安倍晋三を喜ばせはするだろうが、実態を表してはいない「毎月勤労統計調査 平成28年7月分」厚労省調査

2016-09-06 09:59:43 | Weblog

 基本給やボーナス、残業代等を合わせた2016年7月の1人当りの給与総額は平均で37万3808円で、前の年の同じ月を2か月連続で上回ったと2016年9月5日付「NHK NEWS WEB」が伝えている。  

 厚生労働省が全国の約3万3000の事業所を対象に行った「毎月勤労統計調査 平成28年7月分」調査の速報値からの結果だそうだ。

 前年同月比で+1.4%。2カ月連続の増加。

 物価の変動分を反映した実質賃金は+2%。

 原因は物価が下落したためだと記事は書いている。物価が下落すれば、その分可処分所得が増えることになる。

 但し北海道に先月台風7号、台風11号、台風9号とたて続きに上陸、8月30日に岩手県大船渡市付近に上陸した台風10号の影響による大雨と強風で北海道産農作物が大きな被害を受け、既に値上がりしているから、物価下落でプラスした実質賃金は幾分かマイナス方向に振れることになる。

 為替が大幅に円高に触れると輸入物価が下がって実質賃金が相当に伸びるだろうが、大幅な円高は安倍晋三のアベノミクスに悪影響を与えることになる。

 いずれにしても現時点で実質賃金が+2%ということは安倍晋三の自慢話が一つ増えることになる。

 この2016年7月の給与総額平均37万3808円は常用雇用労働者1人当りの金額である。「常用雇用」が何を指すか具体的には知らなかったから、ネットで調べると、〈雇用契約の形式を問わず、期間の定めなく雇用されている労働者、あるいは有期雇用の契約を繰り返し更新し1年以上継続して雇用されている労働者、および採用時から1年以上継続して雇用されると見込まれる労働者をいう。〉と解説されている。

 例え非正規社員であってもパートであっても、契約更新を繰返して1年以上継続採用されていたら、「常用雇用」に入ることになる。

 つまり非正規社員やパートも含めた2016年7月1人当り給与総額平均で37万3808円、前年同月比+1.4%、2カ月連続の増加だということである。

 となると、当然、正規社員と非正規・パートとの差が問題となる。

 今年ではなく〈平成27年6月分の賃金等(賞与、期末手当等特別給与額については平成26年1年間)について、平成27年7月に調査を行った。〉、要するに1年前の《平成27年賃金構造基本統計調査》厚労省)から正規社員と非正規・パートとの差を見てみる。     

 〈雇用形態別の賃金

 〈雇用形態別の賃金をみると、男女計では、正社員・正職員321.1千円(年齢41.5歳、勤続12.9年)、正社員・正職員以外205.1千円(年齢46.8歳、勤続7.9年)となっている。男女別にみると、男性では、正社員・正職員348.3千円(前年比1.5%増)、正社員・正職員以外229.1千円(同3.1%増)、女性では、正社員・正職員259.3千円(同1.1%増)、正社員・正職員以外181.0千円(同1.0%増)となっている。

 年齢階級別にみると、正社員・正職員以外は、男女いずれも年齢階級が高くなっても賃金の上昇があまり見られない。

 正社員・正職員の賃金を100とすると、正社員・正職員以外の賃金は、男女計で63.9(前年63.0)、男性で6..8(同64.7)、女性で69.8(同69.8)となり、雇用形態間賃金格差は男女計で過去最小となっている。なお、賃金格差が大きいのは、企業規模別では、大企業で56.9(同56.9)、主な産業別では、卸売業,小売業で58.9(同57.8)〉――

 正社員・正職員321.1千円(年齢41.5歳、勤続12.9年)
 正社員・正職員以外205.1千円(年齢46.歳、勤続7.9年)

 正社員・正職員の賃金100に対する正社員・正職員以外(非正規やパート)の指数は63.9(前年63.0)

 雇用形態間賃金格差は男女計で過去最小とは言うものの、前年よりも僅かに0.9上がっているに過ぎない。100-63.9=36.1の差にこそ注目すべきだろう。しかも正規社員の調査対象年齢に年齢41.5歳を持ってきているのに対して非正規社員は5歳年上の年齢46.8歳を持ってきている。

 上記厚労省のページに、〈年齢階級別にみると、正社員・正職員以外は、男女いずれも年齢階級が高くなっても賃金の上昇があまり見られない。〉と書いてあることからすると、それでも賃金格差を少しでも小さく見せようとする意図を感じないでもない。

 この平成28年6月分給与正規対非正規の賃金指数10063.9を2016年7月1人当り給与総額平均で37万3808円に当てはめている。

 正規社員=37万3803円
 非正規社員=23万8863円

 非正規社員よりも女性パートの方が賃金はより安いから、正規社員も7非正規社員も賃金はもう少し多くなるが、平成27年6月分の雇用形態別賃金に於ける正規社員の321.1千円と5万円程しか違わないから、目安としてはこの程度ではないだろうか。

 いわば常用雇用労働者1人当りで見た2016年7月1人当り給与総額平均は37万3808円であっても、正規・非正規と分けると、非正規は14万円近く下がる計算となる。

 雇用形態別の賃金に於ける正社員・正職員321.1千円-非正規205.1千円≒11万6千円と目安としてはほぼ近い数字となる。

 目安であることの傍証は正規雇用よりも非正規雇用の方が増加していることにも求めることができる。

 《労働力調査(基本集計) 平成28年7月分結果の概要》総務省統計局/2016年8月30日)から求めてみる。 

 〈【就業者】

 ・就業者数は6479万人。前年同月に比べ98万人の増加。20か月連続の増加

 ・雇用者数は5721万人。前年同月に比べ89万人の増加。43か月連続の増加

 ・正規の職員・従業員数は3357万人。前年同月に比べ21万人の増加。20か月連続の増加。

  非正規の職員・従業員数は2025万人。前年同月に比べ69万人の増加。8か月連続の増加

 ・主な産業別就業者を前年同月と比べると,「医療,福祉」,「宿泊業,飲食サービス業」などが増加〉――

 確かに全体の雇用数は増加している。だが、非正規社員は正規社員の3.3倍弱も多く増えている。

 全体に占める正規社員は62%、非正規社員は37.6%。約4割近くも非正規社員が占めている。

 要するに厚生労働省の「毎月勤労統計調査 平成28年7月分」の調査にしても、必ずしも実態を表しているわけではないことになる。

 安倍晋三を喜ばせる統計ではあっても、給与総額が上がった、実質賃金が上がったで喜んではいられない。特に非正規で非正規の平均賃金よりも下の階層の生活を余儀なくされている場合、生活とギリギリに切り詰め、将来不安に備えて貯蓄に励まなければならないだろう。

 最初に挙げた厚労省の調査ページの文言、〈年齢階級別にみると、正社員・正職員以外は、男女いずれも年齢階級が高くなっても賃金の上昇があまり見られない。〉を既に紹介したが、最初から賃金が低くて、年齢が上に行っても伸びないとなれば、望む消費活動を抑えて、生活防衛を優先させなければならないだろう。

