北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】フィリピン第1戦車大隊復活とUH-1Dヘリコプター再生に中古K-136コーリャン多連装ロケット砲

2022-07-05 20:11:27 | 防衛・安全保障
■特報:世界の防衛,最新論点
 フィリピン軍の近代化はかなり早い頻度で進んでおり定期的に見てゆきたいところです。

 フィリピン陸軍は第1戦車大隊の再活性化式典を挙行しました。フィリピンには過去にも戦車部隊がゾンザイしました、それは1958年に創設されたフィリピン第1戦車大隊でアメリカから供与されたM-4シャーマン戦車を装備しています、しかし、戦車の維持費が高く経済に負担と名た為、1961年に不活性化され廃止されていました、その復活となります。

 第1戦車大隊はM-4シャーマン戦車に代えて様々な装備を導入しますが、今後導入予定の装備を含めるその編成は、105mm砲を搭載したサブラシュASCOD火力支援車18両と105mm砲を搭載したパンドゥール装輪装甲車火力支援型10両の28両、全て火力支援車輛であり戦車ではありませんが、少数の第二世代戦車が相手ならば充分対応可能な性能です。

 フィリピン第1歩兵師団第103歩兵旅団の隷下に置かれる事となった第1戦車大隊ですが、残念ながら4月21日にキャンプオドネルにて行われた大隊の再活性化式典には105mm砲を搭載する車両は一両も到着しておらず、当面は近代化されたM-113装甲車等用いて基礎訓練を行う事となります。しかし調達は進められており、その納入が待たれるところです。
■日本供与巡視船
海軍と共にフィリピンは海上法執行機関の強化も進めています。

 日本がフィリピンへ供与した大型巡視船テレサマグバヌアの竣工式が5月6日にマニラで挙行されました。大型巡視船テレサマグバヌアは総トン数2260tで全長97m、フィリピン沿岸警備隊が保有する巡視船としては最大のものとなります。巡視船でありフリゲイトではないため、艦砲等は搭載されていませんが、放水銃や水中無人機をそなえています。

 くにがみ型巡視船、今回フィリピンへ供与された巡視船は海上保安庁に大量配備されている巡視船くにがみ型は、昭和時代に大量建造された大型巡視船しれとこ型の後継となる巡視船であり、公称1000t型巡視船、建造中のものを含め海上保安庁には23隻が導入されていて、また大量建造により建造費用を量産効果で低く抑えられた事でも知られています。

 テレサマグバヌアは、フィリピンでは中国が制定した海警法に基づくフィリピン領海への中国海警船の領海侵犯が相次ぎ、特に中国巡視船は大型で体当たりされた漁船が沈没するなどの被害も生じている為、フィリピンにも独自の大型巡視船が求められていました。なお、日本からのフィリピンへの大型巡視船供与は、今後も継続される方針とのことです。
■UH-1Dの再生
 自衛隊も定数割れが進むAH-1Sの再生と能力向上を真剣に考えるべきだとおもう。

 フィリピンでは退役したUH-1D多用途ヘリコプターの再生を模索しています、これはフィリピンでは近年、ポーランド製S-70ブラックホークヘリコプターやベル412ヘリコプターなど新しいヘリコプターの導入が次々と行われているものの、依然としてヘリコプターは陸軍全体の規模に対して全く不足する状況となっており、退役機再生が模索されている。

 トルコのASFAT公社がフィリピンのヘリコプター再生計画へ協力を申し出ています。実はフィリピンではUH-1Dについて整備不良状態での運用を騙しだまし続けていましたが、2021年1月に発生した墜落事故を受け、残るUH-1Dの機体精密検査を行った結果、前期飛行不能という危険な状況が発覚し2021年10月15日に揃って用途廃止していました。

 UH-1D多用途ヘリコプターは飛行不能の常態ですが10機が保管されておりASFAT公社は、この内の幾つかは予備部品に切替える事で再生可能であるとしています。この再生についてはPADCフィリピン航空宇宙開発公社もASFAT公社が協力する方式で進められ、一部の機体は機関銃を装備しガンシップ武装ヘリコプターとして運用を希望しているとのこと。
■韓国製中古ロケット砲
 自衛隊の75式ロケット砲のトラック搭載型とというもので韓国もMLRSが揃ってきたところでの余剰です。

 フィリピン海兵隊は新たに韓国よりK-136コーリャン多連装ロケット砲22門を取得します、ロケット砲は韓国陸軍にて運用されていた装備の余剰装備ではあり無償供与のかたちではあるのですが、フィリピン軍は建国史上初めて全般支援火力と成り得るロケット砲を装備することとなります。これは韓国製装備導入の見返りとして無償供与が実現しました。

