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緊急発進1168回実施,平成28年度航空自衛隊対領空侵犯措置任務実績を防衛省が発表

2017-04-27 20:41:45 | 防衛・安全保障
■緊急発進,初の一〇〇〇回越え
 緊急発進1168回、前年度比295回増加で、1958年に対領空侵犯措置を開始して以来、初めて一〇〇〇回の大台を超え、過去最多となりました。

 平成28年度航空自衛隊対領空侵犯措置任務緊急発進の回数が防衛省より報道公開されました、1168回です。航空自衛隊発足以来1000回の大台を越えたことはなく、900回の大台を越えたのも自衛隊創設以来過去には二回限り、1984年と2014年です。1984年の東西冷戦がもっとも緊迫していた時代の水準ですが、ここ数年間の緊急発進回数は異常な水準としか表現の使用がありません。

 対領空侵犯措置任務とは自衛隊法に基づく任務です。任務は航空自衛隊が我が国へ割り当てられている飛行情報区、航空管制と民間航空機の安全に日本が国として責任を持つ空域に沿って設定された防空識別圏へ飛行計画を提出せず飛行する国籍不明機にたいし実弾を搭載した戦闘機を緊急発進させ、国籍と所属及び飛行目的を確認し、軍用機であれば我が国領空へ領空侵犯に至る前に退去を促すもの。

 一〇〇〇の大台、2016年1168回、2015年873回、2014年943回、2013年810回、2012年567回、2011年425回、2010年386回、2009年299回、2008年237回、2007年307回、2006年239回、2005年229回、Weblog北大路機関がOCNブログサービスとして運営を開始した2005年は229回であったわけですから、1168回の緊急発進、いかに急増しているかが端的に示されているでしょう。

 緊急発進の爆発的増大背景には、中国軍航空機の飛来が自衛隊発足以来空前の規模で増加した事によります。中国機への緊急発進は851回に達し、中国機の飛来が過去最大となった前年度と比べても280回増という水準です。そして中国軍機の飛行経路や飛行空域が大きく変容しており、この部分へも変化が見て取れます。戦闘機による沖縄宮古海域を突破しての太平洋進出や、日本海へのミサイル爆撃機展開等が挙げられる。

 中国軍航空機の飛来は、数年前であれば南西諸島南部へ至る経路のものが多く含まれていましたが、近年には九州沖を目指す経路の増大が顕著となり、昨年度の新しい兆候として西日本を目標とする経路が散見され始めたことにあります。中国空軍ではロシア製Su-27戦闘機のコピー生産を軌道に乗せているほか、長距離巡航ミサイルを搭載するH-6爆撃機改良型の運用を強化しており、この影響が表面化しました。

 敵対行動が仕掛けられることが出ている。中国軍航空機が自衛隊機へ異常接近を繰り返していることは過去に防衛省が写真を報道発表しましたが、昨年には空戦機動を仕掛けられ、照準動作などを受け自衛隊戦闘機が緊急回避行動をとっているとの関係者の発言があり、大きな注目を集めました。航空自衛隊は緊急発進に際して短射程空対空ミサイルを搭載していますが、射撃照準を受ければ機体自衛装置が赤外線や電波攪乱の欺瞞装置を作動させ緊急回避します。

 世界を見渡せば、トルコ空軍機によるロシア軍戦闘爆撃機領空侵犯への撃墜を含め、戦闘には至らないものの衝突、この単語は我が国独特の官僚用語として、南スーダンでの戦車と戦闘ヘリコプターの交戦を戦闘ではなく衝突といい代えたことで記憶に新しいものですが、この種の戦闘機同士が実弾を投射する”衝突”はそれほど希有な事例でもありません。

 自衛隊の緊急発進にたいし、中国空軍機は現在のところ空戦機動を仕掛ける範囲となっていますが、将来的には不測の事態が、もしくは将来ではなく現状のままでは何時不測の事態が発生するかも予断を許さない状況にあります。また、敵対行動そのものが、過去には中国空軍が米海軍偵察機へ公海上での衝突事故を発生させた事例があり、危機が段階的に進展するかと機にあるのかもしれません。段階的とは、緊急発進の増大、国籍不明航空機飛行範囲の拡大、国籍不明機規模の増大、異常接近や敵対行動の現出、と展開する現状についてです。

 実施を航空方面隊毎に見ますと、北部航空方面隊が265回、中部航空方面隊が34回、西部航空方面隊が66回、南西航空混成団が803回、となっています。また、防衛省の発表では国籍不明機の内訳は中国機約73%、ロシア機約26%、その他約1%、となっています。緊急発進回数がもっとも大きな負担となっているのは航空自衛隊那覇基地です。実際問題、那覇基地に隣接し滑走路を共用する那覇空港、その空港展望台から滑走路を観察すれば、緊急発進の瞬間と遭遇する事は多々ありますし、航空祭でも重なりました。

 南西諸島は冷戦時代に緊急発進頻度が低く安定した地域となっていましたが、現在は緊急発進の七割が那覇基地から実施される状況となっています。航空自衛隊の緊急発進は、北海道の千歳基地と東北の三沢基地、首都圏北関東の百里基地に日本海沿岸北陸の小松基地、北九州の築城基地と南九州の新田原基地、そして南西諸島の那覇基地、と七基地から任務に当たっていますが、この那覇基地への負担の大きさは尋常ではありません。

 緊急発進の負担とは、航空自衛隊の戦闘機部隊は緊急発進が主任務ではなく、有事の際に日本本土への航空攻撃から航空優勢を維持し日本本土への航空攻撃をあらゆる手段を用いて阻止する事に在ります。即ち、対領空侵犯措置任務の増大は、緊急発進と待機する機体と要員及び器材と整備負担が増加するとともに、有事の際を想定した訓練の余裕を瀬泊する事となります。緊急発進の緊張こそ訓練、と安易に言う事は出来ません、電子戦闘や共同交戦と要撃管制、全てが一体として展開する航空優勢確保と対領空侵犯措置は別物です。

 戦闘機は十分足りているのか。Weblog北大路機関では“航空防衛作戦部隊論”として既に47回の特集を掲載していますが第一回を掲載しましたのが2015年7月、戦闘機部隊は充分な数量を有しており、戦闘機部隊の分散と輸送機部隊の増強や航空警戒管制能力の強化により対応できる、という視点を示しました。しかし、航空自衛隊が2015年以降入手した戦闘機は僅かにF-35戦闘機初号機の受領を開始したのみで米本土にて訓練中、対して中国のSu-27とコピー機に派生型の量産は年々進んでいます。

 緊急発進の回数が1000回を越え1168回を数えるに至り、冷戦時代に唯一900回の大台を超えた1984年の航空自衛隊戦闘機が350機、現在の戦闘機定数280機よりもかなり大きなものでした。勿論、戦闘機だけを増強しても作戦基盤が縮小しては均衡が破綻するため、輸送機や基地機能の増強も必要ですが、少なくとも戦闘機定数を維持するならば輸送機定数等を増強させ運用を多様化させる必要があります。280機という現在の戦闘機定数で任務を遂行するには、難しい時代となっているのかもしれません。

北大路機関:はるな くらま
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