 上記「NHK NEWS WEB」は厚労省の調査に対する自身の発言を伝えている。

 厚労省「夏のボーナスが伸びた企業があったため、賃金が押し上げられた。賃金は緩やかに上昇する傾向にあり、今後の動向に注視したい」

 特に伸びたのは大企業の正社員であろう。大企業の伸びに中小企業が倣ったとしても、給与総額にして前年同月比で+1.4%の伸びに過ぎないのだから、+1.4%よりも少ない僅かな伸びで、非正規となると、ボーナスを手にしない社員も多くいたに違いない。

 厚労省の発言は2016年7月の1人当りの給与総額だけを見た「賃金が押し上げられた」であって、同じく実態を表しているわけではないことになる。

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安倍晋三の対ロシア8項目経済協力は日米欧のクリミア併合対ロ制裁破りと力による現状変更の容認

2016-09-05 09:33:41 | 政治

 先ずウクライナ共和国のクリミア自治共和国内の親ロ派武装勢力が決起し、ウクライナ共和国軍と衝突、親ロ派武装勢力の優勢の下、クリミア自治共和国最高会議を占拠、2014年3月16日、クリミア自治共和国とセバストポリ特別市でロシアへの編入の是非を問う住民投票を実施した。

 両地域ともロシア系住民が多数を占め、住民投票はロシアへの編入を圧倒的な賛成多数で決めた。

 対してプーチン・ロシア翌3月17日、クリミア自治共和国を独立国として承認する大統領令に署名、翌3月18日にはクリミアをロシアに編入する条約に署名して、電光石火の早業でクリミアを手に入れた。

 セバストポリ特別市は同3月18日にロシア連邦と条約を締結、ロシア連邦の構成主体となった。

 ウクライナ憲法は領土問題はウクライナ全土での国民投票で決めると規定している。

 この併合に対して日米欧はクリミアの憲法と主権と領土の一体性の侵害、力を背景とした現状変更の試み=国際法違反だとして認めず、ロシアに対して金融等の制裁を科した。

 この制裁によってロシアは経済的な苦境に陥っている。

 3月18日ロシア併合の翌日の2014年3月19日の参院予算委員会。

 安倍晋三「ロシアがクリミア自治共和国の独立を承認し、18日、クリミアをロシアに編入する条約への署名がなされたことはウクライナの統一性、主権及び領土の一体性を侵害するものであり、これを非難いたします。我が国は力を背景とする現状変更の試みを決して看過できません」

 安倍晋三は2015年6月6日にウクライナを訪問、ポロシェンコ大統領と首脳会談している。

 安倍晋三「わが国は力による現状変更を決して認めず、一貫してウクライナの領土の一体性を尊重するかたちで情勢の改善に取り組んでいる。停戦合意違反が見られることは遺憾であり、すべての当事者による停戦合意の完全な履行が重要だ」(NHK NEWS WEB

 2016年6月17日、欧州連合(EU)がロシアによるウクライナ南部クリミア半島編入を受けて発動した同地域からの物品輸入禁止などの制裁措置を2017年6月23日まで1年間延長すると発表したと2016年6月17日付「時事ドットコム」記事が伝えている。   

 制裁にはクリミアへの投資禁止や、クルーズ船の立ち寄り禁止も含まれるているという。

 EU声明「EUはロシアによるクリミアの違法な編入を引き続き非難し、編入を認めない政策を維持する」――

 ドイツのメルケル首相が2016年8月19日、欧州連合(EU)による対ロシア制裁について、ロシアによるミンスク和平合意(停戦合意のこと)の完全履行が実現していないことから、解除する理由はないとの考えを示したと2016年8月19日付「ロイター」記事が、同日付ドイツ紙のメルケル首相に対するインタビュー報道を介して伝えている。  

 メルケル首相はインタビューで、〈ロシアは、ウクライナ東部クリミアの親ロシア派武装勢力を支援し、クリミアを併合したことにより、大きな危機をもたらしたと主張。「欧州はこうした基本理念違反に対応する必要があった」と説明した。

 その上で、ウクライナとロシアがミンスク和平合意を履行するようオランド仏大統領と協力し、取り組んでいると明らかにした。〉とドイツ紙の記事内容を紹介している。

 メルケル首相の言う「基本理念違反」とは、勿論のこと、クリミアの憲法と主権と領土の一体性の侵害、力を背景とした現状変更=国際法違反を指す。

 基本理念違反は決して認めることはできないとする強固な意思の表明であろう。

 安倍晋三は2016年5月7日に訪露して、ソチでプーチンと首脳会談、8項目の経済協力を提案した。その8項目は「外務省」サイトに記載されている。  

 (1)健康寿命の伸長
 (2)快適・清潔で住みやすく,活動しやすい都市作り
 (3)中小企業交流・協力の抜本的拡大
 (4)エネルギー
 (5)ロシアの産業多様化・生産性向上
 (6)極東の産業振興・輸出基地化
 (7)先端技術協力
 (8)人的交流の抜本的拡大

 安倍晋三は国会でも答弁していたようにロシアのクリミア自治共和国併合は「ウクライナの統一性、主権及び領土の一体性の侵害」であり「力を背景とする現状変更の試み」だと断じ、米欧の対ロシア制裁に加わっていたはずである。

 だが、国際的な基本理念違反を、あるいは国際法違反を犯したがゆえに日米欧から制裁を受けているロシアに対して経済協力をするということは日米欧の制裁連携から日本だけが抜けて、制裁破りすることに他ならない。

 これが安倍晋三の言う積極的平和主義外交なのだろうか。

 この制裁破りはまたプーチン・ロシアの「ウクライナの統一性、主権及び領土の一体性の侵害」を認め、「力を背景とする現状変更の試み」を許すことを意味する。

 まさかロシアに対して経済協力を強力に進めながら、一方でクリミアの原状回復を求めるといったことは決してすまい。したとしたら、安倍晋三は二枚舌となる。

 更に中国に対して中国公船による尖閣諸島周辺の日本領海侵入を「力を背景とする現状変更の試み」だとする批判も二重基準を侵すことになる。

 安倍晋三がいくらご都合主義の政治家であっても放置しておくわけにはいかず、無きに等しい微力ながら、一応は釘を差しておかなければならない。 

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北方領土問題:安倍晋三は問題が進展するかのように見せかける話題作りのみで任期を終えるだろう

2016-09-04 12:19:00 | 政治

 ロシアのプーチンは北方四島を返還する気はないだろう。少なくともプーチンが国家指導者として居続ける間、クリミア併合によってアメリカとは価値観の異なる、それゆえに軍事的に衝突する危険性が否定できない仮想敵国と判明した以上、対アメリカ軍事基地としての利用価値からも北方四島の返還は考えられない。

 プーチンは安倍晋三とのウラジオストクでの2016年9月2日日露首脳会談前日の9月1日、アメリカのメディア・ブルームバーグのインタビューを受けている。各マスコミが伝えているが、「NHK NEWS WEB」から見てみる。 

 プーチン「領土で取り引きはしないが、日本との平和条約締結の問題はカギであり、日本の友人たちとこの問題の解決策を探したい。

 (色丹島と歯舞群島を平和条約締結後に引き渡すと明記された60年前1956年の日ソ共同宣言について)両国で批准された条約だ。日ロ両国のどちらかが損をした、あるいは負けたと感じてはならない。

 (ロシアが実効支配していたアムール川にある島の半分を中国に引き渡して国境を画定した例を引き合いに出して)日本との間でも信頼関係を高められれば、何らかの妥協策を見つけられる。

