観艦式は艦艇部隊に続き、観閲飛行へと進んだ。停泊式ではなく、洋上式観艦式ならではの航空機と艦艇の協同展示を本日は掲載する。
指揮官機として観閲飛行の先頭を務めたのは評価試験機UP-3C。
装備の評価試験を行う為に1994年に導入された航空機で、哨戒機P-3Cに搭載されている対潜戦闘用の器材を情報処理用機器へ換装したもので、厚木基地の第51航空隊に一機のみが装備されている。試験機独特のカラーリングが特色で、機種にはテスト用のピトー管が伸びている。
観閲飛行第一群はSH-60J/K哨戒ヘリコプター3機が務めた。パンフレットにはJ/K型とあったが、写真を見る限りでは全てJ型のようだ。SH-60Jは米海軍のSH-60Bを基に対潜戦闘器材を国産のものに改めたもので、艦載型・陸上配備型91機が7個隊に配備されている。一個護衛隊群に8機のヘリコプターを配置することで、常時2機を飛行させることが可能となり、海上自衛隊が伝統的に重視してきた対潜水艦戦闘においては潜水艦を常時上空から監視し、行動を抑制する。
SH-60Jの対潜戦闘システムは戦術情報処理システムHAS-118というもので、防衛庁技術研究本部が総力を挙げて取り組み、苦心の末完成させたもので、自機の位置と速度、方向、風速と風向、潮流などを評定しソノブイ投下を自動的に展開、この状況を碁盤目状のデジタルマップ上に正確に表示し、効率的な対潜戦闘が可能である他、水上艦艇とのデータリンク能力も充実しており、1990年より実用段階に達している。
第二群はMH-53E掃海輸送ヘリコプターの三機編隊による飛行展示である。
航空掃海能力を整備しているのは日米とロシアのみで、掃海艇と同じ音響掃海・繋維掃海・磁気掃海が可能である。ある幹部に聞くとやはり触雷の危険性が無い航空掃海は有効であり、欧州など世界の海軍が導入しないというのは非効率的とお話をうかがったことがある。ただ、水圧感応機雷には航空掃海は対応していないという欠点がある。
総重量31.6㌧、全長30.2㍍に達する機体は西側最大のヘリコプターであり、米海軍の公表写真では15000㌧級のドック型揚陸艦を曳航する写真もある。海上自衛隊へは1989年より10機が、岩国航空基地の第111航空隊に配備されている。しかし、老朽化の進行や三発機という機構上の問題もあり、今年度より後継機のMCH-101掃海輸送ヘリコプターの導入が開始されており、将来的にはMCH-101へ代替される見込みである。
第三群として陸上自衛隊よりCH-47J輸送ヘリコプター三機編隊による飛行。木更津駐屯地の第一ヘリコプター団よりの参加である。なお、陸上自衛隊の飛行展示は既報の通りヘリ事故により九月上旬から全面的に自粛されており、観艦式での飛行展示は恐らく例外的なものであったのだろう。ちなみにパンフレットにはJ型とあるが、編隊を見ると、先頭の一機が夜間飛行も可能なJA型で、後方の二機がJ型であることがわかる。
第四群として、練習機TC-90による四機編隊飛行。パンフレットには五機編隊とあったが、予行では四機となっていた。ビーチクラフト社製で計器飛行練習機として用いられており、1973年より導入開始、現在、徳島航空基地の第202教育航空隊に24機が配備されている。また、LC-90連絡機として三個航空隊に5機が配備されており、この他UC-90一機が202航空隊において国土地理院の委託による地図作成任務に当たっている。
第五群として、救難飛行艇US-1Aの三機編隊が飛来した。高いSTOL性能を有し、担架の負傷者12名を収容可能である。世界最高の飛行艇といわれ、波高3.5㍍までは離着水可能とされる。ただし、救命ボートを下ろしての飛行艇からの救助活動は波高2㍍を越えると極めて難度があがり、特に波高3㍍の状況下では、機体下に吸い込まれる波浪との格闘が困難を極めるという。ただし、海上保安庁や自衛隊の救難ヘリコプターの航続圏外にての事故には本機が文字通り最後の希望となる。
