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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

アメリカ軍,シリア空軍基地をトマホーク攻撃!アサド政権サリン使用へトランプ大統領の決断

2017-04-10 22:55:25 | 国際・政治
■トランプ大統領,シリア制裁
 アメリカ軍がシリア軍航空基地をミサイル攻撃しました、先日発生したシリア軍による自国民への神経ガスサリン使用への制裁措置です。

 シリア軍が同国北西部イドリブ県のハーンシェイフーンを空爆した際、神経ガスが使用され多数の非戦闘員を殺傷した事案に対し、シリア軍へのミサイル攻撃を実施しました。イドリブ県は2011年から続くシリア内戦にて、シリア政府が反政府武装勢力と位置づける支持基盤とされ、このシリア軍による攻撃はロシア国防省も把握していると発表しました。

 サリン、シリア軍の神経ガス攻撃、航空機から化学剤を充填した化学爆弾が投下され、ロンドンを拠点とするシリア人権監視団の発表によれば、子供20名を含む72名が死亡し、多数の重軽症者が出ていると発表しました。サリンは神経伝達を阻害する毒物であり、致死量は僅か、吸気により視神経と自律神経を冒し呼吸系統と心筋を破壊し死に至らせます。

 神経ガスは北朝鮮がマレーシアにおいて要人暗殺にVXガスを散布した事件や20年前に東京でカルト教団オウム真理教による地下鉄サリン事件で使用されたとご記憶の方も多い事でしょう。神経系統を破壊し死に至らずとも視神経破壊筋肉系統半永久的不随等極めて残忍な結果を残し、アメリカのトランプ大統領は“一線を越えた”とし激しく非難しました。

 シリアのアサド政権は、今回の神経ガス使用前まで、アメリカのオバマ政権時代のアサド政権退陣第一から、トランプ大統領によるISIL制圧優先に基づく政権存続の可能性示唆により生き残る可能性が見えていました。2011年からのシリア内戦において元々この内戦はアサド政権退陣要求への武力制圧が内戦へ発展したものなのですが、これが一転しました。

 サリンガスはシリア軍に配備されていたのか。この点は2003年のイラク戦争においてイラク軍の大量破壊兵器存在を理由として当時のアメリカブッシュ政権が開戦に踏み切り、その後大量破壊兵器が見つからなかった、実際には2004年に遺棄大量破壊兵器が発見されましたが、イラク戦争のような脅威見積を過大としたのではないかとの視点はあるでしょう。

 しかし、2013年にシリア政府軍は一度、サリンガスを反政府勢力に対し使用した先例があります。当時のアメリカオバマ大統領は強く抗議し、シリア空爆寸前までの状況に至りましたが、ロシアがシリア大量破壊兵器廃棄協力を申し出、ロシア介入によりアメリカはシリア空爆を、開始前に中止します。空爆開始は2015年まで踏みとどまる事となりました。

 アサド政権の大量破壊兵器破棄、ロシアが監視し、確実に除去されたと発表されましたが、国際的な査察は行われていません。その後にシリア軍は塩素ガス等窒息系化学兵器を使用しましたが、こちらは大量破壊兵器とは位置づけられていません。一方、サリンの廃棄が不徹底であったのではないか、とは当初よりアメリカはじめ多くの国が危惧していました。

 アメリカのトランプ大統領は即座の決断を行います。シリア時間7日0440時、日本時間1040時、アメリカ海軍は東地中海を遊弋するミサイル駆逐艦ポーター、ミサイル駆逐艦ロスよりトマホーク巡航ミサイルを発射、トマホークミサイル59発によりシリアのシャイラート飛行場を攻撃、格納庫及び飛行機、武器庫や防空システムとレーダーを破壊しました。

 トマホークミサイルはアメリカ海軍の主力巡航ミサイルで、454kgの通常弾頭を搭載、1991年の湾岸戦争で288発が使用され指揮中枢や作戦統制設備及び戦略目標等の撃破に大きな威力を発揮、地形追随飛行能力と目標解析能力を複合した誘導方式は改良によりGPS標定等命中精度を増し、一発400万ドル、潜水艦や駆逐艦及び巡洋艦のVLSから投射します。