 日本との問題は、第2次世界大戦の結果起きたものだ」――

 全体の文意は北方四島は第2次世界大戦の結果ソ連の、現在のロシアの領土となった。だが、「領土で取り引きはしないが」、「日本との平和条約締結の問題は(両国間系にとっての)カギであり」、1956年の日ソ共同宣言は日露両国間の条約として生きているから、条約に添う交渉によって「日本の友人たちとこの問題の解決策を探したい」となるはずである。

 但し頭で「領土で取り引きはしないが」と断っていることと後段の日ソ共同宣言に添って解決策を探したいとしていることとの矛盾である。

 日ソ共同宣言は色丹島と歯舞群島を平和条約締結後に引き渡すと明記してあるのだから、返還がこの2島に限られるとしても、領土交渉となる。

 色丹島と歯舞群島の2島を返還しないままに平和条約の締結を狙っていると疑うこともできる。それが「領土で取り引きはしない」という言葉になって現れたということか。

 こういったことを狙っているとしたら、北方四島は第2次世界大戦の結果、現在のロシアの領土となったとしていることと整合性を得る。

 もう一つの問題は「日ロ両国のどちらかが損をした、あるいは負けたと感じてはならない」と言っていることの意味である。

 日ソ共同宣言に従って国後島と択捉島を除いた色丹島と歯舞群島のみの返還となったとしても、「日ロ両国のどちらかが損をした、あるいは負けたと感じてはならない」と警告を発したのか、あるいは色丹島と歯舞群島のみならず国後島と択捉島を含めた北方四島全体を返還交渉のマナ板に乗せて、「日ロ両国のどちらかが損をした、あるいは負けたと感じてはならない」、いわば両国に損得のない解決策を見い出すべきだと提案したのかである。

 色丹島と歯舞群島の返還交渉に応じるとも取れるし、北方四島の全体の返還交渉を目指しているとも取れるし、領土返還には一切応じずに平和条約の締結だけを望んでいるとも取れる。

 例えプーチンの意図がどこにあろうとも、翌日9月2日の日ロ首脳会談で自身の意図として安倍晋三に伝えなければならないはずだ。日露首脳会談を控えてその前日に発言した北方四島と平和条約に関わる自身の意図である。

 安倍晋三はその意図に現れる疑問点を追及して、疑問を排除した明確な意図に持っていかなければならない。

 プーチンが安倍晋三との首脳会談でブルームバーグ紙のインタビューに応じたときと同じ発言をしたのかどうかは分からない。

 安倍晋三は首脳会談翌日の9月3日、同じウラジオストクで開催されたロシア政府主催の「東方経済フォーラム」でスピーチしている。勿論、プーチンが同席している。

 「首相 プーチン大統領に領土問題解決へ協力要請」NHK NEWS WEB/2016年9月3日 16時12分)    

 安倍晋三「ロシアと日本の経済は競合関係にはなく見事に補完する間柄だ。需要面でも供給面でも、互いに刺激し合い伸びていく未来を思おう。ロシア産業の多様化を進めて生産性を上げ、それを活かしながら、ロシア極東地域をアジア太平洋に向けた輸出の拠点にしよう」

 記事は、〈そのうえで安倍総理大臣は、先に提案した極東でのエネルギー開発や産業振興など、8項目の協力プランの進捗状況を確認するため、ウラジオストクで、毎年、首脳会談を行うことを提案した〉と説明している。

 安倍晋三「重要な隣国どうしであるロシアと日本が、今日に至るまで平和条約を締結していないのは異常な事態だと言わざるをえない。私たちは、それぞれの歴史に対する立場、おのおのの国民世論、愛国心を背負って、この場に立っている。日本の指導者として、私は日本の立場の正しさを確信し、あなたはロシアの指導者としてロシアの立場の正しさを確信している。

 このままではあと何十年も同じ議論を続けることになってしまう。それを放置していては、未来の世代に対して、よりよい可能性を残してやることができない。私たちの世代が勇気を持って責任を果たしていこう。無限の可能性を秘めた2国間関係を未来に向けて切り開くために、私はあなたと一緒に力の限り、日本とロシアの関係を前進させる覚悟だ」――
 
 「今日に至るまで平和条約を締結していないのは異常な事態だ」と言い、「このままではあと何十年も同じ議論を続けることになってしまう」と言っている。

 その気の遠さが「未来の世代に対して、よりよい可能性を残してやることができない」という発言となり、「私たちの世代が勇気を持って責任を果たしていこう」という近い期限内の解決を求める発言となった。

 要するに平和条約の締結にしても、締結の前提となる領土問題にしても交渉の見通しすら立っていないことからの発言であろう。

 首脳会談で見通しを立てることができるだけの言質をプーチンは与えなかった。
 
 裏を返すと、プーチンが例えブルームバーグ紙のインタビューに応じたときと同じ発言を首脳会談で行った、行わなかったに関わらず、安倍晋三の方から持ちかけて、交渉に持っていくだけの言質をプーチンから取ることができなかったことになる。

 安倍晋三が会談後に「高官」という名称で政府随行員に行った発言を「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。  

 安倍晋三「(領土問題にしろ、平和条約の問題にしろ)両国がそれぞれの国益を総合的な観点から判断すべきということで一致した。プーチン大統領も身を乗り出して真剣な議論が行われた。率直な意見を述べたら大統領は頷いて聞き、1対1なので、打ち解けた雰囲気の中で胸襟を開いて話をしてくれた」――

 「東方経済フォーラム」でのスピーチの雰囲気とは明らかに差がある。プーチンから領土交渉に関わる言質を何も取れなかった失敗を隠す会談の成功話といったところであるはずだ。

 結果として残されたのは、「無限の可能性を秘めた2国間関係を未来に向けて切り開くために、私はあなたと一緒に力の限り、日本とロシアの関係を前進させる覚悟だ」との表現で表した経済関係の密接化のみである。

 ご存知のように安倍晋三は2016年5月6日にロシアのソチを訪れ、大統領公邸でプーチンとの非公式の首脳会談を行い、新たな発想に基づくアプローチでの領土交渉の加速化で一致、ロシア経済の発展と国民生活の向上に向けたエネルギー開発や極東地域の産業振興等々8項目の経済協力プランを提案している。

 日露の経済関係をより密接化してロシアの経済発展に貢献することで、その見返りに領土の返還を求めるという思惑からの8項目の提案であろう。

 だが、この思惑は相思相愛とはなっていない。

 安倍晋三の「東方経済フォーラム」でのスピーチを受けてプーチンが発言している。

 《プーチン大統領 「8項目の協力プランは唯一の正しい方法」》NHK NEWS WEB/2016年9月3日 15時56分)  

 プーチン「日ロの一方が負けたと感じることがないよう信頼のレベルを高める必要がある。解決策を探すことは難しいが可能であり、安倍総理大臣の8項目の提案は唯一の正しい方法だ」――

 一見すると、8項目の提案の実行によってロシアが経済発展を現在以上に成し遂げて国力を増せば、四島の返還がどのような決着となったとしても「日ロの一方が負けたと感じることがないよう信頼のレベル」を高めることになって、領土返還交渉はうまくいくといった意図に受け取れないこともない。

