◆イージス艦2隻増備を中心として
本日は前回について25大綱と注意防衛力整備計画について海上自衛隊の部分を見てゆくこととしましょう。
海上自衛隊は今回の新防衛大綱に際し、平時においては常続的監視能力を以て周辺地域における防衛警備を担い、有事における海上航空優勢確保及び弾道弾攻撃への対処という従来の防衛力の延長において改編を行う方式が示され、数的増勢が重視される模様です。
数的増勢は、現在進められている潜水艦の16隻体制から22隻体制への転換が継続され、同時に護衛艦定数も現状の48隻定数から54隻体制へ、6隻の増勢となります。決して大きな増勢ではありませんが、新防衛大綱は十年単位での防衛政策を示しているとされ、今後十年でこれだけの勢力、という数値目標が明示されたことは評価されるべきでしょう。
中期防衛力整備計画において特に提示されているのは洋上広域防空能力を有し、弾道弾迎撃任務においての最重要迎撃装備となるイージス艦二隻の増勢で、現在のミサイル護衛艦こんごう型4隻、あたご型2隻に加え新型イージス艦2隻を整備し、旧式化したターターシステム艦であるミサイル護衛艦はたかぜ、しまかぜ、を置き換える方針を示しました。
中期防衛力整備計画では更に、ヘリコプター搭載護衛艦くらま、の後継としてヘリコプター搭載護衛艦いずも型二番艦を建造、1973年はつのヘリコプター搭載護衛艦はるな、より始まった4隻の従来型ヘリコプター搭載護衛艦を4隻を全て全通飛行甲板を備えた新型に置き換える事となります。
一方、実質的な今回の防衛大綱改訂の目玉は護衛艦定数が現在の防衛大綱に明示された48隻から54隻に、一応1995年の水準であった約50隻の水準へ回帰したことが挙げられるでしょう。当初10隻程度の増勢が提示されていましたが、旧式艦の置き換えと増勢を同時に行うための現実的数値、という事なのでしょう。
新しい護衛艦は、従来の護衛艦よりも小型化し、拘束力と沿岸での運用能力を高めたものを装備するとしており、アメリカ海軍の沿海域戦闘艦と似た艦船の整備を想定していると考えられています。他方、沿海域戦闘艦は高速性能を重視する為燃費に問題があり、満載排水量で3000t程度と大型ですが、基本武装が限られており換装により任務に対応します。
このため海上自衛隊が装備する新しい艦艇というものは、換装用武装等の調達を慎重に行わなければコストが増大する可能性があり、更に高速度を発揮する機関出力や技術の関係上、建造費は6000t級護衛艦と同程度のものとなっており、日本はどのように開発するのか、技術研究本部の研究成果を待ちたいところ。
ただし、忘れてはならないのは、小型の沿海域戦闘艦としての護衛艦が護衛艦定数54隻のうち32隻の大型護衛艦のほか、22隻整備されることとなります。イージス艦2隻とヘリコプター搭載護衛艦1隻の建造は明示されていますが、このほかの艦艇整備はどうなるのでしょうか。
除籍時期の関係上、はつゆき型護衛艦、あさぎり型護衛艦の後継艦は、護衛隊群所要20隻を見ますと、むらさめ型9隻、たかなみ型5隻、あきづき型4隻がありますので、新型の25DDの2隻建造、それ以外の既存型護衛艦建造は一旦停止し、小型護衛艦として沿海域戦闘艦の整備に一本化する、という事なのかもしれません。
潜水艦増勢について、民主党政権時代の防衛大綱改訂に際して、従来の潜水艦16隻体制を、潜水艦運用年数を練習潜水艦を含め18年程度と非常に短期間で置き換えていた部分について、建造数を維持しつつ24年程度での交代を見込む方針へ転換し、22隻体制へ強化することが盛り込まれていました。
しかし、これが現時点で実施されていない背景には、最新型潜水艦そうりゅう型、前の潜水艦おやしお型に対し、それ以前の潜水艦はるしお型が経年劣化による潜水性能への戦術的影響が未知数であるとされたため、おやしお型潜水艦以降を24年間運用とした経緯があります。
