北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【日曜特集】第7師団創設56周年記念行事(13)第73戦車連隊と第71戦車連隊の90式戦車(2011-10-09)

2022-07-17 20:01:28 | 陸上自衛隊 駐屯地祭
■90式戦車の観閲行進
 90式戦車もこれだけ揃うと迫力を通り越した印象ですが日本という極東の自由主義拠点を北方脅威から守る為には必要なリアリズムの具現化でもある。

 第71戦車連隊に第72戦車連隊と第73戦車連隊、戦車五個中隊を基幹とする強力な戦車連隊で、これだけの90式戦車が一斉に高速で観閲行進に望みますと、確かに地面が振動して共鳴しています。北海道の抑止力、東千歳の機甲師団は当時も今も強靭と精強を誇る。

 ロシアの脅威が再燃する中ではありますが、機甲師団はロシアがウクライナ侵攻に際し世界を恫喝したように、核兵器に対する抑止力ともなります。もちろん戦略核に対しての抑止力にはなりません、しかし、相手に戦術核兵器を使用させるのを躊躇させる効果がある。

 ウクライナ戦争に際しロシアの脅威を認識させられるとともに核兵器の脅威、三月と四月に掛けては戦術核使用が真剣なリスクとして留意されていましたし、戦略核が使用される可能性、熱核戦争の懸念も、低いとはいえゼロではない現実を突き付けられたわけですが。

 核兵器使用への抑止力、機甲師団は歩兵部隊に対し機動力と防御力が高く、戦術核兵器が使用される兆候があっても迅速に散開し直撃を避ける事が出来ますし、戦術核攻撃を受けた直後に敵が戦果拡張へ進んだとしても再度機動力を活かして再集結することが出来る。

 機甲師団はNBC防護能力が高く、放射性降下物の汚染地域を迅速に踏破し、必要ならば放射性汚染地域においても戦闘が可能です、これは装甲化された普通科部隊にも当てはまり、しかし自動車化された普通科部隊や掩砲所以外の陣地に籠る部隊には不可能であるのです。

 ヘリボーン部隊、ただし実際のところ陸上自衛隊も手を拱いていた訳ではなく、核戦争に際しては核汚染地域を飛び越せるヘリボーン部隊を早くから重視しており、特に長大な日本列島の防衛には機甲部隊よりも軽歩兵部隊とヘリボーン部隊を重点整備してきました。

 ただ、冷戦後、ミサイル防衛や水陸機動に国際平和協力とサイバー戦など相次ぐ新防衛任務の追加を、既存の予算と人員とを遣り繰りし、スクラップ&ビルドで対応し、戦車とともにヘリコプター部隊もかなり縮小しています、大丈夫なのか、駄目では、と思うのです。

 国産の90式戦車は、2020年代の視点で見ても第三世代戦車として高い性能が維持されています、1500hpエンジンに複合装甲と120mm滑腔砲というものが第三世代戦車の一つの定義、攻撃力と機動力に防御力を両立させた点が第三世代戦車の一つの定義でした。

 第三世代戦車としてみた場合90式戦車は、火器管制装置が突出して性能が高く、メカトロニクスやベトロニクスという視点で、目標を砲手がロックオンし追尾する目標自動追尾装置、車長の独立照準装置と優先照準機能、更に自動装填装置による高い攻撃力があります。

 打撃力を重視した90式戦車は、2000年代に入ると、データリンク能力の不備という問題が指摘されていましたが、これも広帯域無線機コータムを2010年代から順次追加しており、このコータムの全自衛隊への配備は地味ながら物凄い多額の予算を投じた、成果といえた。

 現用戦車全てと比較した場合、90式戦車は絶対的な優勢は確証されないものの相対的な優勢は保持していまして、よく指摘されるのが砲塔中央部より後ろの装甲防御力なのですが、ここを貫徹されても自動装填装置があるだけで人的被害はありません、この点配慮がある。

 砲塔正面、強いて言うならば90式戦車の砲塔正面は120mm砲弾DM-33の同一箇所への複数命中を想定しているとのことですが、昨今は威力が大幅に増大したDM-53などの装備があり、設計当初よりも強力な砲弾が存在し、この点は、改良余地があるのかもしれない。

 ただ、90式戦車の弱点として筆頭に挙げたいのは、数が揃わなかった点です。本州の戦車部隊は2010年代から2020年代にかけ74式戦車を配備したまま廃止される部隊が多く、なんのために90式戦車を国産したのか、分らない状況となっています。これが弱点だ。

 90式戦車について、例えば生産費用を抑えるべく、維持するものは1500hpのディーゼルエンジンと複合装甲に120mm滑腔砲と熱線暗視装置、つまり第三世代戦車の性能に特化した装備としていたならば、つまり性能よりも年産50両や70両を量産していたらどうか。