 もしこういった意図だとすると、首脳会談で安倍晋三にこの意図を明確に伝えていなければならない。伝えていたなら、安倍晋三の「東方経済フォーラム」でのスピーチはあのような雰囲気とはならなかったろう。

 いわばプーチンの思惑と安倍晋三の思惑は相思相愛となっていないことの証明としかならない。

 当然、プーチンの発言の本意は「安倍総理大臣の8項目の提案は唯一の正しい方法だ」にあることになる。この点に関してのみ安倍晋三とプーチンは相思相愛の関係にあると言うことができる。

 2009年9月の米国での国連総会で当時の鳩山由紀夫首相は当時のロシア大統領メドベージェフと会談、「独創的なアプローチ」による領土問題解決の提案を受け、2010年4月の核安全保障サミット(米国)の際の会談では同じ鳩山首相がメドベージェフから、「静かな雰囲気で協議を継続していく」との提案を受けている。

 そして仏ドービルで開催の主要国首脳会議(G8サミット)に出席した菅直人が2011年5月27日にロシアのメドベージェフ大統領とG8サミット会場近くのホテルで約50分間会談、多分メドベージェフから言い出したのだろう、二人は領土問題について「静かな環境の下で協議を継続する」との方針で一致している。

 メドベージェフの方から言い出したと推測した理由はメドベージェフがロシア大統領として2010年11月1日に国後島を訪問。約3カ月後の2011年2月7日に東京都千代田区で開かれた北方領土返還要求全国大会に菅直人が出席し、挨拶に立った。

 菅直人「北方四島問題は、日本外交にとって、極めて、重要な、課題であります。昨年、11月、メドベージェフ、ロシア大統領の、・・・・・北方領土、国後島、訪問は、許し難い暴挙であり、その直後の、APEC首脳会談の際に行われた、私と、メドベージェフロシア大統領との、会談に於いても、強く抗議をいたしました」

 メドベージェフの国後島訪問を「許し難い暴挙」としたことにロシアが激しく反発。ロシア大統領府のナルイシキン長官が訪露した当時の前原外相と2011年2月12日に会談、「日本側が強硬な立場をとり続ければ、領土交渉を継続する意味はなくなる」と警告を発した。

 領土交渉が断絶されたら、実効支配しているのはロシア側だから、日本側は元も子もなくなる。その結果のメドベージェフ側からの日本側に兎や角言わせないための「静かな環境の下で協議」と言うことであるはずだ。

 つまり北方四島へロシア側の誰が訪問しようが日本側の口を封じた。

 そして2016年5月6日に安倍晋三がロシアのソチを訪れ、プーチンと会談し、提案している。

 安倍晋三「北方領土問題を含む平和条約交渉の停滞を打破するためには、2国間の視点だけでなくグローバルな視点を考慮に入れ、未来志向の考えに立って交渉を行っていく新たな発想に基づくアプローチが必要ではないか」(NHK NEWS WEB

 新たな発想に基づくアプローチとはロシア経済の発展と国民生活の向上に向けたエネルギー開発や極東地域の産業振興等々8項目の経済協力プランの提案を指すのだろう。

 最初は「独創的なアプローチ」、次「静かな雰囲気」その次が「静かな環境の下で」、最後に「新たな発想に基づくアプローチ」・・・・・

 領土交渉の取っ掛かりをどういう言葉で形容しようとも、交渉の入り口にさえ立つことができないでいる。進んでいるのは経済関係のみである。

 今回の会談で安倍晋三はプーチンの12月15日訪日、安倍晋三の地元山口での会談で両者は合意した。

 今一度安倍晋三の「東方経済フォーラム」でのスピーチの一部を振り返ってみる。

 安倍晋三「日本の指導者として、私は日本の立場の正しさを確信し、あなたはロシアの指導者としてロシアの立場の正しさを確信している。

 このままではあと何十年も同じ議論を続けることになってしまう」――

 お互いが自国の正しさに拘っていては「あと何十年も同じ議論を続けることになってしまう」という意味なのだろうか。

 だが、日本が領土交渉の入り口にさえ立つことができないでいるところを見ると、「日本の立場の正しさ」とは北方四島は日本固有の領土であるという立場であることは断るまでもないが、「ロシアの立場の正しさ」とは北方四島は第2次大戦の結果ロシア領となったという立場を指し、後者がその正しさに固執しているからこその何ら進展のない領土交渉ということであるはずだ。

 そこでプーチンは「ロシアの立場の正しさ」を譲らずに温存しながら、「8項目の提案は唯一の正しい方法だ」と今後の日露関係に於いて何が正しいのかの答を出した。

 このような経緯を推測するとなると2島返還の思わせにしても、プーチンが「日ロ両国のどちらかが損をした、あるいは負けたと感じてはならない」とした、柔道の勝負に喩えた「引き分け論」にしても、日本から経済援助と経済技術を釣るための餌としか見えない。

 ロシアが北方四島を返還する気がなければ、安倍晋三は経済連携だ、プーチンの訪日だ、再度の安倍晋三の訪ロだといった、領土問題がさも進展するかのように見せかける話題作りのみで任期を終えることになるのは目に見えている。

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民進党代表選共同記者会見:蓮舫は「新世代の民進党」を目指すと言い、「わくわくする政治」を約束している

2016-09-03 10:53:11 | 政治

 2016年9月2日告示、9月15日投開票の民進党代表選の共同記者会見が告示日と同じ9月2日に行われた。立候補を届け出たのは蓮舫、前原誠司、玉木雄一郎。

 民主党政権失敗・国民の信頼喪失の手垢のついた面々は民進党政治の表舞台から退場すべきではないだろうか。なぜなら、手垢を払拭して真っさらな新生民進党を謳うには、現在も多くの有権者に記憶されている「民主党には国は任せられない」という根深い不信感(野党第一党の位置につけていながら、民主党、それに引き続いた民進党の10%前後そこそこでしか推移させることができない政党支持率がこのことを証明している)は政権交代後の民主党の執行部が形作り、その執行部の面々が今以て民進党執行部を形成していることによって消し去ることができないでいるからで、全員退場することによって強い反省の意思と生まれ変わりへの決意を形で示すことができるからだ。

 立候補者3人の中で民主党政権失敗・国民の信頼喪失の手垢のついた面々と言うと、蓮舫と前原誠司を挙げることになる。

 玉木雄一郎がどの程度の政治的創造性を自らの能力としているか皆目見当はつかないし、未知数という扱いを受けることになると思うが、衆議院議員初当選は民主党が政権交代を果たした2009年、民主党が下野した2012年の総選挙で2選、民主党副幹事長及び政策調査会副会長に抜擢という形なのか、就任しているものの、民主党政権失敗・国民の信頼喪失を演じた表舞台に立っていたわけではないから、悪しき民主党像を内部に抱えた民進党のその像とは無縁の手垢のついていない新しい顔に位置づけることはできる。

 代表だけではなく、他の党役員すべては手垢のついた面々を排除し、手垢が一切付いていない新しい顔にする。そうしてこそ、“新生”を謳うことができる。

 現在民進党最高顧問に民主党政権失敗・国民の信頼喪失の戦犯中の戦犯、手垢中の手垢が染み付いた野田佳彦などが就いているが、新生民進党を打ち立てるべく新しい顔で執行部を埋めることを望むなら、飾りでしかない党顧問など置くべきではないだろう。

