■特報:世界の防衛,最新論点
ワスプ級強襲揚陸艦ボノムリシャールは佐世保に前方展開していた時代もあり、なじみ深いフネでした。

放火火災に見舞われたアメリカ海軍強襲揚陸艦ボノムリシャールは廃艦となる決定が12月2日、正式に決まりました。ボノムリシャールは2020年7月12日にサンディエゴ基地に停泊中、大規模な火災に見舞われ船体の重要部分が五日間にわたる延焼により大きく破損していました。しかし強襲揚陸艦は重要で海軍は修理の可否を慎重に算定していました。

ボノムリシャールは廃艦とした場合、サンディエゴ基地から解体地への搬出や部品の改修と解体には期間にして9カ月から12カ月、費用にして3000万ドルを要すると算定されました。しかし修理する場合には費用では30億ドル以上を要し、また期間も5年から7年間を要すると算出され、この費用と期間では新造艦を建造するよりも非効率だ、とのこと。

しかし、海軍は強襲揚陸艦の不足は現実問題であり、ボノムリシャールも火災直前までの定期整備中にF-35B戦闘機の運用性能付与に18カ月間の期間と2億5000万ドルの費用を要していた為、最後まで修理の可能性を模索していた構図です。アメリカ海軍の強襲揚陸艦が用途廃止による除籍以外で廃艦となるのは、ボノムリシャールが初の事例となります。

強襲揚陸艦運用に深刻な空白が生じる、ボノムリシャールの除籍には大きな意味があります。アメリカ海軍の揚陸艦は強襲揚陸艦が9隻、輸送揚陸艦が11隻、ドック型揚陸艦が12隻、以上32隻から構成されます、数は少ないですが強襲揚陸艦は満載排水量4万5000t規模、輸送揚陸艦も2万7000tに独型揚陸艦は1万6000t、大きさからは充分に見えます。

特にいま、この9隻、という数字が需要な意味を持っているのです、強襲揚陸艦と輸送揚陸艦が同じ数であるのが偶然ではなく、揚陸艇タスを搭載し迅速に上陸させるドック型揚陸艦、主要資材の巨大な輸送能力と揚陸艇を運用する輸送揚陸艦、ヘリコプター部隊の搭載母艦となる強襲揚陸艦を加えて、この3隻でARG揚陸即応群を構成しているのですね。

ARG揚陸即応群はイージス巡洋艦を中心とするイージス艦数隻からなる水上打撃群とともにESG遠征打撃群という作戦単位を構成します。その任務はMEU海兵遠征群という海兵大隊を中心とした戦闘団を水陸両用作戦に供する事で、海兵隊は海兵師団などから即応できる人員のローテーションにより、本土西海岸東海岸と沖縄にMEUを待機させています。

ボノムリシャール除籍、そして当面は代替となる強襲揚陸艦が建造されないという事実は、ARGの編成が9個から8個に減退する、という事に他なりません。即応待機しているMEUは3個ですので、実は整備や訓練を考えますと9このARG揚陸即応群というものはそれほど余裕が無いものなのですね。しかし、するとこの視点に疑問を持たれるかもしれません。

ペリリューを現役復帰させることはできないのか。ペリリューは一時期アメリカ押印軍事委員会が日本への供与を検討したとも報じられ有名となったタラワ級強襲揚陸艦です、満載排水量39000t、ボノムリシャールのワスプ級よりは若干小さいですが、海上自衛隊の護衛艦いずも型よりも遥かに大きく、解体していないのだから使えと思う、が実際は難しい。

タラワ級が全て除籍された背景には甲板強度の不足があります。タラワ級はAV-8Bハリアーを搭載し航空支援に充てるとともに多数のCH-46E中型ヘリコプターにより海兵大隊を運び、重装備の空輸にはCH-53D重輸送ヘリコプターを駆使していました。しかし、これらはいずれもF-35B戦闘機やMV-22可動翼機に置換えられています、これらは非常に重い。

AV-8Bの最大離陸重量は13tです、ところが後継のF-35Bは32tもあるのですね、そしてF-35Bは主翼を折畳めませんので格納庫ではハリアーの2.7倍もの面積が必要です。CH-46も10tに対してMV-22は22tと倍以上に増大し、格納庫の収容面積も2.2倍の面積を必要とします。つまりタラワ級では、飛行甲板強度も格納庫容積も相当補強せねばなりません。

エセックス級空母のSCB-125改修、アメリカ海軍は第二次大戦中のエセックス級空母を戦後もジェット機用に運用すべく甲板の拡張改修を行いました。MV-22の搭載は飛行甲板の拡張によりまったく不可能ではありません、飛行甲板を横に張り出すように左舷に8m、右舷に2m拡張するならばMV-22は定数搭載可能です、F-35B用に強度強化も可能でしょう。

しかし、飛行甲板の拡張改修、エセックス級空母では3年を要していましたし、F-35B搭載には運用試験が必須、今からそれ程の大改修を実施を行う費用対効果が40年前の1980年に竣工したペリリューに在るかは疑問で、強襲揚陸艦の不足はアメリカ級強襲揚陸艦三番艦のブーゲンビルが就役する2024年まで、続く事とならざるを得ないのかもしれません。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
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ワスプ級強襲揚陸艦ボノムリシャールは佐世保に前方展開していた時代もあり、なじみ深いフネでした。

