北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

令和三年-新年防衛論集:ポストコロナ時代の防衛安全保障(6)脅威過大の本土防空と宇宙空間

2021-01-07 20:20:55 | 北大路機関特別企画
■南西方面の大空に異常な緊張
 陸海空の防衛においてもっとも端的に緊張が突き付けられるのは空軍と航空防衛力が突き付けあう空の防衛です。

 航空防衛について。2020年は台湾を舞台に中国の軍事圧力について常識外の強大な圧力が生じうることを目の当たりとしまして、この結果と言うべきでしょう、本来は国家予算節約のための行政刷新会議においてもF-2後継機、次期戦闘機開発に際しては十分な予算を投じる必要があると、河野行政改革担当大臣が発言したほどの緊張度がありました。

 F-35戦闘機147機体制への拡充、そしてF-15戦闘機の能力向上改修、さらにはF-2戦闘機後継機の開発、と航空防衛は年々強化されてゆくのですが、そもそも平時における非常識な軍事圧力により、一回あたりの運用費用の大きな機体に何度も発進を強いることで消耗させる、という状況には、強力な戦闘機陣は、果たして対応できるものなのでしょうか。

 緊急発進4500回、隣接する台湾空軍では2020年に非常識といえるほどの領空接近事案が続き、日本の過去最大の緊急発進件数は1100回でしかありませんから、これも多いが平時として4500回というのは、異常と言わざるを得ず、言い換えれば、いつこの圧力が日本列島に突きつけられるか、ということを真剣に考えなければならない事態といえるでしょう。

 台湾のこの現状は対岸の火事なのでしょうか。確かに台湾は中国本土から台湾海峡を隔てているだけであり、近傍ではあります、が、中国空軍の戦闘機は現在、かなりの数が西日本までを本土からの戦闘行動半径に含めている状況があり、2000年代はじめの、中国空軍戦闘機の大半が沖縄県さえ行動圏外であった時代と違い、実際対岸の火事ではありません。

 本土防空を真剣に考える場合、現在の航空自衛隊が有する体制はどう考えるのか。私論としまして2015年、わずか五年前には航空団を大型化し、巨大な航空団が複数の航空隊を隷下に置き、航空隊単位で余裕のある飛行隊を脅威正面へ展開という機動運用にて対応できる、という認識ではありましたが、これも台湾の現状をみれば甘すぎるのかもしれません。

 F-2後継機とは別にT-7レッドホーク高等練習機を原型として、高等練習機とし用いうるが、最低限機関砲とAMRAAMを数発のみ搭載し、中間指令誘導能力を最低限付与させたレーダーを搭載させた、数あわせの戦闘機という選択肢など、もちろんレッドホークはエンジンからしてかなり強力ではあるのだが、数の不足を真剣に考える選択肢もあるでしょう。

 戦闘機以外のアプローチを真剣に検討するべきではないか。無人僚機により邀撃機を水増しする選択肢や、地上防空システムを抜本的に強化した上で軽量戦闘機を、邀撃管制機というかたちで実現させる、新時代の支援戦闘機というべき装備を開発する、もしくは戦闘機一機に対しての操縦要員確保を抜本から見直す案、何らかの新技術が必要な時代です。

 操縦要員を十分に確保する、というものが王道ですが、しかし、台湾にかけられた軍事圧力のような状況が、沖縄方面に転移した場合、例えば戦闘機が物理的に、沖縄には40機のF-15が配備されていますが、訓練を行わず緊急発進だけに特化させる極端な状況で、緊急発進を2機で行うとして、極論でも航空団に年間9000ソーティは現実的なのでしょうか。

 専守防衛は内線作戦、もともと軍事的に不利ではあります、そして内線作戦は防衛正面の主導権を有していませんので、南西諸島に向けられた軍事圧力が、牽制の意味を込めて小笠原に、西日本に、北陸に、突如転向する可能性も否定できないものでして、操縦要員を確保したとしても戦闘機の物理的寿命はなんともならず、現水準では大きな課題といえる。

