北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

防衛議論の一考察 陸上自衛隊アパッチロングボウ

2006-04-26 16:37:45 | 防衛・安全保障

■アパッチロングボウ

 先月より陸上自衛隊の評価実験隊により飛行試験が開始されたAH-64Dアパッチロングボウは本ブログにおいて写真を紹介したが、一機72億~103億円という高価格から現行の5.5個対戦車ヘリ隊の代替が危ぶまれている。

Img_0134  富士重工によってライセンス生産されたAH-1Sが最終調達価格で48億円(一機のみ調達された関係で生産ライン維持費が加算されたと思われる)は一般に高価であると印象付けたが、新しく調達されたAH-64Dは二機の調達価格合計が144億円と戦慄すべき価格であり、仮に16機の一個対戦車ヘリ隊を新編しようとすれば単純計算で1152億円という価格になってしまう。

 これでは流石に“RMAの達成に不可欠なミリ波レーダーによる高度な共同交戦能力”や“堅牢な機体設計による高度な生存性”、“戦略的運用が可能な作戦行動半径950km”という利点も価格と釣り合っているか、という視点からは問題も少なくはない。

Img_0329_1 一方で、空中打撃能力を有しない方面航空隊が独自作戦能力を維持できるかと言う問題もある。

 こうした中で、AH-64Dとの機種選考から漏れたOH-1のAH化や、AH-1Zの案が再び出されているが、OH-1改造案では機体規模が不充分である為機銃を搭載するにもエンジンの換装やフレームの再設計など大改造が必要となり非現実的であるし(自衛用の武装を向上させることは選択肢に含まれるだろう)、AH-1Zに関しても目下導入中のAH-64D調達を今さら緊急中止するという選択肢も考えがたい。こうして、対戦車ヘリ隊4.5個案や3.5個案が出される一方で、空中機動旅団と称される第12旅団や新編された中央即応集団にもAH-64Dは必要だという声が上がっている。こうなると、高価格である、という理由で中部方面隊や東北方面隊、東部方面隊に対する戦闘ヘリコプター隊は編成不可能となってしまう。

 しかしここで考えたいのは、二機で144億円という初年度の数字である。18年度予算では戦闘ヘリコプターAH-64D一機103億円、と明記されており、また価格が上がったのかという声も聞かれ、一部では更にAH-1S完全代替に対して悲観的な意見が上がったようだ。ただ、初年度の調達がロングボウレーダー搭載型と非搭載型とで二機調達された事を無視してはいけない。

Img_0320_2  富士重工やボーイング社からの公式なデータがあるわけではない中で恐縮だが、ロングボウレーダーの搭載型と非搭載型では大きな価格差があるということは想像に難くない。

 また、米軍が1998年ごろに実施した実働演習では、ロングボウレーダーの搭載比率で、同規模の任務を遂行した場合の損耗率が劇的に異なるというデータが出ている。

 実は、ロングボウレーダー搭載型と非搭載型はD型とC型に区分されていたのだが、いつの間にか非搭載型のC型がD型と呼称されるようになっており、その判別は外見以外にはつきにくいのが実情である。しかし、18年度調達の103億円の機体がロングボウレーダー搭載型であれが一端が解明されてくる。

Img_0407  即ち、二機144億円の内、ロングボウレーダー搭載型が100億円前後であり、非搭載型は40億円前後ではないかという可能性である。事実であれば、対戦車ヘリ隊の数的水準維持に大きな光明が開けたこととなろう。

 というのも当然ながら配備数が増加すれば初年度調達期から数年間の整備器材に関する予算が不要となるし、また、40億円ならば、AH-1Sの平均価格よりは高いものの、OH-1の1.8倍程度である。確かに実戦環境を考慮すれば生存性に大きな影響が考えられるものの、数的水準維持を優先すれば以下のような結論が出る。また、受信のみとなるが共同交戦能力の高さは変わらず、航続距離にも変化はない、言い換えれば索敵能力が低下するのだが、それでも夜間飛行能力が高い事から現行のAH-1Sよりも高い事は確かである。また、CIWSやRAMなどのように海上自衛隊が良く行う“後日装備”の調達体系を考慮すれば、ロングボウレーダーを“後付”的に調達する事も選択肢に含まれよう。

 加えて、一個飛行隊定数が現行の16機から12機に減少するため、5.5個飛行隊を維持した場合でも必要機数は66機、更に中央即応集団に8機を配備しても総数はAH-1Sの調達数と比較して大きく低減される事となる。

Img_0132  他方で、ロングボウレーダー搭載型の必要性も挙げなければならない。飛行隊数維持の観点から妥協するものの、その必要性に関しては些かもかわらないことを挙げたい。いわば、情報の相互交換により戦闘を実施していくことが共同交戦という概念であり、従来の普通科や機甲科、特科や航空科による“共同作戦”という名前の暫定的統合、若しくは事実上の独立した戦闘行使から、実態的恒常的に統合した戦闘がRMAにおいて求められる戦闘である。これにより、敵情観測は従来機甲科の偵察隊や普通科連隊の情報小隊の専管事項のように挙げられていたのが、近接戦闘に当たる普通科、直接火力戦闘に従事する機甲科を含め全職種が敵情をデータリンクにより発信受信する相互作用の中に組み込まれる事を意味し、航空科にしても例外ではない。対して、AH-1Zのような光学索敵システム主体のヘリコプターでは、アナログにより入手した戦闘情報のデジタル化を行わなければならず、この間のタイムラグが大きい(AH-1Zもカタログ上はロングボウレーダーを搭載可能で、搭載すれば状況は異なる)。

Img_6987_3  戦域情報収集では、フランスのユーロコプター社がAS332に戦域情報レーダーを搭載し、米空軍もE-8戦域情報収集機を開発したが、前者は携帯SAMにより容易に無力化される恐れがあり、後者も絶対航空優勢を恒常的に維持できる状況がなければ機能しがたい。この点、AH-64Dであれば、武装した戦場情報収集機としての能力を有する。

 RMAという変革を考えればそれだけ、そのポテンシャルの高さを痛感させられる重要な装備といえよう。

HARUNA

(本ブログの本文及び写真は北大路機関の著作物であり無断転載は厳に禁じる)

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