 74式戦車並みの年産50両や70両をという取得性を重視していたら、どうだったでしょうか、戦車の見方が変わった可能性もある。もちろん、その為には防衛予算をという視点もあるのでしょうが、90式戦車は高性能を追求しすぎていたような印象もあるのでは、と。

 90式戦車の性能は知られるほどに、開発当初のレオパルド2もどき、という批判は消えてゆくのですが、生産数が74式戦車の873両にたいして如何にも少なすぎるのは否定できません、そして今になり74式戦車を評価する声に信頼性、というものが挙げられますと。

 90式戦車もそれならば無理なハイテクを排してローテクに徹していれば、もう少しは、と思うのですね。レオパルド2もどきと揶揄された90式戦車ですが、レオパルド2とは砲塔形状がかなり違います、そして自動装填装置や目標自動追尾装置という外見にない長所も。

 レオパルド2は特に砲塔正面装甲に埋め込んだ照準装置が貫徹されやすい弱点部位といわれていましたので、しかしレオパルド2A4型まで放置され、A5改修から楔形装甲と照準装置の位置変更で対応しています、自動装填装置という意味ではルクレルク戦車にかさなる。

 ルクレルク戦車、それならばルクレルクを自衛隊が買えばよいという反論もあるようですが、ルクレルクの配備開始は1994年、日本がライセンス生産を行うとすれば、評価試験を経ても2000年前後となり、そんな時代まで74式を量産するのはナンセンス生産でしょう。

 メルカヴァMk4,目標自動追尾装置も日本以外で採用したのはメルカヴァMk4くらいであり、あとはメルカヴァMk3BIZが試験的に採用したくらいでしょうか、要するに10年は進んでいたといえるのが90式戦車ではあったのですが、高性能を突き詰めすぎたともいえる。

 高性能、この視点は、線状に入る事が出来る戦車には限りがあるのです、これは云うならばサッカー部や野球部で二線級だけの人員で200名集めたチームよりも、その五分の一でもいいので第一線級の選手を40名集めたチームの方が同じルールでは強い、と重なります。

 音威子府や中川に上川や留萌といった当時の想定戦場は、数を投入するには限度があり、質的な優位を求めるのも自然だったのかもしれません、ただ、開発当時には900両程度の量産、全国への配備は念頭に置いていた筈でして、高価というのは欠点とさえいえますね。

 自動装填装置ではなく手動装填を用い、車長用独立照準装置も省いて昔ながらの様に車長は双眼鏡と共に戦闘指揮し、装填手の同乗に併せて砲塔上の機銃をもう一丁追加、そんな90式戦車であっても、もしくは冷戦終結を受けて安価型の91式戦車としても良かった。

 しかし、高性能すぎるので安価な量産型を全戦車部隊へ、こうした理念はソ連崩壊と共に1990年制式化の90式戦車が2022年までロシア軍が実際には上陸しなかったからこそ、その抑止力の機能が在った事を無視した後知恵故の平和ボケ、といわるかもしれないような論理ですがね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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【京都幕間旅情】祇園祭二〇二二,前祭山鉾巡行14万観客満員祭事を控えた宵山前と四条通は轟く長刀鉾の情景

2022-07-17 18:15:18 | 写真
■第七の波きり開く祭事
 慎重にならざるを得ない数字ばかりが出ているところですが祇園祭は執り行われています。

 山鉾巡行、本日は前祭山鉾巡行が行われまして、14万の観客が四条通などを埋め尽くしたとのこと。しかしその前日の16日にはCOVID-19全国感染者数が11万名に達しまして、再拡大という状況は最早疑い無い第七波を構成しています。そんな中での祭事の話題です。

 長刀鉾、今年は祇園祭の季節にいろいろと忙しくなりましたので絶対感染リスクを最小限としたい事情がありまして、久々に山鉾巡行でも、という誘いも断腸の思いでお断りしました、もちろん、舞鶴でいっぱいやろうとか、今津で鰻という誘惑も、我慢したのですが。

 祇園祭、しかし、少しは眺めてみようといいますか、これはもう縁起物ですからね、長刀鉾を宵山の前にふと散策してみました。祇園祭なんて観光客向けか商売人が粽をかうための、という空気はCOVID-19前には聞いていましたし、そんなものかな、とも思ったが。

 疾病祓いの伝統行事、祇園祭はこう位置づけられています。だからこそ、今年も、という2021年や2020年の声はあったのですが、思い出したのはイタリアのヴェネチアで、二月から三月にかけてのカーニバルが一大クラスターを引き起こした厳しく悲しい現実でした。

 京都に祇園祭のお囃子が聞こえてこないというものは、やはり寂しいものです。2020年の中止などは、阪急河原町地下工事以来の中止といわれましたし、なにしろ昭和20年こそ中止となったが、戦前は明治時代にもコレラ蔓延などで中止、疾病に振り回されてはいる。

