◆近海練習航海部隊・外洋練習航海部隊、出航
くらま、かしま、洋上に居並ぶ艦艇、祝賀飛行が編隊で練習艦隊上空を飛行すると時を重ね、いよいよ艦隊は出航へ。
練習艦かしま、がゆっくりと江田島湾を進み始めます。練習艦隊司令官淵之上英寿海将補が座上する旗艦を中心に、五隻の練習艦と護衛艦が近海練習航海部隊、外洋練習航海部隊としていっせいに江田島湾から太平洋へ向け、大きな門出をはじめたところ。
江田島基地dの幹部候補生課程は文字通り分刻み、予定が目一杯組まれていることから秒刻みで駆け足と号令の連続、これが教育課程における基礎行動であり他に履修すべき課程を当然こなさなければなりません。彼ら彼女らは陸でこれを修め、修了し、今海へ。
しかし、海上勤務、特に幹部候補生課程を経て海上に出た要員は幹部自衛官としての道を歩まねばならず、陸上の文字通り机上で叩き込まれた行動とその規範性を実行に移さねばならない、これが艦隊勤務です。机上の実技を洋上で活かす、それがこれから。
海上自衛隊は自他ともに認める世界最強の海軍に数えられた旧帝国海軍の伝統を受け継いでいます。そして今日、海上自衛隊は決して十分ではない防衛力を以て我が国の防衛と海上交通路の反故、国際公序としての海洋の自由を防護するステイクホルダーの一員として勤めねばなりません。
海上自衛隊の教育は素養教育と練成訓練を柱として、全ての階級がそれに応じた教育を受けます。幹部候補生学校では訓育と体育に陸上警備と服務や体育を履修し、実習幹部へと練成されます。その後術科学校で専門教育を受けるのですが、指揮官だる以上、全ての職域を概ね指揮できなければならずこれが大変です。
当方が初めて聞いたときは相当驚いたのですが、海上自衛隊の幹部自衛官は特定の特技を有しつつ、航海や火器管制に船務等など、様々な任務を転属と共に切り替えて運用と指揮を経験するため、未経験の部署に配属されること基本で、未経験分野では失敗を重ねれば文字通り人命に係るだけに海士長に幹部自衛官が罵倒される状況もあるとのこと。
しかし、事情を知れば納得するのですが、幹部自衛官ではなく曹士の教育は職域のプロを養成するもので、非常に緻密綿密です。課程だけで海士初級課程、海曹普通科、海曹高等科、海曹士特修科、海曹士専修科と分かれ、この江田島だけでも、攻撃、船務、運用、射撃管制、潜水、輸送、電子整備など60近い分野で専門要員を養成していますので、海曹海士は全員特定分野のプロなのです。
もちろん、初級幹部も徒手空拳で専門書だけを相手に学ぶのではなく、初級幹部専門課程は第一術科学校で通信と気象海洋、第二術科学校で機関と技術、第三術科学校で航空特技九分野、第四術科学校で経補を、それぞれ専門教育を徹底して受けます。
幹部自衛官の教育は初級幹部では以上の通りですが、全ての術科学校が中級幹部特技課程、幹部専攻科課程、幹部任務課程、幹部特修科課程、幹部専修科課程を置いており、教育は責任が大きくなると共に身に付けなければならない分野が広がります。言い換えれば、幹部候補生課程とは、一生涯学び続ける素養の定着を図ることが目的なのかもしれませんね。
上記の課程を経て、幹部自衛官は幹部候補生学校を受験する資格を得、指揮幕僚課程と幹部高級課程と幹部特別課程を受けます。受験回数に制限がありまして、記憶するというような資格試験や受験勉強ではなく文字通り身についているのか、という部分が試験で徹底して選抜されるとのこと。
海上自衛隊はこうして幹部学校において艦というシステムの指揮官を艦隊という海上防衛システム全体の運用者に叩き上げ鍛え上げ、以て日本海上防衛という我が国最大の地球防衛システムを動かす部隊指揮官を養成します。つまり、幹部候補生課程修了とは、この壮大な道筋の入り口に立った、という訳でもあります。
もちろん、上に上に行くことは目的ではなく手段ですので、その分野のエキスパートとして部隊を高めるという職責もあり、そのシステムは旧帝国海軍の教育体系に海上自衛隊創設に際し問題点を是正するべくアメリカ海軍の様式を併せ組み上げたもの。
いわば、“人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり”を地で行くもので、海上自衛隊の最強の戦力とはイージス艦でもヘリコプター投資あ護衛艦でも哨戒機でもAIP潜水艦でもなく、人的資源とこれを練成する体系、ということができるわけです。
旧海軍空の大木は革新点として、旧海軍では軍令部と第一線部隊指揮官の感覚乖離が指揮統率の限界を生んだという関係から、幹部自衛官は部隊指揮官と幕僚勤務を交互に配置する人事を行っている、とOBの方に教えてもらいました。先の大戦で時として人席させられる部分には海上自衛隊は手を打っているわけで、なるほど。
もっとも、人間どの分野でも一生勉強生涯修身、とは教授の御話しでありましたが、なるほど、これが制度化されている、ということなのですね。登舷礼、文字通りこれから海上自衛隊の幹部自衛官として学び続け経験を積み重ねる端緒についた実習幹部の門出、意味は大きい訳だ。
こう書いて言った上で、お気づきの方は多いと思うのですが、撮影位置、失敗しました、艦隊が一列になる位置を探して歩き回った訳なのですけれども、なんとなくこの場所は真正面ではないという事に気づいた、外海に近い場所に行き過ぎたらしい。
ううむ、やってしまったか、高田港付近がいいのかもう少し移動した、先ほど高台から撮影した帰路にもっと良い場所があったのか、初めて展開した江田島だけに撮影位置選定に見誤った。もっとも、五隻一列にはならない狭い湾内、これはこれでいい写真だとも思うのですが、ね。
こうして、練習艦隊は出港を開始しました、遙か遠い投錨地に望見した練習艦と護衛艦が目の前に近づいてきました。近海練習航海部隊と外洋練習航海部隊が目の前に、その様子は次回掲載することとします、お楽しみに。
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