 民進党の現在の党最高顧問は野田佳彦と横路孝弘、江田五月(2016年7月政界引退)。「民主党には国は任せられない」という根深い不信感を有権者に与えることになった民主党政権失敗・国民の信頼喪失の戦犯たちを、何を心得違いしたのか、民進党の飾りにしていたのである。

 9月2日の行動記者会見は「THE PAGE」が伝えている。    

 戦犯の一人である蓮舫の発言を見てみる。(一部抜粋)

 蓮舫「はい。よろしくお願いいたします。改めまして民進党の第1回目の代表選挙に立候補した蓮舫です。

 私が目指すのは新世代の民進党。それとガラスの天井を打ち破る、そのために。そして信頼を取り戻してわくわくする政治をつくる。そのためにしっかりと代表となってこの党を引っ張っていきたいと、あらためて思っています。つい1カ月前、7月の参議院議員選挙、日本中を回りました。なんでもあるといわれる、1人勝ちだといわれる首都・東京という選挙区でも戦いました。景気がいい、経済がいい、今の政権が何度も強調している。でも、実際の日本はどうなんだろうか。残念ながら切ないまでの不安がいろいろなところに横たわっていました。

 もう少子化といわれて20年たっている。少子化は止まらない、でも、さらに、さらに残念な環境が広がっているのは、せっかく生まれた大事な子供の6人に1人、1人親家庭に至っては2人に1人の子供が貧困です。子供を育てることができないと悩んでいるお母さん、お父さんたち。子供が頑張って大学に行ったら2人に1人が奨学金、大学を出たら4割が非正規社員。300万円の平均の借金。これは自己責任だと、私は言えない事態が広がっていると思いました。

 この30年で共働き世帯は1.5倍になった。でも、1人働いてるときよりも、2人働いている今のほうが2割減っています。労働生産性が残念ながら上がっていない。賃金に反映をされていない。あした、1年後、2年後、分からない。そんな雇用の不安が広がっている。人生の先輩、この国を戦後71年間、引っ張ってきて豊かさをもたらしてくれた、平和をもたらしてくれた先輩たちには年金、介護、医療、自分たちは大丈夫なんだろうか。こんな不安が渦巻いている。

 全てのライフステージにおいて、私は信頼、安心を取り戻したい。安心さえあれば、それは欲しいものを我慢しないで消費につながる。実需が生まれます。企業が豊かになる。それがまた、家計の収入に反映をされて、安心の好循環社会を蓮舫は代表としてつくっていきたい。もちろん前原さん、玉木さん、これまで一緒に私たちは政策をつくってきました。同じ方向を見ています。そして同じ国をつくりたいと思っている。それはあくまでも人に着目をした、人を大事にした、人に私たちは投資をする。将来の納税者、将来の社会保険料の納付者、しっかり育てていって、日本に生まれて良かった。愛すべき日本をしっかりと自分たちが次につないでいく。そのような絵を描いていきたいと思います」――

 「私が目指すのは新世代の民進党」だと言っている。

 「新世代」とは「Weblio辞書」によると、「新しい世代。これまで中心だった旧世代に替わる世代」と解説されている。

 蓮舫は「民主党には国は任せられない」という根深い不信感を有権者に植えつけ、民主党政権失敗・国民の信頼喪失の毒素を蔓延させた政権交代時の民主党執行部に所属し、その戦犯の一人のまま民進党執行部の代表代行に就任した。

 当然、旧世代に属するはずだが、それとは無関係の「新世代」に自身を位置づけている。

 と言うことは、自身を「民主党には国は任せられない」という根深い不信感を有権者に植えつけた戦犯の一人、民主党政権失敗・国民の信頼喪失の手垢のついた戦犯の一人とは見做さず、戦犯執行部とは距離を置いた綺麗な手をした党員としていることになる。

 優れた政治家だからこそ、こういったヌケヌケとしたゴマカシができるのだろう。

 蓮舫が「私が目指すのは新世代の民進党」と言うからには、蓮舫が代表になった場合、既にその時点で「新世代」という言葉に矛盾が生じることになるが、少なくとも執行部の他の役員人事は旧世代に属していなかった党員を据えなければ、自身の発言を一から十まで自ら裏切ることになる。

 どういった役員人事をするか、見ものである。

 蓮舫はまた、「信頼を取り戻してわくわくする政治をつくる」と公約している。

 この発言に関しては9月1日の自身の陣営の会合で既に述べている。、

 蓮舫「ワクワクする政治、期待できる政治、何か変えてくれるのではないかという政治を必ず成し遂げたい。『新世代民進党』を、皆さんと一緒に作りたい」(NHK NEWS WEB

 「ワクワクする政治、期待できる政治、何か変えてくれるのではないかという政治」、こういった政治は国民の判断・評価にかかっている。当然、国民の判断・評価に適う政策の創造と提示が絶対的なカギとなる。

 なぜなら、政策こそが政治を形作るからである。見るべき政策がなければ、満足な政治を形作ることはできない。政治が政策を形作るわけではない。

 当然、国民が「ワクワクすると思ってくれる政策、期待できる思ってくれる政策、何か変えてくれるのではないかと思ってくれる政策」を創り出し、提示することが先決問題となる。そのような経緯を踏まなければ、「ワクワクする政治、期待できる政治、何か変えてくれるのではないかという政治」の提供は不可能となる。 
 
 安倍晋三の景気回復策であるアベノミクスも当初は国民にワクワク感を与えた。国民は何かを変えてくれるのではないかと期待した。現在はかなり失望を与えているものの、野党が国民がワクワクできる政策を創造し、提示しないから、仕方なくアベノミクスの行方を見守っているという状況にある。

 蓮舫が上記発言をした以上、そのような政策の創造と提示が必要となる。
 
 だが、以下の発言は少子化が止まらない状況、貧困の改善されない状況、非正規社員が増えている雇用に於ける偏った状況、年金、介護、医療の現況に安心ができず、将来的な不安を抱かせる状況等々の現状を述べるのみで、決定打となるワクワクする政策の具体的な一つすらも提示していない。

 蓮舫は発言の最後の方で「全てのライフステージにおいて、私は信頼、安心を取り戻したい。安心さえあれば、それは欲しいものを我慢しないで消費につながる。実需が生まれます。企業が豊かになる。それがまた、家計の収入に反映をされて、安心の好循環社会を蓮舫は代表としてつくっていきたい」と言っているが、「安心」を創り出す政策を提示しているわけではない。

 提示がなければ、「安心の好循環社会」は単なるスローガンに過ぎない。口ではいくらでも好きなように言うことができるということである。

 蓮舫は代表当選第1号といったところだが(玉木雄一郎を立候補させたのは1回で決着がつかなかった場合、2回目の投票で2・3位連合で逆転を狙っているのかもしれない)、政治が政策を形作るわけではなく、政策こそが政治を形作ることに気づかない、その程度の政治家であることと、有権者に根深い不信感を植え付けることとなった民主党政権失敗・国民の信頼喪失の手垢のついた戦犯の一人であることを考えると、ゆくゆくは喋りだけは得意な変わり映えのしない代表となるように思える。