従って、16隻体制から22隻態勢への増勢は、はるしお型潜水艦の除籍を以て本格化する事となりますので、これは新中期防衛力整備計画より、潜水艦の除籍が延命により中断し、新造潜水艦と共に潜水艦勢力が22隻体制に向けて強化されることとなるのでしょう。
基幹部隊は潜水隊数が現在の5個潜水隊体制から6個潜水隊へ、護衛隊については4個護衛隊群8個護衛隊体制はそのままですが、その他部隊は5個護衛隊から6個護衛隊へ増勢される方針が示されました。護衛艦6隻増勢が1個護衛隊増勢、潜水艦6隻増勢も1個潜水隊増勢、とは少々不思議ですが定数との関係と考えられます。
航空集団の作戦機数については、現状の通り170機体制が維持される方針で、反面、従来のP-3C哨戒機を新型のP-1哨戒機へ、従来のSH-60J哨戒ヘリコプターをSH-60K哨戒ヘリコプターへ、それぞれ近代化する際、質的近代化と共に量的縮小を行う方針、当初はこうした方針でした。
質的向上とは高性能となった部分を機数の縮小により律的に量的縮小を補うことが出来た、という構図が成り立っていたのですが、これが転換、80機を60機へ、というように実施する方針が示されていたのですけれども、170機体制が維持されるため数的優勢を、というようになったもよう。
この点について、防衛省の中期防衛力整備計画には、既存航空機の延命改修を行い勢力を維持するとの方針が出されていますので、調達数が予算不足により十分な代替機を確保できないという状況にあっても、延命により除籍数を抑え、就役数の部分だけを純増させることが出来る公算とかんがえます。
機数の維持は実任務である哨戒飛行の頻度増大を示すものでして、これは他の装備強化と併せ、周辺情勢の緊迫化という防衛力強化の背景が如実に表れている、という事なのでしょう。他方、航空機延命改修は近年海上自衛隊で広く行われていますが、陸上自衛隊の他のヘリコプターに対しても実施する必要性はあるかもしれませんね。
輸送艦については、中期防衛力整備計画において既存の輸送艦おおすみ型3隻の改修が計画されています。改修は想定されるものとして搭載揚陸艇増勢や管制能力に航空機運用能力強化といったものから、船体延長改修までいろいろとありますが、何らかの措置が行われるのでしょう。
他方、防衛省が求めている統合輸送能力整備について、既存の輸送艦3隻体制では即応待機艦が1隻しか確保できないため、一応の構想としては大型輸送艦の建造が検討はされているといわれています。中期防衛力整備計画には盛り込まれていませんが、次期中期防には盛り込まれる可能性が残るところ。
輸送艦は、陸上自衛隊の水陸両用部隊創設に際し、その輸送能力として重要な意味を持ちますが海上自衛隊の輸送艦は揚陸用であり、着上陸を担う装備では不足する部分があります。特に輸送艦は大型のものを整備してきていますが、揚陸艇が多用な任務に耐えられるかが疑問であり、此処は課題と言えるもの。
このほか、掃海部隊等は現行水準が維持されることとなります。しかし、木製掃海艇からFRP製掃海艇へ転換したため、耐用年数が増大し、その分年間の建造数を将来的に抑えられることを意味しますので掃海艇建造費については他の装備品へ予算を充当できる部分となるかもしれません。
他方、沿海域戦闘艦は米海軍では機雷対処性能を盛り込んでいます。海上自衛隊が新しく導入する小型護衛艦がどのような任務に対応する性能を付与するかは現時点で全くの未知数ですが、この部分において掃海艇の任務との分担をどうするのか、今後の情報を待ちたいところです。
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)