 イージス艦のミサイル垂直発射装置VLS、駆逐艦の90発から巡洋艦の122発まで、各種ミサイルを搭載可能で、このVLSにはトマホークミサイルが搭載可能です。この他、オハイオ級原子力巡航ミサイル潜水艦には154発のトマホーク巡航ミサイルを搭載可能です。この他、アメリカには空母航空団や無人攻撃機に空軍戦略爆撃機や戦闘爆撃機等がある。

 何故アメリカは今回のミサイル攻撃に踏み切ったのか。アメリカのトランプ大統領は大統領選当時からアメリカ第一主義を掲げ、世界の紛争への従来のような介入を行わない姿勢を提示してきました。アメリカは世界の警察官、の役割を担ったのはブッシュ大統領まで、オバマ大統領時代からアメリカは世界の警察官ではない、との姿勢を明示してきました。

 シリアの大量破壊兵器使用に対し懲罰攻撃を行った背景には、二つの大きな理由があります。第一に大量破壊兵器である化学兵器を安易に使用する国を放置しては、最終的にテロリストなどに大量破壊兵器が渡り、それがアメリカ本土攻撃に使われかねない。第二に、大量破壊兵器開発を進める北朝鮮、核実験とミサイル実験の継続政策への大きな警告です。

 ロシア政府はアメリカの行動を非難しています。ロシア政府の立場はアサド政権支援であり、アサド政権率いるシリア軍はイドリブ県のハーンシェイフーンを空爆した事は認めていますが、ハーンシェイフーンでの神経ガス被害は反政府勢力の自作自演、空爆後に武装勢力が住民を神経ガスで殺戮しシリア政府の仕業とした少々無理が大きな主張というもの。

 イギリスやフランス、日本を含めた多数の諸国は今回のシリア政府による神経ガス使用に対して抗議する姿勢を貫いており、このシリア政府の蛮行を再発させない為の何らかの措置を必要としており、今回のアメリカ軍によるトマホーク攻撃に対しては理解を示す、または支持するという立場が大勢です。尚、アメリカのトマホーク備蓄は充分多数あります。

 トマホークミサイル攻撃は今回だけではなく、今後、アサド政権が大量破壊兵器を使用した場合、再度実施される可能性は充分あります。特に、イラク戦争開戦時のように500発以上のトマホークが使用される可能性もあり、更にシリア空軍へのシリア領内飛行禁止区域設定を国連安全保障理事会へ授権決議として求める可能性も十分あり得るでしょう。

 アメリカの強い決意の表れといえる今回の行動ですが、調整が行われていなかった訳ではありません。ロシア政府に対してシリア政府の軍事行動へ一定の歯止めを掛けなければ、アメリカは独自の行動をとる、と明示しています。また、アメリカは中国政府へも北朝鮮核開発へ歯止めの努力を行わねばアメリカは独自の行動をとると強調、二つの点が繋がる。

 懸念すべき点は、二つ、大量破壊兵器を空爆だけですべて破壊し使用を阻止する事は難しく、シリア領を広範に空爆する場合、シリアを支援するロシア軍との直接衝突、これまでにニアミスやロシア軍による挑発行動がありましたが、偶発戦闘へ展開する可能性です。そしてもう一つは、北朝鮮の堅固な地下施設へ不充分な準備の下攻撃を加えるということ。

 シリア内戦は2011年から続き、既に死者は25万名と戦慄すべき数値となっており、500万名の国外難民と600万もの国内難民を生んでいます。ここに2013年以来二度目の大量破壊兵器がシリア政府により自国民に対し使用された事は極めて憂慮すべき事態で、安定した停戦と和平実現、米ロ衝突という世界大戦危機の回避へ、打開策模索が望まれます。

北大路機関:はるな くらま
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