 このことは次の発言にその一端が現れている。

 蓮舫「人生の先輩、この国を戦後71年間、引っ張ってきて豊かさをもたらしてくれた、平和をもたらしてくれた先輩たちには年金、介護、医療、自分たちは大丈夫なんだろうか。こんな不安が渦巻いている」 ――

 「自分たちは大丈夫なんだろうか」と言っている「自分たち」とは「人生の先輩」を指すのだろうか。あるいは「人生の先輩」から見た場合の現役世代、「あなたたち」という意味で使った「自分たち」なのだろうか。

 どうも意味不明である。「不安が渦巻いている」主語は今を生きる世代、その中でも将来不安に一番陥っているのは若者世代であろう。

 だとすると、「自分たちは」ではなく、「あなたたちは大丈夫なんだろうか。こんな不安を渦巻かせている」としなければ、意味が通らない。

 しかも「人生の先輩」は豊かさと平和のみをもたらし、矛盾のない戦後日本の社会を築き上げたかのように言っている。

 完璧な政治など存在しない。必ず一方に矛盾をつくり出す。すべての利害に応えることができる程の政治的創造性を人類は備えていないからだ。

 ニュースキャスターを務め、ジャーナリスト活動も行ってきている。当然、それ相応の洞察力・識見を備えているはずだが、口は達者だが、この程度にしか社会を見通すことができない。

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男子大学生・大学院生半数が「将来、育児休業制度を利用したい」の希望を日本人の思考様式・行動様式が挫く

2016-09-02 10:12:38 | 政治

 2016年7月1日付「NHK NEWS WEB」記事が就職情報会社アイデムのアンケート調査として来春卒業予定で就職活動中の男子大学生と男子大学院生を合わせたうちの半数が6月調査で、「将来、育児休業制度を利用したい」と考えていると伝えていた。

 調査対象者はインターネットを通じた約700人。

 「将来、子どもができた場合、育児休業制度を利用したいか」

 「利用したい」+「どちらかと言えば利用したい」

 男子学生49.5%
 女子学生92%

 「育児期間中の短時間勤務希望」

 男子学生49.8%

 「育児期間中の残業の免除希望」

 男子学生56.1%

 調査会社「働く時間を減らして育児を担いたいという人が増えている」

 しかしこの傾向は育児をしないわけではないが、育児のために全休までしたくない、どちらかと言うと、育児よりも仕事を優先させたいという気持の現れであり、裏返すと全休して一定期間仕事を離れてしまうことの不安か、あるいは全休した場合の自身に対する周囲の評価への不安、いずれかを考えている男子学生が相当数いるということであろう。

 記事は最後に、〈一方、厚生労働省の平成26年度の調査では男性社員の育休取得率は2.3%にとどまっていて、男性社員が育休を取りやすい環境を整えることが課題になっています。〉と解説している。

 いずれにしても来春就職を目指す男子大学生と男子大学院生を合わせた半数近くが育児休業制度を利用したいと思っている。

 断るまでもなく、希望と現実世界での希望の実現は異なる。

 2016年7月31日付の「NHK NEWS WEB」記事から昨年2015年の厚労省調査による育児取得率を見てみる。

 従業員5人以上の事業所を対象、全国3958の事業所が回答。

 男性取得率2.65%(前年比+0.35ポイント)
 女性取得率81.5%(前年比-5.1ポイント)
 
 女性取得率前年比5.1ポイント減を記事は短時間勤務制度が広がり、育休を取らずに働く人が増えたこともあるが、小規模な事業所で取得が進んでいない状況にあることが原因だと解説している。

 要するに育児休業制度を設けているものの小規模事業所の中には資金に余裕がないためにギリギリの採用人数で日々の事業をどうにか回転させていることから、出産と出産後の入院期間は兎も角、それ以外は法定の1歳6カ月間どころか、1日も休まれては困るといった窮屈な経営状況にあるということであり、女性従業員側からすると、余分に休むと、いつ新しい人が採用されて自身がクビになるかも分からないから、育児休業を取ることができないということなのかもしれない。

 NHK NEWS WEB記事が伝えている厚労省の調査は「平成27年度雇用均等基本調査の結果概要」ページに載っていて、大中小零細日本の全ての企業が育児休業制度を設けているわけではないことを知ることができる。  

 〈育児休業制度の規定がある事業所の割合は、事業所規模5人以上では73.1%(平成26年度74.7%)、事業所規模30人以上では91.9%(同94.7%)となっており、平成26年度調査より事業所規模5人以上では1.6 ポイント、事業所規模30 人以上では2.8 ポイント低下した。〉

 長時間労働を是正し、男性社員にも育児休業を取らせようという時代の流れに逆行する事業所に於ける育児休業制度の減少となっている。

 政府は4年後の2020年には男性の育児休業の取得率を13%とする目標を掲げていると記事は書いているが、前年比+0.35ポイントとほんの僅かながら増えてはいるものの、男性の2015年育休取得率はたったの2.65%。

 「将来、育児休業制度を利用したい」男子学生49.5%の希望に対して現実は2.65%。

 希望と現実の差が46.85%。

 2020年男性育児休業取得率政府目標13%に対する2015年男性育児休業取得率2.65%の10.5%もの差も然ることながら、希望と現実の差46.85%にしても、どこに理由があるのだろうか。

 育児休業制度を設ける以上、設ける時点で男性であれ女性であれ、育休を取る社員が出た場合に備えて残された社員でその仕事の穴を埋め、従来と変わらずに経営を維持させていく人員配置を前以て構築しておくことは会社自身のマネジメントの問題である。

 そのマネジメントに従ってそれぞれが自分だけではなく、新たに子どもを持つ男女が育児休業制度を交互に利用し、その利用に対して他の社員が利用中の仕事を全員で、あるいは何人かでカバーしていく相互扶助を制度の中身としているのだから、利用は個々の権利として存在している。

 利用が権利として存在していながら、2015年の育児休業取得率は2.65%にしか達していない。

 当然、自身の権利として周囲に気兼ねなく求めることができるだけの自律した態度を取ることができていないことになる。

 会社が育児休業制度を設けていながら、自分が育休で仕事を休んだら、みんなに仕事のしわ寄せがいって、迷惑がかかりはしないだろうか、自分が期待されている分、休むことで評価が下がりはしないだろうか、満足に仕事ができないのに一人前に休みを取るなどと批判されないだろうかと周囲の目を気にする。

 男性の育児休業取得率の低さはこういった理由からだそうだが、全ては権利を権利として主張できる自律した態度とは正反対の姿が為せる技である。

 権利でありながら、権利として自己を優先させることよりも周囲の目を優先させて自身の権利を放棄すること自体が自律性から離れた態度でしかない。

 2015年の育児休業取得率2.65%を除いた男性社員の多くが自律性を欠いていると見なければならない。

 その理由はどこからきているのだろうか。

 「自律性」とは他からの支配・制約などを受けずに自分自身で立てた規範に従って行動する性格のことを言う。いわば自分で考え、その考えに従って自らの責任のもとに自らの行動を決定し、行動する性格のことである。

 このような性格を欠くと、自分自身の考えを抑えて他人の目や世間的に一般的な考えに影響を受け、その支配を受けて行動するようになる。

 他人や世間の考えに従うこの手の行動性は自身の考えを上に置くのではなく、他の考えを上に置いてその考えに自己を従わせる、日本人が主たる行動様式としている権威主義の行動性そのものを指すことになる。

