画した全員を処罰するとしています。 これについて金田法務大臣は、21日の衆議院法務委員会で、「組織的犯罪集団という疑いがある団体と関わりのない人は、捜査の対象にならない」と述べ、一般の人が逮捕などの強制捜査の対象になることはないと改めて強調しました。 また、盛山法務副大臣は、テロ等準備罪の捜査を進める中で、一般の人を対象に情報収集などの調査を行うことはありえるとしたうえで、処罰対象が組織的犯罪集団であるため、一般の人への調査は限定的に行われるという認識を示しました。 また、委員会では、法務省の林刑事局長を法案審議の参考人として出席させることが与党側の賛成多数で決まったことに対し、野党側の筆頭理事を務める民進党の逢坂誠二氏が、自民党の鈴木淳司委員長に抗議する場面もありました。 |
〈金田法務大臣は、21日の衆議院法務委員会で、「組織的犯罪集団という疑いがある団体と関わりのない人は、捜査の対象にならない」と述べ、一般の人が逮捕などの強制捜査の対象になることはないと改めて強調し〉た。
対して〈盛山法務副大臣は、テロ等準備罪の捜査を進める中で、一般の人を対象に情報収集などの調査を行うことはありえるとしたうえで、処罰対象が組織的犯罪集団であるため、一般の人への調査は限定的に行われるという認識を示し〉た。
先ず金田が言っていること。
「組織的犯罪集団という疑いがある団体」かどうかは監視なくして決めることはできない。いわば監視に決定権がある。
当然、「組織的犯罪集団」と関わりがある人物かどうかの決定も、監視を要件とする。
監視の結果、「組織的犯罪集団」と関わりがある人物とされなければ、「逮捕などの強制捜査の対象」にはならないのは当然のことだが、関わりがある人物とされた場合は「逮捕などの強制捜査の対象」となることは、これも当然のこととなる。
そもそもからして「組織的犯罪集団」の構成員にしても最初から犯罪集団の一員であったわけではあるまい。その殆どが犯罪集団と関わりのない一般の人間から出発しているはずである。
金田は関わりがあるかどうかの全ては監視が決めることになっている捜査対象であるにも関わらず、その要件を隠して捜査対象となるかどうかが決まるようなことを口にしているに過ぎない。
巧妙・狡猾な誤魔化しでしかないが、いくら誤魔化そうとも、言っていることは監視を要件としているということでしかない。
〈盛山法務副大臣は、共謀罪の構成要件を改めたテロ等準備罪が新設された場合、捜査を進める中で、一般の人を対象に情報収集などの調査を行うことはありえるとしたうえで、処罰対象が組織的犯罪集団であるため、一般の人への調査は限定的に行われるという認識を示し〉た。
金田よりも少しは正直だが、いくら処罰対象が組織的犯罪集団であったとしても、「一般の人」が知らない間に連絡役に利用されたり、あるいは犯罪集団の一員でありながら「一般の人」を装って連絡役を務めたり、指示役であったりするケースも否定できないのだから、常に調査は「限定的」だと結論づけることはできない。
結論づけるためには監視というプロセスを絶対的に必要とする。
要するに「思想・信条の自由」を脅かし、基本的人権を損ないかねない広範囲で徹底的な監視を絶対的要件としている「テロ等準備罪」であるにも関わらず、政府側の人間はその要件を外して国会答弁を行っているが、現実には外すことは不可能なゆえに自ずと間接的に要件として必要とする答弁となっていることが上記記事は表している。
改めて言う。監視なくして成り立たない「テロ等準備罪」であって、そうであるがゆえに監視至上主義に走りかねない危険性と表裏の関係にある。我々は戦前の日本社会で監視至上主義を検閲や隣組という形で見てきた。
戦前の日本国家に親近感を抱いている安倍晋三が「テロ等準備罪」を出してきたことと無関係ではあるまい。