放火火災に見舞われたアメリカ海軍強襲揚陸艦ボノムリシャールは廃艦となる決定が12月2日、正式に決まりました。ボノムリシャールは2020年7月12日にサンディエゴ基地に停泊中、大規模な火災に見舞われ船体の重要部分が五日間にわたる延焼により大きく破損していました。しかし強襲揚陸艦は重要で海軍は修理の可否を慎重に算定していました。

ボノムリシャールは廃艦とした場合、サンディエゴ基地から解体地への搬出や部品の改修と解体には期間にして9カ月から12カ月、費用にして3000万ドルを要すると算定されました。しかし修理する場合には費用では30億ドル以上を要し、また期間も5年から7年間を要すると算出され、この費用と期間では新造艦を建造するよりも非効率だ、とのこと。

しかし、海軍は強襲揚陸艦の不足は現実問題であり、ボノムリシャールも火災直前までの定期整備中にF-35B戦闘機の運用性能付与に18カ月間の期間と2億5000万ドルの費用を要していた為、最後まで修理の可能性を模索していた構図です。アメリカ海軍の強襲揚陸艦が用途廃止による除籍以外で廃艦となるのは、ボノムリシャールが初の事例となります。

強襲揚陸艦運用に深刻な空白が生じる、ボノムリシャールの除籍には大きな意味があります。アメリカ海軍の揚陸艦は強襲揚陸艦が9隻、輸送揚陸艦が11隻、ドック型揚陸艦が12隻、以上32隻から構成されます、数は少ないですが強襲揚陸艦は満載排水量4万5000t規模、輸送揚陸艦も2万7000tに独型揚陸艦は1万6000t、大きさからは充分に見えます。

特にいま、この9隻、という数字が需要な意味を持っているのです、強襲揚陸艦と輸送揚陸艦が同じ数であるのが偶然ではなく、揚陸艇タスを搭載し迅速に上陸させるドック型揚陸艦、主要資材の巨大な輸送能力と揚陸艇を運用する輸送揚陸艦、ヘリコプター部隊の搭載母艦となる強襲揚陸艦を加えて、この3隻でARG揚陸即応群を構成しているのですね。

ARG揚陸即応群はイージス巡洋艦を中心とするイージス艦数隻からなる水上打撃群とともにESG遠征打撃群という作戦単位を構成します。その任務はMEU海兵遠征群という海兵大隊を中心とした戦闘団を水陸両用作戦に供する事で、海兵隊は海兵師団などから即応できる人員のローテーションにより、本土西海岸東海岸と沖縄にMEUを待機させています。

ボノムリシャール除籍、そして当面は代替となる強襲揚陸艦が建造されないという事実は、ARGの編成が9個から8個に減退する、という事に他なりません。即応待機しているMEUは3個ですので、実は整備や訓練を考えますと9このARG揚陸即応群というものはそれほど余裕が無いものなのですね。しかし、するとこの視点に疑問を持たれるかもしれません。

ペリリューを現役復帰させることはできないのか。ペリリューは一時期アメリカ押印軍事委員会が日本への供与を検討したとも報じられ有名となったタラワ級強襲揚陸艦です、満載排水量39000t、ボノムリシャールのワスプ級よりは若干小さいですが、海上自衛隊の護衛艦いずも型よりも遥かに大きく、解体していないのだから使えと思う、が実際は難しい。

タラワ級が全て除籍された背景には甲板強度の不足があります。タラワ級はAV-8Bハリアーを搭載し航空支援に充てるとともに多数のCH-46E中型ヘリコプターにより海兵大隊を運び、重装備の空輸にはCH-53D重輸送ヘリコプターを駆使していました。しかし、これらはいずれもF-35B戦闘機やMV-22可動翼機に置換えられています、これらは非常に重い。

AV-8Bの最大離陸重量は13tです、ところが後継のF-35Bは32tもあるのですね、そしてF-35Bは主翼を折畳めませんので格納庫ではハリアーの2.7倍もの面積が必要です。CH-46も10tに対してMV-22は22tと倍以上に増大し、格納庫の収容面積も2.2倍の面積を必要とします。つまりタラワ級では、飛行甲板強度も格納庫容積も相当補強せねばなりません。

エセックス級空母のSCB-125改修、アメリカ海軍は第二次大戦中のエセックス級空母を戦後もジェット機用に運用すべく甲板の拡張改修を行いました。MV-22の搭載は飛行甲板の拡張によりまったく不可能ではありません、飛行甲板を横に張り出すように左舷に8m、右舷に2m拡張するならばMV-22は定数搭載可能です、F-35B用に強度強化も可能でしょう。

しかし、飛行甲板の拡張改修、エセックス級空母では3年を要していましたし、F-35B搭載には運用試験が必須、今からそれ程の大改修を実施を行う費用対効果が40年前の1980年に竣工したペリリューに在るかは疑問で、強襲揚陸艦の不足はアメリカ級強襲揚陸艦三番艦のブーゲンビルが就役する2024年まで、続く事とならざるを得ないのかもしれません。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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