新明和工業により1974年から2005年までに20機が生産され、岩国航空基地の第71航空隊に7機が配備されており、この内一機が厚木航空基地に待機している。ちなみに、任務は毎年70日程という厚木待機中が一番厳しく五泊六日、禁酒無外出で待機するという。1000マイル以内の救助救命を定めたSAR条約批准以降、特にUS-1Aへの期待は高まっているが、コックピットなどは従来のアナログ式で新しいとはいい難く、新型のUS-2の評価試験が進められている。
第六群のP-3C哨戒機三機編隊による飛行。海上自衛隊の主力対潜哨戒機である本機は、アメリカのロッキード社が生んだ世界最高の対潜哨戒機で、厚木航空基地第四航空群よりの参加である。1981年より配備が開始され1997年までに100機が海上自衛隊に納入されたが、周辺情勢の変化などに伴う防衛大綱改訂により、一部機体をモスボール保存しており、現在は10個航空隊に80機が配備され、運用されている。
短魚雷/対艦ミサイル8基を運用可能な本機は1~69号機は米軍のアップデートⅡ仕様で生産され70~100号機は最新のアップデートⅢ規格となっており、加えて捜索レーダーや衛星通信装置、チャフフレア発射装置の配備も進められている。現在、川崎重工岐阜工場において次期哨戒機の開発が進められており、進出速度や航続距離が大幅に向上する見込みであるが、その際のモスボール機は、特殊用途機に改造されるのか、廃棄されるのかに興味が持たれる。
第七群には小牧基地第一航空輸送隊よりC-130H輸送機が参加した。P-3Cと同じくチャフフレア発射装置を装備した本機は、今この瞬間もイラク・クウェートにおいての対テロ戦争輸送支援に当たっている。薄いブルーの機体は中東地域の空に溶け込む迷彩効果を目指したもので、詳細は北大路機関掲載の小牧基地航空祭をご覧いただければ幸いである。今回は一機のみの参加であったが“群”というからには複数機の参加が望まれる。国際人道支援任務に不可欠な航空機である。
第八群は航空自衛隊三沢基地の第三航空団より飛来したF-2A支援戦闘機。対艦ミサイルASM-1/2を4発搭載する本機は水上打撃能力の根幹を担うもので、有事の際には護衛艦隊を上空から支援する。F-2は、当初130機導入の予定であったが、周辺情勢の変化に伴い98機に導入が下方修正されている(ただし、103機まで調達するのではないかとの見方もあるという)。写真を見ると他の航空機よりもやや高い高度を飛行していることがわかる。
本機の新機軸としては、アクティヴフューズドアレイレーダー、一体型複合素材主翼、電子妨害装置・電子測定記録装置・チャフフレア発射装置・脅威度合測定システムを統合した統合電子戦システム、国産フィライバイワイアー操縦制御装置などが挙げられる。なお、F-1支援戦闘機の代替としての生産は、三個飛行隊分は満たされる見通しで、教育所用の機体と損失予備機の機数が削減される見通しである。ただ、F-2の日米共同開発の意義は大きく、現在技術研究本部では先進技術実証機の研究が進められている。
観閲飛行最後に当たる第九群は、F-15J邀撃機三機で、これによりにより締めくくられた。F-15Jはいうまでも無く航空自衛隊の主力要撃機で、単座型であるJ型と複座のDJ型を併せ8個飛行隊に213機が配備が配備されている。機体は百里基地に展開する第七航空団のもので、F-15Jは千歳基地・百里基地・小松基地に二個、築城基地・新田原基地にそれぞれ一個要撃飛行隊を展開させ、本土防空に当たっている他、近年、那覇基地の第83航空隊に第七航空団一個飛行隊と交代する形でF-15Jが配備されるとみられている。
こうして八群からなる艦艇による観閲部隊、受閲部隊の反航に引き続き、九群からなる観閲飛行が幕を閉じた1240時、相模湾西部にて艦隊は白い航跡を水面に浮かべつつ波濤を蹴立て、一斉に回頭をはじめた。観艦式は観閲飛行を終え、いよいよ訓練展示へと進むのである。
HARUNA
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