 会社で自分が正しいと思っている自分の考えと違っていても、その考えを抑えて上の地位の者の考えに無条件に従うのも権威主義の行動性である。

 こういった権威主義的な行動性が上下の人間関係の力学として日本の多くの会社、多くの集団を支配している。典型的な例としてよく挙げられるのは中高大学の運動部の先輩後輩の上下関係であろう。この上下関係が行き過ぎて、先輩による後輩に対する体罰が起きることになる。

 だからこその「将来、育児休業制度を利用したい」男子学生49.5%の希望に対して現実の取得率2.65%であり、49.5%の希望にしても、企業内の権威主義的な上下関係の力学の支配を受けて、2.65%に数%上乗せ程度の取得率に挫かれることになるだろうことは目に見えている。

 但し他人の目や世間的に一般的な考えに影響を受ける権威主義的な行動様式は男性の育児休業制度の利用が世間的に当たり前のこととなると、同じ権威主義的な行動様式に基づいた行動であっても、周囲と同じ態度と言うことになって他人の目などを気にせずに行動できるようになる。

 となると、男性の育児休業取得率を上げるためには日本人の主たる行動性となっている権威主義的な行動様式を改め、欧米のように地位の上下に関係なく対等な、それゆえに常に自律的な行動を求められることになる人間関係を力学とした行動様式を築くことを先決問題とするか、何年かかっても取得率を少しずつ上げていって、取得が特別ではない、誰もが利用する当たり前のことと理解できるまで待つか、いずれかということになる。

 願わくば権利である以上、自分は自分だと行動できる自律した行動様式の選択に進むべきであると考えるが。

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8/28NHK日曜討論『加藤大臣に問う どう進める働き方改革』:長時間労働で持ってきた日本の経済大国

2016-09-01 12:19:22 | 政治

 日本の悪名高い長時間労働を“働き方改革”を進めて是正していく。

 だが、日本は長時間労働で自国を経済大国に押し上げ、長時間労働で経済大国を維持してきた。

 2016年8月28日放送のNHK「日曜討論」『 加藤大臣に問う どう進める“働き方改革”』でも慶応大商学部教授、経済学者の樋口美雄が長時間労働について次のように発言している。

 「持間を伸ばす方が人を増やすよりは人件費が安く上がり、企業にとって安く済む。残業で25%割でも、ベースのところでボーナスは要りませんとか、生活費は要りませんという形だから、持間を増やす方が仕事もやりやすいということをやってきた」

 人間を1人増やして2人にするよりも、1人で長時間働かせた方が基本給以外のボーナスや家族手当、通勤手当等々の手当が1人分で済む分、残業費25%割増をプラスしても人件費を安く抑えることができる。

 2010年に日本が世界第2位の経済大国の地位を中国に譲り、第3位に転落したのは中国の人件費の安さもさることながら、長時間労働で日本を打ち負かすことができたことも大きな要因であったはずだ。

 長時間労働によって元々安価な人件費を更に安価に抑えることができた。この点、中国は日本の遥か上を行った。

 安価な人件費をベースに長時間労働で仕事量を増やすことで生産量の増加と安価な製品を実現させて国際競争力をつけて企業の利益を増大させていった。

 但し日曜討論で紹介していたように日本の長時間労働の割合は世界第1位の経済大国アメリカよりも大きい。更に長時間労働の割合のアメリカよりも少ないドイツや英国、フランスも経済大国としての地位をそこそこに維持している。

 短時間労働でありながら、それなりの経済規模を維持している要因は何よりも生産性の高さを一定程度保持しているからだろう。いわば長時間労働と労働生産性は反比例の関係とまでいかないまでも、逆行状況にあると言うことができるはずだ。

 労働生産性が高ければ、短時間労働で質の高い製品をより大量に生産可能となるからだ。

 いわば長時間労働の是正は高い労働生産性によって裏打ちされる。

 逆に低い労働生産性のもとでは国際競争力を維持できる安価でなおかつ質の良い製品の大量生産は長時間労働を要件としなければならない。

 この関係性を《日本の生産性の動向2014年版》公益財団法人日本生産性本部)から、「2013年OECD加盟国労働生産性」と「2013年OECD加盟国持間当たり労働生産性」に於ける日本、アメリカ、英国、フランス、ドイツの順位を見てみる。  

 国別ではアメリカ3位 フランス6位、ドイツ6位、英国19位、日本22位。 持間当たりではアメリカ4位、フランス8位、ドイツ9位、英国18位、日本20位。

 生産性が低ければ低い程、その低さを長時間労働で補うか、大量採用・大量労働力で補わなければならないが、後者は人件費の全体的な高騰を招いて、それが製品単価に跳ね返り、国際競争力を阻害することになるから、勢い人件費を抑えることができる長時間労働に向かうことになる。

 それが日本に於いて顕著な傾向となって現れている。

 因みに企業の利益獲得のための長時間労働の誘因剤でもあり、と同時に労働生産性が低い要因となっている正規労働者と非正規労働者の給与の差も番組より引用しておく。

 当然、働き方改革で長時間労働を是正し、是正した持間を男女共に家事・育児、介護に振り向けて、尚且つ現在の経済規模を維持するためには労働時間を減らした分、先進国中ただでさえ低い現在の労働生産性を向上させなければならない。

 つまり労働生産性を如何に向上させるかが長時間労働の是正、働き方改革の先決条件ということになる。

 番組はこういった議論になると思ったが、主として長時間労働の是正策に終止した。

 司会が長時間労働の是正が言われて久しいが、なかなか進まない原因を働き方改革の担当大臣となった加藤勝信に尋ねた。(発言は要約)

 加藤勝信「長時間労働は働き方の身体的な、精神的な影響が非常に大きいという認識が出てきています。更に家庭と仕事の両立、女性のキャリア形成に阻害がある。

 あるいは男性の家事参加・育児参加、あるいは少子化への影響、加えて経団連の会長自身が認めているのだが、生産性を高めていくことに対して非常にマイナスになっているという認識も強まってきています。

 また、これからの経済を考えるときに様々な方々の働きたい希望というものをどう実現していくか、それに真正面から捉えていかないと、日本のこれからの成長・発展はないと思います」

 司会者に長時間労働の是正がなかなか進まない原因を尋ねられながら、長時間労働が及ぼす悪影響の表面的な現状分析にとどまっている。

 経団連会長が長時間労働は生産性向上にマイナスだとの認識を持っている。

 だが、長時間労働が日本人の低い労働生産性を補って生産量を高めている関係性に気づかなければ、マイナスは表面的な解釈にとどまる。

 長時間労働に慣れさせることによって生産性の向上を二の次にしてきた側面もあるはずだ。

 渥美由喜(なおき)東レ経営研究所主任研究員「先程加藤大臣が長時間労働は生産性を挙げる上でマイナスになるとおっしゃったが、生産性を分母を時間、分子を仕事量と考えると、今までは時間を増やして量を増やす、そういう社員を今まで評価してきたが、これからは限られた時間の中で質を上げていくことが大切であって、こういう働き改革の抵抗勢力というのは、そもそも労働時間を減らしたら量と質が下がってしまうのではないかと不安があってなかなかやらない」