 K-136コーリャン多連装ロケット砲は1986年に韓国が初めて自国で開発した130mm口径の36連装ロケット砲で、ロケット弾をチューブパイプ方式の発射筒から連続発射する伝統的なロケット砲、ロケット弾の射程はK-30ロケット弾で22km、改良型のK-33で30kmに達するもので、HE弾型と16000個の鋼球内蔵型の対人散弾などが開発されています。

 製造は韓国のハンファディフェンスが担当し車体部分はKM-809A1型トラック、六輪型のボンネットトラックとなっている。無償供与は2019年に交渉が開始されましたが、このほど決定し2022年6月中にもフィリピンへ譲渡されるとのこと。フィリピンではこの数か月間、155mm装輪自走榴弾砲の導入など建国以来といえる砲兵強化が一挙に進んでいます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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戦場はドネツク州へ,セヴェロドネツクとリシチャンシク失陥とドネツ川沿いの州都クラマトルスクへの脅威

2022-07-05 07:00:50 | 国際・政治
■臨時情報-ウクライナ情勢
 リシチャンシク陥落はウクライナの一地方都市が失陥したという以上の大きな意味があります。

 日本はウクライナ戦争の戦訓を御急ぎで洗い出すと共に、それを単なる学究の関心事に収めるのではなく防衛政策へ反映させねばなりません、その理由は単純で、ロシアは日本海を挟んだ隣国であるからです。そしてロシアが北海道や信越地方を確保する政治的蓋然性があれば、日本の非ナチ化やロシア住民迫害等を主張し根拠は無くとも仕掛けてきます。

 日本の地形は機械化部隊の運用には向かないとされますがウクライナ東部二州の戦闘を見る限り本当か、また今回は航空戦力の活躍の場が少ない戦場ですが、火砲に全て依存し得るのか航空機の余地はどの程度あるのか、ミサイル防衛も様々な射程の装備が用いられるため、北朝鮮脅威対応一辺倒のミサイル防衛体制は見直されるべきなのかもしれません。

 ロシア軍はウクライナ東部ルガンスク州全域を掌握した事を受け今後は隣接するドネツク州への攻撃に重点を移すことになる、ウクライナのルガンスク州ガイダイ知事が見解を示しました。ルガンスク州と共にドネツク州は東部二州を構成しており、州都は現在クラマトルスクに置かれています。2014年からのドンバス紛争では戦場となった地域という。

 セヴェロドネツクとリシチャンシクの両市は失陥した、ルガンスク州のガイダイ知事が認めた構図ですが、この両市の陥落は両市の中間を流れるドネツ川の渡河が自由になった事を意味します、ロシア軍は今後、クラマトルスクへ向け侵攻する事となりますが、ドネツク州では既に南部のマリウポリが陥落しており、ドネツ川の確保は大きな意味を持つ事に。

 クラマトルスクはドネツ川沿いにあり、地形障害という視点で見ればウクライナ軍は防衛拠点となる緊要地形が限られています、そしてクラマトルスクの他にもドネツク州には複数の都市があり、ウクライナ軍はどのように防衛を行うか、攻撃の主導権をロシア軍が掌握したままであり、分散すれば各個撃破、集中すれば迂回されるという、懸念があります。

 新しい局面を迎える戦争、セヴェロドネツクとリシチャンシクの両市失陥は、単に東部の主要都市が陥落しただけではなく、北海道で云えば音威子府を失陥した状態に近い、深刻な状況です。ロシア軍は先ず東部二州の確保を重点目標としており、緒戦でハリコフやキエフとオデッサと共に東部二州を狙う全方面作戦を執らなければ既に占領され得た場所だ。

 ロシア軍の行動で心配されるのは、思い切った迂回攻撃を行いクラマトルスクを一挙に確保する事です。これは下手に戦闘を展開するならば緒戦の様に街道沿いに損害を増やすだけですが、気になる事例が。これは2019年にリビア内戦において実施された“尊厳の氾濫作戦”で執られたのですが、全てを迂回し一挙に機動力を活かして重要都市を狙うという。

 ウクライナ軍の防衛配置や部隊編成については発表されている情報が限られており、一概には言えませんが、作戦部隊の集合分散が迅速に安納となる機械化部隊主体ではない場合、ロシア軍がウクライナ軍防衛拠点全てを迂回しクラマトルスクを電撃制圧する選択肢は有得ます、防衛拠点を機動力で全て迂回したのが、上記、尊厳の氾濫作戦の特色でした。

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