北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

令和三年-新年防衛論集:ポストコロナ時代の防衛安全保障(5)汎用護衛艦-そう駆逐艦の時代だ

2021-01-06 20:21:55 | 北大路機関特別企画
■新しい88艦隊論を超えて
 海上防衛については、真剣に考えなければ周辺地域について誤った武力紛争誘発の要因を造る為に重要です。

 海上自衛隊の改編について、これまでは"新しい88艦隊"が必要だ、という視点に注視していました、ヘリコプター搭載護衛艦8隻とイージス艦8隻体制、つまり現状よりもヘリコプター搭載護衛艦を4隻増強し、護衛艦隊を構成する護衛隊8個全てにヘリコプター搭載護衛艦を配備し、艦隊の能力水準を均衡させ、任務対応能力を強化させる、という案です。

 全通飛行甲板型護衛艦というべきヘリコプター搭載護衛艦は、膨大な航空機運用能力とともに艦隊指揮中枢艦となり、海上防衛力には必須の護衛艦と考えています、F-35B搭載改修が開始され、ステルス性と複合光学センサーによる索敵能力の高さは、F-35Bを単なる強力な戦闘機に留まらず、圧倒的な情報優位を担保するゲームチェンジャーという機体だ。

 イージス艦の艦対空ミサイルは弾道ミサイル防衛に用いるスタンダードSM-3の射程が1300kmに延伸したのに驚いたのは十年前、いまや対巡航ミサイル、対航空機用のスタンダードSM-6でも射程は370kmに達しており、艦隊が情報優位を獲得すべき空間は拡大を続けています、ヘリコプター搭載護衛艦の指揮中枢能力はこの為に必須というほどに高い。

 しかし、この段階で充分なのか、というほどに日本周辺の状況は転換期にあるのですね、新しい88艦隊、こう表現しますと比類なき防衛力強化とみえますが、実質的には現在の護衛艦隊はあとヘリコプター搭載護衛艦を4隻増強するだけで充分、という視点でもあったのですが。いずも型の建造費は1000億円、イージスアショアよりも遙かに安価なのですね。

 これだけで充分なのか、ここが率直な印象でして、そろそろ護衛艦隊全体の能力を底上げするという検討が、必要な時期となっているのではないでそうか。近年ではスタンドオフミサイルの搭載という選択肢もあるようですが、要するに護衛艦隊全体の能力を底上げするということは、数の主力、汎用護衛艦能力を底上げする、ということにほかなりません。

 むらさめ型護衛艦、1996年から竣工した護衛艦です。ここから第二世代汎用護衛艦として20隻が2019年まで20年以上を要して整備したのですが、むらさめ竣工から25年が経った、2021年というのはこういった年なのですね。護衛艦の寿命は24年、と昔は言われたものですが今は延命改修により32年程度まで延伸しています、しかしそれもあと7年だ。

 あさひ型護衛艦に続く新しい護衛艦を考えるか、むらさめ型護衛艦の延命改修を行い、竣工から40年程度運用するか、そろそろ"新しい88艦隊"というだけではなく、海上防衛の主柱となる艦隊護衛艦はどうあるべきか、という視点まで進まねばならない段階といえます。もちろん、30FFM、くまの以降の護衛艦の拡大改良型、とする選択肢もあり得る。

 くまの以降の3900t型護衛艦を大型化する、こうした選択肢はありえるとは考えます、FFMは大きくはありませんが、基本設計は1990年代の護衛艦むらさめ型に拡大改良を続けて重ね2010年代までを一杯使った護衛艦から2020年代に初めて世代交代したものなのですから、4500t程度まで拡大しVLSを拡充、航空格納庫を拡張する選択肢は一応は、あります。

 ただ、財政状況を考えますと、むらさめ型護衛艦を延命改修し、使い続ける、という選択肢も検討すべきでしょう。まだ使える、具体的には航空格納庫、ヘリコプターを2機搭載できる格納庫容積がありながら予備機区画という位置づけで、常用2機という配置ではありません。ここを、格納庫扉の形状を若干変え、無人牽引装置を搭載するだけで、どうか。