 抵抗勢力は今まで長時間労働で支えてきた質と量を生産性を上げることで労働の短時間化へ持っていくという発想がないのだろう。

 長時間労働の是正だけではなく、労働生産性の向上も久しく言われてきた。この両方共、他の先進国に遅れを取る状況をいたずらに続けるだけで、望む成果を達成できないでいる。

 その原因を究明しなければならないが、一向にそういった方向に議論が進まない。

 小室淑恵ワーク・ライフバランス代表「マネージメント層は長時間労働で成功しているから、その成功体験の強さがマネージメントに反映されている。マネージメント層とディスカッションすると介護という問題意識を非常に強く持っていて、長時間労働で得をするような企画が出てしまうと折角転換しようとした企業の阻害要因となる。

 (労働時間の)上限を設定することはフェアな競争をつくる上で非常に重要。自社が7時で店舗を閉めると、相手が8時9時で儲けてしまうということでは転換ができない。社会全体で合意して上限をつくることで、短い時間で高い生産性が勝っていく企業がきちんと仕事で勝って、損をしないというフェアな競争の土壌をつくるのが政治の役割だと思う」

 少々矛盾した言い方となっている。企業が自社労働者に対して高い労働生産性を持たせることができたなら、自ずと長時間労働を脱して、労働の短時間化に向かう。他の企業が従来どおりに長時間労働で対抗しようとしたとしても、いわば自社が7時で仕事を終了し、他社が8時9時まで残業しようとも、さして問題ではないことになる。

 要するに労働時間の上限を設けなくても、「勝っていく企業」となるための第一要件は高い労働生産性であって、上限を設けるとか設けないとかの問題ではない。

 小室淑恵は各出演者に与えられた冒頭発言で、子育て・育児は妻の長時間労働だけではなく、夫の長時間労働の改革、男性の働き方改革も非常に重要だと前置きして次のように発言している。

 小室淑恵「今まで女性が管理職に登用されてこなかった問題は男尊女卑で女性が管理職に登用されてこなかったと言うこと以上に働き方の足切りが大きかったんですね。

 管理職たる者24時間の責任を負えなきゃいけないというところで事実上、管理職に推薦してこなかったということが長く続いてきた。また本格的な仕事も任されなかった。

 その働き方の足切りの問題を解決しないと、女性の活躍というものは本当に進まない」

 小室淑恵は「今まで女性が管理職に登用されてこなかった問題は男尊女卑で女性が管理職に登用されてこなかったと言うこと以上に」と断って、日本人の思考様式・行動様式となっている地位の上の者が地位の下の者を従わせ、下の地位の者が上の地位の者に従う権威主義の派生である男を女性よりも上の権威とし、女性を男よりも下の権威に置いた「男尊女卑」の風潮を二番目の理由として、一番目の理由に「働き方の足切り」を持ってきている。

 権威は才能をイコールさせている。「男尊女卑」とはまた、男の才能は女性よりも優れ、女性の才能は男の才能よりも劣るとする才能の男女差別を意味している。

 女性を管理職のみならず、重要な仕事を任せてこなかった歴史は「男尊女卑」の風潮が男たちにそう仕向けていた歴史であり、最近任せることになったのはその風潮の色濃さから、その色が褪せていく歴史の変遷によるものでもあるはずだ。

 いわば出発点はあくまでも「男尊女卑」であって、そのことが誘発させている「働き方の足切り」であろう。

 現在ではパソコンやスマホでどのような情報も短時間に遣り取りができる。女性が会社から離れて家庭で子育て中だろうと家事のさ中であろうと掴まえることができ、管理職としての如何ような情報発信も可能である。にも関わらず、「管理職たるもの24時間の責任を負えなきゃいけない」などと言うのは男の優位性を男女の性別のみで証明しようとする権威主義の愚かしさの現れに過ぎない。

 東レ経営研究所主任研究員の渥美由喜が権威主義について示唆的な発言をしている。
 
 渥美由喜「ここ数年、若者の就職状況がかなり改善されてきた。バブル期並みに改善されたと言われている。入るまでは若者が企業を選ぶことのできる状況になってきた。

 入ったら、一挙に逆転されるというのは経験知のない若者がやはり会社では弱者であり、日本というのは儒教的と言うか、年功序列的なものが未だ凄く強いんで、逆らえなくて黙っているということが慢性化しているということです。

 長く続いている問題だと思います」

 だから、長時間労働に文句も異議も唱えることできず、従っている、なかなか長時間労働が改善されないということを言いたかったのだろうか。

 儒教は人間関係の上下の秩序を教えとする権威主義、年功序列も単に年齢と年齢に伴った経験を上の権威とする権威主義を構造としている。

 若者が有効求人倍率が改善されて希望に添う会社にいくら就職できたとしても、一旦会社に入ると上の年齢や地位を上位権威とする権威主義に絡め捕られて、例え矛盾する遣り方だと思っても、逆らうことができない。

 そのような権威主義の空気を吸っていくうちに次第に当たり前の遣り方となって、次に新入社員として入ってくる若者に同じ遣り方を求めることになる。

 まさしく権威主義の力学を仕事上の人間関係としている世界が浮かんでくる。

 権威主義は下の者が上の者に従う構造を取っていることから、下の者は上の者の考えや決定に従って行動することを意味する。逆説すると、自らの考えや思考に基づいて行動することとは逆の行動となる。

 特に真の意味での労働生産性は単に上に従うだけの行動からでは満足な形で生まれず、その場その場で臨機応変に自らの考えや思考に基づいて行動することによって満足な形を取っていく。

 こういったことが障害となっている労働生産性の低さであり、その結果としての長時間労働を招いているということであるはずだ。

 小室淑恵は長時間労働の是正に成功した企業、その結果夫が妻の育児・子育て・家事に参加し、二人目や三人目の子どもを希望するようになった例を挙げているが、渥美由喜の日本の企業が儒教的、あるいは年功序列的であるとする発言にもあるように日本の企業が権威主義に支配されていることからすると、小室淑恵が話す成功体験は中小企業に限定された成功体験の疑いが出てくる。

 大企業に於いてマネジメントを策定する上層部はそれを策定する会議の場に於いては自由に発言できる。だが、そこで決定したことを下に降ろした場合、下は上が決定したことに全員が無条件に従う。

 そういった慣行となっている。これが権威主義である。上が決めた決定に下は矛盾を感じようが何しようが、渥美由喜が言うように「逆らえなくて黙って」従う。

 だが、従業員の少ない中小企業の場合、会議に全員か、大半が参加できて、会議の場では、例外もあるはずだが、自由に発言できるから、そこで決定したことはほぼ従業員の希望が実現することになる。

 いわば意図せずに権威主義を無効とした自由な発言が、少なくともそれまで慣行としていた会社内の諸制度を改善することになっていく。

 だとすると、女性の活躍にも繋がっていく長時間労働の是正=働き方の改革は先ずは日本人の思考様式・行動様式となっている上が下を従わせ、下が上に従う権威主義からの離脱から入らなければならないことになる。

 既に触れたように権威主義から離れて、各個人が自らの考えで思考し、行動する。そのことによって労働生産性も向上していく。

 向上すれば、長時間労働は自ずと短時間化されていく。

 となると、気の遠くなるような話だが、学校教育で自分の考えで思考し、行動する権威主義から離れた学びを自ら習得していかなければ、真の働き方改革は始まらないことになる。

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