 和泉小次郎親衡、鎌倉時代に北条氏に反旗を翻した人物が、この長刀鉾の後神体となっていまして八坂神社の長刀を所望し下賜されたのですが、その後に不思議な出来事が続いたため再度八坂神社に奉納したという、伝説となるほどに剣術に長けた猛者だったという。

 くじ取らず。祇園祭の山鉾巡行は先祭山鉾巡行が八坂神社からの御輿の神幸祭に先立つお清めの巡行、後祭は八坂神社に戻られる御輿のためのお清めの巡行、そして山鉾の巡行は順番を毎年くじ引きで決めるもの。しかし、長刀鉾だけは先頭と決まっているのです。

 山鉾町にあって長刀鉾は八坂神社に一番近い町という理由から伝統的にくじ取らずともいいますし、山鉾が今のかたちを取るようになって以来いちばん古い歴史があるためともいわれるのですが、いろいろと諸説はあるようで、なかなか結論は出ないのでしょう。

 平安時代の名匠三条小鍛冶宗近の長刀、最初に掲げたのは国宝級の名刀でした、ただ、実は恥ずかしいのですけれどもわたしはいまも別の名刀であっても真剣を冠しているのだとばかり思っていました、なにしろ祇園祭は神事、銃刀法の枠外にあるのだとう、と。

 三代にわたり名刀を掲げていたという長刀鉾ですが、実は江戸時代、天保年間の西暦1837年に、長刀の実物は重量もあってやはり危険だ、といわれるようになったことから竹光に錫箔を捺した模造刀が用いられるようになったとのこと、三代の名刀は八坂神社にある。

 八坂神社の神事なのですが、長刀はまぎれもない武器、模造刀であってもいろいろと配慮はあるとのことでして、刃の先が神社に向かぬよう、南に向け掲げられていまして、四条河原町の大廻しでも配慮があるのだとか。そしてもう一つ刃を向けてならない場所が。

 御所にも向かないように長刀の角度は注意されているとのことです。東横インの隣にあります長刀鉾、厳しい話ですが完全にオフィス街となっている長刀鉾町は町内人口が実質ゼロ、保存会と協力企業のコロナ禍下での維持は苦労もあったようですが、今年も健在です。

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【G3X撮影速報】くまの-もがみ横須賀基地吉倉桟橋停泊,もがみ型護衛艦(2022-07-01)

2022-07-17 07:00:17 | 国際・政治
■これが最新もがみ型だ
 コロナ時代が長く続きますと驚くべきことに護衛艦も一新されていましたね。

 もがみ型護衛艦、FFM多機能護衛艦として設計された護衛艦です、岡山県と長崎県で建造されていました護衛艦ですが、このほど初めて実物を見る事となりました、今更と思われるかもしれませんが、ここまで量産するならば舞鶴でも建造していれば、とおもう。

 ジャパンマリンユナイテッド、三井造船/三井E&S造船、三菱重工業、このFFMという新しい護衛艦には日本の防衛産業から様々な案が提示されたのですが三菱重工業案が採用されることとなり、建造される事となりました。ただ、量産数はかなり大きなものとなる。

 もがみ、くまの、のしろ、みくま、やはぎ、建造されている艦を含めると5番艦まで進水式を迎えており、今年12月には6番艦が進水式を迎える見込み、10番艦までが既に予算化され、毎年2隻の勢いで量産が進められている護衛艦で、実際ここにも2隻がならぶ。

 くまの、もがみ。元々はコンパクト護衛艦として開発が開始された護衛艦なのですが、いつのまにか各種任務に無理なく対応するべく大型化が進みまして、気づけば基準排水量3900t、ミサイル護衛艦あまつかぜ、よりも大きくミサイル護衛艦たちかぜ型よりも大きい。

 FFMの名の通り、FF,つまりフリゲイトとしての能力を有するとともにM,掃海艇の機雷戦能力が付与されていまして、オーガニック方式という水上戦闘艦に機雷掃討装置を搭載し対応します、これは海上自衛隊の機雷戦方式の大きな転換点といえるのかもしれません。

 機雷掃討はこれまで、敷設された航路上の機雷を全て除去する念頭でしたが、機雷敷設を対潜戦闘や対水上戦闘により阻止する事が出来れば、掃海任務は特定航路で、例えば護衛艦いずも航行など、限られた艦艇に限定して機雷を掃討できれば、充分ということになる。

 もがみ型護衛艦の想定は、全ての機雷を掃討するには機雷の性能向上により簡単ではなくなりますが、特定の艦艇を安全に航行させるだけならば、例えばその艦艇の音響や磁気特性と水圧特性を再現した機雷掃討装置を運用する事でその目的を達成させられるでしょう。

 もがみ型護衛艦は、こうして掃海艇の機雷掃討任務の転換に対応しつつ、みての通り127mm艦砲を中心に強力な打撃力を備えており、特に数を揃える事、掃海艇は想定しなかった対潜対水上戦闘にも対応するものとなっています。6番艦の艦名が、楽しみですよね。

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