 SH-60K哨戒ヘリコプター、常用1機でアフリカ方面派遣に際しては予備機を搭載する、という方式ですが、航空格納庫の扉を若干改修するだけで、SH-60Kを常用2機とすることができますし、無人牽引装置、ひゅうが型護衛艦に搭載されているような巨大ルンバというべきヘリコプター移動装置を追加することで運用に際し着艦拘束装置を増設せずともよい。

 たかなみ型はじめ拡大改良型も同様にヘリコプターを増強常用できるだけでも大きな意味がありますし、無人航空機牽引装置であればSH-60Kに留まらず、今後自衛隊に導入が開始されるMQ-8無人ヘリコプター運用能力も補完することとなり、汎用護衛艦の能力を、格納庫扉、若干地味な改造ではあるのですけれど、大きく底上げすることとなるでしょう。

 あさぎり型、はつゆき型護衛艦のハープーンミサイルとSSM-1、問題は現在の第二世代汎用護衛艦の搭載するミサイルの射程が第一世代汎用護衛艦の射程とそれほど変わらない点です、短射程艦対空ミサイルはシースパローからESSMに代わり延伸しましたが、対艦ミサイルの射程は200km以下、中国やロシアのミサイルと比較し数分の一というもの。

 SSM-1対艦ミサイルの後継が必要となります。これはアメリカに習ってNSMミサイル、という選択肢もありますが、NSM発射筒はハープーン発射筒とは形状が大きく異なり、SSM-1発射筒の区画にそのまま搭載するという訳にはいきません。12式地対艦ミサイル改良型の後継が射程2000kmまで延伸させる方針のようですが、その艦載型を待ちましょう。

 OPS-50のような多機能レーダーへの換装、こうした選択肢もあり得るのですが、それ以上に重要なのは艦隊のシステム化にともないセンサーノードとの連接が従来の個艦優位主義を置き換えるという視点です、OPS-50とFCS-2Cでは性能が大きく発展していますが、通信能力さえ確保するならばFCS-2Cシステム艦であっても情報共有により底上げする。

 VLS増設、実際のところ、費用に余裕があるならば思い切って実施すべきはこちらかもしれません、自衛隊の艦載装備射程延伸は前述の通りですが、当然のように周辺国の射程延伸も顕著です、この場合、射程延伸は飽和攻撃実施にさいしての冗長性を意味するのですね、遙か遠くから飽和攻撃に参加できるのですから。するとこちらも備えが必要だ、と。

 むらさめ型であれば、船体中央部のMk56VLS区画を標準的なMK41VLSに切り替えるという選択肢がありますし、たかなみ型、あきづき型、あさひ型については前部VLSについて、復原性が許せば48セル、艦砲を思い切って現行の5インチ砲から3インチ砲に換装してでも軽量化、その軽量化に沿ってVLSを60セルに拡張する選択肢もあり得るでしょう。

 ヘリコプター搭載護衛艦増強について。ここで重要となるのは、航空機整備能力です。はるな型ヘリコプター搭載護衛艦の時代から護衛艦はつゆき型など汎用護衛艦の飛行班では手に負えない重整備支援などを実施してきましたが、ひゅうが型以降のヘリコプター搭載護衛艦は艦内で回転翼を展開させての重整備さえ可能なほどの整備能力があるのですね。

 新しい88艦隊は、やはり必要です。しかしその上で、もはやヘリコプター搭載護衛艦だけを増勢するだけで充分な防衛力を維持できる、という認識ではなく、遠くない将来に迎える現用の第二世代汎用護衛艦の旧式化と老朽化を前に、第三世代汎用護衛艦の量産を準備するのか、それとも第二世代護衛艦を延命するのか、選択の時が迫っている時代です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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