 無人僚機、豪州が地上試験を繰り返しているロイヤルウイングマンがその好例ですが、こうした選択肢もあるのかもしれません。戦闘機の緊急発進とともに同行し、時に脅威へ接近し、時に盾となり、時に索敵を担う、というもの。無人機の利点である滞空時間の長さを捨てているため、実はリスクのある選択肢でもあるのですが、一つの大きな関心事です。

 支援戦闘機。既に無い区分ですが、F-35に比較し確実に性能では対抗できないものの、いくつかの任務でF-35を凌駕する軽量戦闘機を開発する、という選択肢です。当然ですが、F-1支援戦闘機やジャギュア攻撃機の現代版に用はありません、何故ならば中国軍機で日本間で接近できる機体はSu-27系統とそのコピーなど高性能機が多く、太刀打ちできない。

 しかし、無謀な案ですが、MQ-57ステルス無人機を有人化したような、ステルス性能に重点を置いた低コスト航空機と、地上に配備する広域防空ミサイル網とを連接し、地対空ミサイルのセンサーノードに近いかたちで有人支援戦闘機を運用する、という選択肢はあるのかもしれません。MQ-57はコスト面でMQ-8などよりも安価に収めた、ともされる。

 Su-27系統の航空機に支援戦闘機で対抗するのは不可能です、しかし、地対空ミサイルの覆域内であれば、ステルス製などで秀でていれば、いきなり攻撃するのではなく警告射撃を行う航空機に甘んじた支援戦闘機というものはあり得るとおもう。特にペトリオットミサイルの後継にスタンダードSM-6のような400kmの射程をもつものが充てられれば、と。

 要撃管制機、こう支援戦闘機を表現するのですが、安価と地上防空システムを一体化させたような装備も、検討すべきなのかも知れません。この支援戦闘機、要撃以外にはステルス性を活かし例えば我が方の情報優位を危険にさらす無人攻撃機などへの対処専従や、有人運用と無人運用をハイブリッド型とした上で監視任務に充てるなど考えられるでしょう。

 もう一つ。航空防衛について、限られた予算、という認識とは矛盾することは承知で、航空宇宙防衛、という概念へ一歩進む必要は感じています。具体的には海洋防衛における情報優位の喪失が、人工衛星による偵察により顕著となる可能性があるためです。いや、既に1980年代後半から海洋観測衛星により空母の位置が秘匿できなくなる指摘はあった。

 宇宙からの監視体制、海洋観測衛星が航空母艦を発見できるとか、海水温度変化を観測することで選考中の原子力潜水艦を発見できる、という理論はありましたが、なにしろ情報量が膨大であり、1980年代、そののちに1990年代においても、現実的な情報優位の喪失という視点からは議論されていません。しかし2020年代にも当てはまるのでしょうか。

 AIによる情報処理能力の飛躍的向上、この視点を踏まえると真剣に脅威という認識は必要となるのかもしれません。既に演習などで行動海域が判明している分野では、航空母艦は勿論、日本の汎用護衛艦を撮影した粗い海洋監視衛星画像が数多く発表されており、なかなかに驚かされるものです。宇宙条約により保護されている人工衛星からの軍事情報だ。

 人工衛星迎撃、安易に結論づけられるものではありませんが、ASM-135-ASATのようなもの、とまではいかずともスタンダードSM-3の改良型により人工衛星への対処能力というものを考える段階でしょう、もちろん実際に宇宙条約を無視して行うのではなく、仮に周辺国が我が国情報収集衛星に攻撃を加えた場合への報復的抑止力として、その準備を、です。

 スタンダードSM-3ロケットモーターを利用した、イージス艦からの発射可能な海洋情報収集衛星、スタンダードSM-3は高度1000km以上まで上昇可能ですので、こうしたものを装備し、応急的な偵察衛星として用いる選択肢も検討するべきでしょう。宇宙空間の利用は航空防衛の延長線上にもう少し現実的に考える段階だと思うのですが、難しい問題です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする