■戦車の時代は終わったのか
幾つかの駐屯地祭を巡りつつ、いわば無駄話零細時間の有効活用として、自衛官の方々と色々な話をしてみる。陸上自衛隊は転換期にあり、ハード面では60式装甲車、60式自走無反動砲、35㍉高射機関砲L90というような装備が第一線を退き、解体、または永久展示という第二の人生に移行する中、装軌式車輌や戦車、特科火砲から軽装甲機動車のような装輪装甲車を主体とした編成への移行が今後の陸上戦闘において不可欠であるとのお話を方々で伺っている。
軽装甲機動車は、乗車戦闘を念頭に開発された四輪駆動の小型装輪装甲車で、小銃弾に対する防御力と高い路上機動力を備えている。年間200輌前後が陸上自衛隊へ配備され、警備用に航空自衛隊も配備を進めている。
既に小生が確認した限り、第十師団隷下の35、14、33、49普通科連隊、第三師団隷下の36、7、37普通科連隊一部中隊に配備されており、全国的に配備が進められているようだ。車輌はMINIMI分隊軽機銃座を有する車輌と、01式軽対戦車誘導弾と89式小銃を用いる車輌の二両で一個小銃班を構成する。
冷戦時代から陸上自衛隊の予算が、戦車の更新、地対空ミサイルホークの近代化、ヘリコプター関係予算に重点配分された関係で普通科部隊の装甲化が遅れていたが冷戦後になり漸くこの点が是正されたといえよう。
一方で、新防衛大綱制定後、戦車勢力を冷戦時代の半分にまで削減され、第13戦車大隊は戦車中隊へ、第五戦車大隊、第三戦車大隊が戦車隊に格下げとなっている。同時に特科連隊も特科隊などへの改編が行われ、一部では普通科連隊を連隊戦闘団に組織する際に全ての普通科連隊に対して戦車中隊や特科大隊を配属させる事が非常に困難な状況となった閉まっている。
隊員の方々のお話では、普通科連隊が中心となる連隊戦闘団では、戦車の数量がある程度少なくても任務遂行に支障は無いといい、かつて各普通科中隊の無反動砲小隊に配属されていた60式自走無反動砲に対しても、近接戦闘に際しては展開が困難で用途が限定される、との話であった。
また、戦車の脅威に対しては、普通科隊員の方のお話では、専ら対戦車ミサイルによって対処可能との話であった。
1973年の第四次中東戦争以来、戦車が固定陣地を攻撃する際には歩兵による対戦車火器駆除を充分行わないうちに戦闘を行えば大きな損耗が生じる事が戦車戦闘における大原則となっている。
2000年代に入り、01式軽対戦車誘導弾や96式多目的誘導弾といった新装備配備が行われた 普通科部隊からすれば、あくまで小生が会話の端々から推測したものではあるものの、進出に時間が掛かり、秘匿性に問題のある戦車の重要性は下がっているといった感じさえ受けた。
■ゲリラコマンド対処
陸上自衛隊では、1999年における北朝鮮工作船浸透事案のあたりから、ゲリラコマンド対処の重要性が提唱され、新しい脅威への対応をスローガンに、都市部における閉所戦闘や、少数の特殊部隊浸透に対して対遊撃戦を以て無力化する訓練が全国規模で展開されている。
また、こうした風潮は普通科部隊だけに留まらず、誌上報道を参考にするならば普通化連隊の訓練に要員を参加させる形で機甲科や特科、はたまた需品科や輸送科というような後方支援職種の隊員までも近接戦闘に対応する訓練を展開しているという。
イラク人道復興支援派遣任務には施設科や輸送科というような後方支援職種が任務遂行上の主力であり、また本来業務格上げとなる国際貢献任務に際しても、スーダン派遣など一部で囁かれるように今まで以上に緊張度の高い地域への派遣の可能性が上げられ、従来型の野戦特科による撹乱射撃、攻撃破砕射撃による漸進的攻勢防禦、機甲科・普通科による突撃破砕射撃、特科による攻撃準備射撃の下で機甲科による敵防禦線の無力化と続く普通科による突撃占領というような戦闘形態は過去のものになりつつあるというような印象も受けなくは無い。
屋内に立てこもるテロリストの排除というような状況であれば、確かにヘリコプターや軽装甲機動車で防禦の下で接近し、屋内に進入、市民への損害を避けつつ至近距離にて89式小銃や9㍉拳銃を発砲、無力化するという構図に納得がいこう。
しかし、単一の建造物に立てこもるテロリストや都市ゲリラの対処殲滅は司法警察業務に含まれるならば警察の機動隊銃器対策班や特殊急襲部隊SATの任務となる。無論、都市部における陸上戦闘は充分予想されるものではあるが、これは正規軍同士によるものを重点とし、都市ゲリラに対するものは傍流としなければならない。即ち米軍のファルージャ攻略のような都市部全域における地域制圧が主任務の際に市街戦は必要となり、また国際貢献活動における後方支援部隊の自衛に関する訓練が主体となる必要のほうが大きいのではないだろうか。
他方、重要施設防護や野外における対遊撃戦闘の重要性は痛感する。普通科は近接戦闘と地域占領に際する全般戦闘を受け持つものであり、当然そこには対遊撃戦も含まれるものである。
だが、こうした中では普通科万能という考え方には賛成しにくい。というのも、直接火力支援に際しては朝鮮戦争における高地争奪戦やヴェトナムにおける市街戦、イラク治安作戦における戦車の治安作戦対応など、圧倒的な防御力を有し、高い夜間監視能力とを兼ね備える戦車の重要性は些かも減少してはいないと考える訳だ。
少なくとも、原子力発電所などの重要施設防護に関しては重要な地区に戦車を置けば携帯対戦車火器を有する特殊部隊がその有効射程距離に入る前に発見する事や、また土嚢などにより防護策を講じていれば第一撃での被無力化も防ぐ事が期待できる。
直接照準にて戦車砲を正確に発射する戦車は、本質的には練度が高いだけの軽歩兵である特殊部隊にとっては天敵というべき存在であり、同様に装甲戦闘車が運用する正確な照準の下での機関砲も脅威である。
また、市街地においても明確に敵の位置が把握されている場合を除き、例えば待伏のような突発的戦闘に際しては防御力の高い戦車の重要性が上がる。加えて対戦車榴弾を選択すれば貫徹力が限定されている関係で都市ゲリラが構築した応急銃座が置かれた部屋に被害を限定して無力化が可能である。つまり、ゲリラコマンド対処には、戦車もかなり有力な装備となる事を此処に明記したい。
■戦車の本質の再考
戦車とは、陸上戦闘に際してその衝撃力と機動力、全天候作戦能力を併用し、機動打撃の主柱として、また地点防禦の要衝として用いられるものであり、その地域突破能力と衝撃力では他の比肩し得る装備を見ない。
そもそも、戦史においては敵戦車を如何に無力化するかが重要であり、イラク戦争においてもカルバラ地峡殲滅戦において米軍の欺瞞情報に際して進出してきたイラク軍共和国防衛隊機甲部隊の撃破がバクダッド攻略の最後の一手となった。
対戦車ミサイルが対戦車戦闘の決め手のように言われるがこれは誤解で、戦車は30㌢程度の直径の樹木であれば連続突破する事が出来る。74式戦車では過去に主砲後座防止措置が充分ではなかった為森林地帯突破時に主砲が樹木に当たり後座し、死亡事故に発展した事があるが改善されたと聞く。
森林地帯であれば、レーザー誘導方式のミサイルであれば乱反射で、有線誘導方式のミサイルであればワイヤーの絡まりにより誘導は非常に困難であるし、そもそもミサイルが樹木に衝突し命中以前に爆発飛散してしまうだろう。発射位置をブラストで発見されれば戦車は同軸機銃により対戦車火力を無力化してしまうだろう。
また、平野部においても熱線暗視装置を充分に保有していなければ濃霧時に戦車を発見する事は出来ず、逆に戦車に捕捉されてしまう危険がある。夜間も暗視装置の性能では携帯式よりも戦車に搭載された車載式のものの方が索敵距離が長く、先に発見される危険がある。しかし仮に我がほうに戦車があれば、徹甲弾を送り込み、撃破が可能である。
対戦車ミサイルを運用する側に煙幕を通して敵戦車を発見する能力が無ければ対応は不可能となり、煙幕が晴れるまでの間待たなければならない。戦車に第三世代戦車が標準装備する熱線暗視装置があればその間射撃が可能であるし、搭載していなくともその間に退避し、態勢を立て直すであろう。このように、対戦車火器は防禦時の受動的な手段であるとの認識をするべきであろう。
対戦車ヘリコプターと戦車の関係であるが、確かに戦車は分が悪い点が否めない。自走高射機関砲が同行していなければ携帯SAM、若しくは仰角が間に合えば戦車砲、射程が短く気休めだが機銃位しか有効な対処法が無い。
しかし、ヘリコプターには全天候作戦能力が限定されているものが多く、戦車も既にイスラエルでは主砲発射対空ミサイルの研究が進んでおり、大型散弾というべきフレシット弾であればヘリコプターへも対処が可能となろう。技術は完成と同時に陳腐化がはじまり、言い換えれば完熟となることはない。
対して、根本的な疑問として、わが国に侵攻する仮想敵が戦車とともに上陸してくる可能性があるかとの疑問に対しては、“敵が上陸する”という仮定があるならば、“戦車とともに上陸してこない確証は何か”という問いを返したい。
HARUNA
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